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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第二章 セーフゾーンと恋心
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異世界のキャンプ場


どこからともなく聞こえてくる獣の鳴き声や飛び跳ねる虫に最初こそ驚いていたが、回数をこなすうちに流石に慣れてきた。

とはいえ、虫は得意でもないので、バックヤードから蚊取り線香を持ってきた。

渦巻き状の先端に火を付けて眠ると、朝まで虫は寄ってこない。


どうもこの煙、虫以外にモンスターも苦手らしく、ウィルは一晩中焚き火の番をするよりも、こっちの方が効率的だと、蚊取り線香をいたくお気に入りだ。

匂いも悪くないって言ってたけど、それ分かるなぁ~。

なんだろう、蚊取り線香の香りって落ち着くよね。


バックヤードから色々持ってくることが出来るって分かった今、私はこのスキルで旅をちょっとでも有意義なものにできないかと必死だったりする。

元の世界に戻る時、「あぁ~!最高の旅だった!」って胸を張って言えるぐらいには。

というわけで、今日もそろそろ野宿の準備をする時間なんだけど、ウィルの足がなぜか止まることはなかった。


珍しい。

最近野宿をしたら異世界のお菓子が食べれるから、暗くなり始めたらすぐ野宿の準備をし始めるのに。


「今日はもう少し歩くぞ」


そわそわし出した私の反応に気付いたのか、半歩先を歩くウィルが振り返ることなく答える。


「川とか湖がある場所があったりするんですか?」


「いや、もっといい場所だ」


もっといい場所。

はて、小さな村とか集落でもあるのかな?でもそれなら、そう言うよね。

次の街までは一週間ぐらいかかるってトータを出る時に言っていたから、ベッドで眠れるって感じではなさそうだけど。


そうこうしている間に、周囲はすっかり暗くなった。

どれだけウィルが横に居て安全だからって、やっぱり夜になると多少なりとも怖く感じちゃう。

風で草が揺れる音とモンスターが草むらから顔を覗かせる音ってよく似てるしさぁ。


「ウィル~まだぁ」


「もうすぐだ、もうすぐ」


「それさっきも聞きましたよ~」


何度目かの問いかけでウィルがようやく私を振り返る。

お、怒られる!?何度も同じ事を聞くなって怒られちゃう!?

ぐっと身構えるようにウィルを見返したけど、返ってきたのは思いがけないものだった。


「見えたぞ」


ウィルがすっと前方を指さしている。

何だろうって目を凝らして見てみると、遠くに灯りのようなものがぽつぽつと確認できる。

それは歩けば歩く程、近付いて大きくなり、やがては大きな木の柵で覆われた広い公園に到着した。


街道から少し離れた場所に、それは唐突にあった。

たまに外国とかで街中にボンと自然豊かな公園があるような感じ。

近づくにつれ、わいわいと賑やかな声が夜空に響いてきて、その賑やかさが歩き疲れたた心にじんわりと染みた。


「ここって……」


「これは冒険者連盟が街道の側に建てているセーフゾーンだ。物資や食料、医者も在住しているから、初心者から上級者まで様々な冒険者が利用する。寝泊まりする場所もあるしな」


呆けている私を促すように、ウィルは一足先にセーフゾーンという場所へと歩き出す。

入り口だと思われる木の門の前には屈強な男の人が2人立っていて、ウィルが懐から取り出したカードを手渡すと、さっと前を開けてくれた。


「おい、早く来い」

「はい!」


さっきウィルが出してたカードって冒険者連盟の証明カードかな?

そっと横からのぞき込んでみたけど……なんだか、免許証みたい。

とりあえず、同行者である私も入ることが出来るみたいだから、その恩恵にあやかっちゃおう!


「わぁああ!凄い、人が沢山いる!」


外からは高い柵が邪魔になって中を確認することは出来なかったけど、セーフゾーンの中は冒険者で溢れていた。

それに、色々な店が屋台の出店みたいに並んでいる。

カラフルな布で出来た屋根は夜でも小さな灯りに照らされて、さながら店そのものが鮮やかなランプみたいだ。


ああ~どこからともなく美味しそうな匂いもする。

これはお肉を焼いている音かなぁ~~……はぁ、アネスさんのご飯が恋しい。


あっちには、木と木の間に紐を通して衣服を洗濯している人がいる。

そういえば魔法服って高価だって言ってたもんね。

普通の服で旅をしている人はああやって洗っているんだなぁ。


おっと、お水の容器を持って歩いていく人がちらほらいる。

ってことは近くに川があるのかな!やったー!食器洗うのが楽だ!


「前見て歩かないとまた転ぶぞ」


きょろきょろと忙しなく動いていた私に、ウィルが皮肉を投げかける。

確かにその通りだけれど、子供みたいに指摘されて私はウィルの背中を恨みがましい目で見つめた。


「転びません~~~!!あの時は犬堂さんの意地悪な糸があったからですし!!」


……あぁ、もう!クツクツと肩が笑ってる。

いつもの嫌そうな顔じゃないのはいいんですけど、何も笑うことないじゃないですか!!

仕方ないでしょ、何を見てもこの世界のものは新鮮なんだから!


「冒険者連盟所属、Sランクのウィルだ。テントを貸してくれ」


ウィルがやってきたのは大きな天幕だ。

側にテントのようなマークが刻まれた看板が立っている。


「あぁ、ウィルさん。ウィルさんがセーフゾーンを使用するなんて珍しいですね。クレアさんはどうしたんですか?」


そこに立っていた若い男がウィルの存在に気付いて愛想のいい笑顔を浮かべた。

これは1年ぐらいバイトしてすっかり接客業に慣れた顔つきだな、うんうんいい笑顔だ。


「護衛任務中なんだよ。クレアは別任務中だ」


「そうなんですか。いやぁ、ウィルさんがクレアさん以外の女性と居る所初めてみたからてっきり……」


「てっきり?」


ウィルの笑みにゴウッて急に温度が冷たくなる。

絶対零度の笑みって言うんだろうか。

イケメンの全力笑顔ってある意味、下手なホラー映画よりも不穏な気配を感じてしまう。


対応してくれた人はなんでもないです……って凍り付いた表情で、のそのそと天幕の中から大きな布の包みをウィルに差し出した。

それを数枚の銀貨と交換して受け取ると、ウィルは何事も無かったかのようにスタスタと歩き始めてしまった。


「ウィル待ってよ!」


一刻もこの場から去ろうとするのはわかるけど、早い!

小走りにそんな後ろ姿を追いかけていくうちに、店が軒を連ねる賑やかな場所から布のテントがぽつぽつと点在する少し静かな場所へとやってきた。


なるほど、ここが野宿をする場所ってことか。

整備がされているのか地面は平らで歩きやすいし、座ってもごわごわしなさそう。

これなら寝てる時に寝返りでうっかり石に当たる事は無さそう。

それにしても、店や寝るスペースに水場…このセーフゾーンってつまり、


「キャンプ場ってことか」


元の世界では身体ひとつでキャンプを楽しめるグランピングが流行っているらしいけど、まさか異世界にも似たような施設があるとは。

確かに何が襲ってくるか分からない場所での野宿よりも、ある程度の設備が整っていて柵で覆われているセーフゾーンの方が断然安全だもんね。


少し人から離れた場所に貰った布袋を開くと、中には分割式の棒やら布やら金具やらが入っていた。

ウィルがそれらをてきぱきと組み立て、あっという間にテントが完成した。

外からは見えないし、雨風も防げるとか最高じゃん!

いいなぁ、これ欲しいなぁ。


「ウィルってずっと冒険者として旅してるんですよね。こういうテント持ってないんですか?普通に野宿するより絶対に快適だと思うんですけど」


「確かに便利だが、でかいし邪魔になるだろ。旅は身軽が一番いい。それに、基本的に馬車移動だしな。まぁ、依頼者の金だが」


あぁ~~そうだった。

この人Sランク冒険者なんでした。


そういえば出会った時も立派な馬車が側にあったのを思い出した。

つまり移動資金を出してくれるような人の依頼しか受けないってことで……うう、すみませんねぇ、お財布が貧相な人間で!


「複数人のパーティは持っている所が多いが……なんだ、欲しいのか?」


「野宿の時にあったら便利だなぁって」


「まぁ、普通は2人旅でテントなんて邪魔でしかないが、お前のアイテムボックスがあるからな」


お、これは押せばテントを買ってくれるかもしれない。

最近、お菓子とか蚊取り線香とか、私の世界の商品をウィルが結構気に入っていてご機嫌なんだよね。

トータを出る前に食料を沢山買って、アイテムボックスに入れたから食事が毎日安定して取れるって喜んでるし、多少のわがままも今なら聞いてくれるかもしれない。

これはもっと好印象……じゃなかった、頑張ってますよって所を見せないと!


「私、お水貰ってきます!その間にどんなテント買うか決めといてくださいね~!」


「おい。まだ買うとは一言も言ってないし、水は重いから俺が……」


「いってきまーす!」


決断に悩んでいる場合、タイムリミットを設けて選択を迫るべし!

止めるウィルを無視して、私は店が建ち並ぶ賑やかな通りへと駆け出した。




次からイベント発生です。

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