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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第一章 トータの街と旅立ち
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恋☆雫☆愛☆雫


はてさて、さっそく試着室に入ったのはいいんだけど、何かやっぱりフルセットにしては量が多いような……まっいいか!

いやぁ、新しい服に袖を通すのはテンションが上がるよね~!

だって女の子だもん!


試着室の中は大きな鏡があって、その横に使われていないハンガーが何本か掛けてあった。

私はセーラー服を脱ぎハンガーに掛けてしみじみ眺める。

元々学校の制服ってそんなに頻繁に洗う物ではないけど、やっぱりここ数日で酷くくたびれた感じがする。


一回ぐらい洗濯したいなぁ。

というか荷物になるし、持ち歩くのは流石に大変だから、処分した方がいいのかな……。

くそぅ!絶対に異世界から元の世界に戻る時、制服代金ぐらいは持って帰ってやるからなー!


「大丈夫だとは思うけど、もし着方が分からなかったりしたら言ってね。口頭で伝えるから」


「はい、ありがとうございます」


制服を見て考え込んでいたら、試着室の外から犬堂さんが声をかけてくれた。

駄目駄目、今は魔法服をゲットできる喜びにシフトしちゃおう。


積み重なった魔法服を手に、1つ1つチェックしながら着た。

これはトップス。こっちがスカート。これは靴下だな、うん。


初めて着る服だから多少手間取ってしまったけど、10分後には大きな鏡の前にすっかりファンタジーな姿をした私が立っていた。


「わぁ、凄い……アイドルみたい」


深みのある赤とピンクをベースにした魔法服は、至る所に金色の刺繍が縁取りとして刻まれていた。


トップスは私が着ていた制服みたいにセーラー襟。

胸と腰には大きなリボンが付いていて、袖なんてパフスリーブ、お姫様みたいだ。


スカートは三段。そこにフリルが付いててボリュームもたっぷり。

薄いパニエが幾重にも中で重なっていて、ふんわりと広がってとっても可愛い……少し丈が短い気がするけど、み、見なかったことにする!


後は真っ白なニーハイソックスに膝まである赤の編み上げブーツ。

おまけとして、ピンクゴールドの金具に大きなリボンが付いた髪留めをカチューシャみたいに挿すと、完成だ。


「え~!結構似合うんじゃないかなぁ」


こんなフリフリな洋服初めてだから、テンションが上がって、姿見の前でくるくる回ってみる。

その度にスカートがひらりと揺れて、シルエットも完璧だ。

可愛い~~この服凄く可愛いよ~~!!


こんな素敵な魔法服が作れるなんて、犬堂さんって凄いなぁ。

……でも、なんだろう。見れば見る程、この魔法服、何処かで見たことあるような気がするんだよね。

どこだったかな……あ!!


「け、犬堂さん!!」


「あぁ、椎名君。無事着替えられ……雫ちゃんじゃん!!」


カーテンを勢いよく開けて外へ出た瞬間、目の前に立っていた犬堂さんが普段の3倍は高い奇声を上げて、目を輝かせる。

というか、犬堂さん試着室の目の前で待ってたんですか。


あれよあれよと言う間に、犬堂さんは口元を押さえその場に座り込んだ。

終いにはぶるぶると肩が震えている。


「予想以上に雫ちゃんだった。こんなに完成度の高い雫ちゃんなんて奇跡としか思えない。むしろ1分の1スケール雫ちゃん……お願いだよ椎名君。その格好で雫ちゃんのソロ曲、恋☆雫☆愛☆雫を歌ってくれないか」


何回、雫ちゃんって言えば気が済むの、この人。


「いやいやいや!この服、ノブ学で浜崎雫ちゃんが着てたアイドル衣装じゃないですか!」


「うん、そうだよ?」


「そうだよ!?」


この人、悪びれる様子もなく言い切ったんですけど!?


「あれ、最初に言ってなかったっけ?推しに激似な椎名君に、推しの雫ちゃんの衣装を着せれるチャンスだって」


「……………………言ってた!」


確かに言ってた~~!!!!

なんでそこでもっと真剣に言葉の意味を考えなかった私!

だって、あの時はまだ「推し」の意味なんて正確に理解してなかったし、何より、まさか本当に雫ちゃんのコスプレするなんて思いもしなかったんだってば。


「心配しなくても、しっかり魔法服だから機能面では完璧だよ」


「そういう問題じゃなくて」


一段と優しくなった犬堂さんの声に、即座に反論する。

機能面云々よりも、リアルコスプレ状態で歩くことに抵抗があるんですよ。

そりゃ、この魔法服を浜崎雫ちゃんの衣装だって気付く人は、この異世界でいないとは思うけど……。


「……おい、そろそろできたか。これ以上時間が掛かるようなら明日取りくるぞ」


どうしたものかと完全に固まっていた私は、ノックも無しに店のドアを開けて入ってきた人物に助けを求めるように視線を向けた。

クローズの看板が出ているのに、入ってくる人物なんて1人しかいない。


「ウィルー!」


「おかえり、ウィル。みてみて!僕の自信作!」


私の声をかき消す勢いで犬堂さんが興奮気味に私をウィルの前に突き出した。

両肩を捕まれ、ずずいと無理矢理ウィルと対峙させられる。


逃げ場所がない!

まさか、ウィルにコスプレ姿を見られることになるなんて、もうどうすればいいの!?

よくよく考えたら、こんなに短いスカートだし、恥ずかしい!

今すぐ試着室に戻らせて~!


「……」


ウィル、なぜ黙っておられるのでしょうか。


やっぱり、この魔法服似合ってない?

そりゃ二次元が着る服だもんね、やっぱり無理を承知で犬堂さんに別の魔法服を作ってもらうしか……。


「なんだ、結構似合ってるじゃねぇか」


「はえ?」


今、ウィルなんて言った?

瞼が驚くほどゆっくりと瞬く。

ウィルが軽く口元を開けて笑いながら褒めてくれたのだと気付いた時には、私の顔は茹で蛸みたいに真っ赤になっていた。


「あり、がとう……ゴザイマス」


いやもう、さっきも犬堂さんで思ったけど、イケメンの笑顔と褒め言葉のコンボって本ッ当に凄い。

さっきまで恥ずかしいやら、なんやらで完全に持て余していた魔法服が、一気に着ててもいいかなって気分に傾いてしまった。


確かに、元ネタさえ知らなければ、これは可愛い魔法服なのである。


「椎名君、大切に着てね」


言葉にやや重い思惑を感じないでもなかったけど、魔法服が手に入った喜びに、私は勢いよく頭を下げながらありがとうございますと叫んだ。


そして、もう1つ私には欲しい物があった。


「そうだ犬堂さん。このお店って鞄とかは置いてないんですか?」


「鞄?あるにはあるけど、欲しいのかな」


まだどんな鞄が欲しいとも言っていないのに、犬堂さんが棚から両手一杯鞄を手にして戻ってくる。


宝石が散りばめられたショルダーバック。

艶のある皮で手持ちの部分が作られたカゴバック。

少しざらついた質感のある大きめのハンドバック。

どれもがお高そうだ。


「どれがいい?僕的に雫ちゃんが持つとなると解釈的な意味でもう少し可愛いめのトランクバックとかいいと思うんだけど」


「えっとー……できればリュックサック的な大きなやつが欲しいんです。旅に必要な物を持ち運びたくて」


ウィル1人に食料とかお金とか持って貰うわけにはいかないもんね。

それにこれからは野宿がメインになるんだから、せめてもの足掻きに防寒具とか、清潔なタオルとか持ち歩きたい!

どんなに魔法服で清潔が保たれるって言っても、手とか顔とか洗いたいもん。


ふと見上げると、犬堂さんが言っている意味が分からないって風な表情でこちらを見てきた。


「椎名君、アイテムボックス持ってないのかい?」


「アイテム?ボックス?」


なにそれ。

名前からしてアイテムを入れる箱かな。


「無限にアイテムが収納出来るスキルなんだけど……異世界人が召喚された時、この世界の言葉が分かるみたいに、初期から持っているサブスキルって僕は聞いたよ」


「え!?」


なにそれ、そんなの持ってるなんて聞いてないんだけど!?

ちょっと、どういうことーー!!


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