表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
90/208

黒い天使短編「法に誓って」2

黒い天使短編「法に誓って」2



平和だったNY……。

突然入る凶悪事件の報。

なんとサクラが誘拐された!?


だが真の狙いは別にあった。



***



 今日もNYは平和だ。



 ……平和だった。少なくともNYは……。



 ある仰天の通信映像が支局宛てに届けられ、それを受け取った局員はすぐに支局長室に駆け込んだ。



 ユージがコールに呼び出されたのは、その五分後だった。

 ユージが支局長室に行くと、数人の上級職員が深刻そうな顔でユージを待ち構えていた。



「何です?」

「ナンシー=クレーンが脱獄した」


「はっ?」


「昨日、体調を崩し警察病院で一日検査入院した。そして脱獄した!」


 ユージは固まった。珍しく当惑している。

 だが本当に仰天するのはこの後だ。


「そして誘拐事件を起こした!」

「は?? ナンシーがですか!? そんなことできる女じゃない!」

「これを見ろ!」


 そういうとコールは部屋の壁一面にある巨大な液晶モニターの電源を点けた。


 そしてユージは腰を抜かさんばかりに仰天した。


 そこに映っているのは紛れもなく銃を持つナンシー本人。

 そして彼女の前に手と口をダストテープで縛られているサクラの姿があった。



「なんだこりゃ!?」

 思わず日本語で叫ぶユージ。



『クロベ捜査官へ。貴方の娘を誘拐しました。娘の命が惜しければ私を追わないで。無事私が国境を越えたらこの子は解放します。繰り返します。FBIが動けば彼女の命はありません。ですが無事私が国境を越えたら彼女を大使館に連れて行き解放します』


 映像はそれだけだ。

 背景はただの壁で、時間もどこかも分からない。


 ユージは思わず手で顔を覆いその場に座り込む。


 全て分かった。

 ナンシーの仕業ではない。これはサクラの仕業だ!


 そしてコールもそれが分かっている。捕まっているサクラには全く怯える様子はない。サクラが特殊能力を持つ食えない少女であることも知っている。銃もどこにでもある9ミリオートで、ユージの家ならいくらでも手に入る。色々な事件の対策のため未登録の銃が何丁もあってサクラなら持ち出せる。


 それどころか、コールはユージの関与を疑っている。



「どういう事だ!! クロベ!!」

「言葉が出ません」

「クロベ!」

「俺は知りません!! ここ最近ずっと支局に詰めていたでしょう! 通信記録でも何でも見てください! テキサスどころかNY市の外にも出ていません! それどころか自宅と支局以外の場所に行っていません!」

「クロベっ!!」

「事実です! 俺は今知った! アンタたちも捜査官だ。俺が今仰天したのを見たでしょ!? 言葉も出ない!」


 確かにこんなに取り乱すユージは珍しい。


「ならば今からFBI総力を挙げてナンシー=クレーンを手配する! 容疑者はお前に接触するかもしれん。監視をつける。そして全捜査局に手配を回しマスコミにも全面協力させる」


 そういったのは副支局長レイモンド=フィリウスだ。

 それを聞いたユージは頷こうとして……気づいた。


 サクラの作戦と意図の全てを。


 ユージは大きくため息をつくと、用意されていた椅子に深く座った。



「FBIは動かさないで下さい」

「何!?」

「お忘れですか? 誘拐は家族の意志が最優先です。俺は娘を誘拐された。娘の安全のためFBIに自制を要求します。これは憲法で保障された正当な要求です」

「相手は銃を持った殺人犯だ! しかも脱獄し誘拐までやらかした。それを捜査するなというのか、クロベ捜査官!」

 とレイモンドが語気を強める。


 しかしユージは平然と頷く。


「彼女を知っています。要求を呑めば娘に危害は加えないでしょう。脱獄のほうですが、48時間経過するまでは管轄は現地州警察、その後連邦保安官。その後FBIです。48時間過ぎればFBIが動くのは法で定まっていますが、誘拐については自制願います」


「クロベ!!」


「副支局長! 俺は間違っていますか? 被害者の父でその権利はある」

「クロベっ!!」


 レイモンド副支局長が思わず立ち上がる。だがそれをコールが制した。


「私とクロベだけにさせろ」

「支局長!」

「いいから出て行け!」


 コールはそっとドアを指差す。レイミンド他状況捜査官と秘書は黙って部屋から出た。


 二人だけになると、コールは頭を抱える。この二人だけは事件の主犯がサクラだと分かっている。


 だがどうしろというのか。

 他の人間にサクラの陰謀だと話したところで信じてもらえるはずがない。


「クロベ。本気か!? お前は脱獄に手を貸し偽装誘拐に加担する気か!?」

「俺は加担していません。今知ったところです」

「ナンシー=クレーンの検査入院や脱走の手引きは!? お前ならそれを集められる!」

「サクラはNSAの最高レベルのハッカーと同レベルの技術があります。俺を調べても結構、データーは出てきません。申し訳ありませんが我が家のホームPCはホワイトハウスの機密も入っているのでホワイトハウスの許可がないかぎり提供できません! でもはっきりといいます。俺は関与していないからそんなデーターはない。仮にサクラが利用していたとしてもあいつはそんな痕跡は残しません。そもそも家のPCを調査するにはスパコンが必要で全部調べるのに一週間かかります。サクラは三日前から家にいなかった。やるだけ無意味です!」


「…………」


 ユージの家のPCが特別なのはコールだけは知っている。ユージの言うとおりやるだけ無駄なことも知っているし、部外者には知られては拙い情報がたくさん入っていることも知っている。ユージのPCを調べるといえば国防総省とホワイトハウスが即座に反対する。法的には手の出しようがない。


「娘を前科者にするつもりもありません。要求を飲み、大人しくします」

「それでいいのか!?」

「支局長! 事実はともかく法的には俺もサクラも被害者です!」


 そういうとユージはポケットからFBIのバッチを取り出し、置いた。


「被害者の父親になる以上、捜査官として仕事は出来ません。バッチはお返しします。逮捕するなら逮捕してください。ただし証拠があって令状が取れるのなら」

「偽装誘拐は大罪だぞ!?」

「なら証明してください! もう俺はバッチを返しましたから命令は聞けない」


「クロベ!」


 どんっ! と机を叩くコール。


 そしてしばらく考え、コールはポケットから自分のバッチを取り出し、机に置いた。


「私もバッチを置く。職務は忘れよう」

「…………」

「今からはオフレコだ。本当の話をしよう」


 コールはそういうと、椅子に深く座りなおした。


「お前は関与していないんだな?」

「誓ってしていません。エダも拓も知らないと思います。ですが心配もしていません」

「サクラ君が主導だからか?」

「そうです。ここだけの話にしてください、コール」

「何だ?」

「何で俺がFBIに協力しないかです。無意味だからです! もう彼女は国内にいません」


「何だと!?」


 まだ脱獄が判明して半日も経過していない。脱獄が判明したとき、すぐにメキシコの国境には連絡がいっている。


 だが、そんな常識は普通の人間が相手である場合だ。


「サクラはFBIの手法も捜査機関にも詳しい。この動画が出た瞬間、FBIがどう動くか分かっています。サクラはIQ245です。もう国内にいません」


 サクラが本気になれば、頭脳戦では誰も叶わない。

 第一、多分JOLJUも一緒だ。この二人が知恵を貸している以上到底勝てない。


「どうやって国外に行くんだ!?」

「転送機でしょうね。ヒューストンにもあるしLAにもあります。そこまで行くくらいならサクラならやってのけるでしょう。転送機を使えば世界中どこにだって行けます!」


「転送機は君の家族しか使えないんじゃないのか?」


「家族以外でも知っている友人は使います。一日一度なら誰でも。使えないのではなくて秘密にしているだけです。ただし転送機の存在はこの支局だと貴方だけ。後はホワイトハウスとFBI本部数人しか知らない秘密です。口外できないしマスコミに説明も出来ません」


 一応転送機の使用者リストはホワイトハウスに提出してある。だがサクラが勝手に使う分までは知らない。何よりJOLJUが協力しているなら調べるだけ無駄だ。サクラはともかくJOLJUを逮捕はできない。


「…………」


「米国の法律的には手も足も出ません」

「クロベ、お前はそれでいいのか!?」

「正直……サクラのやったことを褒めはしません。FBI捜査官としては言語道断です。ですが……俺個人としては、腹は立っていません」


「…………」


「懲役40年。脱獄し誘拐もすれば確実に終身刑です。彼女を終身刑にするほうが、俺個人の気持ちとしてやりきれない。若い女の子にとって40年の刑務所は人生の処刑と変わりません。なら彼女の幸せを望みます」


「…………」


「彼女は地獄から抜け出すため、最後の最後に決意しナイフを握った。それは生きたいという彼女の心からの願望です。そして彼女は俺に助けを求めた。俺は四年前、任務のため彼女の足掻く手を見ないふりして賢しそうに自首を勧めた。だが間違いだった。あの時国外に逃がせばよかった。だが俺は任務を優先させた。今度は人間として彼女の人生を守りたい。彼女は極悪人じゃない。新しい人生を生きる権利はあります」


「もし外国で彼女が捕まれば、偽装誘拐も露見するぞ? 国際手配までは取り消せん」


「そこはサクラとJOLJUが巧くやります。あの二人なら国籍の偽装くらい簡単です。身元不明者で捕まることはないでしょう」

「そこは信用しているのだな、サクラ君を」

「サクラが小賢しいのは俺が一番知っています。それにサクラがボロを出すはずがありません。俺と拓とアレックスの三人が総力を挙げてボロの一つを見つけられるかどうかで、他の人間には絶対掴めません。だから、無駄なんです。もう国外にいる。手は出ません。意味がないんです、捜査は」


「…………」


「多分……五日から一週間後、どこかの国の大使館か領事館にひょっこりサクラは姿を見せるでしょう。無難にメキシコかもしれないが、ヨーロッパかもしれない。EU圏内の国なら、もうどの国に行ったか捜索不能です」


 法的にはサクラは善良なNY在住の10歳の女の子だ。ちゃんと誘拐された被害者を演じれば疑えない。

 親であるユージがこの狂言に付き合い守ると決めた以上、サクラへの追求の手は限界がある。まずサクラは自白しないし、凡人に突っ込まれるような杜撰な計画も立てない。


 捜査霍乱ならば欧州だろう。ナンシーは白人で、欧州には移民が多く周辺どの国にも行ける。それで手詰まりになる。密航の証拠くらいサクラなら三日で作り上げられる。そして世界中遊び歩いていて土地勘もある。IQ245のサクラと追いかけっこしてその足取りを掴むなど不可能だ。


 そこまで聞き、コールもユージの言っている意味を理解し長嘆した。


 理屈では、ユージの言うとおりだ。もう手も足も出ない。

 法律が、サクラに負けた。



 ユージはバッチを置いたまま、黙って部屋を出て、そのまま支局も出て、戻らなかった。




黒い天使短編「法に誓って」2でした。



キモチのいいくらい、サクラがしてやったり話ですw


犯罪者にするとこんなにも小賢しいサクラ。

そして法的には手も足も出ません。


ちなみに米国は書いてますが誘拐事件はFBIの管轄です。

が、協力するかどうかは家族の意志が尊重されます。

そこを基本的には捜査機関が説得して捜査するわけです。


ややこしいのは、脱獄は最初は所定の刑務所と警察署ですが、24時間で連邦保安官担当になります。州を越えたという前提なので州警察ではありません。そして国境逃亡が関わる48時間になるとFBIが加わります。FBIはカナダやメキシコ、属領の捜査権もあるので。


しかし、ユージの言うとおり国際手配になると規模は縮小します。

一応FBIの管轄ですが、米国の友好国に限られていて、そうでない国はICPOの管轄ですが、ICPOは専任捜査官はいないので現地各国警察に手配するだけです。


なので、サクラとJOLJUが完璧に別人を偽装すると、もう手が出せません。


ということで今回サクラの勝利となるわけです。


次回はオチというか完結話……この話の落着です。

この段階でもう逮捕はできない確定ですが、サクラたちはどこにいったのか?

そしてユージはクビになるのか!?


ということで次回お楽しみください。


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ