キラキラと輝く魔法服
説明しよう!
「ノブレス・オブリージュ学園」通称「ノブ学」とはゲーム会社「ゴッドファンタジー」が配信したソーシャルゲームである。
学園を舞台に総勢100名にも渡る、男女様々な人種の身分ある若者がアイドルとなるべく切磋琢磨し、成長していく物語だよ!
主人公は学園の新任教師として就任し、担当のアイドル候補生と一緒にトップアイドルを目指すのがゲームの目的であり、パラメーターを高めてアイドル候補生をより魅力的に磨くことで信頼を深め、恋人同士、結婚等といった未来へ行くことも可能。勿論、友情のまま留めておくことも可能である。
あっ、これは補足なんだけど、人気になったアイドル候補生はソロ曲を提供されたりするんだよ!
アイドル候補生同士でユニットを組むこともあるから、先生(ノブ学をプレイするプレイヤーの総称)による担当アイドル候補生のステマが凄いんだ~。
僕が担当している浜崎雫ちゃんは、日本出身の浜崎男爵家の令嬢。
初期パラメーターは低いんだけど一定の好感度を越えると急激に成長する晩成型アイドル候補生だ。
ノブ学では一人称の統一や性格のブレを無くす為に、アイドル候補生それぞれに個別のライターが付いているんだけど、浜崎雫のストーリーは中でも本ゲーム内の3本の指に入る神ストーリーと絶賛なんだよ!
……
カウンターの上に、次々魔法服の材料になるであろう素材を置きながら、ノブレス・オブリージュ学園を説明する犬堂さんはさっきの3倍は早口で、正直私が理解できたかどうかは微妙な所だ。
それでも、ノブ学……知ってる、知ってるよー!
なんか凄い人気のソシャゲだもんね。
バイト先のスーパーだって、ノブ学のカードが入っているウエハースのお菓子が売場に並んでたなぁ。
かくいう私も、自分のスマホにノブ学をインストールしていたんだ。
最初は楽しんだんだけど、バイトでどんどんソシャゲをする時間が無くなって、そのうちログインボーナスを貰うだけになっていた。
当然、すごい数のキャラクターを詳しく理解もできなかったんだけど……。
私そっくりのキャラクターなんて存在してたんだ。
「……雫ちゃんは最初寮まで送ることを了承してくれるんだけど、一定の好感度を越えると送らせてくれなくなるんだよね。一緒に帰っている所を誰かに見られると恥ずかしいから……って断られるんだけど、これがもう最高に良くて。そこで投げ出す人もいるって聞いたけど、そもそも雫ちゃんはご令嬢だから……」
「その話まだ続くのか……」
「まだ序盤だけど、何だいウィル。雫ちゃんの質問なら何でも答えるよ」
「……」
あああ……あのウィルが凄くげんなりした顔してる。
目なんか半分ぐらい死んでるし。
っていうかウィル、全然話聞いてないように見えて、結構ちゃんと聞いてあげてたのかな。
私?私は雫ちゃんの説明の辺りで、店にある商品を数え始めましたね。
とはいえ、このままだとウィルがストレスでプッツンしかねない。
「あ、あの!カウンター凄い事になってますけど、大丈夫ですか」
助け船を出す勢いで私は犬堂さんの雫ちゃん語りの間に割って入った。
弾丸みたいに喋っていたけど、手は止まることなく動いていて、カウンターの上には山のように積み上げられた色取り取りの布や糸、レースといった素材が並んでいる。
この生地はオーガンジーかな、透ける布でフワフワしている。
わぁ、このレースなんて縁取りに細かい宝石が付いてるよ。
どう見ても、魔法服一着で使う量に見えないし、何より、どれも高級そうな素材。
180ゴールド割り引いてもその倍は取られそうな気がして、ちょっと不安。
「ん?あぁ、大丈夫大丈夫、これで全部だから。後は作りながら足していくよ」
露骨な話題を逸らし方にも犬堂さんは嫌な顔ひとつしなかった。
むしろ紳士的に笑顔で対応してくれている。
ウィル!これだよ、これ!貴方にない愛想の良さ!
「じゃあ、店も閉めたし誰も見る人はいないから、僕のスキルを見せるとしようか。大丈夫だとは思うけど、他言無用だよ」
パンッと場の空気を引き締めるかのように犬堂さんが手を叩いた。
キュッと口を閉じて犬堂さんを見ると、彼の腕輪が私の腕輪みたいにキラキラと光っている。
「さーて、椎名君。魔法服がどういう物かは知っているかな?」
「簡単にですけどウィルに聞きました。確か、特殊な糸や布が使われている強力なマジックアイテムだって。汚れにも強いし、高価な魔法服なら魔物からの攻撃も弾くし、何よりお風呂に入らなくても体が清潔を保つ!」
「その通り。ちなみに魔法服で使われる布や糸、レースにボタン。言い出したらキリがないけど、それらの素材は職人が作るより前に、特殊な加工が施されるんだ」
犬堂さんが厚みのある板に巻かれた布を2つ見せてくれた。
ひとつは薄っすらと光沢があるだけの、白い地味な布。
もうひとつは光の具合でオーロラみたいに見える、色が混ざり合ったゴージャスな布だ。
「この白い布が加工済みの物。魔法使いによって術式を埋め込まれたり、神聖な土地で清めて貰ったり、方法は色々なんだけど、長い時間を掛けて作られて、ようやく魔法服の一部に使えるようになるんだ。手間暇がとても掛かっているから魔法服は高価なんだね」
「ふむふむ」
「そして、魔法服への付与には難点があってね。あまり複雑な素材は上手く加工出来ない。たとえば、この布だ」
ゴージャスな布を軽く持ち上げる。
どれだけこのゴージャスな布を使いたくても、魔法服の一部としては加工されていないし、加工しようとしても難しいから使えないってことか。
「だけど、僕のスキルがあれば話は別」
得意げな声に惹かれて布から視線を犬堂さんへ向けると、犬堂さんは凄く楽しそうに、再び手をパンと叩いた。
そして、高らかに声を上げる。
「ショータイムだよ、僕の道具達!」
犬堂さんの腕輪から光の粒子が飛び出して、カウンターの上に形を作っていく。なかなか大型のそれは、やがて軽快な音と共に姿を現した。
「ミシンだ!」
生憎私は雑巾ぐらいしか縫えない人間だったけど、ミシンがこの世界にある物ではないことは分かった。
アンティークでおしゃれな見た目とは裏腹に、大きな液晶画面が付いている。
あと純粋にサイズが普通のミシンよりも大きい。業務用なのかな。
付属品みたいに、大きな布切り用の裁ちばさみや、紐状のメジャー、ピンクッションに刺さったマチ針も出現して、あっという間にカウンターの上は作業スペースに早変わりしていた。
「さて、先ほど紹介した、こちらの無加工の布ですが……」
まるでテレビショッピングのような口上で、犬堂さんが素早く切ったゴージャスな布を、ミシンに固定する。
ピッピッと液晶をタップした後、勢いよくミシンは動き始めた。
「わぁ!布がキラキラしてる!」
ゴージャスな布が縫い合わされていく度に、キラキラと光り出す。
何より、素人の私でも分かるぐらい、その布が魔法を帯びているのが分かった。
「僕のミシンに掛かれば、この通り。なんと、加工の難しい素材でもあっという間に付与してしまうのです」
じゃじゃーん、とミシンから布を外して犬堂さんは私とウィルに布を見せてくれた。
手に取ってみると、じんわりと温かく何かに守られているような気分だ。
しかも、最初に見た白い布と比べて、段違いに綺麗でしっかりしている。
単純に凄いなぁと関心する私とは裏腹に、ウィルは信じられない物でも見るかのように驚いていた。
「こんなに簡単に魔法付与とか……魔法使いに見せたら首つりそうだな」
「僕の場合、スキルの道具によって加工できる物に限られるけどね。魔法服の一部になる、っていうカテゴリー下ならとりあえず何でも出来るよ」
「お前の作る魔法服が異様に高くて人気がある理由が分かった」
「えっ、どういう意味ですか?」
思わずウィルに聞き返してしまった。
「ケンドーが言っただろ。魔法服に使われる素材は手間暇掛けて作られるから単価が高い。おまけに付与出来る素材は限られている。でもコイツのスキルはそんなの完全に無視して、最終的に服になるなら、今みたいに簡単に付与が出来る」
「……あ!そうか、皆が使えない素材を使えるってことか!」
「ピンポーン。僕は僕の思うままに好きな魔法服を作れるってこと。服を作る職人にとって素材はデザインの幅が広げる大切なものだからね」
私は一般的な魔法服をしっかりと見たことがないけれど、ウィルやクレアさんを見ていると、そういうデザインが一般的なんだと思っていた。
でも、本当はもっとデザインも固定されていて色も少ないのかもしれない。
ここに展示されている魔法服の全てが、言葉の通り宝箱に納められた宝石だったんだ。
「それじゃあ、このまま一気に作っちゃおう。待っててね、雫ちゃん!」
「シーナですっ!!!!!」




