スーパーマーケット教です
「早くしろ!動ける冒険者はDランクでも使え!」
「入口周りは重厚に配置だ!」
「戦闘できない者は救護室へ行け!」
スイートビーの迎撃が決定すると、セーフゾーンの入り口付近に沢山の冒険者が集められ、叫び声が飛び交った。
多分50人ぐらい居ると思う。
怪我等で動けない人は救護室にまとまっているみたい。
それぞれ武器を持っているけれど、緊張からか身体が強ばっているように見えた。
集まった冒険者はほとんどCランクって聞いたんだけど、ビギナーとも言えるDランクだってちらほら混ざっているらしい。
Bランクでも危ないモンスターの群が目の前に迫っているって聞くと、確かにそうなるよね。
「シーナ。寝る時に設置している煙が出るやつ、今、複数用意できるか?」
嫌がるウィルも流石に前線に出されると諦めたらしい。
リークさんや職員の人達と色々相談しているみたいで、ぽつんと入り口付近で立っていた私の所に戻ってくるなり、バックヤードの中身を聞いてきた。
「蚊取り線香のことですか?それなら大丈夫だと思います」
「なら、セーフゾーンの中で煙を焚いてくれ。屋台とテントの通り、後は救護室の周りを念入りに頼む」
「……!わかりました!」
ウィルに言われて胸がじわじわと熱くなってくる。
私も迎撃のメンバーに入っているんだ。
そりゃ、私自身が戦う訳じゃないけれど、私のスキルが作戦の役に立つって言うのなら、それはもう頼りにされていると考えても過言ではないのだろうか!
我ながらポジティブな考えだと思うけど!
熱意が伝わったのか、キラキラとした目で意気込んでいると、ウィルが意外そうに目を瞬かせた。
「もっと怖がっているかと思ってた」
「いやぁ怖いのは勿論怖いんですけど。自分以上に怖がってる人を見ると逆に怖くなくなってくるっていうか」
そう言いながら、私は集まっている冒険者達を見た。
「あぁ……まぁ、アイツ等が怖い思いをする前に始末するさ。そうだ、これも渡しておく」
「何ですか、これ」
おもむろにウィルからアイテムを手渡された。
手で挟めるぐらい小さな玉だ。
うっすらと粉をまとっていて、小さい頃に食べたどんぐり飴によく似ている。
とはいえ、黄土色だから飴みたいに美味しそうな色はしていない。
「これは気配遮断のマジックアイテムだ。何かに叩きつけて割ると周囲から短時間だが見えなくなる。スキルのレジ?を出すのもこれなら周りに見られなくて済むだろ」
「ただただ恥ずかしくて人前には出せないレジですけど……そういえばあんまり見られない方がいいんでしたね」
キャロラインさんの時みたいに、異世界人だってバレない為にもスキルは見られないにこしたことはないよね。
それに、このマジックアイテムがあれば迎撃中に周りから隠れてスキルを使えるじゃん!そうしたら、スイートビーをレジで半額にしたり保留にしたりして、身体張って戦うウィルやリークさんを直接手助けできるかも。
「私も迎撃作戦の前線に参加してもいいんですか?」
少しわくわくしながら聞いてみると、ウィルは少しだけ考えた後、静かに頷いてくれた。
「Dクラス冒険者の後ろに隠れていろ……と言いたい所だが、ケンドーの服を着ているならある程度の攻撃は防ぐだろう。余裕がありそうならスキルを使ってスイートビーを弱らせてくれ。くれぐれも人に見つからないように隠れてしろよ」
「わかりました!まっかせてください!」
やれやれと呆れる言葉を漏らしつつも、一応提案を聞いてくれるウィルの姿を見てほんの少し仲良くなれた実感がある。
濃度の濃い日々のおかげで、初対面の時よりもウィルのことが分かるようになってきたしね。
そういえば、魔法服ってモンスターの攻撃や魔法をある程度は防ぐって言ってたけど、スイートビーの攻撃まで防いじゃうの?凄すぎない……いや、これは犬堂さんが凄いのかな。
「スイートビーを弱らせる時は西側の方を弱らせろよ」
「西側の方が強いモンスターが集まってるんですか?」
「いや。俺が西側担当ってだけ」
「えー!!リークさんとの勝負にズルしようとしてるんですか!?」
「人聞きの悪いこと言うなよ。俺はお前のせいでレベルが半額になっているんだ。これは当然のハンデだろ」
「ぐっ……ぐぬぬぬぬ」
それを言われると言い返せない……!
でもでも、真剣勝負にズルは駄目だと思うんだ。
……こっそりリークさんが担当する方のスイートビーにも弱らせちゃおっか。
ちょっとだけ、ちょーっとだけウィル優先で!
「なぁ、ウィル。Bランク冒険者の配置はどうす…おう!シーナ!怖がらなくてもオレがいるから安心しろよ」
噂をすればなんとやら。
大股でやってきたリークさんがヨッと私に軽く挨拶をしながら話しかけてくる。
なんだかんだで忙しそうだ。
「悪ぃな。セーフゾーンでドタバタしちまって」
「いえ!困ってる人がいたら助けるのは当然ですし!及ばずながら私もお手伝いします」
「ん??シーナは冒険者じゃないんだろ?」
「コイツは……その、アレだ。そう、巫女なんだよ。何とかっていう宗教の」
「ウィル!?」
唐突に私の肩書きに謎の設定を付け足してきたウィルに思わず素っ頓狂な声が出る。
だけど、違います、と開きかけた口は、それはそれは顔のいいウィルの笑顔で強制的に黙らされた。
「秘境と呼ばれる小さな村でひっそりと信仰されている流派だから、リークは知らないだろうが、モンスターを寄せ付けない結界を張ることができる」
「おお!すげぇな!」
「あ、あはは……ありがとうございます」
あぁ、なるほど。
私のスキルが知られると異世界人だってわかっちゃうから、秘境の村に伝わる秘伝的な感じで隠し通そうって感じか……。
それにしても、巫女さんって!もうちょっと、別の言い方はなかったの!
「ってなわけだから、シーナにセーフゾーン内の結界は任せようと思う。結界に必要なアイテムをところどころ設置すると思うが、冒険者連盟の奴らにはお前から言っといてくれるか」
「お手数をおかけしますが、お願いします」
「いいぜ。オレに任せてくれ」
ドンッと自分の胸を叩くリークさんが、キョロキョロと周囲に視線を動かした後、私に顔を近づけてくるなり、そっと声を抑えながら口を開いた。
「ちなみに、後学の為に教えて欲しいんだけどよ。その流派の名前ってのは何なんだ?」
「えっ、りゅ……流派の名前ですか?」
「……別にどうでもいいだろう。改宗すんのか」
「ウィル~~お前の地獄耳はホンッと嫌になるな!」
「お前の声が大きいだけだろ」
「うるせえ!知ってたら旅をする上でお目に掛かれた時にそれ相応の対処が出来るだろ。それにシーナの信仰する存在ぐらいは知識として知っておきたいしな」
「変な所、律儀な奴だな」
チッて舌打ちしてますけど、ウィルが言い出したことなんだからね!!なんとかして!
縋る思いでウィルを見ると、彼はふうと浅く息を吐き普段と変わらない様子でニヒルに笑った。
「俺が知るわけないだろ。本人に聞けよ」
う、裏切りもの~~~~!!!!
酷い!自分から言い出したのに、この仕打ち。
どうしよう、流派?なんて言われてもまったくもって思いつかないよ。
あぁ、それなのにリークさんの純粋な瞳が私の心を抉ってくる。
こんな人に嘘はつきたくないし~~ええ~~!
「私の……信仰する流派は……」
「流派は?」
「流派は……」
汗が背中を伝った。
もう後には引けない。ごくりと唾を呑み込み、覚悟を決める。
「スーパーマーケット教です!」
言った。言ってやった。
私のスキルはレジ打ちなんだから、そのスキルの大本であるスーパーマーケットは信仰するべき存在で間違っていないはずだ。
嘘じゃないもん。うんうん。
まぁ、スーパーで働くレジ店員だから、正確に言えばお正月の時だけ雇われる巫女さんの方が近いけど。
それにしても、犬堂さんがこの場にいなくて本当に良かった。
アイテムボックスがバックヤードってだけで笑いを堪え切れてなかったんだから、こんなの聞いたら笑い転げちゃうよ。
「スーパーマーケット教は、人々の生活の営みを守護する神様を信仰している宗教なんです。人と密接な関わり合いや、お祭り事の営み、それらの物流も司っているんですよ」
「へぇ、立派な神様なんだな」
「えぇ、本当に……」
多少ブラックな所もありますけどね!と言いかけて、私は口を閉じる。
なんとかリークさんは納得してくれたけど、ウィル~~!!!
スススと音もなくウィルの傍に忍び寄るなり、私は彼の腕を強く掴んだ。
私の力だとたかが知れてるかもしれないけど、雑巾を絞る勢いで衣服越しに抓る。
「暫く食後のおやつ抜きですからっ」
「はぁ!?何でだよ、せっかく機転を利かせてやったってのに」
「投げっぱなしなのは機転って言わないんですぅ~」
ぎゅうう、と腕を掴む手に力を更に込める。
ウィルは痛いとは言わなかったけど、ちょっとだけ眉に力が入っているのが下から見えた。
「お前ら……付き合ってないんじゃなかったのか!イチャイチャしてるんじゃねぇ!」
わなわなと身体を震わせたリークさんがビシッとこちらを指さしながら叫ぶ。
イチャイチャって……違う、違います!!痛い目に合わせていただけです!
「うらやましいのか。お前も彼女の1人や2人作ったらどうだ」
「そうだな、ウィル程の色男から奪うってのは楽しそうだしなぁ!」
「へぇ、俺の顔に敵うと思っているのか?」
「いやいや捻くれ者より頼りがいのある方がいいってな」
ウィルー!って思ったけど、これはリークさんも悪ノリしていると見た!
何かアネスさんの時の展開を思い出すぞ。
ふふふ、少しは私も成長しているんだ!
いつまでも一人でやきもきしている鏑木椎名ではない!
「ふたりとも落ち着いて!わっ、私の為に争わないで!」
くっ、恥ずかしい!こんな漫画みたいなセリフ。
2人は一瞬ぽかんとした後、ウィルとリークさんは顔を見合わせ噴出して笑い出す。
えええ~~!何もそんなに笑うことないじゃない!?
一生懸命乗っかろうとしたのに!
「くくっ……シーナ……言うようになったじゃねえか」
「ハハッ!悪いな、ウィルにつられちまったわ!」
「もう!恥ずかしかったのに!」
顔を真っ赤にしながら怒っちゃったけど、この2人、仲いいんじゃないかな。
リークさんはまだ分からないけど、ウィルはちゃんと認めているみたいだし。
あーあ、騒ぐから、緊張してたCランクやBランクの冒険者達がチラチラこっち見てるよ。
ひそひそと「あのウィルさんが笑ってる」「リークさんすげえ」って声まで聞こえる。
それに交じって「誰だあの女」ってのも聞こえてるけどね。
「ウィル、そろそろ行くぞ」
「あまり気は進まないけどな」
リークさんの後ろに渋々ウィルがついていく。
何だか寂しいけど、我慢我慢。
「二人とも、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「……あぁ」
「もちろんだ!シーナも気をつけろよ」




