私の所為で傷モノになったんです
「ほら」
「あ……ありがとう」
力が完全に抜けて座り込んでいる私に向かって、ウィルが手を差し出してくれる。
ちょっとだけ、ウィルと初めて出会った時のことを思い出した。
あの日と違うのは、この手が振り払われないって事。
「死ぬかと思った~~……ウィルのおかげだよ。本当にありがとう!スイートビーの群れの隙を見て助けに来てくれたんだよね」
「そんな訳ないだろ。全部倒してきた」
「へぇ~全部……全部!?」
慌ててウィルがやってきた方向を見ると、ウィルとリークさんがスイートビーの群と衝突していたであろう場所には、黒い山のようなものが出来ていた。
随分とこんもり盛り上がってるけど、まさか本当に?
あの壁みたいに前を塞いでいたスイートビーを全部倒して来ちゃったの!?
「はぁ……ウィルって、凄いんだね」
「何だよ。今更気付いたのか?」
ふふんっと口角をニヒルに持ち上げた笑顔がなんとも眩しい。
レベルが半額になろうとも、強いものは強いのである。
「そうだ、お前……」
「シーナ!ウィル!」
ウィルが何かを喋ろうとした時、大きな声を上げながら、リークさんが走ってくる。
距離があっても良く通る声だなぁ。
リークさんもリークさんで、クイーンビーを真っ二つにした後とは到底思えないよ。
体力ありすぎ……そういうのが冒険者たる所以なんだろうか。
そんなリークさんは私を見ると一瞬ほっとした表情になり、その後、真剣な眼差しを私に向けた。
「セーフゾーンに逃げたんじゃなかったのか!クイーンビーの目の前に行ったりして、心配したんだぞ!」
「はっ、はい……ごめんなさい」
突然の言葉に、肩が反射的に跳ねた。
冒険者ではない一般人だからこそ、無謀な動きは直接的に死へと繋がる。
戦闘中はクイーンビーに集中していたけれど、今は危険が去った後だから、私にしっかり知ってもらおうとしているんだろう。
真っ直ぐ向けられた視線は、私を心配した上での叱咤なのが凄く伝わってくる。
「別に倒したんだからいいだろ」
「ウィル、リークさんは私を本気で心配してくれてるんだよ」
見かねたウィルがフォローの言葉を入れてくれたけど、リークさんが私を心配してくれたことが、ちょっと不純だけど嬉しかった。
本気で心配されて怒られるなんて、凄く久しぶり……。
「リークさんもウィルも、心配かけてごめんなさい。勝手に動いちゃって……でも、少しでも力になりたかったから。2人が無事でよかったです」
どうしてもジッとして居られなかった。だから後悔はない。
でも、心配させてしまった事や勝手に動いた事についてはちゃんと謝らなきゃ。
そう思ってペコリと頭を下げる。
「分かってくれたならいい。自分を大切にしてくれよ。……あともう一言、オレにも言うことがあるんじゃないのか」
「え……」
「ほら、怖い奴らはどっかいっちまったぜ、おチビちゃん」
最初に絡まれていたのを助けてくれた時と同じセリフを言って、ニッと笑う。
少しぽかんとしてしまったけど、意図が分かって満面の笑みで答える。
「助けてくれてありがとうございます!リークさん!」
「ハハッ、ホント無事でよかったぜ。シーナ、凄い力持ってるんだな。こっちも助かった、ありがとうな!」
「まぁ、シーナの力が決め手になったのは間違いじゃないしな。流石に2人だと人手が足りなかった」
その言葉を聞いてリークさんの表情が今までと違う鋭いものに変わり、ウィルを睨む。
「いいや、お前が本気を出していればオレ達2人でも充分対処できた。シーナを危険な目にあわせてまで長引かせることも無かっただろうしな」
「……」
「……ウィル。お前、弱くなっただろう」
ギグッと心臓が動揺に震える。
ウィルは何も言わない。
岩みたいにぐっと押し黙って、リークさんの鋭い眼光に耐えている。
こうやって一緒に戦闘をしただけで、リークさんはウィルの変化に気付いていたんだ。
レベルの大幅な減少。
素人目には元のウィルと全然変わらないと思ったのに……どうしよう、このままだと2人が喧嘩しちゃうのでは!?
ビリビリと空気を震わせる空気の中で、凄く凄く居心地が悪い!
「何とか言ったらどうなんだ」
「……お前に言うことなんて何も無い」
「なにっ……」
あああ、駄目駄目!絶対駄目だ!!
どんどん空気が険悪になっていっちゃうよ~~!!
ウィルが悪いんじゃないんです、私が悪くて私のせいで……そうだ、私だ!!
「違うんです!!」
「シーナ?」
「……」
2人の間に割って入るように身体を押し込んだ。
さながらウィルをリークさんから庇うみたいにして両手を広げ、私は宣言した。
「ウィルは私の所為で傷モノになっちゃって、本来の力が出せないだけなんです!!!!」
暫くの間。
あんなにも強くウィルを睨んでいたリークさんの表情が引きつったものへと変わる。
ん??何で若干引いてるんですか??
「お前……恋人じゃないって、まさかそういう……こんな小さな女の子に……?」
「??小さいは関係無いですっ!前みたいな動きが出来なくなったのも、私のせいで……もうウィルだけの身体じゃないっていうか……私だけが治すことが出来るっていうか……むしろ、私しか!もが!ももががが!!」
勢いよく背後から手が伸びてきて私の口を塞ぐ。
そして伝わってくるブルブルと震えたウィルの威圧。
「……お前は、黙ってろ」
あっ、凄く怒っているんですね……。
「はひ」
もごもごと手に覆われて喋りながら、私はしっかりと頷くのだった。




