【漫才】嫌いな言葉BEST3
ツッコミ「どうも~、(ツッコミの名前)で~す」
ボケ「(ボケの名前)です」
ツッコミ「二人合わせて」
ボケ・ツッコミ「(コンビ名)でーす」
ツッコミ「ハイッ! そういうわけでほんとにねー、頑張っていきたいわけなんですけれどもー」
ボケ「やめろよっ!」
ツッコミ「え……?」
ボケ「……なん……だろ……がっ」
ツッコミ「え? ごめん、なんて?」
ボケ「どうかしてるよ、お前は」
ツッコミ「あの、漫才始まったばかりなんですけど。え? 何かしました? 私?」
ボケ「『頑張る』なんて、言うんじゃねぇ」
ツッコミ「はい?」
ボケ「ステージに上がったその瞬間から、俺たちの両方の肩の上には、『お客さんを笑わせる』という、重大な責務が乗っかっている。お客さんだって、笑うために、ここに来ているんだ!」
ツッコミ「まぁ、そりゃそうだけど」
ボケ「だから、頑張る頑張らないの問題じゃねぇんだよ。なんなら、確認してやろうか?」
ツッコミ「え?」
ボケ「(観客に向かって)期待してますよねー! 俺たちに! ねぇー、お客さーん!」
観客の声に耳を傾けるボケ。
ボケ「……うん。皆、死ぬほど期待している。一生分の笑いをここで得たいと思っている」
ツッコミ「プレッシャーだな!」
ボケ「だから、なんか面白いこと言って?」
ツッコミ「うるせぇよ! それ、人に言われてムカつく言葉、BEST3のやつだよ!」
ボケ「何位?」
ツッコミ「え、うそ。そこ広げるの?」
ボケ「『なんか面白いこと言って?』は、何位なの?」
ツッコミ「……に、2位だよ」
ボケ「じゃあ、3位は?」
ツッコミ「……」
ボケ「なんなの? 3位は」
ツッコミ「……『おかあさーん、今日の昼飯、何~?』『チャーハンよ』『え~、また~?』」
ボケ「……」
ツッコミ「……」
ボケ「何それ」
ツッコミ「ほら、あれだよ、土日の昼飯ってなんか、チャーハン率、高いじゃん」
ボケ「ふ~ん、そうなの?」
ツッコミ「俺んちはそうだったんだよ。だから、俺の嫌いな言葉3位は、週末の……『チャーハン』」
ボケ「ふーん、そうなんですね」
ツッコミ「……」
ボケ「1位、いこっか」
ツッコミ「……」
ボケ「1位は、何?」
ツッコミ「……『やめさせてもらうわ』」
ボケ「え、どういうこと?」
ツッコミ「ほら、面白い漫才ほどさ、『やめさせてもらうわ』! っていう言葉の効力が、ものすごいじゃん」
ボケ「うん、そうだね」
ツッコミ「うわー、きれいに終わったなーって感動するんだけど、なんかそれと同時に、すげえな! っていうのと、悔しい! っていう気持ちがさ! こう、混ざり合うっていうか……!」
ボケ「わかるよ」
ツッコミ「だろ!」
ボケ「そして、今の俺たちのこの状況じゃ、『やめさせてもらうわ』は、とてもじゃないけど言えないってことも、わかってるよ」
ツッコミ「うん、そうだね。確かにそうだよ、だからこそ! 究極の『やめさせてもらうわ』を目指したいんだよ、俺は!」
ボケ「お前だけ、なのか?」
ツッコミ「え?」
ボケ「究極の『やめさせてもらうわ』を目指してるのは、お前だけじゃないぜ」
ツッコミ「(ボケの名前)……」
ボケ「二人で目指さなきゃ、意味ないだろ?」
ツッコミ「……でもさ、(ボケの名前)」
ボケ「なんだ? (ツッコミの名前)」
ツッコミ「究極の『やめさせてもらうわ』を言えた瞬間が来たとするじゃん? その後俺たちは、一体何を目指せばいいんだろう……」
ボケ「バカか、お前は」
ツッコミ「え」
ボケ「究極の『やめさせてもらうわ』を言えた瞬間、俺たちの瞳には、まったく新しい何かが、見えているはずだ」
ツッコミ「新しい……何か」
ボケ「ああ。またそれを目指して、やっていけばいいんじゃねーの」
ツッコミ「……はは、そうだな。その通りだ」
ボケ「フッ、だろ?」
ツッコミ「はは、うん、お前の言う通り」
ボケ「フフフッ、そうだろ?」
ツッコミ「ちなみに、お前の一番嫌いな言葉って、なんなんだ?」
ボケ「俺か? 俺の一番嫌いな言葉は、週末の『チャーハン』。なーんだそれ、やめさせてもら―――」
ツッコミ「待ってーーーーー!」
ボケ「ん?」
ツッコミ「なんで?」
ボケ「え?」
ツッコミ「なん、え? 嘘、なんで?」
ボケ「ん、どうした?」
ツッコミ「見えていますか?」
ボケ「……」
ツッコミ「見えていますでしょうか? 新しい何か」
ボケ「霞がかかって何も見えない」
ツッコミ「ですよね! よかったです、安心しましたー」
ボケ「すまん。俺の中での『やめさせてもらうわ』は、ただ言いたいセリフ、BEST1なんだ」
ツッコミ「あ、そうだったんだー。でも、なんていうか、話の流れがあったじゃない? できれば汲んでほしかった、っていうのが、正直な気持ちかも!」
ボケ「そうだよな、ごめん。じゃあ、ちょっと仕切り直そう」
ツッコミ「うん、頼むわ」
ボケ「あのさあのさ」
ツッコミ「うん?」
ボケ「なんか、面白いこと言って?」
ツッコミ「それはもういいよ! やめさせてもらうわ! どうも、ありがとうございましたー」