一難去ってまさかのまた一難
「ウィルーー!リークさーん!!」
倒したスイートビーの山に囲まれている2人の元へ走っていく。
足の踏み場が無いってぐらい、モンスターだった残骸が転がっててちょっと怖いけど、おーいと声を掛ける。
「2人ともお疲れさま。凄かったよ、ズバッズバーー!って倒して、ズドドドドー!ってはじき返してドーンって!」
「何言ってるかサッパリ分からねぇよ」
「ハハッ。オレかっこ良かっただろ?」
「はい!リークさんすごく頼りがいがありました!」
「俺の方が早かったけどな。単細胞のカバーは疲れる」
「誰かさんが叩き落した奴の始末は、オレが全部してやったんだぞ」
「2人とも怪我が無くて良かったです。ちょっと心配したんですよ!」
まぁ、強すぎて途中から心配しなくなりましたけどね。
でも2人とも傷ひとつないし、結構元気そう。良かった。
向こうの方では冒険者や連盟の職員さん達が勝利を喜んで騒いでいる。
その内の一人が、早くこっちに来いって私達を手招いていた。
勝利の宴会でもするのかな。だとしたら嬉しい。もうお腹ぺこぺこだ。
「にしても……簡単すぎるな」
「ウィルも思ったか?オレもちょっと違和感ある。随分とあっさり撤退したなって」
「ウィルとリークさんが強かったから逃げたんじゃないんですか?」
「……だといいが」
ちょっとちょっと、不穏な言葉を残さないでよ~~!!
せっかく被害を最小限にすることが出来たっていうのに、そんなまさか、ねぇ。
それに万が一にも、またスイートビーが攻めて来たとしても、2人が居たら大丈夫。
「「シーナ!!!!!!!」」
「ふへ?」
2人に名前を呼ばれた刹那。
急にウィルが私の身体をマントで庇うみたいにして自分の胸に抱え込んだ。
密着する身体にドキドキする、なんて暇存在しない。
マイクのハウリングみたいな高音が雄叫びとして空から響きわたった瞬間、暴風が地面に足を付ける私達に叩きつけられる。
ウィルのマントの隙間から木や地面に衝突する冒険者達が見えた。
何々、何が起きてるの!?
ようやく暴風が収まった所でマントから顔を覗かせた私は、剣を地面に突き刺しているリークさんとウィルが見つめる視線の先を確認した。
「で、で、ででで……」
ブブブと響く威圧的な羽の音。
暗い夜でも目立つ黄色と黒色の身体。
そして、お尻から生えた大きくて鋭利な針。
「でかいスイートビー!?」
そこには、軽自動車ぐらいの大きさはあるであろう巨大なスイートビーが空を掌握するみたいに君臨していた。
「こいつは驚いた。クイーンビーがお出ましとは」
リークさんが剣を地面から抜き、巨大なスイートビー……ううん、クイーンビーに向かって剣を構える。
ウィルは私を解放した後、庇う様に前に立ち、ナイフを逆手に持って完全な戦闘態勢だ。
「ク、クイーンビーって何ですか。強いんですか?いや、むしろ大きすぎるんですけど!」
混乱から自然と早口になる。
スイートビーでもそれなりに大きかったのに、クイーンビーなんてその何倍なんだってぐらい大きいよ!
「スイートビーをまとめる親玉的なモンスターだ。クイーンって言うだけあって、見ての通り大きいだろ。中身も女王様に相応しく高飛車で手の付けられないジャジャ馬だからな……ウィル、シーナを連れてセーフゾーンに下がってくれ」
リークさんの声がさっきよりも固く冷静な物へと変わっていく。
クイーンビーとにらみ合ってるんじゃないかってぐらい、鋭い視線も動かない。
牽制し合ってるみたいだ。
「分かった、セーフゾーンに置いてきたらすぐに戻って……」
「わ、私!ひとりでセーフゾーンに戻れます!ウィルが私をセーフゾーンに連れて行っている間、リークさんひとりであんな大きなモンスターと戦うんですよね」
さっきの暴風だって、リークさんは私達の前に剣を突き立てて、自分を盾にして守ってくれた。
これ以上2人の足手まといにはなれないし、なりたくない!
「シーナ。そう言ってくれるのは嬉しいけどよ、お前が怪我でもしたら大変だろ」
「私だってその、スーパーマーケット教の巫女ですし、少しぐらい戦えますし!」
「シーナ……」
「ウィル!ね!大丈夫、私、スイートビーに効くやつあるから!」
リークさんの手前、上手く説明出来なくて、手にしていたレジ袋の中に入っている蚊取り線香とガスライター、そしてハチ退治用のスプレーをウィルにだけこっそり見せる。
これだけあれば、逃げるだけなら何とかなると思う。
それに、どうにかして人目のないところまで行けば、私にはバックヤードがある。
今ウィルがこの場から離れたら、リークさんがあんな大きなモンスターにムシャムシャ食べられちゃうかもしれない。
そんなの絶対にヤダ!
「お願いっ……」
「……」
周りの冒険者達はさっきの暴風でかなりダメージを負ってしまっている。
だから、今こそ私は守られるだけじゃなくて、サポート出来るようにならないと駄目なんだ。
それが、異世界人としてこの世界に召喚された私の、せめてもの抵抗だと思うから。
「わかった」
「ウィル!」
「Aランク推奨モンスターだ。今は戦力を割く訳にはいかない」
「それは、そうかもしれないが……もし怪我でもしたらどうすんだ。女の子なんだぞ!」
「俺達がクイーンビーの攻撃を逃げるシーナに当てさせなければいい。簡単じゃねぇか」
なっ、とウィルが私に向かって笑った。
その表情が私の決意を後押ししてくれる。
「うんっ」
ぎゅっと拳を握りしめて、私は大きく頷いた。
「そういう訳なので、よろしくお願いしますリークさん!」
「……あぁ、くそっわかったよ!シーナには指一本触れさせねぇ!だから早く逃げろ!」
「はい!」
クイーンビーが6本の足をグワッと左右に威嚇するみたいに開く。
「来るぞ!」
ウィルの声と同時に、私は地面を蹴っ飛ばして走り出した。




