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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使短編「そうだ! 料理をしよう」3END

黒い天使短編「そうだ! 料理をしよう」3



ついにサクラの出番!!


サクラは料理ができない!

しかしそれだとみっともないので、パパ直伝のグラタンを作ることに!


こうして最後の食事が披露されるが……?

***



日曜日 サクラ


===========



 トリはサクラである。



「運命の日が来た」



 サクラは昼のうちから頭を悩ませた。


 この『手料理イベント』はいい感じである。好評だ。サクラはそのフィナーレたる最後のトリになった。である以上、あまり変なものは出せない。



 が、哀しい哉サクラにはまともなレパートリーがない。


 サクラのレパートリーは精々サンドイッチとパンケーキだけだ。しかもパンケーキは失敗する確率の方が高く、サンドイッチの出来もJOLJUのカレーと比べれば劣る。


 いや、作れるものがサンドイッチである以上サンドイッチは作る予定だがこれだけで夕飯とはいえない。メンバーの中で飛鳥とJOLJUが高ポイントを出した以上落第点は避けたい。じゃあなにかいい手はないか……とサクラは必死に考えた。



 ……ステーキとかならば焼くだけだ。市販のソースを買ってくればいける……。

と思ったが、前日飛鳥がステーキ肉を使ったから被る。やはり美味しいものを作って皆を喜ばせたいし、何よりこのままではセシルにも負ける。それはどうにも許せない。


 別にサクラは料理のセンスがないわけでも味が分からないわけでもない。単にしたことがないだけだ。幸いしなくても困らない環境にもある。日本と違い欧米では無理に女子が料理を覚えなければいけない文化はない。


 が、サクラは負けるのが嫌いだ。ロザミアはいいがセシル以下は嫌だ!



「この際、料理に挑戦するか」


 と思うのだが……いい料理が思い浮かばない。


 サクラは考えながらゴロンとソファーに横になった。

 今日はサクラの担当日かつ日曜日ということで飛鳥はいない。セシルとJOLJUと一緒に映画を観にいった。


 しばし考える。


「そだ! サーモングラタンを作ろう!」


 サクラは愛するパパの得意料理を思い出した。

 昔、パパであるレイ=ハギワラが獲れたてのサーモンを貰ってくると、よく作った料理だ。サーモンとキノコをホワイトソースで煮込み、その後チーズを乗せオーブンで焼く。簡単だ。しかも簡単に作れる秘訣もある。


「忙しいときはね、簡単に作る方法があるんだ。オーブン皿にサーモンの切り身とキノコを並べて電子レンジで加熱するだろ? 3分ほど加熱したら取り出して、市販のホワイトソース流しこんでチーズをのせて、今度はそれをオーブンで焼く。簡単だからサクラにもできるよ」


 サクラが幼い頃、レイはそう教えてくれた。サクラはそのときのことを思い出した。


「そうだ、これでいこう!」


 これならば失敗する可能性はない。しかもどこかの馬鹿が調子に乗って釣った特上銀鮭がまだ二匹残っている。あの加減知らずの馬鹿JOLJUは5匹も釣ってきたのだ。そしてちゃんと三枚に解体してくれている。ならあとはキノコを焼けば下準備は終わりだ。


 サクラは早速取り掛かった。


 キッチンに行き食材を取り出す。キノコも十分冷蔵庫にあり買う必要はない。


 普段エダはホワイトソースは自前で作るから、その手のものはないからまず買い物からだ。ホワイトソースと、すでに茹でられているマカロニを買ってきた。彩りがないからミックスベジタブルを湯がく。具材を皿に並べ、市販のホワイトソースをかけ、そしてタップリのチーズをかける。



 簡単だ。



 サクラはあっという間に大皿4つをオーブンに入れスイッチを押した。



「なんだ、簡単じゃん。でもこれだけだとさびしいな。サンドイッチ作るか」


 野菜っけがないとさびしいから野菜サンドにしよう。サラダは……多分JOLJUと同レベルのものしかできないから出すと恥をかく。ついでにパンもどうせなら焼きたてのフランスパンでいこう!

そう考えサクラは買い物に出た。これが大きな間違いであった。サクラは自宅のオーブンのタイプを知らなかった。電子レンジタイプもあるが、本格的な大型グリルもこの家にはあった。そしてサクラが使用したのは大型グリルオーブンだった。こちらは火力の調整が微妙だし自動的に切れるなんて機能もない。そしてサクラは出来上がれば自動的に切れるだろう……と、とんでもない誤解をしている。


 これこそ料理を知らない人間がよく陥る「出来てるだろう多分」精神だ。




***



 書斎で異様な匂いに気づいたのはエダだった。エダはレポート提出の関係で自宅の書斎で作業していたのだ。


 すぐに見に行くと、部屋は黒煙に包まれていた。



「大変!」


 エダは急いでつオーブンに行くと、その問題の真っ黒な物体を取り出した。

 グラタンは真っ黒こげだった。原因は二つ。サクラは火加減をしていかなかった事、後調子に乗ってチーズを乗せすぎたのだ。いくら好きだからといってチーズは乗せすぎると痛い目に遭う。チーズは多くの油分を含みオーブンの火も近いからすぐ焦げるのだ。



 幸い……焦げたチーズを剥がすとサーモンとキノコが出てきたのでサクラがサーモンとキノコのグラタンに挑んだ事は分かった。しかし小さい焦げが入り食えないだろう。


「うーん、まいったなぁ」


 エダは時計を見た。あと一時間ほどで皆くるだろう。サクラがどこに行ったか判らなかったが、このままでは間に合わない。


「サクラ……こんな料理皆に出したら」


 プライドの高いサクラにとって、こんな料理を出すのはショックだろう。意外に女の子らしい心情が(身内には対しては)あることを知っているエダにはよく解る。



「…………」



***



「いやぁ~、フランスパン、ないわないわ。何が哀しゅうて4ブロック先までいかないといかんのか」


 サクラはパタパタと帰ってきた。なんと出てから一時間は経過している。


「まぁサンドイッチは5分あればできるからね」


 サクラはパンを台の上に置いたとき、香ばしいチーズの匂いに気づいた。オーブンをあけると絶妙な出来のグラタンがある。オーブンの火もちゃんと消えている。


「完璧だ! さすがサクラちゃんだ!」


 サクラは自信満々に皿をテーブルに並べだした。

 予想通り、30分もしないうちに全員が集まった。

 テーブルについた面々は、綺麗に仕上がった料理に感心の声をあげた。



「ちゃんと出来てるじゃないか」

「奇跡だJO!」

「立派なものね。サクラ、料理できたのね」

「しかもグラタンとは! お前、何小洒落たものを!!」

「ですね。大丈夫ですか? ちゃんと火、通っています?」


と、飛鳥やセシルは疑っている。そんな二人をサクラは鼻で笑いあしらう。


 しかし結果として予想以上の反応だ。グラタンという、手が凝っているように見えてじつは簡単な料理を選んだ功績もあるだろう。


 食べてみると、これまた美味い。


 サーモンとクリームソースが滑らかかつ濃厚で、絶妙だった。茸とチーズのアクセントも完璧だ。しかも生地の中にチーズが練りこまれホワイトソースの濃くがいい。細かく刻んだタマネギとマッシュルームとセロリの風味も抜群だ。


「サクラがこんなもん作るなんてショックやな」

「このサーモンのグラタン、パパ直伝なの。どだ! 美味しいでしょ!?」

「確かにいえる。これなら今度もやってもらうか」


 とめったにサクラを誉めないユージですら誉めた。


 嬉しさ満天のサクラは、自分の作ったグラタンをようやく初めて口に運んだ。



「…………」

 サクラは味を噛み締めた。

「…………」



「しかしサクラ、グラタンは絶品やけど、サンドイッチがイマイチなんやけど」

「へ?」

「あんたバターの量、少なすぎるねん。パンが水っぽくなっとるやん。それに味がついてないんやが?」

「へ? バターバケットだからバターついてるじゃん」

「アホか。パンに味付けで付いてるバターと塗るバターは別やろ。それにマヨネーズくらい塗れ!」

「ハムの塩気でいけると思ったんだけどなぁ」

「いけるか!」


 このあたりサクラは飛鳥にはとても敵わない。


 しかしパンの質もいいこともあり、サンドイッチも十分食えるもので、大好評の中終わった。




***



 その日の夜……皆が寝静まった後、サクラとエダはバルコニーに出ていた。


「グラタン作り直したの、エダね?」

 サクラは咎めるわけではなく、さらりと言った。

「バレちゃった? 一応サクラのレシピに似せたンだけど」

「似てないよ」とさすがのサクラも苦笑する。


 サクラは野菜をみじん切りにして炒めたりしていないし、ハーブも使っていない。エダは早く作るあまり、ついついいつもの癖で自分のホワイトソースを作ってしまったのだ。


「市販のホワイトソースの味じゃなかったし……いつも食べてる味だったし」

「…………」


 市販のホワイトソースの味は知っている。飛鳥が作るグラタンだ。


「すぐ気づいたわ。サーモンには皮がなかったし香ばしかった。あたしはぶつ切りにしただけだもん。それに……風味付けでセロリが入ってた」

「セロリ?」

「パパ、セロリ嫌いで……セロリ入れなかったの。でも今日のは入ってた。エダはセロリ好きだし。だからすぐに分かっちゃった」


 決定的だったのは、夜こっそり家のダストコーナーを確認した時、奥に隠すように黒いゴミ袋の中に入った自分の作った黒こげの残飯を見つけたときだ。これで全てのからくりを知った。


「ゴメンね。余計なことして」

「ううん、エダ。ありがとう。おかげで恥をかかずにすんだ」


 エダがサクラの心情を察したように、サクラにもエダの心情が判る。二人の心はそれほど結びついているのだ。二人は家族なのだから……。


 エダは微笑むと、そっとサクラを引き寄せその頬に頬を合わせた。

 サクラも微笑む。


「今度料理教えてよ。エダ直伝の特製のやつ! それで皆を喜ばせるわ」

「うん」


 今度こそ皆を驚かせ、喜ばせよう!

 少し料理をする楽しさを知ったサクラだった……。






<<おまけ>>




 エダとサクラ以外がリビングに集まっている。


「サクラのグラタン、分かった?」と飛鳥。

「勿論分かりましたよ」とセシル。

「俺はエダの料理、もう10年近く食ってるんだぞ? すぐに分かった」と頷くユージ。

「グラタンだから、サクラはオーブンに入れてパンでも買いに行ったんじゃないか? 俺たちが帰って来た時、サクラはまだサンドイッチ作っていたからね。エダちゃんは俺たちより早く帰宅していたから、こっそりすりかえたンだろうな」と、拓が推理する。ほぼ正解だ。

「サクラ、ズルだJO!」

「ズルね!」

 ロザミアとJOLJUは気付かなかった。だから今更気付いても時効である。


 ちなみに一番最初に気付いたのは、やはり飛鳥だった。


「あのサンドイッチとグラタンが同一人の手とは思えん! ウチより旨いはありえへん! あいつ、レトルト・カレーくらいやで、自分で作れるんわ」

「ですね。一流料理と子供の遊戯のレベル差です」


 この二人はエダの料理をいつも食べているわけではないが、たまに食べている分その味を覚えている。間違いなく知ったエダの味だった。サクラの様子を見るかぎり意図的にズルをしたわけではなく、こっそりエダが差し替えたのだろう。


 ということでサクラとエダは二人の秘密……という事にしているようだが皆バレていたりした。ただそれをとやかく言うような人間はいなかった。



「結局誰が一番かな」



 それが彼ら挑戦者たちの疑問である。裁定者はエダであったため、もっとも無難に「みんな美味しかったよ」という思いやりの篭った……ある種予想したとおりの結論でまとまった。


 そこで出たのが、点数制度導入による第二回開催だった。


「俺、レパートリーないぞ」

 と即答で断言するユージ。ただ愛情という調味料が使えるのは唯一この男だけだ。


「多分サクラもレパートリーないと思いますよ」とセシル。なんとも似た親娘だ。

「同感や。あいつが料理してんのなんか見たことないし」

「意外と料理できるのがJOLJUなんだよな」

「てへへだJO」

「技術賞が飛鳥。サプライズ賞がJOLJUってトコかな」


 結局彼らの中での順位はこうなった。




 飛鳥、JOLJU、拓、サクラ、ユージ、セシル、ロザミア……これが彼らの出した結論である。おそらく当分順位の変動はあるまい。



「しかしこうやって考えるとさ」

 拓はしみじみと呟く。

「俺たちって死ぬまでエダちゃんの料理に依存していく気がする」


「…………」


「あのグラタン食って思ったけど、美味すぎる……他所では食えない」


 全員が頷いた。何せそれで居付いてしまっているのが拓とセシルとロザミアである。そこまでいかずとも皆食事目的でやってくる。


「ちょっと待て。お前ら図々しいわ」

と、今ごろ気づいたユージ。

「何言ってるんだJO! エダはオイラのだJO!」

と言って殴られるJOLJU。



 こうして彼らの一日はモッペリと過ぎ去っていく。そして来るべき第二回のために、各々こっそり料理の研究を始めるのであった。




黒い天使短編「そうだ! 料理をしよう」3ENDでした。



ということで、オチはなんだかんだとエダがもって行きましたw


ま……サクラは完全コメディー要員ですね。


尚、グクタンは本当に簡単です。実はレンジでできます。市販でなくてもホワイトソースは簡単ですが、生クリーム入れたりチーズ入れたり隠し味いれるともっと美味しいですw


こんなことがおきてますが、今後もサクラが料理に目覚めることはないでしょう。米国人だし、そこは面倒くさがりだし、エダがいるし。


ということでだらだらっとした料理編完結です。



次はユージの短編か、サクラ&飛鳥&JOLJUの短編かです。


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。



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