プロローグ
第1章終了迄は毎朝7時に更新予定です。
次話は本日7時に更新。
北風さんは喋らない。
なのでクラスから浮いている。
北風さんは運動神経がよく、スポーツ推薦で体育クラスに入学してきた。
だが少子化の影響で体育クラスは来春廃止になるらしかった。彼女は元々人数の少なかった体育クラスの、最後の生徒である。
「……それで?」
──1月。
休み明けすぐに行われた試験が返され、暫く経った最終週の月曜日……俺は先生に呼び出されて何故かそんな話を聞かされている。
「つまりなぁ、太田。 進路の事を考えると現段階で既に体育クラスは無くしてしまおうってことなんだよな。 だから北風は年明けからもう、うちのクラスにいるってわけだ」
いや、そんなことはわかっている。
わからないのは何故そんな話を俺が聞かされてるかってことだ。
だが、わからなくて良い。
というかわからないままにしておきたい。
しかしここまで聞いてしまった。……最早そんな俺の気持ちなど関係ないのだということが、手に取るように解った。
★☆★☆★
「よろしく頼む」
北風さんは俺にそう挨拶をした。
言葉のみだと居丈高なようだが、彼女は90度に腰から上半身を折り曲げている。
──その様はまるで武士。
俺は面食らった。
(……つむじが見える)
こうして見ると北風さんはやや小柄だ。それが普段わかりにくいのは、やたらと姿勢が良いからなのだろう。
「い……いやそんな畏まらなくても……」
曖昧な笑顔で俺は北風さんを席に促した。
節分を過ぎると暦の上では春だが、寒さ的には本番と言える。
そんな『形だけ春が近い』、やはり寒さが身に凍みるような放課後。俺と北風さんは空き教室にいる。
何故いつもの教室ではないかというと、北風さんの名誉の為である。
あの後俺は、案の定先生から北風さんについて頼まれたのだが、その内容は『北風さんがクラスに馴染めるようによろしく』等ではなかった。……確かにそれならば女子の方が適任な筈だ。
「じゃあ、こないだのテスト」
「む」
『む』ってなんだ。
だから君は武士なのか?
そんなツッコミを心の中で入れつつ、彼女が差し出したこの間のテストの答案用紙を受け取る。
「……これは……酷い」
おもわず漏らした本音に、北風さんは一言「すまぬ」と返した。
一体どんなキャラ付けなのだろうか。
武士の様な振る舞いだが、テストの点数はの○太くん・カ○オくんレベルである。一桁の点数のテストとか、初めて見た。
──北風さんは馬鹿だった。
少なくとも、学力というものにおいて。
つまり、俺が頼まれたのは『北風さんが普通クラスの勉強についていけるようによろしく』なのであった。