北風さんと帰る。
脳内で否定はした。
だがすればするほど意識をしてしまうのは何故だ。
帰りは当然ながら一緒に帰っているのだが、ただそれは方向が一緒なだけである。
北風さんは普段喋れないせいか、結構喋る。今も「季節外れの蝉の脱け殻を発見して、それがやたらとでかかった」だとか物凄いどうでもいい話を嬉しそうに喋っている。
本当にどうでもいい。
なのになんでだ?
そんな北風さんが可愛く思えるのは。
(俺の頭もどうかしてしまったんだろうか……)
チラリと北風さんの方を見る。
だが彼女はいない。
「あれ? 北風さん??」
北風さんはななめ後ろで太った猫と威嚇し合っていた。
……どうしよう、そんな姿も可愛いとか。
いよいよ自身の頭が心配になる。
「なにやってんの」
「此奴はこの辺の大将なのだ……なかなか触らせてくれぬので『モフらせろ』と説得を試みたが聞き入れてくれぬので少々喧嘩になった」
「……『モフらせろ』は説得じゃない気が」
俺が北風さんの頭をモフりたい。
『モフらせろ』と言ったらモフらせてくれるのかな。
ああくそ……なんなんだもう。
そもそも北風さんは無駄に牛歩である。
なんかの戦術かよ?
走らせれば速いくせに、とにかくチンタラ歩く。
一緒にいれる時間が長くて嬉しいとか……思ってないんだからな!?
クーデレ好きの俺だが、自分の脳内がまるでツンデレのようになる日が来るなんて思いもよらなかった。
そんな自らの思考をやはり否定したくて、言葉を吐く。
「北風さんはなんでそんな歩くのおっそいの?」
また険のある言い方になってしまった……これでは本当にツンデレだ。
だがそんな俺を小馬鹿にしたように笑い、北風さんはこう言った。
「むしろ、よくそんな目的もなく早く歩けるもんだ」
……なんじゃそりゃ。
「いやあるよね? 目的」
下校時である。
帰るという明確な目的がある。
「力を溜め込んでいるのだ……謂わば満を持している」
「えー……」
よく『満を持す』とか知ってたなぁ。
でもきっと漢字で書けないんだろうな。
俺が生暖かい笑顔を向けると、北風さんは何故かファイティングポーズを取った。
「有事の際は我に任せよ。 友人だからな!」
そんなに有事が起こるとも思い難いが……
「……なに? 守ってくれるの?」
「然り」
北風さんはコクリと頷く。
またつむじが見えた。
なんだよもう……超可愛い。
俺の心配は当たっている。
確実に脳がやられた。
その証拠に語彙があまりに消えている。
……『可愛い』しか、出てこない。