リークさんより強いんですよね?
「どうした?何があった?」
さっきまでの苛立ちの声と違い、リークさんが低い落ち着いた声で尋ねる。
よく見たらウィルも一瞬で元の状態に戻ってるし、冒険者って切り替えが早い……
走ってきた人は、セーフゾーンに来た時にテントを貸してくれた人だった。
「大変ですよリークさん!セーフゾーンにスイートビーの大群が向かって来てるんです!」
「大群?アイツ等はよほどのことをしない限り群では襲って来ないだろ」
「それが……新米の冒険者が慣れてもないのにダンジョンに潜って、巣を刺激しちゃったみたいで、セーフゾーンに逃げてきたのは良いんですけど……」
「あちゃー。ここまで連れて来ちまったのか」
「はい。それで、動ける冒険者を総動員して邀撃しようと考えています。冒険者連盟はAランク冒険者のリークさんにも是非お手伝いして頂きたいと」
「任せろ。ぶっ飛ばしてやるよ!」
スイートビーの名前が出た瞬間、周りに居た冒険者達の中から不安を訴えるような声がぽつぽつ上がり始めたっていうのに、リークさんが勇んだ瞬間、ワッと場がわき上がる。
「スイートビーって強いんですか?」
こそっとウィルに聞くと、ウィルは改めて深くフードを被り直しながら軽く頭を左右に振った。
「いいや。単体ならCランク冒険者でも対応できるモンスターだ。蜂の大きい版と思えば良い。ただ群となると話が変わってくる。スイートビーは群になった途端、連携を取って敵を攻撃し始める。こうなってくると慣れたBランク冒険者でも下手をすると殺されるかもな」
「こ、ころ……」
ぶるりと身体が震えた。
だからさっき冒険者の人達がざわついてたんだね。
ちょっと待って、Bランクでも手強い相手ってことは、かなり今危険な状況なのでは!?
だって冒険者ってほとんどがCランクで、良くてBランクなんでしょ?
なら、群でセーフゾーンが攻撃されたら終わりだよ!
「心配しなくてもアイツがいるから今回は大丈夫だろ」
「アイツ?」
「あの単純剣士だよ」
ウィルの指さす向こう側には、集まってきた職員や冒険者に早速指示を飛ばしているリークさんの姿があった。
私に謝っていた時の顔やウィルにメンチを切っていた顔とは全く違う、どこか現状を楽しみながらも冷静に対応している様子は一流って言葉がよく似合う手際の良さがあった。
凄い……!!めちゃくちゃ仕事できるエリアマネージャーみたい。
「リークさんはAランク冒険者って聞きました。だからですか?」
「Sランク冒険者は総勢200人程度。Aランク冒険者も2000人ぐらいしか居ない。Aランクの時点でかなりの実力があるってことだ。あの単純剣士野郎はそんなAランクの中でも最もSランクに近い冒険者ともいえる」
「へ~!Sランクにもうすぐ昇進!とかするくらい強いんですね」
「いや、あいつはSランク昇進を何回も断っている。事情があってな。まぁ、そう言った理由でAランク中、最高レベルかもしれん」
「じゃあ、リークさんって本当に凄いんですね!今も色々な人に信頼されてるっぽいし、皆リークさんを頼りにしてる感じがします」
職員の人が真っ先にやってきた所を見ると、リークさんは凄いんだろう。
それにしてもAランクって2000人しかいないのか。
これはユディルさんがBランクで威張ってた気持ちが分からなくもないなぁ。
「……俺の方が、強いけどな」
「へ?」
ふんっと顔を背けるウィルの横顔を思わず凝視してしまう。
ウィル今、何て言った???自分の方が強いって言った?
深く被ったフードの所為で表情を伺うことは出来ないけれど、もしかしてウィルってば私がリークさんばっかり誉めてるから、拗ねちゃった?
そんな馬鹿な。ウィル26歳だよね!?
17歳の小娘の発言にいちいち拗ねなくても!
あっ、でも年齢知ったとき最初に思ったのが「歳のわりに色々大人げない所多くない!?」だった気がする。
「ウィル!勝負だ勝負!スイートビーをどっちが多く倒せるかで決着をつけるぞ」
指示を終えたリークさんがこっちに戻ってくるなり、ウィルに向かってビシッと指を差し向ける。
さながら果たし状とか叩きつけてる感じだけど、ウィル本人、さっきはあんなに戦う気満々だったのに、それほど乗り気じゃないみたいだ。
「お前が頼まれたんだろ。俺を巻き込むなよ」
「Aランクの俺が出てSランクのお前が出ないわけにいかねぇだろ。そもそも高ランク冒険者はセーフゾーンで問題が起きた場合処理に当たる義務があるだろうが」
そうでした。ウィルってばSランクな筈でした。
もしかして、レベルが下がっちゃったことによって倒すのが厳しいモンスターなのかな。
だからバレないように断っているのかもしれない。
私のせいですね、すみません!!
心配になったので、顔をウィルに近づけ、こそっと小声で聞いてみる。
「もしかして、私がレベル半額にしたから、Aランクになっちゃった今のウィルでは難しいってことですか」
「そんな訳無いだろ。単に面倒なだけだ。タダ働きなんて誰がするか」
あー!だからウィルってばさっき顔を隠してたの!?
いくらタダ働きがしたくないからって、知らんぷりして一足先に休もうなんて、そうは問屋が許しませんよ。
「リークさん、ウィルは私が責任を持って連れて行くので、邀撃の一人に是非加えてあげてください!」
「おい!」
抗議するような声が響くけど、困ってる人達をほっとこうとするウィルが悪いのです。
「よし、分かった。ウィル!絶対逃げるなよ!」
準備をする為に、一旦私達と別れるリークさんを見送りつつ、私は不機嫌そうな表情で横に佇むウィルへ向き直った。
何も喋ってないのに「余計なことしやがって」って身体全体から伝わってくる。
「討伐に時間が掛かって眠れなくなっても知らないからな」
「その場合はもう一日セーフゾーンに滞在して休むことにします。別に急いでいる旅じゃないですし。それに」
「それに?」
ウィルが私に聞き返してきた。
だから、私はにんまり笑って言い返す。
「リークさんより強いんですよね?」
「……」
あっ、ちょっとやる気になった。
リークさんのことを単純剣士ってウィルは言ってたけど、分かりにくいだけで、結構ウィルも単純なんじゃないかなぁっなんて思ってしまうのだった。




