異世界のキャンプ場でカレーパンを
背中に大剣を背負って白い鎧を身に付けている大柄な男の人。
物凄く見覚えがある。
アネスさんの朝ごはんを初めて食べた時に、ウィルにバチバチとメンチを切ってた人だ!!
確かウィルの知り合い?なんだよね……?
「あっ、あの」
言葉を続けるよりも先に、その人は軽くウィンクを私にして見せる。
黙ってろって事なんだろうけど、その一瞬の仕草になぜか照れてしまった。
耳がちょっと熱い。
「お、お前はリーク!?」
「どうした。オレの連れがお前達に何か迷惑かけたか?」
「あ、いや……その」
「何だよ歯切れが悪いな。遠慮しないで言ってくれていいんだぜ。何だったかなー……同じパーティの教育が行き届いてないだったか。忘れちまった、悪いけどもう1回言ってくれよ」
「それは……」
グルルッて獣が唸る鳴き声が聞こえてくるかと思った。
挑発的に顔は笑ってるけど、そこから伝わってくる脅しの気配。
あんなにも高慢そうにふんぞり返っていたユディルって人の顔色がみるみる悪くなっていくのが分かる。
やがて、場の膠着状態に耐えきれなくなったのか、いくぞ!って2人の取り巻きを連れて彼らはしっぽを巻いて逃げていった。
「怖い奴らはどっかいっちまったぜ、おチビちゃん」
彼らの姿が完全に消えると、助けてくれた男性はそっと私を解放してくれた。
ニッと笑う姿はさっき男達を威嚇していた時と比べものにならないぐらい優しい。
それにしても大きい人だな……190センチ近くありそう。
私とだったら肩を並べて歩く所か胸もとにやっと頭が届くかどうかだ。
「ありがとうございました!えっと……」
「剣士のリークだ。Aランク冒険者だぞ」
ユディルさんが威張って言ってたことしっかり聞いてたんだ。
にしても、アネスさんの宿屋でウィルに突っかかってた時より、優しい人のような気がするぞ……?
あの時は鬼の形相でウィルのこと睨んでたもんね……ええーウィル、何したの。
そんなことを思ってると、リークさんが周囲をきょろきょろ気にし始めた。
まるで誰かを捜しているみたいだ。
「どうしたんですか?」
「あー……アイツはいないよな」
「アイツ?」
「……ウィルだ」
「ウィルならテントに居ますけ……ど!?」
その瞬間、両肩を勢いよくリークさんに捕まれた。
なになになに!?急にどうしたの!?
「アイツとは絶ッ対に別れた方がいい!」
「は、はい?」
「カードゲームではイカサマばっかりしやがるし、人の依頼を横取りするし、挙げ句、女に手を出すのも早い。とにかく最低な奴だから絶対に別れた方がいい!オレはおチビちゃんを思って言っているんだ」
ホントにウィル何したの!?
宿屋でも似たようなことをリークさん言ってたし、これは思っていた以上にウィルとリークさんの間にある遺恨は深く根強い気配がする。
そもそも、リークさんもアネスさんも、さっきのテントを貸してくれた職員の人もそうだけど、何で私とウィルが付き合ってるって結論に至るの!?
普通に横にいるだけです!!
そりゃ、あんな王子様みたいな見た目をしたウィルとそういう風に勘違いされて嫌な気はしないけど?
でもでも、違うし!ウィルと私は冒険者と依頼主だから!
「あの。勘違いしているようですが……私とウィルは恋人じゃないです」
「そう、なの……か?」
「はい。首都エオンに向かう私の護衛として一緒に居てくれているだけっていうか」
「護衛……」
リークさんがミルクティ色をした瞳をぱちくりと瞬かせる。
やがて何も言わず肩から手を離したかと思えば、私に背を向けて小さくガッツポーズをしていた。
「……よーしよしよし。これはツキが向いてきたんじゃないか」
ぼそぼそ何か独り言を喋ってるけど、よく聞こえない。
聞き耳をたててみようかとも思ったけど、リークさんはあっさりと私の方へと向き直り、上機嫌に笑って見せた。
「なら問題ねぇな。でも、護衛をオレに乗り換えたくなったらいつでも言ってくれ。おチビちゃんなら安くしとくぜ」
「あ、ありがとうございます?」
何だかよく分からないけどリークさんが納得してくれたのならいいや。
と、思った矢先。
ぐ~~~~
突如として間の抜けた音が周囲に木霊する。
慌てて自分のお腹を押さえたけど、遅かった。
き、聞かれてしまった!私の……私のお腹の音!!!!!
タイミングがあるでしょうよってぐらい間の悪いタイミングで鳴るなんて。
やばい、恥ずかしい。変な汗をかいてきたかも。
ううう、これも全部、カレーパンの美味しそうな香りのせいだ~!
「あのその、すみません。ちょっとお腹すいててカレーパンを買おうとした所だったんです。笑わないで」
「カレーパン?あぁ、冒険者のソウルフードだし、美味いよな」
へ?そうなの?ってことはカレーパン自体が昔からあるってこと?
ううむ、もしかして宿屋のお風呂にあった富士山の絵みたいに、カレーパンも異世界人が残した食べ物なのかもしれない。
誰だか分からないけど、先人よ、本当にありがとう。
貴方のおかげで私は大好きなカレーパンを異世界でも食べることが出来ます。
「1個食うか?おっさん2つくれ」
「あいよ24ブロンズ」
「えっ、あ!悪いです!」
「いいっていいって。ほら」
そう言いながら、リークさんはおじさんから受け取ったカレーパンを私に差し出してくる。
揚げたてのカレーパンは包み込んだ紙にじんわりと油を滲ませながら、何ともスパイシーな香辛料の香りを私に叩きつけてきた。
あぁ、なんて美味しそうなんだろう。
食べたい、食べたいなぁ……。
リークさんとカレーパンを交互に見た。
ほらよ、と笑顔で促され、私はついに降参する。
「ありがとうございます、いただきますっ!」
はむっ!
次の瞬間、私の目は星が輝くみたいにキラキラと感動に震えた。
ずっしりとしたパンを一口かじると、カリッとした触感と共にくるスパイスの香り。
すると揚げたてのパンの中からトロットロのチーズが溢れてきた。
これ、まさかのチーズ入りカレーパン!!
野菜や肉の旨味が凝縮されたカレーはスパイシーで少し辛めだけど、チーズと一緒に食べると、辛さが抑えられてまろやかな味になってくる。
中身も冒険者仕様だからか、お肉とお芋のカットが大きめでホクホクしちゃう。
そして、それらを包み込む少し甘めで、もっちりとした生地。
カレーの旨味をより引き出していて、バランスも最高!
ボリューミーで口の中をくまなく埋め尽くすかのような満足感。
久しぶりに食べた揚げたてのアツアツなカレーパンは、涙が出そうなぐらい美味しかった。
「おチビちゃん、口に付いてる」
夢中で食べている私に対して呆気に取られていたリークさんが、小さく吹き出すようにして笑ったのに気づいて、私はハッと我に返った。
いくら、久しぶりに食べたからってはしゃぎすぎちゃった。反省。
「あ、あはは。久しぶりに食べたのが嬉しくて、つい」
「ここ、ここ」
誤魔化すようにして笑うと、リークさんが自分の口を軽くとんとんと叩いて見せる。
えっと、右側?あれ、でも何も付いてないよ。
「惜しい反対だ。ここな」
そう言うと、リークさんは私の顔に手を延ばし、左側の口元を親指でぐいと拭ってくれた。
突然の行動に思わず身体が固まる。
それどころか、リークさんは慣れた手付きで指先に付いた奴をぺろっと舐めた。
「ほ、え」
ぽかんと口が半開きのままで私はリークさんの行動を凝視してしまった。
途端にやかんのお湯が沸くみたいに私の顔はみるみる赤く染まっていって、カレーパンを食べ終えて残った包み紙を持つ手がぶるぶる震えた。
「あ、あのっ」
真っ赤になる私を見たリークさんは、ようやく自分の行動を理解したみたいで、彼はものすごい勢いで頭を左右に振りだした。
「違う!違うぞ!わざとやったとかじゃなくて、癖だ!」
「誰かれ構わずこんなことするんですか……」
「誤解だ!弟達がよく食べている時に口に付けるんだよ!」
「私、弟じゃありません!!」
「違うんだーー!!」
ぷいっと顔を背ける。
直接見なくてもリークさんが焦っているのは気配でしっかり伝わってきていた。
……別に怒ってるわけじゃないもん。
なんていうか、我ながらびっくりするぐらいドキドキしている自分の顔を隠すためにそっぽを向いただけなのだ。
そう、それだけそれだけ。




