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北風さんと太陽くん  作者: 砂臥 環
第1章 北風さんとお勉強。
3/10

北風さんの主。

 俺と北風さんは毎日空き教室で補講を行った。毎日補講を行わなければ間に合わないからである。むしろ、毎日補講をしても間に合わない。


 勉強を教える合間にいつも北風さんは沢山喋る。

 そのくせ、何故か教室では喋ろうとしない。


 なにぶん毎日補講をしているわけだから、俺は完全スルーを既に諦めている。結局不思議に思って彼女に聞いてしまった。




「我は忍の末裔だからな。 忍ぶ必要がある。 残念なことに我の頭は出来がよろしくない。 だから目立たぬ為に黙っていろと言われたのだ。 馬鹿が露呈するから、と」

「え」

「『沈黙は金』というやつだ」


『末裔』なんて漢字では絶対に書けないような北風さんは、『沈黙は金』という部分でとてつもないドヤ顔をしながらそうぬかす。


 しかしそれよりも気になることがある。


「黙っていろって……誰から?」

「決まっておろう、我が主からだ」

「えええ……」



 我 が 主 。



「じゃあ北風さんは、本当に忍なの?」

「もとより」


 北風さんは胸を突き出すようにふんぞり返ってそう言った。



 貧 乳。



 今関係ない単語が頭を過ったが、それは置いておく。


「我がこの学校に通わせて戴いているのも主の慈悲に過ぎぬ……そうでなければこんな、学費の高い学校に通える訳がない」



 なんでかイラッとした。



(……これはあれだ、北風さんが貧乳だからに違いない。よしんば漫画的なラッキースケベが起こったとしても、柔らかな感触など到底望めそうにないからな)


 先程過った言葉を関連づけてみた。

 俺の好みは巨乳ではないが、学力と同じでないよりあった方がいい。……別に俺がムッツリスケベな訳ではない。乳は男の浪漫なのだ。


 北風さんは顔だって()()美少女な訳ではない。

 大きな切れ長のつり目。小柄で童顔だけど教室にいる時の様に黙っていて、その目でジロリと睨まれると威圧的ですらある。多分そんなつもりじゃないんだろうが。


 だから北風さんは、()()俺の好みなんかじゃない。


 ()()に好みなんかじゃないが……()()()()()()可愛いとは思っていた。


(でもちょっとだけだ。 例えば『クーデレで、俺にだけ心を開く』とかならときめいちゃうかな~、位には好みだったけど……そもそも俺、クーデレ好きだし)


 残念ながら北風さんはクーデレではなくただのアホだったが、()()()()()()()()喋っていたワケで……だからこう『懐いた猫が他の飼い猫だった』みたいな気持ちになったんだと思う。


(それだけのことだが、まあイラッとはするよな)


 うん、するな。フツーにする。



「……そんなこと喋っちゃって平気なの? 忍のクセに」


 イラッとした理由はわかったが、イラッとしたのがなくなったわけでもなく……少し険のある言い方になってしまった。


 北風さんは俺の言葉に気分を害した様で、口を尖らせる。キッとこちらを睨んだ後でぷいっとそっぽをむいてしまった。


(あ、怒った)


 ちょっと可愛い怒り方しやがって。

 でもまあ……謝っとこう。


 そう思って近付くと、北風さんはボソッと一言言った。


「……主が」

「え?」



「主が、友達には言っていいと」



 少し低い声でそう言った、北風さんの表情は顔を背けているため見えないが……髪がかけられている左側の、出ている耳が赤い。




 ぎゅんってなった。

 胸が。




 ……

 ……

 ……いや


 この人別にクーデレじゃないし!

 ただの変な厨二だし!

 しかも馬鹿だし!



 だから……()()()んじゃないし!!




(落ち着け、俺……)


 数回深呼吸した。

 とりあえず、北風さんは拗ねている。多分。

 この状況のまま放置してはいけない。




「……友達?」


 回り込みながらそう尋ねると、北風さんは真っ赤な顔をさらに真っ赤にして一瞬あわあわした後、口を尖らせた不満気な表情でまた違う方を向く。



 俺の心臓もまた、ぎゅんってなる。



「……勝手に友達扱いして、すまぬ」

「いや! 嬉しいよ?!」



 無意識(オートマチック)にそんな言葉が出た。

 即。超速。



(……えー)



 まさに『えー』だ。

 意味がわからん。


 でも北風さんがちょっとビックリした顔をした後、嬉しそうにふへへと笑うとまたぎゅんってなった。


 可愛い……


(……いや! 違う違う!! 可愛いけどコレはそう……アレだ! 動物的なヤツだ!!)


 つられて笑ってる場合じゃない……



 俺は一体、なんで喜んでいるのか。

 そしてなにに喜んでいるのか。


 北風さんには友達がいない。

 北風さんが喋らないから、敬遠されているのだ。黙っているとクールに見えるのも悪く働いている。

 そんなときに唯一話相手になった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……なのに。



(大体『友達』って言われたんだぞ……嬉しいか? いやいや! それはつまり男として意識されてないってことじゃないか)


 ……

 ……

 …………っていうか、



 俺は男として意識されたいのか?!

 北風さんに!!?




(──あ、詰んだ)


 もう言い訳が見つからない。

 ごん、と音を立てて俺は机に突っ伏した。




「……大丈夫か? 鈍い音がしたが……」

「……お気遣い痛み入る」


 デジャヴ。

 ポジション逆だけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっー、新たな情報。 北風さんには主がいて、家は貧乏っと……何の主だろう? スポーツするには巨乳は邪魔な気がするのは自分だけでしょうか(笑)
2020/01/17 02:55 退会済み
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[良い点] おや、思ったより展開が早いな……? と。 しかしそれは逆に、こちらが予想出来るような展開にはならん、ということでしょうか。 もっと二転三転しまくるぜ!……みたいな。 ふむう……これは目が離…
[良い点] あらやだまあまあまあまあ…… おほほほ…… 主!主人が気になるなぁ、どんな人かな!! どんなパターンでも萌えそうだな!!うん!! あ!私も『末裔』なんて字は書けないよ!!
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