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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第二章 セーフゾーンと恋心
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レジ袋にお入れします


「野営の準備をしておくから、アイテムボックスに入れてる物を出してきてくれ」


「分かりました!」


私は一度腰を下ろしてゆっくりしてしまうと動きたくなくなる性格だから、すぐに「バックヤードはいります~」なんて、ちょっと気の抜けた声でアイテムボックスを呼び出した。

何の変哲もない場所にスイングドアがボンっと出現するのを見ていると、何度見てもトリックアート絵を見ている気分になってくる。


はっ、いけない。

野宿の準備をするんだった。


慌てて中に身体を押し込むと、バックヤードの感知式の照明がつく。

隅々まで光が行き渡った所で辺りを見回すと、スチールの大きな4段ラックがバックヤードの壁に添って並んでいる。

私はその一番手前のラックへと体を向けた。


本来ならば、ここに店舗で加工した商品を乗せる、トレイや小箱が置いてあったりする。

店内に置く値札やポップもここ。

でも今は、トレイも大特価!と大きくかかれたポップも存在しない。


「棚があるとやっぱり便利だな。床にそのまま並べていくわけにもいかないもんね」


なので、私はその大きく空いているスペースに旅に必要な物を置いていた。

トータの街で買った野営用のグッズもしっかり並んでいる。


簡単な料理をする為の調理器具、木の皿とコップ。

それに、床に敷くレジャーシート替わりの軽い絨毯。

これに関しては犬堂さんが店の人に口利きしてくれたから、凄く安く買うことができた!


食料もしっかり買い込んだから、今から食べる分にフランスパンみたいな形をした、硬いパンをひとつ持って外へ戻ろうとした、その時。


ピンポーンピンポーン


突如としてチャイムがバックヤードに響いた。


「レジ混んでるな。応援に入らなきゃ……はっ、違う!そんなはずない!」


ついチャイムの音に反応してしまったけど、今ここにレジはないしお客様もいない。

混むことは絶対にないし、そもそも、店舗自体がない。


『バックヤード内の商品ロックが解除されました。一部の商品が持ち出し可能です』


「持ち出し可能……って、商品が?」


混乱している私に追い打ちをかけるようにして、女性の電子アナウンスが頭上から流れてきた。

唐突に聞こえるアナウンスもそうだけど、それ以上に言っている内容に驚く。

商品が持ち出し可能だって、今言ったよね。


恐る恐る、奥にあるトラックカートの側に近寄る。

そこには段ボールが山積みにされ、中に商品が入っているはずだ。


試しに段ボールの中を1つ覗いてみると、収納されている飲料がきらきらと小さな粒子を飛ばしながら光り輝いていた。

前回バックヤードから卵を持って出ようとした時とは違うことに驚くも、それ以上に私は興奮し始めていた。


犬堂さんが言っていたみたいに、この自分の世界の商品を外に持ち出せるなら、お菓子やジュースも飲み放題。

それって、最高じゃん!

こっちの世界の食べ物も決して不味いわけじゃない。

でも、やっぱり元いた世界の食べ物が既に恋しいっていうか……!

ラッテのチョコの実とか、リスのマーチとか食べたいんだもん!!


「そうと決まればウィルにも食べさせてあげよう!どれにしようかな、飲み物がいいかな!」


興奮気味に片っ端からトラックカートに乗った段ボールを開けていく。

干物は……ウィル、好きか分からないし駄目。

小麦粉は……確かに色々使えるけど、今はすぐ食べたいから駄目。

やっぱり袋を開けてすぐ食べれる物がいい。


「あっ」


そして6つめの箱を開けた所で私は手を止めた。


「これにしよう」


それはお菓子の段ボールだった。

可愛い動物達が描かれたパッケージの中には、真っ白でふわふわであまーい食べ物がぎゅうぎゅうおしくらまんじゅうをするみたいに詰まっている。


そう、マシュマロ!


そのひとつを手に取って、私はバックヤードを出ようとした。


『ヘイヘイヘイ。そこのお嬢ちゃん、万引きは駄目ですヨ』


びっくりするぐらい軽くて軟派な声。

見えることはないけれど、反射的にハッと上を見上げた時、どこからともなく笑い声が響いた。

間違えるはずもない!まーたあの声だ。


「チュートリアルさん。場所時構わずに急に話しかけるのやめてくださいよ。人前で驚いて変な声を出しちゃったらどうしてくれるんですか」


『君なら上手く誤魔化せる、誤魔化せる』


「何度か白い目で見られてるから頼んでるんです!」


ウィルにも犬堂さんにも「幻聴?」って哀れむような目で見られてるんだから、これ以上へんてこ認定されたくないの!

所構わず話しかけてくるなら、せめて私からの問いかけにも返事をしてくれたら、まだいいのに。不公平だ!


『そんなことより、商品を外に出す場合はきちんと精算してくださいネ』


「精算?」


『ソウソウ。お金を払わずに外に出ようとすると万引きGメンが黙っちゃいない』


完全に私の懇願に対しては知らんぷりだけど、今はチュートリアルさんの言っていることの方が気になるので我慢することにする。

商品をバックヤードから外に出す為に精算しないと駄目ってことは……。


「お金がいるんですか?」


『勿論だヨ。な~んてウソウソ。このバックヤードにある商品はオマケで付けたようなものだから、君にあげちゃう~!うんうん、なんて心が広いんだろう。瀬戸内海レベルの優しさ』


「微妙に狭いですね……」


『対価としては別に貰っているし。でもスキルの性質上、形式として精算が必要だからネ。そこんとこヨロ~』


「はぁ……」


チュートリアルさんが言う精算ってなると、やっぱり必要になってくるのはレジだよね。

そもそもあのレジってバックヤードの中でも出せるのかな。


「いらっしゃいませ。お次のお客様、こちらのレジへどうぞ」


試しにいつもの言葉を口にしてみると、腕輪が光って、あっさりとレジが出現した。

アイテムボックスでもレジは出せるみたい。

私としてはバックヤードにレジがあるのって、すっごい違和感あるけど。


とにかく、物は試しだ!

私はさっそく、マシュマロの袋に付いたバーコードをハンドスキャナーで通してみた。


ピッと音が鳴って、ディスプレイに商品情報が表示される。


・マシュマロ(異世界製)

 メレンゲに甘味を加えて固めたお菓子。 

 柔らかく、お年寄りから子供まで食べることができる。


合計金額

 0


「合計金額が0円だ……あ!レベルあがってる!」


ディスプレイの端に表示されている私のレベルが2から3にアップしてる!

……まぁ、あれだけ鑑定したらレベルもあがるよね。

本当にレジ通しても通しても終わらなくて、まさに大晦日レベルの忙しさだったっていうか。

大晦日の忙しさはホント半端なかったなぁ、意外と1日の朝の方が余裕があったっていうか。


いやいや、思い出してグロッキーになってる場合じゃない。

レベルが上がったってことは、新しい機能が追加されているかもしれないってことだ。


予想通り、合計金額の下。

売却ボタンと並ぶようにして精算ボタンが新しく出現していた。

バックヤードの商品ロック解除と同時に出現したっていうのなら、このボタンなはず。

チュートリアルさんも精算って言ってたしね。


『ホラホラ、早く押してみなヨ~』


「は、はい」


どこまでも軽いなこのチュートリアルさん。

まぁ、いいや。とにかく精算ボタンを押してみる!!

えい!!


『商品を精算します』


ぽちっと精算ボタンを押すとアナウンスが響く。

同時に、ポンッと何かがはじけるような音がして、私の手からマシュマロが消えた。


「ちょっと待って、これって……」


マシュマロが消えたと同時に、商品を乗せる用の大きなレジ台が現れた。

おまけにその上には買い物カゴが置いてあり、その中にあるのは。


「レ、レジ袋」


白いビニールにニッコリ笑ったスマイルマーク。

そのレジ袋と一緒に、マシュマロは買い物カゴに入っていた。


商品を精算したらカゴに入ってレジ袋と一緒に出てくるなんてそんな、まるで……


「……これ本当に異世界人のスキル?小売り業者のスキルなのでは……」


『プププ……レベルあげたらバックヤードから外に出せる商品も増えていくし、1分の1スーパーになれちゃうネ』


「嬉しくない!!」


うがああ!と怒る私を後目に、チュートリアルさんの笑いをこらえるような息づかいが脳内に響いて、私は腹を立てつつも、レジ袋を引っ付かみ、マシュマロを中に押し込むのだった。



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