北風さんとクラスメイト。
北風さんはいつも一番早くに登校する。
登校は一緒にしたことないからわからないけど、きっと登校時は牛歩じゃないんだろう。
「太陽くん、北風さんと仲良いの?」
俺の名前は太田 陽大であるため、皆には『太陽』と呼ばれている。
北風さんは相変わらずクラスに馴染めていない。
皆も気にはなっているようだが、近付きづらいみたいだ。
……ウチのクラスの女子は、大人し目の子ばかりだからな。
喋るのは俺だけなので提出物の返還や配布物など、なにかと頼まれる。──この質問も、もう慣れたものだ。
「そうだね、割と」
「フーン……何話すの?」
「まあ、フツーだよ。 勉強のこととか……」
細かいことを聞かれると煩わしいが、大体こう言うと皆納得する。勉強を教えているので嘘は言っていない。
「『北風と太陽』だな」
「あ、本当」
「キャラ的にもね……北風さんちょっと怖いし、太陽くん親切だし」
「…………」
外面を大事にする優等生の俺の評価が『親切』で、『太陽』なのはともかくとして……
北風さんが『怖い』で『北風』なのはどうなんだろう。
だけど俺は、それを特に否定も肯定もしない。
北風さんは馬鹿で、口調が武士もどきで、自称『忍』というおかしな子。
そして……
……
……
可愛い。
北風さんの可愛いところを知っているのは俺だけだ。
今のところ、俺だけ。
気付くともう2月も末……
学年末総合テストが近い。
うちの学校のこの学年末総合テスト及び来年度からの期末テストは、共通テスト(※旧センター試験)の要領で行われる為5教科である。
……この辺も今年からだという。
体育クラスがいきなり無くなったのも然り、経営陣が急に代わった事が原因らしい。本格的に『進学校』へのシフトチェンジを行っていくようだ。
学校経営というのも大変だが、俺達……特に体育クラスの面子はその煽りをモロに喰らってしまったといえる。
北風さんの学力は相変わらず低いが、それでもかなりマシになった。
少なくともわからないところに『あばれんぼうしょうぐん』と書いたり、数学の回答を全て『2』にしてみる、とかはしない。曲がりなりにも考えてみる位には成長した。
北風さんの学力が低いのは文字を追うのに慣れていないからのようで、著しく読解力が低いとか、物覚えが悪いというわけでもない。
『読むのがくっそ遅い』……これに尽きる。
これを是正すれば成績はぐんと上がるのだろうが、如何せん時間がない。
とりあえず空いてる時間には、テストの関係上「社会と理科の教科書をひたすら読め」と指示をするに留めている。
クラスの誰とも絡まないので、休み時間はいつも教科書を読んでいる。
……北風さんはとても真面目だ。
だがその様もまた、皆から敬遠されている要因になっているようだった。
少しだけ罪悪感を抱く。
(──いや、俺の指示は間違っていない)
そう思い、罪悪感を打ち消した。
確かに俺の指示は間違っていない。
だが……皆の誤解を解ける立場には、いる。