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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使短編「法に誓って」3END

黒い天使短編「法に誓って」3



米国政府と司法機関を欺いたサクラたちは……

サクラたちは最後の仕上げにかかる。


そしてサクラに踊らされたユージの前にコールが現れた。



***



 一方その頃……。



 ユージが推測した通り、すでにサクラとJOLJU、ナンシー=クレーンは国外にあった。

 ここは日本。東京練馬。飛鳥の家である。

 今サクラとJOLJUの部屋でナンシーは休んでいる。そしてサクラたちは飛鳥の部屋で作業中だ。



「お前……突然やってきて何企んどるんや? お客さんも連れて」

「悪い事! ふふふっ!」


 サクラが最初の逃走先に選んだのは、もっとも馴染みがある日本だ。日本なら警察の動きも分かるし煙に巻く方法も分かる。第一米国の逃走犯が島国日本にいるなど思いつくはずがない。


 ということで、今サクラとJOLJUでナンシーの偽造身分証明書を作ったり飛行機の搭乗記録の改竄、監視モニターの細工など、とても公に出来ない悪い事を続けている。


 なんだかんだと、こういう悪戯は二人とも大好きで得意だ。


 飛鳥も細かい説明は聞いていないが、大体の話は聞いている。


「で? 日本人にするんか?」

「それは無理ね。彼女白人だし、日本語喋れないし。ここにきたのは一時避難だもん」


 落ち着いて工作する時間と場所が欲しかった。それで日本に来ただけなので準備が終われば別の国にいく。


「もうじき身元引受人がここに来るわ」

「ここにか?」


 誰が来るんや? と首を傾げる飛鳥。

 一時間後……その人物が飛鳥の家に訪れた。

 リュックを背負ったマリー=クラレスだった。


「なんや!? マリーやん!」

「ハローなのデス! やってきたのデス!」


 飛鳥は日本語、マリーは英語だ。しかし二人のやりとりがチグハグなのはいつもだ。そして何故かコミュニケーションが取れている。飛鳥がごねたので、JOLJUが飛鳥に万能翻訳機を渡す。


「なんやお前。偉そうなこというて、結局縁故知人かい!」

「FBIもまさか南アフリカとは思うまい。英語圏だし、白人も多いし、何かトラブルがあった時連絡できるし、マリーが世話してくれるっていうし」

「神は罪をあがなう機会を与えるものなのデス」

 そういうとマリーはリュックの中からシスターの服を取り出した。


 マリーの教会で当分匿い世話をする。マリーはまだ少女だが教会の主人だし、ケープタウンでは『奇跡の癒しの力を持つ神の少女』として町の人々から尊敬と愛情を受けている。町ではちょっとした顔役だ。


「炊き出しとか町の清掃とか、御奉仕のお仕事はたくさんあるから、人手は歓迎なのデス」

「マリーの教会は下町にあって人の出入りも多いから、まずバレない。監視カメラもない。それに、自分が犯した罪の償いをしたいっていうのはナンシーの願いでもあるから、シスターに転職は丁度いいでしょ?」

「ま、マリーがええんならウチは別にええけど、なんか日本的なオチやな」



 出家オチ! とはなんとも日本人の好きそうな話だ。



 ナンシーもこの処置に納得している。むしろこれから神の子として人々のために尽くせるなら願ってもない。なんと分かりやすいオチだろう。


 そして最後にJOLJUがマリーに紙袋を手渡した。



「これ、ユージからだJO」

 事後承諾だが、ユージも文句は言わないだろう。実はFBIにも教えていない非常用資金がクロベ家にはあって、ユージかエダの承諾があれば引き出せる。今回は後難を考えてJOLJUが勝手に引き出してきた。


「いらないのデス。サクラやユージさんにはいつもお世話になっているのデス。これくらい何ともないのデス」

「そういわない。食費が増えるんだから貰っとき。ユージからの寄付よ。気にしなさんな。ナンシーの弁護団に30万ドル出していたのよ、あの男! 上告してたらさらに50万ドルは飛んでたわ。それを考えれば我が家のダメージは少なく済む!」

「まぢか!? ユージさん、金銭感覚おかしくない?」

「ちょっとおかしい。今回ちょっと思った」


 医者のほうで稼げるから気にしないのだろうが……太っ腹なんてものではない。そのくせサクラには全然小遣いはくれない。


 ちなみに今回マリーに手渡した額も10万ドルだ。ここで額を言わなかったのは、言えばマリーが仰天して受け取らないことを知っているからだ。



 ついでに……サクラですらユージの全財産は知らない。多分300万ドルくらいは預金を持っていると睨んでいる。10万ドルくらい大した額ではないだろう。



「半分はナンシーがいつか結婚するとき、持たせてあげて。銀行に預けるわけに行かないからマリーに預けるの。OK? FBIにバレると困るからお礼の連絡はなしね」

「そういうことなら承るのデス! アリガトなのです」


 マリーは笑顔で受け取った。そして年収2万ドルしかないマリーは、帰宅してその額に仰天するわけである。


 次の転送機使用まで24時間は空けなければならない。

 ということでマリーもそのまま飛鳥宅に泊まった。二人はそこで今後の生活の打ち合わせをしつつ、サクラとJOLJUは偽装工作を続けた。三時間ほどで南アフリカ国籍とケープタウンの戸籍、新しい名前が出来上がった。彼女の名前はエステル=モーガンとなった。



 エステル……<希望>という意味がある。


 そして翌日、二人は南アフリカに旅立った。

 ナンシー……いや、エステルはサクラに最後に言った。


「ユージさんによろしく、とお伝えてください。貴方たちの事、一生忘れません」

 それを聞いたサクラは苦笑した。

「最後の言葉として伝えておくわ」

「愛がなくてもいい。一度でいいから、あの人に抱かれたかった」

「それをしなかったから、貴方もユージを本気で想ったんでしょ?」

「はい」

 エステルは頷いた。その頬には涙が伝った。


 性欲ではない。ユージへのプラトニックな愛が彼女のこれまでの人生を支えていた。だがそんなナンシーの人生は終わった。これからは別人だ。


 そして、サクラは彼女の記憶を消した。

 忌まわしい地獄のような過去と、ユージへの恋慕も含めて。こうして彼女はただのエステル=モーガンとなった。ここまでが作戦であり、過去を全て忘れるという事が、サクラが提示した条件だった。彼女は過去より未来を選んだ。



「それにしても……モテるよなぁ、ユージ。全部受け入れてたら今頃ハーレムよ?」

「見事に若い女の子ばかりだJO」


 <美少女ホイホイ>の勇名は伊達ではない。しかしユージはエダしか愛さない。きっとブレない恋愛観が逆に惹かれるのだろう。サクラにとっては親で異性ではないが。


 マリーとエステルが去ると、サクラも出発の用意を始めた。


「明日くらいには領事館に出頭するか。あまり長引かせるとボロが出るし」

「日本の?」

「まさか。香港よ」


 逃走先は香港。一日前に解放されたけどお小遣いをもらったので飲茶楽しんでそれから出頭……ということにした。他の子供ならともかくサクラである。そのくらい余裕があって普通だし、香港マフィアの首領チェン=ラウとは顔馴染みだ。


 香港は白人も多いし世界中に航空便があるし、米国も中国には捜査官を派遣して情報提供してもらいにくい。監視カメラは多くいくつか偽装痕跡を残せば香港にきたという物証も作れる。だがそれ以上米国の警察権は行使できないし捜査官の派遣も出来ない。事実上捜査は頓挫する。


「てことで……一週間か10日はNYで尋問されてるから日本にこれん。用があったらメールくれー」


 というと、サクラも出発した。窮屈だが仕方ない。それにちょっと楽しくもある。久しぶりに米国政府を相手にかき回して楽しかった。サクラにとって、これは人助けというより娯楽の一つであった。


 それを聞いた飛鳥とJOLJUは呟いた。



「極悪娘」と……。






***




 サクラが香港の米国領事館で保護されたのは誘拐事件から5日後であった。

 本人はピンピンしている。連絡が遅れたのは、香港にいる香港マフィアの長老チェン=ラウのところに顔を出していて生活に不便がなかったからということだ。香港という場所、そしてチェン=ラウが絡んでいると知りFBIはナンシー捜索の無駄を完全に悟った。香港最強のマフィアが力を貸した(むろん証拠はないが)となれば人一人行方を消し去ることくらいわけないことだ。


 一応事情の確認のため捜査官二人と、サクラの引取りのためユージが香港に飛ぶことになった。公式の来訪だから転送機は使えない。航空便で向かうことになる。


 JFK国際空港の会員制ラウンジでユージはビールを飲んでいた時……予期せぬ人物が姿を見せた。


 コールだった。

 コールは黙ってユージの隣の席につくと、一番高いバーボンを注文した。


「ここは会員制ラウンジですよ? 会員だったんですか? コール」

「バッチがあれば関係ない。後、バーボンはお前の奢りだ」


 そういうと運ばれてきたバーボンを黙って半分ほど飲むコール。


「何しに来たんです?」

「昼からビールを飲んでのんびり香港旅行とはいい身分だな、クロベ」

「今無職ですからね。昼酒も問題ありません」

「実はNSA長官から連絡があった。お前を引き抜きたいが問題ないか、とな。だから答えた。あいにく奴はまだ私の部下でフリーランスじゃないので変な勧誘は困る、と」


 そういうとコールは懐から黒い手帳とバッチを取り出し、カウンターに置いた。

 ユージのFBI捜査官バッチだ。


「復帰だ。クロベ捜査官」

「いいんですか?」

「誘拐されたサクラ君は見つかった。お前を捜査から外す理由はなくなった。誘拐をしたのならともかく誘拐の被害にあったという理由でクビにはできん」

「……では、復職します」


 ユージは残ったビールを飲み干すと、自分のバッチをポケットに入れた。

 コールは相変わらず難しい表情をしている。事件の真相を知る彼としては納得はいっていないのだろう。黙って残ったバーボンを一気に飲み干した。それを見てユージは彼のためにもう一杯バーボンを注文した。


「酔ったら仕事にならん」

「一杯飲んだ後にそれを言っても説得力ないですよ?」

「ああ。だから今日はこれがすんだら帰る」

「じゃあ気にせず飲んでください。奢りますよ」

「今回だけだ」


 二杯目のバーボンを受け取り、コールは言った。

 酒の話ではない。


「今回だけは……お前たちの馬鹿芝居に付き合うことにした。だが次は許さん。法律の問題ではなく、これは私とお前との信頼の問題だ。約束できるか、クロベ?」

「約束します」

「お前は言葉でそういっても心で舌を出すような奴だからな。何せ……正義の味方だ」

「法律と正義が同一であることを望みます」

「法律は完璧ではない」

「正義だって普遍じゃないですよ。ま……俺は後悔しない選択をするだけです」

「旨いバーボンだ。ボトルの持ち帰りはできるか?」

「聞いてみます」

「お前の奢りだぞ?」

「分かっています」


 そういうとユージは苦笑した。



 その後、米国のあらゆる捜査当局はナンシー=クレーンを探したが、ついにその消息を掴むことはできず、捜査権はFBIに移ったが、FBIは早々に本件を凍結事件にした。



 ナンシー=クレーン……いや、エステル=モーガンの人生がその後どうなったかは、また別の物語である。




黒い天使短編「法に誓って」3でした。



ということでこの話もこれで完結です。

今回はサクラの悪巧みの勝利です。

しかしなんだかんだいって最後は飛鳥やマリーあたりなのは計算なのか、意外に交友範囲が狭いということか。こうしてなんだかんだと短編シリーズは大体飛鳥が何かしら登場しているわけですね。まぁ飛鳥の家なら通報されないし、衣食住あるし。


今回の副題というかもう一つのテーマがユージとコールの絆です。

ユージにとってガミガミ煩い上司ですが、根幹には強い信頼関係と絆があります。そして基本的に暴走は許しませんが、ギリギリの段階になるとユージの正義を認めて眼を瞑ってくれる、物分りのいい上司です。このコールがいるからユージはFBIを続けられています。このあたりの関係は「死神島」でも見て取れます。


ということで今回の短編は完結です。


次回はサクラと飛鳥が射撃に挑む話です。

こっちはほのぼの日常話+ちょっと射撃うんちくです。セシルちゃんも登場します。


ということでこれからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。

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