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北風さんと太陽くん  作者: 砂臥 環
第1章 北風さんとお勉強。
7/10

北風さんを知らない。

 北風さんはウチで暫く寝かせておいた。

 ……家に送るにも住所がわからないのだ。


 ウチでテスト前に勉強した後も、母は「送っていく」と言ったが……「もう暗いし」「女の子だから」と強く言っても北風さんは丁寧ではあるが、頑なにそれを辞していた。


 俺が勉強にかこつけてスマホの連絡先を聞こうとした際もそう。

 なんでも「スマホは主からの受け専」なのだそうだ。


 ……どこに住んで、どういう生活をしてるんだろう。



 俺は北風さんのことを、何も知らない。




 18時手前でようやく北風さんを起こす。


「颯子ちゃん、夕飯食べていきなさいな。 お家の人には連絡するから。 もう作っちゃったのよ、颯子ちゃんの分も」


 母はそう言ったが……北風さんは酷く恐縮しながらもそれを受けることはなく、やはり歩いて帰ると言う。


 丁寧にお辞儀をして出ていった北風さんを、すぐ俺は追い掛けた。


「北風さん!」

「太田殿……どうなされた?」

「送る……途中までならいいでしょ。 話もあるし」


 話があると理由付けることで、有無など言わさない。


「むぅ……じゃ……途中まで。 かたじけない」


 そう言って北風さんはまた頭を下げた。




 話があると言っておいて、俺は何も喋ることが出来ずにいる。

 今日の北風さんはフラフラしてるくせに、牛歩じゃない。……それがなんか悔しかった。


 モヤモヤした感情を言葉にするより先に、北風さんが足を止める。


「太田殿……」


 もうここでいい、話はなんだ……という内容の事が続くと思ったら、違った。




 北風さんは切れ長の大きな目を輝かせながら俺をじっと見つめ、ガッと手を握る。

 嬉しさよりも動揺が先に立った……というか、ぶっちゃけ怯んだ。勢いに。


「我は……我はあんなにできた試験は初めてなのだ!」

「そ……」


 ……んなに手応えがあったの?


 聞く前に、捲し立てるように続ける。

 とった手をブンブン振りながら。


「いや、点数がどれだけとれたかはわからぬが……やってやった感はあった!! やればできるのかもしれぬ!」



 なんだか毒気を抜かれてしまった。



「そうか……良かったね」


 結局そんなことしか言えない俺。

 聞きたいことは山程あるのに。


 でも……余計な事を聞いたりしなくて良かったと思う。

 少なくとも聞くのは今じゃない。


 北風さんはあんなに頑張ってたのに……水を差すところだった。



「うむ──だから……」


 北風さんは急に手を止めると、ぎゅっと握って、また俺を見つめる。



「ありがとう」



 それはまだ俺が見たことのない、笑顔。



 ──噂のことは、彼女には話していないが……不安はあるのだろう。

 ……いや、ないわけないよな。



 手を放した北風さんは、照れ臭そうにはにかんだ。


「ではな、太田殿」

「……北風さん!」


 行こうとする北風さんを呼び止めた。



 俺は北風さんを何も知らないと思ったけど……知ってる事はある。


 真面目で、努力家。

 誰よりも早く登校し、下校時は牛歩。



 多分、北風さんは──



「前から言おうと思ってたんだけどさ……」

「む?」




 北風さんは……



 学校が大好きだ。




「殿はないよ……呼び方、変えて? ……もっとこう、友達らしく 」

「……!」

「──じゃあ、また明日」


 俺は北風さんがなにかを言うよりも先に身体を半回転させ、足を動かす。

 恥ずかしくてもどかしくて……気がつけば走っていた。



 家路につく中で、色々なことが過る。



 勉強、もっとちゃんと教えてあげよう。


 北風さんが留年しそうなら、土下座でもなんでもして先生を説得しよう。


 もっと好きになって欲しい。

 学校も、俺のことも。



 それに……北風さんのことも、もっと知りたい。



 大分走った後で、振り返った。


 当然そこに北風さんはいないし、家もわからないまま。


(でも、まだそれはいい)


 家がどことか主は誰とか……それより先にまず、知れることはもっとある筈だ。




 北風さんのこと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 太陽くんいい子だなー、断然応援したくなりますね! しかし、『あんな美人』というのが気になりますね。 実は太陽くんはハーレム野郎なのか? むう……。
[良い点] ミステリアス北風さん。……いいっすねえ。 「むぅ」って言い方。……いいっすよねえ。 そして太陽くん……キミみたいな良いヤツは好きだぞ!
[良い点] 萌え萌え~♪ [一言] >「ありがとう」 武士なら「かたぢけない」かな?(どうでもいい)
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