半額からの~商品を保留!
「ウィル、リークさん!クイーンビーの弱点は火属性で……」
物見台から身を乗り出し、目一杯大きな声で地上に居る2人に伝えようとした時、クイーンビーの猛攻を一番前で防いでいたリークさんが急に距離を取った。
そして、両手持ちの大剣を片手に持ち替え、ギュッと拳を作ったかと思えば、足下を真っ赤な筋が魔法陣を描いていく。
「灰よ灰よ、全てを呑み込み、破壊を占めろ。バーンフレイム!」
リークさんのミルクティー色の瞳が真っ赤に燃える。
拳から生み出された火の固まりを、まるでピッチャーみたいにリークさんは勢いよくクイーンビーめがけて投げつけた。
バーン!と火柱が上がり、クイーンビーの鳴き声が周囲に響き渡る。
リークさんって剣士なのに魔法も使えるの!?凄い!
こ、これもAランク冒険者だから出来ることなのかな。
でもでも、こんなに凄い火を浴びたんだから、クイーンビーも……。
燃え上がっていた煙が徐々に小さくなって消える。
でもそれは、自分の身体に付いた火の粉をふるい落とすかのようにして、クイーンビーが羽を振るわせていた。
「初級魔法程度でクイーンビーにダメージが通るわけないだろ、この単細胞が」
「アァ!?攻撃系の初級魔法が使えない奴に言われたくねぇよ!お前の方こそSランクお得意の俊足歩行で空飛んで、奴を上から地面に落としてこい!」
「……」
あんまり魔法は効かなかったみたいだけど、2人とも会話をする余裕はあるみたい。
実際、少しずつだけどダメージは与えているみたいだし。
なら、ここは一気に押してしまいたい!
「空を飛んでられるのも今の内だからっ」
ウィルのレベルが低くなったのは私が原因だ。
だったら、それを補う働きをしないと。
「割引します!半額からの~商品を保留!」
『半額、デス』
『商品を保留致します』
レジのディスプレイに表示された割引ボタンと保留ボタンを立て続けに押す。
機械の女性アナウンスが流れた瞬間、空を優雅に飛んでいたクイーンビーが急に錆びた鉄みたいな動きで手足をバタつかせ、そのまま地面にどしーんと落下した。
やった!うまくいった!
「これは……シーナ!?」
ウィルが辺りを振り返り、物見台の上の私を見つけた。
そして、私が物見台に居る理由と、突然地面に落下してきたクイーンビーを即座に理解したらしい。
すぐに私に背を向けて、クイーンビーに斬り掛かった。
私のレベルが弱いのが原因なのか、キャロラインさん達みたいに完全に動きを静止出来ていないけれど、それでもなんとか、空を飛ぶ羽は抑えたから!
「リーク!追い打ちを掛けるぞ、説明は後だ!」
「……分かった!」
リークさんも驚いた様子だったけど、A級の冒険者だ。
どうやってクイーンビーが落下したのかよりも、敵を殲滅することに思考をすぐさまシフトする。
「「行くぞ!」」
二人は地面を蹴って、クイーンビーに切りかかった。
リークさんの叩きつけるような大剣の攻撃や、ウィルの連撃が次々と当たっていく。
勿論、飛べないってだけで攻撃してこないって訳じゃないから、クイーンビーの攻撃を避けながらではあるんだけど、さっきよりも動きがスムーズになって連携も取れてて、完全に優位になってる。
いいぞー!!ウィル、リークさん!そのままやっつけちゃえ!
周囲から見えないのをいいことに、物見台から身体を乗り出して応援しようとした時、地に這いつくばっていたクイーンビーが突如として羽を羽ばたかせた。
「えっ、もう動けるようになっちゃったの!?」
慌ててディスプレイを確認していみたけど、半額も保留もしっかり効いている。
クイーンビーが自力で捕縛を解こうとしてるんだ。
「ウィル!」
「わかってる、右をやれ!」
「灰よ灰よ、混沌に沈みし炎を我が手に示せ、スパークフレイム!!」
私が心配するよりも先に、ウィルとリークさんが同時に動いた。
クイーンビーがウィルを狙ったタイミングで、リークさんが右から黄色と黒の胴体をめがけて、超至近距離での魔法を発動する。
ドーン!!!!
火によって爆発が起こり、ウィルの素早いナイフが煩わしい羽音を放つ羽を全部刈り取っていく。
「やった!!」
思わず歓声を上げながら私はその場で飛び跳ねた。
ズゥン!と砂煙を上げながら横倒しになるクイーンビーは蜂だけに虫の息だ。
ピクピクと動く足はちょっと気持ちが悪いけど、これで……ん?クイーンビーが何か鳴いてる?
耳を澄ませてみると、キィキィって、大きな牙の生えた口を上下させながら鳴いていた。
もしかして痛いって鳴いてるのかなって考えたけど、違った。
これは、助けを呼ぶ鳴き声だ。
羽音が周囲に響き渡る。
セーフゾーンに入ろうと入り口を守る冒険者達と交戦していたスイートビー達が、一斉に動きを止め、他の存在にはものともしないで、ウィルとリークさんへと向かっていく。
「チッ。最後の力を振り絞って仲間を呼んだか」
「おいウィル!クイーンビーは一度でも人の居る場所を覚えたら死ぬまでやってくる、今ここで倒しておかないと更に被害が出ちまうぞ!」
「あぁ、分かってる。だが……」
クイーンビーにとどめを刺そうとする2人を阻むかのように、無数のスイートビーが厚い壁のように立ち塞がる。
どれだけウィルとリークさんが強くても、こんなに数が多いと、なかなか前に進めない。
剣も魔法もその身を犠牲にしたスイートビー達に塞がれる。
「に、逃げちゃう!」
そうこうしている間に、クイーンビーはその身体をずるずると引きずりながら、逃げようとする。
どどどどうしよう。
ハチ退治用スプレーはまだあるけど、ここからじゃ到底届かない。
ウィルとリークさんはあの場から動けそうにないから、私の保留が解除になったら一気に逃げてしまうだろう。
うううう、じゃあもう。
「私が追いかけるしか……」
あーーー!!我ながら絶対にろくな考えじゃないって分かってる。
私は戦えるわけじゃないし、そうでなくてもAランク推奨モンスターなんて絶対にこっちから近づきたくない。
でも、ウィルやリークさんや必死に戦っている冒険者達の頑張りを無駄にしたくない!
「大丈夫。ウィルやリークさんが弱らせてくれてるし。私にはハチ退治スプレーがあるし」
ブツブツと自分に言い聞かせるように何度も口にする。
「よし!」
そして、フンッと息を大きく吐いて気合いを入れると、物見台を降りようとした。
「あ、あれ?」
松明の火で照らされる地面までの距離。
そこにあるべき筈の梯子が存在しない。
え!?何で!?さっきまで、そこにあったよね!?
「嘘……倒れちゃってる」
周囲に目を凝らすと、倒れている梯子を何とか確認することができた。




