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北風さんと太陽くん  作者: 砂臥 環
第1章 北風さんとお勉強。
6/10

北風さんと学年末テスト。

 学年末総合テストでは、赤点をとっても追試をパスすれば留年はなんとか免れる筈だが……噂によると3教科赤点だと自主退学を打診されるという。

 噂ではあるがこの学校が私学で、進学校にシフトチェンジしようとしているフシを鑑みるに、割とリアル。



「う~んギリギリだなぁ……」


 北風さんの学力をみて早々にこれはヤバイと感じた俺は、割とスパルタ的に勉強を()()()()()

 理解するための勉強ではない。穴埋め問題で点を稼ぐという、テストのための勉強である。


 ──即ち、暗記。

 ひたすら、暗記。


 だが時間がないので仕方ない。

 出題範囲は広く、理解してから覚える等と言う余裕はない。


 進級がかかっているし……会話の中で知ったのだが、高校卒業後、彼女に進学の意思はないので理解しなくても構わないのだ。


 北風さんにやる気があるなら、勉強なんて後でいくらでも教えてやる。とにかくここを乗りきるのが、大事。

『後』とは共に『進級』することなのだから。

 



「もしも……進級できなかったらどうするの」


 聞きづらい事だが、どうしても気になって聞いてしまった。


「いや、する」


 ハッキリとそう答えた北風さんだが……答えになってない。

 北風さんはそれ以上突っ込めない俺にこう続けた。


「主に面目が立たぬ……本当は高校に行かないで仕える筈だったのを、『高校位は出ておきなさい』とわざわざ行かせてくれたのだ」

「……」


 私立で体育クラスなのも、北風さんの学力を考慮してのことだったのだろうか。


 ──考えてみれば、おかしい。


 そもそも北風さんの学力は、()()()()()

 彼女は変な子ではあるが、とても真面目である。授業に出ているだけでも、もう少しなんとかなっている筈だ。


「……主って、どんな人?」

「すまぬ、それは言えぬ」


 聞きたいことは山程あるが、(こら)えた。


 北風さんにとって、今は試験にパスすることがなにより大事なのだ。


 もっと彼女を知りたい、俺にとっても。




 ★☆★☆★


「「「「……終わったー!!!」」」」


 学年末テストの最終科目が終わり、答案が回収されるとクラス全員が一斉に喜び合った。

 北風さん程ではなくても、皆今回のテストにプレッシャーを感じていたのだ。


(北風さん……!)


 北風さんはテストが終わると同時に、机に突っ伏して眠っていた。




 テスト終了後は採点があるため、速やかに帰らねばならない。

 北風さんの努力を間近で見ていた俺だ。起こすのは憚られたが、仕方がないので起こした。


(本当は背負って帰るとかしたいけど……)


 ……無理だ。おそらく途中で力尽きる。


 俺は朗らかな優等生風のひ弱男子である。まあ、無理はしない。


「……むぅ、すまぬ……」


 目を擦りながらそう言う北風さんを支えながら教室を出る。役得だ。


 そのままウチに連れ帰る……勿論やましい気持ちなどない。後で母に車で送って貰うのだ。




 テスト前は強制的に半ドンで帰らされる為、勉強を見てやる場所がない。仕方ないのでウチによんで勉強した。


 俺の部屋で勉強……とは言ってもそこは実家である。しかも予断を許さぬ状況下。

 ちょっとソワソワしたのは本当に最初だけで、ハッキリ言ってそれどころではなかった。


 しかも昼を食べてないし、母も家にいたわけだから……当然母が用意した昼食を摂り、時に母も一緒に食べた。


 母は少し厨二な北風さんを大変気に入り、『颯子(そうこ)ちゃん』等と名前呼びして可愛がっている。

 ……名前呼び、正直羨ましい。



 少し話は逸れるが俺には非常に勉強が出来る兄がいる。

 しかし学生時代あまりの陰キャぶりに初めて女子とマトモに会話したのが20歳過ぎてからという可哀想な男であり……そのせいか女に稼いだ金を総額600万程騙し取られていた。

 総額というのは、複数回騙されているからである。我が兄ながら大概にしろ、と思う。



 そのせいか、北風さんの厨二はむしろ、母には印象良く映っているようだ。ロクデナシの兄も時には役に立つものだ。



 家まで寄り添って帰るつもりだったが、眠そうな北風さんが可哀想になった俺は母に電話した。

 母も心配だったようで、すぐ車で迎えにきてくれた。


「それで……大丈夫なの? 陽大」

「……どうだろう」


 正直答案が返ってくるまでなんとも言えない。

 俺が作った理・社2科目の対策テキストは1科目につき5枚。なにぶん初めての総合テストな為、的を絞りきれなかったのだ。


 テスト担当教諭自体もこの形式は今回が初めてなもんだから、結局色々な人が協力して作ったらしく……ある意味的を絞りきれなかったのは正解ではあった。


「ただ……全部は覚えきれてないと思う。 忘れてしまったことや、混ざってしまったこともあると思うし」


 そもそもが詰め込み式だ。

 理解をしないで覚えるだけというのは結構キツい。

 人物名なんか似たような名前が沢山あるのだ。混同してしまう可能性は充分に考えられた。


 俺の自己採点が9割正解。

 ……平均点を上げてしまった。

 3割正解で赤点にはならないが、平均点が低ければもっと下でもイケる筈だが……


「英・数は最初(はな)から捨ててるから……国・理・社で取れなきゃどうにもならない」

「そう……」




 でも北風さんは頑張った。

 ……目の下には隈ができている。


 もし駄目なら先生に土下座でもしてみようと思う。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 感想が嵐のように書いてあってうらやましかばぃ(そこか)。 [一言] >ひたすら、暗記。 これができれば苦労はない (`・ω・´)シ 裏を返せば…意外と優秀な子……(;'∀')
[良い点] やっぱり礼儀は大切だなあ、と実感。(そこ!?) あと、自分の体力の無さを自覚するばかりか、さして迷いも無くオフクロさんに電話するあたり、太陽くんはなかなか面白いキャラだなあ、と、あらため…
[良い点] 体育コースが廃止なだけでも被害者なのに、さらに進級まで握られたら悲惨ですね。
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