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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第一章 トータの街と旅立ち
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嘘です、しっかり見てました


犬堂さんとの騒動から早3日。

無事役所での異世界人申請が通ったとかで、補助金を受け取ることが出来た私は、いよいよ首都エオンに向けて旅の準備へ本格的に乗り出していた。


ちなみに私がアイテムボックス持ちだということが判明したので、旅に必要な物はバックヤードに収納することになった。

主に食料だったりとか、日用品、道具類って感じ。

ウィル自身が自分で使う物は自分で管理するってスタイルだったから、2人で共有する物になるけど。


「冷蔵しといた方がいいかなぁ。でも干し肉って普通常温だよね。でもこれ密封された袋に入ってるわけでもないし……うーん」


「アイテムボックス内では物の時間は停止するはずだから、腐るかどうかはあまり気にしなくていいと思うぞ」


「そうなんですか?なら、中に置いてる商品も腐る心配はなさそうですね」


ウィルの言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。

中に置いた物の時間が止まるなら、腐ったりすることはなさそう。

あの量を1人2人で食べきるのは無理な所があるし、これはもう一生食料には困らなさそうだな。

まぁ、外に持ち出せたらの話なんだけど。


宿屋の部屋でバックヤードに収納する物の選別をし始めて2時間、ようやく終わりが見えてきた。

もうウィルってば、アイテムボックスがあるならこれも入るだろって果物とか飲み物とか凄い量を買ってくるんだから大変だったよ。

別に几帳面って訳じゃないけど、中に入れるからにはちゃんと決まった場所に起きたくて、ついつい仕分けしながらバックヤードを行き来してしたらこんな時間だ。

開いた小窓から入る日差しは傾き始めている。


そういえばお腹減ったなぁ。

でもまぁ、これで無事旅立ちの準備はできた!

野宿でも寒くないように、貰った援助金で綺麗なタオルとか軽い毛布も買ったし、完璧。


「明日朝食を食べたら出発するからな、忘れ物が無いようにしとけよ。じゃあ、俺は自分の部屋に戻るから」


バックヤードには入れないけど、整理は手伝ってくれたウィルが軽く背伸びをして椅子から立ち上がる。


そうなのだ。

実は犬堂さんとの事件の後、宿屋に帰ってくると1部屋空きができたとかで私とウィルの部屋は別々になったのだ。

北側にある日当たりの悪い部屋だからってアネスさんが格安にしてくれて、ウィルは何も言わずにその部屋に移ってくれた。

確実にウィルの気遣いだな……嬉しい。


「あぁ、忘れる所だった。ほら」


戸口まで見送ろうとした所をウィルから小さな袋を手渡された。

手のひらサイズでそれほど重くはない。

不思議に思いながら中を開けてみると、深い緑色をした細いリングが1個入っている。

取り出してみると、夕日に照らされて向こう側が透けてキラキラ光っていた。


「わぁ、綺麗ですね!」


「やるよ。一応マジックアイテムのアクセサリーだから、軽度の状態異常なら防ぐし、腕につけとけ」


そう言いながら、ウィルは私のスキルの腕輪が付いた右腕を指さした。


「いくら着替えたからって、分かる奴にはそれが異世界人の腕輪だって分かるかもしれないしな。他にも付けとけばカモフラージュになるだろ」


「私の……為に?」


「?他に何があるんだよ」


さも当然とばかりにウィルは表情を変えずに言った。

コロンとしたリングは私の手のひらできらきらと光っている。


こんな風に自分の為に誰かからプレゼントを渡されるのは、凄く久しぶりだった。

元の世界でも、そんなに無かったから。

胸がいっぱいで、むず痒くて、おまけに照れくさい。

ついつい嬉しさのあまり眉尻が下がって、しまりのない笑顔を受かべてしまう。


「ありがとう、ウィル。大事にする!」


「……おう」


ウィル本人も、まさかこんなにも喜ばれるとは思っていなかったんだろう。

それ以上何も言わずに、部屋を去った。

あれは照れてるんだな、うんうん、ちょっとずつだけどウィルのことが分かってきたぞ。


「ふふ~、なかなか良いじゃん」


ベッドにごろんと転がり、さっそく腕にウィルから貰ったリングをはめてみると、スキルの腕輪と重なって、元々セットで付けていたみたいだ。

確かに私の魔法服は半袖だから、腕輪を物理的に隠すことができなかったんだよね。

でもこれなら、別のアクセサリーも付いているし、セットって判断されるから、一目でスキルの腕輪だとは気付かれにくいかも。

木を隠すなら森の中。腕輪を隠すなら腕輪の中ってね。


ウィルってやっぱり根は優しいんだなぁ。

犬堂さんの言った通りだ。

きっと、これなら……うまく、旅も……進むはず……むにゃむにゃ。


……………………

……………………


「ふにゃ……?」


ぼんやりと目が開く。

差し込んできていた光が無くなっていたことに気付いた私は、数回瞬きを繰り返した。


「夜!」


ガバッと勢いよく身体を起こす。

窓の外はすっかり暗くなって、普段なら聞こえてくる宿屋1階のどんちゃん騒ぎもなりを潜めている。

つまり、もうすっかり深夜になってしまったということだ。


「えええっ、うたた寝しちゃった!ご飯も食べそびれちゃったよー!」


ぐううと私の声に共鳴するみたいにお腹が鳴る。

よしよし、お前もひもじいよね。

さながら慰めるように自分のお腹を撫でた。

この時間だとアネスさんも寝ちゃってるだろうし、残念だけどご飯は朝までお預けだな、とほほ……。


でも、私にはどうしても諦めきれないことがひとつだけあった。


「お風呂って確か24時間入れたよね」


そう、お風呂なのです。

犬堂さんに作って貰った魔法服のおかげで、お風呂に入らなくても清潔感は保たれる。

でも、それでも!やっぱり日本人として毎日入れるならお風呂に入りたいのですよ。

明日から野宿がメインになるんだから、なおのこと最後にしっかりとお風呂にはいっていたい!


「よし……」


そんなわけで、私はベッドから立ち上がると身ひとつで足早に部屋を出た。

深夜だし、うっかり誰かを起こしてしまわないように、できるだけ足音を立てずに歩く。


宿屋内は必要最低限の灯りしかないから、暗くてちょっと怖いけど、お風呂の場所は完璧に覚えてる。

そんなわけで、お風呂に入ってさっぱりしたら明日に備えてぐっすり寝ちゃおう。


1階は暗かったけど、脱衣所の扉を開けるとお風呂場は灯りが付いていた。


ここのお風呂って日本の温泉みたいで異世界だけど親近感が沸くんだよなぁ。

犬堂さんに聞きそびれたけど、壁の絵の富士山はきっと先に来た異世界人が描いたんだと思う。

だからせめて、旅立つ前に見納めしておこうって理由もあったんだけど、時間的にあんまり長湯は出来ないかも、残念。


「さーてと、あんまり遅くなったら明日の朝起きれなくなっちゃうから早く入っちゃお」


ルンルン気分で服を脱ごうとした時、カコンとお風呂の方から物音がした。

突然の物音にビクリと肩が跳ねる。こんな深夜に誰か入浴してる?

え、でも扉の前に女湯、男湯の看板……あー!!確認してない!

バカバカ私のバカ!!!

中に入ってる人が出てくる前に早く、ここから出ないと。


ガチャっと音がして、ドアが開く気配がした。

あーー!!うそうそ待って!もう少しだけ待ってーーー!!!


「ん……?」


「あっ」


浴場のからのドアを開けたことによって、一気に脱衣所が湯気に覆われる。

ここで私は風呂上がりの人に背を向けて、問答無用で駆け出せば良かったんだ。

だというのに、突発的にっていうか本能的にっていうか、私は声に釣られて出てきた人を見てしまった。


くすんだ金髪が濡れて顔に張り付いている。

それだけじゃない、見た目よりも引き締まった身体に刻まれた傷が、まるで勲章みたいにその身を彩っていた。

他ならぬ、ウィルの。


「なっ!?」


驚愕に見開かれた目に、ようやく我に返る。

咄嗟に顔を両手で覆うようにして隠したけど、遅かった。


指の隙間から覗く、ウィルの身体はなんていうか、もう完璧っていうか、昔の凄い人が作った美青年の彫像って感じ!で顔が一気に熱を溜めて真っ赤になる。

そうこうしている間に、ぶるぶると震えだしたウィルの口が大きく開いた。


「お、お前なぁ!!」


「わあああ!!ごめんなさい!!何も見てないです!!」


嘘です、しっかり見てました。

私の姿に慌てたウィルが急いで浴場に引っ込むと、力任せにドアを閉める。

ビィインと伝わってきた痺れるような振動に、私は乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。


……いや、ちょっと待って。

普通こういうのって立場が逆なのでは……?

ちょっと!!!神様!!どういうこと!?



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