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宛名のない手紙  作者: Ria
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私を知る男の子


屋上は日を遮るものがなく、とても暑かった。

春から初夏に季節が移り変わっていく…それを肌で感じられる。

お兄ちゃんは自然を感じるのが好きだと言っていたから、私もその感覚を理解できるようになりたい。


「それで…あなた誰なの?」


お兄ちゃんの小説にはペンネームが使われている。私との繋がりを知る人なんているわけないのに…。


「俺は三年の村越蒼斗。逃げ出さなくても良かったのに、先生は俺の祖母だから」


「え…?」


「お前の本性知られたくないんだろう?センセーやオトモダチに」


先生とお友達、その言葉が空々しく聞こえたのはきっと気のせいなんかじゃない。

村越は何か大事なことを知っている…直感的にそう思った。

真っ直ぐ射抜くような視線を私も見つめ返す。そらしたら負けだと…なぜかそう感じた。


「なに…言ってるの?」


「…ココ最近お前を見てて思ったんだけど、みんなにヘラヘラして疲れないの?お前人間嫌いだろ」


この人は私のことを知ってる。

おそらく本当の意味で。

この人が私の日常を壊すかもしれない…それは久しぶりに感じた恐怖だった。

私は今までお兄ちゃん以外の人を心から大切だと思えたことがないし、交友関係を面倒だと思っている。

だけどなぜか、壊されるのは嫌だった。もしもこの人が私の嘘に綻びを生じさせたら…そう考えると、負の感情が溢れてきて呑み込まれそうになった。


「…あなた私にどうして欲しいの?」


そこで村越の雰囲気が少しだけ和らいだ。

何かを思い出すように細められた目が青い空を見上げる。

次にその口から発せられた声は小さくて、耳を済ましていなければ聞こえなかったかもしれない。少し掠れたような声が私の名前を呼んだ。


「七月雪菜…俺は君に物語を紐解いて欲しいだけだよ。七月颯太は俺が最も尊敬する作家だ。その最後の作品に込められたメッセージを知りたい」


「は?」


「最後の作品だけ現実味がある。これは綺麗なお話が売りの作家が残した暗号だ」


確かに私も疑問に思っていたことだ。

だけど、お兄ちゃんの描く世界に文句なんて言われたくない。それもこんなよく知らない人に。


「でも…お兄ちゃんだって、描きたいもの書いただけかもしれないじゃない」


「なぁ、周りと上手くやってるけど人間嫌いで、物語の世界が大好きな女の子って誰だと思う?」


「…私」


「じゃぁ、図書室の先生の孫で人を好きになれるけど、テキトーに生きてる男の子」


「あなた?」


「わかった?これは俺たちに当てたメッセージ」


村越は太陽を背にして空を仰いだ。太陽の光が後ろから差し込む様はなんだか神々しく、美しく見えた。


でもなんでそんなことが起きたの?


お兄ちゃんが私たちの行動を予測してた…?


そんなことが本当に有り得るのだろうか?


そもそも、そこまで正確に人物を描けるなら…


「どうしてお兄ちゃんのお話にあなたが出てくるの?」


「…俺のじーちゃん去年死んだんだ。肺がんで病院に入院してた。お前の兄貴とおんなじとこ」


「え…」


「そこでお前の兄貴に会った。颯太言ってたんだ。自分の小説は全部妹のために描いた世界だって。だから最後は教えてあげなきゃいけない、世界は希望に溢れてるんだよって」


「お兄ちゃんが?」


村越の方がお兄ちゃんに詳しいみたいなのが癪だ。

でも、確かにそれはお兄ちゃんの言葉なのだろう。


「世界は希望に溢れてる」という言葉はお兄ちゃんの口癖みたいなものだったから。


「そ。んで、俺に最後の課題は難しいから手伝ってやれって言ってきたわけ。颯太の物語を再現すれば、お前は答えを見つけられるかもしれない。俺も、颯太のメッセージを知りたい」


「課題…」


希望…ことある度にそう言っていた。

お兄ちゃんが見ていた世界を知ることができるのなら、なんだってできると思った。

お兄ちゃんが残したものを、お兄ちゃんが秘密を明かした人と一緒に紐解こう。きっとそれがお兄ちゃんの残したヒントなのだ。


私が、最後のメッセージを知るための…。


 私は村越に手を伸ばした。


「教えて、お兄ちゃんが伝えたかったこと。私だけじゃあの物語を紐解くことはできない。だから、力を貸して」


「任せとけ。それじゃあ、よろしく」


ニッと歯を見せて笑いながら、村越も私の手を握り返した。

これで契約成立。

私たちは共にミッションをこなすことになった。



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