2人の間に散る火花
ぷいっと不貞腐れた私だったけど、そんな私の態度に慌てるリークさんに、最初の怖い印象が飛んで行った。
この人、本当は凄く優しい人なんじゃないかな。
大きな身体で慌てる姿は、見た目に反してちょっと情けなくて可愛いかも。
何度目かのごめんな!でようやく振り返ると、リークさんはわかりやすくホッとしていた。
むぐぐ、何か小さい頃に飼っていた犬を思い出しちゃう。
仕方ないなぁ、今回だけですからね!
「次、弟扱いしたら怒りますからね。あと、私はおチビちゃんじゃなくてシーナです」
「分かった、絶対にしない!約束する!な、おチビ……シーナ!」
まだ少し笑顔が固いけど助けてくれたこともあるから、私は水に流すことにした。
リークさんはお詫びって言って、近くの屋台に売られていた果汁たっぷりのジュースを奢ってくれた。
コップにはオレンジのような果実が添えるようにつけられていて、柑橘系の香りが爽やかだ。
見た目もお祭りみたいで可愛い。
一口飲んでみると、想像していたよりもフレッシュで、これぞ搾りたてって感じ!
何より、細かく刻まれた氷を敷き詰めた台に刺さるように置かれていたから、冷たくてとても美味しい~!
氷は魔法なのかなぁ。
「美味しいです~!カレーパンの後に最高!」
「だろ?ここは結構イケてるんだ。アルコール入りもあるけど、シーナには少し早いか。そうだ、あっちにも馴染みの焼肉の店があるんだ。脂が乗ってて最高に旨いぞ」
「や、焼肉……」
つい、ごくりと唾を飲み込む。
それにしてもリークさん、なんだか気持ち楽しそうに見えるんだけど。
そんなに私、腹ペコに見えるかな……いや、見える気がする……実際腹ペコな所見せてしまっているし……うぅ。
食べ盛りの弟を見る感じで認識されちゃってるのかな?
もしくは、ウィルみたいに私の機嫌を物で釣ろうと……ん?ウィル。
あ!!!
「ウィルのことすっかり忘れてた!!」
「……誰のこと、忘れてただって?」
「うひゃー!!」
背後から急に聞こえてきた絶対零度の声に、空っぽになったグラスを握りしめたまま、飛び跳ねる勢いで驚く。
鈍い動きでゆっくり振り替えった先には、胸の前で腕を組んでこちらを睨んでいるウィルの姿があった。
あは、あはは……怒ってても顔がいいですね……?
「水を汲みに行くって勝手に飛び出したまま全然帰ってこないと思って見に来てみたら、呑気に屋台巡りとはいいご身分だな」
「ち、違うんです~~!!ちゃんと水を汲みに行こうとしたんです!でもカレーパンの匂いで食べたくなって。そしたら変な冒険者に絡まれるしで大変で!」
「ほぅ」
証拠隠滅の為に、グラスを店のおばちゃんに慌てて返す。
勿論、返す時に「ごちそうさまでした」は忘れない。
接客業をする人間は同じ接客業の人間に優しくなるのだ。
って今はそんな場合じゃなかった。
「本当にもうすぐ帰ろうと……」
「よぅ、元気そうだなウィル」
必死に言い訳の言葉を考えていた最中、後ろに居たリークさんがズイッと身体を私とウィルの間に割り込ませた。
お、おお……なんだか大きな壁みたい。
はっ!リークさんって宿屋にウィルに凄い突っかかってたし、さっきの話を聞く感じではあんまり仲も良さそうじゃ無かったんだった。
ど、どどどどうしよう。この状況。
「リーク?もしかして絡まれた冒険者ってコイツだったのか?」
「ウィル!違うよ!!」
「んなわけねぇだろ!オレがシーナを助けてやったんだよ!」
ほら~~!!リークさん怒っちゃったじゃんか。
ガルルって今にも威嚇しそうな勢いだし。
そんな敵意を向けられててもウィルはしれっとしてるし。
「B級ランクの冒険者さんに絡まれて、それをリークさんが助けてくれたんです。屋台のご飯はお勧めされてつい食べちゃって……えへへ」
「えへへじゃない。はぁ、ったく……目を離してられないな。行くぞ、シーナ」
あれ、思っていたよりも、ウィルが私に怒って来ない?
いつもなら嫌味の一つや二つありそうなのに。
「待て待て待て!無視すんなよ!」
くるりと背を向けてテントに戻ろうとするウィルに、リークさんが声を荒げた。
「お前はいつもいつもオレのこと眼中にないみたいな態度取りやがって、気にいらねぇ。ポーカーでイカサマばっかりしやがるし、オレの依頼は横取りするし、女に手を出すのも早い。おまけにシーナの護衛だってのに、全然守れてねぇだろうが!」
ピクリとウィルが反応する。
足を止めて、ゆっくりと振り返ったウィルの顔は心底面倒くさそうで。
眉間にシワまでガッツリ寄せちゃってる。
「眼中に無いんだから仕方がないだろ。あぁ、でもどうしてもと言うなら、心に留めておいてやる。嬉しいだろ?」
ウィルの口角がクイッと持ち上がった。
この顔が良い笑みと皮肉な言葉で、とてつもなく煽られている気分。
「あと、イカサマはお前が毎回馬鹿正直に騙されるのが悪いし、依頼は単純に人数の関係でお前が受けられなかっただけだろ。ついでに女だって、こっちは何もしてない。向こうが勝手に俺に惚れてきただけだ」
うわー!!それ言っちゃうの!?
面と向かってこんなこと言われたら、絶対にへこむ、とんでもなくへこんじゃう。
リークさん大丈夫かな。
そう思いながらそっと背後からリークさんの表情をのぞき込むと、引き攣った表情が怒りを通りこして笑いに変換されていた。
ふふ、ふふ……って不穏な笑い声が聞こえくる。
「ウィルーー!!!今回ばかりは絶対に許さねぇ!!勝負だ!勝負!!」
「いいぞ。今回は何を賭ける」
「え、ええ!?ケンカはだめですよ!!」
怒りに燃えて見開くリークさんのミルクティ色の瞳に対し、ウィルのエメラルドグリーンの瞳が挑発的に細められる。
も~~!何で煽るような事ばっかり言うのウィル!
そりゃ忘れてた私が悪いんだけど、イライラしてリークさんに当たることないじゃん~!
今までの会話は全部リークさんを挑発させるような感じだったし……。
ううう~~2人の間に火花がバチバチ散っている気がして、取り入る暇すら与えてくれないよ~!!
「オレが泊まってるコテージを賭けてやる!お前が負けたらコテージ代は払えよ!」
「いいだろう。丁度テントでは手狭に感じていた所だ」
屋台の前で行われるやり取りに、いつの間にか周囲に冒険者が集まりつつある。
屋台の人もよくある光景なのか、商品に被害が及ばないように店先をカーテンみたいに覆っちゃった。
徐々に空気も熱を帯びた物へと変わり初めて、気持ちが急けてオロオロしちゃう。
助けを求める人も居ないし……あぁ、そうこうしている間に、2人とも自分の武器に手を掛けてる!?
ちょっと待って、剣で戦うの!?怪我しちゃうよ!!
そんな一触即発の雰囲気を壊すかのように、誰かが叫びながらこちらへ来た。
大きく手を挙げて、人混みをなんとか抜けてきたその人は、肩で息をしながら一目散にリークさんの元へ駆け寄り、必死の形相でこう、訴えた。
「リークさん!!助けてください!!!!」




