胎動する運命 Ⅰ
王都を囲む外壁。その南門から、王城の正面へとのびた中央通りは、特に人の往来が激しい。
寄せては返す人の波の中を、レイアスは巧みに余人を避けながら歩いていた。
レイアスは、すらりと伸びた肢体が美しい長身の美女だ。朝日を照り返す白銀の髪。切れ長の目と眉。シルクのような白い肌。血の色の濃い唇。それら一つ一つが、作りものめいた美しさを放っていた。
その並外れた美貌で、中央通りへ出てからというもの、男女を問わずすれ違った者達の視線を、一身に集めていた。しかし、そのどれもが束の間の後に、慌てて視線を逸らすのだ。
理由は二つあった。
一つはレイアスが担ぐ、大層な代物だった。
それは、立ち並ぶ頭上を悠々と越えて、空へと突き出ていた。槍だ。それも、ただの槍ではない。槍刃が、通常の直槍の一回りも二回りも大きい、大刃槍であった。槍頭に鞘を被せ、柄全体を、漆黒の布で巻き隠してはいるものの、その物々しさは、人々に幾らかの恐怖を抱かせるのには充分であった。
そして、二つ目の理由。切れ長の目の奥。青い瞳に宿る、見たものを射殺すような眼光。なにものも寄せ付けようとしない。氷のように冴えた光。
それに睨まれて、平気な顔をしていられる者は少なかった。たとえ、傍からその光をのぞき込んでしまっただけでも、背筋に冷たいものを感じずにはいられないのだ。
そんな、周囲の羨望と畏怖の入り混じった視線など、当の本人であるレイアスは、毛ほども気にしてはいなかった。人の溢れ返る喧騒の中を、わき目も振らずに歩いていく。
ふいに、空が震えた。
レイアスも、思わず足を止めて顔を上げた。
レイアスだけではない。中央通りにいる誰しもが、足を止め、一言も発さずに青い空へと一斉に顔を向けた。
空が震えたのかと、空気が揺れたのかと錯覚させるような、荘厳な音色が駆け抜けたのだ。
その音色は、繰り返し鳴り響いた。そして徐々に、音の大きさは衰えていく。終に全く聞こえてこなくなった時、再び音が鳴り響いた。
レイアスは、音の響いてくる方へと顔を向けた。
音は中央通りの奥。王城。リアフィース城にある、鐘楼の塔から響いてきていた。
今、鐘は二度打ち鳴らされた。
(いよいよか。あと二つ鳴れば・・・。)
音が、止んだ。そして、ほとんど時をおかずに、また鐘の音が響く。
(三つ。)
そして、三度止んだ。
四度目の鐘の音が、空高く響いた。
(これで、四つ。)
すると、王城と中央通りを隔てる内壁の奥から、深緑の軍装に身を包んだ男達が、ぞろぞろと駆け出てきた。
衛兵ならば、統一されたレザーアーマーを着ているはずである。彼らがただの衛兵ではないことは、誰の目からも明らかだった。
いや、それよりも、鐘楼の塔の聖なる鐘が四度打ち鳴らされたことでこれから起こることを、誰しもが理解していた。