異世界風こんがり焼けたマシュマロ
もうこうなったら、このレジ袋も使ってやる。
見た目は普通のレジ袋だけど、思った以上に頑丈そうだし。
でも捨てる時だけはちゃんとウィルに相談したほうが良いよね。
ていうか、ウィルに早く持って行かないと、またアイテムボックスの中で寝てたとか言われちゃう!
私は急ぎながら、放りっぱなしになっていたパンと、皿やコップをレジ袋に入れ、水の入った瓶と、絨毯を小脇に抱えた。
おおうっ、結構重たい。
でも、伊達にビールのケース売りとか持って走ってないもんね!
こう見えて結構力持ちなんだから。
そうそう、ビールやお米などの重たい物をカートに乗せている場合は、無理にレジ台に持ち上げなくていいけど、出来るだけカートを寄せて、バーコードの印刷された面を店員に見やすいようにしててくれると助かります!
よし、これで忘れ物はないな。
スイングドアを身体で押し、アイテムボックスから出ようとしたその時。
『あ、言い忘れ。精算さえすれば確かに無料で提供するけど、持ち出す際のエネルギーは君の体力を使うからネ』
「え?今、なんて?」
『外に君の世界の商品を持ち出すと、疲れますよ~って事。まァ、大量に持ち出さなければ平気平気』
体力を使う!?
何でそんなにダイレクトに身体に直結して、一番大事な所をいつも言い忘れるの!
この人本当にチュートリアルなの!?
怒っても、もう遅い。
私の両足はバックヤードのタイルから、草と土の柔らかな感触に戻っていた。
背後で役目を終えたスイングドアが消えていく中、焚き火を起こしていたウィルが私に気付いて近付いてきた。
彼は何も言わずに絨毯と水の瓶を受け取ると、同じように何も言わない私に眉を潜める。
「どうした。アイテムボックスの中に虫でもいたか」
「いや、なんていうか……お化け屋敷に入って、タイミング悪く全然お化けに遭遇しなかった気分っていうか……」
「はぁ?」
そう、私の身体は何も変わっていなかった。
あれだけ絶妙なタイミングで脅しておいて、身体が重いとか、頭が痛いとか、そういうのも全くなし。
これはチュートリアルさんが大げさに言っていたのか、それとも私の体力が単純に多いのか……あ、持ってきた物がマシュマロだけだからなのかな。
んー、何でもポコポコ出しまくってると疲れるよ、と言いたいのかもしれない。
でもさぁ、一体どれぐらいの量を外に出したら疲れるのか限界を知りたくなる気もするんだけど、どうしようかな。
「それ、何だ」
「え、あっ。そうだ、バックヤードにある商品を一部、外に持ち出せるようになったんですよ」
ウィルに指摘されて、私はようやくレジ袋をじゃじゃーんとお披露目した。
当然ながらレジ袋なんて物はこの世界にはないから、ウィルが興味深そうに袋を様々な角度から確認しているけど、中を見たらもっとびっくりするぞ~ふふふ。
焚き火を前にして、私はとウィルは敷いた絨毯の上に並んで腰を下ろす。
その頃にはすっかり周囲は暗くなっていた。
火花をチリチリと散らしながら燃える様を見ていると、心がなんだか落ち着く。
小学校の頃に体験した、キャンプファイヤーみたいだ。
あの頃は欠伸を噛み殺しながら火を眺めていたが、今は木のコップに飲み物を入れて貰って、焼いたパンをお腹に入れ、中々に充実しているような気がする。
食事を終えたら明日に備えて寝る、ってのが冒険者の基本みたいだけど、ウィル!まだ寝るには早いぞ。
そう、私達にはデザートが残っているのだ。
「じゃじゃーん!!私の世界のお菓子を食べましょう!」
モンスター除けも兼ねた焚き火が消えてしまわないように、枝を足したりして調節していたウィルの100点満点な顔面に向かって、ファンシーなパッケージを見せつける。
「何だそれ。綿か?」
「違います!甘くて、おいしい、お菓子です!」
パッケージの半透明な部分から覗くマシュマロを見てウィルが分かりやすく眉間に皺を寄せる。
自分のレベルが半額にされた経験から、異世界人のスキル自体が苦手になっているのかも……いや、その件に関しては変なトラウマ植え付けちゃってごめんなさいって感じなんだけど……でもでも、マシュマロは美味しいから!!
「見ていてくださいね」
そう宣言して、私は手近な所に落ちていた細い木の枝を2本拾った。
叩いて砂を落として布で綺麗に拭くと、ビニールのパッケージをビリッと開いてマシュマロを取り出し、ぷすっとそれぞれの先端に突き刺した。
「ふふふ、これ凄く美味しいんですよ」
枝に刺さったマシュマロを、直接火に当たらないように両手でくるくると回しながら焼いていく。
最初は怪訝な表情で私のやることを遠回しに見ていたウィルも、マシュマロの正面がほんのり焦げてきて、甘い香りが周囲に漂い始めると、僅かながらでも興味を持ったのか、身体が少し前屈みになった。
結構ウィルって自分の知らないことに関しては好奇心旺盛だよね、冒険者だからかな?
おっと、そうこうしている間にいい具合に焼けたかも。
「異世界風こんがり焼けたマシュマロ、になります。どうぞ、お召し上がりください」
「……」
そう、焚き火と言えばやっぱり焼きマシュマロだよね!
この自然の中で食べるあつあつのデザートっていうのが、またいいんだ。
1本を枝ごとウィルに手渡すと、すんなり受け取ってくれた。
「あ、ものすごく熱いので、ふーふーして食べてくださいね」
マシュマロを凝視するウィルの顔が凄く真剣だ。そこから伝わってくる、未知の物を口にするという疑心と、想像以上にお腹を擽る甘い香りに対する好奇心とが殴り合ってる感じ。
警戒しているなら私が先に食べて見せた方がいいかな。よし!
「はーむっ!」
手に持っていたマシュマロに息を吹きかけて軽く冷ましつつ、端からそっとかぶりつく。
ん~~!!おいしい~~~!!!!
はふはふと熱に息を吐きつつ、口の中にじんわりと広がっていく甘さを堪能する。
外はパリッと焼けてて、中は程良い感じに蕩けている。
チーズみたいに少し伸びたマシュマロをぺろりと舌で追いかけると、それだけで心が満たされた。
これこれこれー!!やっぱりお菓子ってテンションあげてくれるよね。
あっという間に食べちゃって、もう1個焼いちゃおう、なんて思ってたら、ウィルが焼けたマシュマロを手に取って口に引き寄せていた。
お、行くか?!食べるか?!!!
謎の熱意が胸を覆う。
一瞬躊躇を見せたけど、ウィルはマシュマロを勢いよく口に全部押し込んだ。
「ウ、ウィル!?熱いよ!火傷しちゃう!!」
まさか一気にいくとは思わなくて、慌ててコップに水を注ぐ。
ウィルへ手渡そうとすると、彼は大きく目を見開いて虚空を見てた。
なんだろう。宇宙をバックにした猫の姿が頭を過る。
「……い……」
「え?」
い……痛い?
ほらー!やっぱり口の中火傷したんじゃん!!
「うまい……」
「およよ?」
「なんだこれ、こんなに旨い物食べたことないぞ。本当にこれが甘味なのか」
「え、えへへ~。こっちの世界で子供が食べる一般的なお菓子なんだけど、そんなにおいしい?」
「……うまい。もっとないのか」
「ある!ちょっと待って」
別に私が作ったりしてるわけじゃないんだけど、自分の世界の食べ物を誉められると単純に嬉しいよね。
それに、ウィルがこんな風に、私に対してお願いしてくるのって凄く新鮮~~~!!
嬉しいって気持ちが強くなって、ついつい、次々にマシュマロを突き刺していった。
パチパチと心地よく響く、火の弾ける音と焼けるマシュマロの香りは見事にマッチする。
いい感じの焼け具合を見定めては、こんがりとろけたマシュマロをウィルに枝ごと手渡すと、ウィルはそれを夢中で食べた。
なんていうか……目がキラキラ輝いてるなぁ。
普段、結構クールな顔つきが多いから、こんな風に感情が表に出ているウィルは新鮮だ。
恐るべし、お菓子。
ついには、自分で枝にマシュマロを刺して焼きながら、焼く前のマシュマロも齧ったりして、まるで食べ盛りの食いしん坊みたいだった。
顔的にマシュマロなんて可愛い物を食べてる様が凄く似合っているとはいえ、豪快に次々と口に入れていくから、気が付くとマシュマロは袋から姿を消してしまった。
「………」
空になった袋をじっと眺めるウィル。
「……もっと、食べる?」
しばしの沈黙の後、ウィルは口元を手で覆いながら私を見た。
悩んでる。これは凄く悩んでる。
マシュマロをもっと食べたいけど、食い意地が張ってるって思われたくないって全体から伝わってくる。
なんだろう、気位の高い猫にちょっと高い缶詰をあげている気分。
もっと食べたい、もっと食べたいけど……って私の周りをうろうろしているんだ。
「いや。これぐらいにしておく。後で副作用が出ても怖いからな」
一袋ぺろっと食べた後に言われても全然説得力ないですけどね。
「今度はトッピングも一緒にバックヤードから持ってきますね。チョコレートとか溶かして付けても美味しいんですよ~」
「チョコレートだと?そんな高価な物まで出せるのか」
「はい。普通のチョコレートからちょっとビターなチョコレート。甘いホワイトチョコレートもありますし、クッキーが入ってザクザクしたチョコレートもありますよ」
「……やっぱりもう少し食いたい」
ふふふ。チョコレートの名を出されて引き下がらないと思ってましたよ、ウィル。
罠にかかりましたね!!
「わかりました!マシュマロ追加と、小さな鍋とチョコレートもとってきまーす!」
ウィルは目線を合わせようとしないけど、遠足を前にした子供みたいにわくわくしているのが伝わってくる。
普段の姿とは違う少し子供っぽい様子に、私は自然と表情が緩むのを感じた。




