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【コミカライズ:1巻発売】私、異世界に来てまでレジ打ちやってます!  作者: 黄金栗
第一章 トータの街と旅立ち
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助けてくれて、ありがとう


どのくらい誰も居なくなった路地裏を眺めていただろう。

瞬きをするのも忘れていた私は、おい、とウィルに声を掛けられて、ようやく我に返った。


「は、はい!」


慌ててウィルの身体から離れる。

まだ肩に回されていた腕の感触が残っていて、変に恥ずかしい。

分かりやすく動揺する私に、ウィルはいつもの冷めた顔でため息を吐いた。


「あれほど、役所の前から動くなって言っただろうが」


「うっ。あのー……そのー……。ごめんなさい」


「お前のいた所がどれだけ治安が良かったのかは知らないが、もう少し危機感ってものを持て。今回は危険感知のレベルが足りていたが、俺が来なかったら、知らない金持ちに売り飛ばされてたぞ」


「そ、それは……」


「呑気に旅行気分でこの世界を楽しむのは十分だが、せめて自分から危険な場所に行くのだけはやめろ。護衛したくても、護衛される側の自覚がないようじゃ、いつか本当に悪意ある奴に利用されるぞ」


ウィルの言うことは至極真っ当だ。

クレアさんやアネスさん。

異世界に来てから出会う人が皆いい人だったから、すっかり危機感を忘れていた。


キャロラインさんみたいにいい人の顔をした悪い人も居る。

人をすべて信じていたら安易な嘘で騙されてしまう。

これは異世界でも私の世界でも一緒じゃないか。

私はそれを、身に染みて知っているはずなのに。


狙われやすいと説明されていたのに、警戒心もなしにホイホイ付いていっているようじゃ、どれだけ危険な目にあっても自業自得としか言いようがない。

言いようが……ないんだけど……。


「うぅ……」


騙された自分が馬鹿だった。

すごく怖かった。

助けて貰ってホッとした。


自責と恐怖と安堵と、色んな言葉が次々と脳内を駆け巡り、あっという間に視界が滲んだ。

その後はもう我慢なんて到底無理で、ぼろぼろと涙が溢れてくる。

そして、頬を伝っては地面に落ちていった。


「お、お前……」


ぎょっとしたウィルの声が聞こえる。

けれど、もうそんなの気にしてられない。


「うわーーーーーん」


色んな気持ちが蘇ってきて、わんわんと泣いた。

立っていることもままならず、へたりとその場に座りこんでしまう。

涙はいくら拭っても止まらないし、何か喋ろうとしても泣き声に全部変換されるし、頭がパンクしそうだ。


「おい、泣くなって……あぁ、くそ。お前が……ッ…」


ウィルが座り込んだ私の顔を覗き込むように屈んだ。



「シーナ!」



「っ!」



急に名前を呼ばれて、反射的に肩が跳ねる。

ごしごしと目を拭っていた手を止めて、ウィルをなんとか見る。

そういえば、初めてウィルに名前を呼ばれた。


「……悪かった。少し言い過ぎた。だから、泣きやめ」


挑発的な顔も冷めた顔も見たけど、こんなにも分かりやすく焦っているウィルの顔は初めてだった。


物珍しい顔に驚いて、思わず目を瞬かせる。

涙はきっと、ウィルの思わぬ謝罪にびっくりしたんだろう。

目の縁に留まっていた涙が、瞬きの拍子にぽろっと最後の滴みたいに落ちていく。


それを、ウィルが親指の腹で力を込めて拭ってくれた。

王子様にしては、少し大ざっぱだけど、優しい感触でくすぐったい。



やがて、ウィルが名案を思いついたとばかりに声色を変えた。


「そうだ。服、魔法服。なんでも好きな奴を買ってやる!だから、泣くなよ……」


は、は~~~~!?

服買ってやるって、泣いてる子供にオモチャ買ってあげるってご機嫌取りしてるんじゃないんだぞ!!!


ウィルのその一言で私の意識はしっかりと覚醒した。

ただ……。


「……泣きやんだか?」


無愛想なウィルが、私が泣いたってだけで、こんなにも狼狽えてる姿を見るのが、なんだかおかしくて、そして同じぐらい嬉しくて、私はくしゃくしゃになった顔を拭いながら、ぎこちなく笑った。


「ウィルさんって案外不器用なんですね」


「……意味わかんねぇよ」


「私もウィルって呼んでいいですか」


「好きにしろ」


先にウィルが立ち上がり、涙を拭った手を胸に添え、もう片方の手を差し伸べてくる。

王子様っていうよりも、これじゃあ騎士様って感じだったけど、表通りから差し込む光が後光みたいにウィルの身体を縁取ってて、そんなの関係ないぐらいにとっても綺麗だ。



私は、ちょっとだけ見惚れながら、その手を取って立ち上がった。



騙されてごめんなさい。

すごく怖かったの。

……ウィルが居てくれて本当に良かった。



「助けてくれて、ありがとう」



ボロボロで、顔もぐしゃぐしゃだけど、今までで一番前を向けそうな気持ちだった。



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