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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
83/206

「そうだ! 料理をしよう」1

「そうだ! 料理をしよう!」


珍しくNYのクロベ家に集まった一同。

いつも料理をするのはエダばかり。

ということで「たまにはエダを楽させよう!&喜ばせよう!」と皆持ち寄りで料理会が開かれることになった!


しかし、飛鳥をのぞいて全員地雷原!!


どうなる食事会!!



「そうだ! 料理をしよう」1

=================



 とある日のNY、クロベ家にて。


 サクラはひとつの提案をした。


「いつもエダは大変だから、明日は皆で食事作るっていうのどう?」


 食後、ほんわかと過ごしていた皆は一斉に振り返った。

 話はそこから発展した。



***



「もっともなことです。私たちは食べてばかり。この人数を料理しているエダさんは大変ですよ」


 と、しみじみと同意するセシル。


「俺たちずっとだもんなぁ」


 と言ったのは拓である。拓とユージはもっとも歴史が古い。三年間の空白はあるが、エダの主婦歴は中学一年生からずっとだ。


「私はエダの料理だから食べに来ているんだけども、確かにエダには負担ばかりね」


 ロザミアもまったくの同意である。彼女も食べる専門だ。普段は分子組立装置……<フォーファード>がボタン一つでどんな料理も用意してくれる。しかし所詮コンピューターに登録された味しか再現できず手作り料理のちょっとした旨味はない。だからエダの料理は大好きなのだ。


「え? いいんだよ別に。あたし、好きで料理しているんだし。お料理楽しいし、皆が喜んでくれるのも嬉しいし」


 料理をするのはエダの趣味だ。好きで作っている事だし気にすることない……とエダは主張するが、なんだか全体の会話が違う方向に流れていく。


「そうや! ええこと思いついた!」


 やっぱりというかいつも通りというか……変な事を言い出したのは飛鳥だった。


「どうせならこの一週間はウチらで料理会っていうのはどうや?」

「料理会?」

「今顔ぶれを数えてみたんやが……エダさんを除いてウチらは7人おるやろ? だからそれぞれ曜日を分けて自慢の料理を披露するっていうのは? そしてその中で誰が一番美味しかったか競う! 審査員は勿論エダさん!!」

「面白いかもな。俺たち、普段料理しないものな。たまにやるのはいい事だよ」


 と拓も賛同した。そして「そうね。面白そうね」とロザミアも賛同。言いだしっぺの飛鳥は勿論賛成。後はイベント好きのJOLJUも賛成組だ。


 ユージとサクラとセシルの三人は思わず目線を合わせ、ため息をついた。

 三人とも絶望的に料理ができない。


 いや、三人だけではない。


 拓とロザミアの料理の腕は未知数だ。なんだかんだと料理をすることがあるのはJOLJUだが、こんな大人数の料理などしたことはないだろう。つまり日頃から炊事をしている飛鳥を除けば皆危ない。三人が顔を見合わせたのは自身の料理の腕もあるが、その未知の危険を感じ取ったからだ。




 が、結局…………。



 この無謀なイベントは一部の不安を抱きつつも始まることとなった。




***



「材料は自由。順番はクジできめるよう。予算は100ドルとする!」


 買い物からがイベントだ。買い物の腕も料理の腕の一つだ。100ドルもあればそこそこいい食材も買えるだろう。また、クロベ家の冷蔵庫に入っているものは自由に使っていいということになったから、相当なものが作れる。何せクロベ家には大きな冷蔵庫が三つもあるのだ。一つは飲み物専門だが。


「私、エダさんの料理を食べられるのが楽しみでNY公演の予定を入れているのに」


 料理に自信のないセシルが大きな溜息をつく。

 この連休をNYで過ごすつもりで来ている飛鳥はボソリと呟いた。


「そういえばウチも普段から料理しとるからウチも作らんでええんちゃう? ウチは不戦勝でデリバリーでええで?」

「諦めるJO。ふふふっ、腕が鳴るJO」


 参加する面子はユージ、拓、セシル、ロザミアそしてサクラに飛鳥、JOLJUである。丁度7人、一週間だ。一週間、このギャンブルというか闇鍋的なイベントが続く事になる。


 こういうことが大好きな飛鳥が即席で紙のクジを作った。その紙の下部分には曜日が書き込まれていて、それぞれそのクジを引くと担当する曜日が決まる。尚、レシピは調べてもいいしタブレットなどで見ながら作るのはOKだ。


 テーマは「エダを喜ばせる事」だ。


「しかしエダを喜ばす料理なんかできるかしら?」


 <フォーファード>……なんていう地球にはないスーパーアイテムで日々の食事を作っているロザミアの言葉をそれぞれが複雑な心境で聞き入る。声に出さずとも皆その不安を抱いている。そもそもエダの料理は上手すぎるのである。それでいて本人が料理好きだから常にまかせっきりだった。


「あたし自信ないなぁ」


サクラがそう呟きながらまず一番目にくじを引き、続けて全員が引いていく。

こうして『手料理イベント』は開始された。




===============

月曜日 ユージ 

===============




 初っ端から大波乱の予感である。いきなり大きな地雷がやってきた。


「…………」


 サクラの知る限りユージがキッチンに立っているのを見たことがない。酒は飲むがつまみは市販の珍味やビーフジャーキーでもいい男だ。第一「できない」という確固たる自信のあるユージである。ユージは常にエダに料理を作ってもらっていたし、子供の頃は姉が作っていた。それ以外はコンビニ族である。この男はエダと出会う前はJOLJUに料理を作ってもらっていたというくらい料理をしない。


「いきなり大波乱やな」と飛鳥。

 だがサクラはもっと深刻に考えている。場合によってはまともなものは出てこず、残飯のようなものを食べる羽目になるのではないか。


 とはいえ逃げることはできない。全員重い気分で食卓に向かった。



 で、食卓にならんだのは…………大きな土鍋が二つである。



「鍋?」



 全員を代表してサクラが尋ねる。だがコンロはないし、野菜や肉が盛られてもいない。第一土鍋は温かく湯気が上がっている。


「違う」


 物凄く似合わないエプロン姿のユージが、これまた似合わないお玉を肩に担ぎ立っている。いいながらユージは土鍋の蓋を取った。


「雑炊だ」


 そこに現れたのは卵雑炊だった。


 そう、卵雑炊である。他に細かく砕かれた何かが入っている。ネギすらなかった。

 全員、さすがにこの料理には悪い予感しか覚えない。


「なんかすっごいシンプルだけど」


 言いながらサクラは盛られた自分の皿を見た。匂いはわりといい。どこか変わった匂いがするが悪い匂いではない。見た目もいい。が、さすがに皆ユージの料理の腕を知っているから誰も手を出さない。


 が、主賓であるエダだけは嬉しそうにその雑炊を食べ始めた。

 皆がまじまじとエダを見る。エダは幸せそうに顔を赤面させ食べている。



「美味しい?」


 恐る恐る尋ねるサクラ。


「うん♪」


 エダは嬉しそうに咆えみながら頷く。これは……どうやら我慢しているわけではないようだ。

 いくら愛するユージが作ったにしてもこの反応は大げさである。不審に思いつつも皆恐る恐る食べ始めた。



「ん! 悪くない」


 サクラは二口目を運んだ。やや薄味だが卵とゴハンのサラサラ雑炊で悪くない。よーく食べてみればほんわかと松茸の味がする。後は……この肉らしきものは魚か?


「これ……インスタントの吸い物の味や! あとサバ缶がはいっとる!」


 さすがは日本人。飛鳥はこの微妙な松茸の風味によってその正体を看破した。ユージはそうだ、と頷く。


「土鍋にお湯張って、お吸い物(松茸風味)を人数分入れて、半分の人数分のサバの水煮缶詰を入れて、ご飯と卵を入れて卵が煮えれば終わりだ」

「なんじゃそりゃ! 料理かこれは!」


 これならサクラだって出来る。いや、小学生でもできるだろう。


「料理だ! ガタガタ言うな。漬物は切っておいた。好きに食べたらいいぞ」


 そういってユージが茄子、胡瓜、大根、白菜のぬか漬けをぶつ切りにしたものを持ってきた。切り方はともかくぬか漬けの出来具合は抜群だ。当然だ。これは冷蔵庫の中にあったエダが漬け込んで作ったお手製ぬか漬けだ。ユージはそれを洗って切ったにすぎない。外科医だから切ることだけは得意だ。


「不味くはないけど……これ料理なの?」


 確かに料理とはいえるかもしれない。しかしどこかのおばさん主婦でもしないような手抜き料理だ。全員が白々とした表情でその雑炊を食べた。


 ただ、エダの様子はおかしい。

 感無量で嬉しそうに食べている。


「あのね、あのね! これはね、昔あたしが風邪で倒れたとき、ユージが作ってくれた雑炊なの♪」



「……あー……そういう事なのね」


 それは今から7年近く前だろうか……ユージとエダが日本で暮らしていたとき、風邪で倒れたエダのためにユージが料理を作ろうとしたがひたすら失敗、結局姉の助言を得てサルでも作れる雑炊……という事で作った雑炊そのものだった。エダにとっては忘れることのできない思い出の料理だ。


「想い出は最強の調味料か」


 まぁとんでもないハズレでないだけマシか……とサクラはため息交じりに残った雑炊を食べた。


「でもご飯ユージ炊けたっけ?」

「無理だJO。後、ご飯にサバ缶入れて食べるのはオイラ直伝だJO」


 確か米すらユージは炊けなかったはずだ。炊飯器があるとはいえ、ユージが水の分量が完璧にわかっているとは思えない。本当どうやって一人暮らしをしていたのか分からんレベルだ。それを本人に尋ねると、本人はさらっと「元から炊飯器の中に人数分ぴったり入っていたから利用した」と答えた。


「…………」


 それで皆、この料理のカラクリが完全に分かった。

 エダがユージの料理を予想して予め米を炊いた……エダはユージの唯一のレパートリーを知っている。元日本人だからお米を使用することは十分予想ができる。そして元々あるものは利用していいわけだから、ルール違反ではない。たまたまお米が炊きあがっていただけである。


「これはこれでアリですよ♪」

 と、セシルにも好評だ。まぁこの二人の少女はユージが何を出してきても「美味しい」と言って平らげたことであろう。


「オナカ壊さなかっただけマシか」

 そういいながらサクラも食べた。


 しかし少女陣にはいいかもしれないが、大人や男性陣にこの料理は物足りない。肉気も野菜も全然足りていない。


 その夜、ユージと拓とロザミアの三人は、買い置きの珍味を食べながら酒を飲んでいた。この夜ばかりは酒よりつまみの珍味ばかり食べていた気がする……。




==============

火曜日 セシル=シュタイナー

==============




「地雷が二連続!」

「煩い! 私だって料理はできます! 口出し無用ですよ!」


 部屋着にエプロン姿のセシルは腕まくりしてサクラと飛鳥を睨む。


 ちなみに原則料理中他の人間はクロベ家のキッチンには立ち入らない事がルールだが、この日サクラと飛鳥はずっとリビングでゲーム三昧……当然繋がっているキッチンは嫌でも目に入る。他の人間は仕事や大学に行っていていない。


 ゲームに集中したいが、それよりもセシルが何を作るのか、そっちのほうが気になる。


「何作るんや? セシル」

「そんな難しいものは作りません。スパゲティーですよ」


 成程。素人が作るには妥当なチョイスだ。エダはパスタソースを一から作るが、JOLJUは出来合いのソースを使うのでそのストックもある。


「何のスパゲティー作るのよ? まさか塩とオイルだけじゃないでしょうね?」

「ちゃんとソースは作ります! 失礼な! トマトと茄子と鶏肉のソースを作ります」



 ……それなら失敗しないか……? 


 と顔を見合わせるサクラと飛鳥。


 まずセシルはソースを作り始めたようで、大きな中華鍋に豪快に切った鶏肉とタマネギを入れ、そこにトマトを入れる。


 それを横目で見ていた飛鳥が「あかん」と呟く。案の定「アレ? 焦げた? え??」と戸惑う声が。油をひかず肉が焦げ、さらにトマトが少ない上によく混ぜなかったのだろう。


 サクラも飛鳥もセシルの戸惑う姿を見るのは楽しいのだが、後であれを食べるとなると話は別だ。


 他の皆もいないようだし、ちょこっとアドバイスすることにした。


「水やなくてワイン入れると風味がええで~。後はケチャップで誤魔化せ! ケチャップさんは万能や!」

「最悪ソースがケチャップ塗れでも味の失敗はしないゾ、セシル~」

「ニンニク忘れるな~」

「出来上がりにたっぷりチーズ振れば味は誤魔化せるゾ~」

「わ、分かっています! 今ワインとにんにくを入れるところです! ええっと……ニンニクは一人前だと一欠片……一欠片ってどういう意味だ? 一掴みかな?」


 ドタドタと冷蔵庫のほうに走るセシル。とりあえずワインとケチャップは入れたようだから最低限食べられるか……?


 と思ってキッチンのほうを見た飛鳥は見た! セシルが両手に4つほどニンニクを掴み、皮も剥かず包丁でぶつ切りにしてソースの中に入れるのを……そして出来上がる前にチーズを入れたようで、溶けたチーズが焦げ香ばしい匂いを出している事を。



「ウチ……帰ろかな、自宅に」



「逃げるな。死なば諸共だ! 奇跡を信じよう。もしかしたら食えるものができるかもしれん」


「あの……サクラ。これは料理のことじゃなくて好みを聞くだけですけど、ユージさんって甘いのと辛いのじゃあやっぱ辛いほうが好きですよね?」

「酒飲みだしね。辛いほうが好き」

「でも今回はエダさんを喜ばせる料理! なら少し甘めがいいかな?」


 どうやらセシルは麺を茹でようとしているらしい。さすがに人数がいるから湯がく量も多いから大鍋二つだ。


 その時サクラと飛鳥は見た!


 セシルが湯の中に塩と砂糖、両方を入れるのを! しかも相当な量を!!




「あたしも……飛鳥ン家行こうかな。今夜は」



 しかし今更そんなことは許されまい。サクラと飛鳥の気分は一気にアンニュイになった。



 そして予想通りで出来は酷かった。



 ソースは苦く、麺は非常にハードなアルデンテ……つまり半煮えを放置して麺は伸びた。しかし飛鳥のケチャップ助言が少しは功を奏し、笑いながら一皿食べる事はなんとか出来た。



「麺は仕方がないよ。だってこの人数分湯でるの大変だもの。あたしは鍋三つ使うもの。ソースは焦がさなかったら大丈夫だったよ♪ 次はうまくいくよ♪」


 と、エダだけはフォローしてくれた。この料理をフォローできるエダはすごい、とサクラと飛鳥は素直に感心したのであった。





「そうだ! 料理をしよう!」1でした。




というカンジでだらだらっと始まった短編です。

失敗成功色トリドリ! みんなの個性が分かる回です。

サクラと飛鳥がガイド役ですね。一応この二人がメインです。


ちなみに、成功料理のレシピは実際に解説どおり作ることが出来ます。ということで料理ネタとしても楽しんでみてください。


これはあまり長い短編ではないので、全3話くらいかと思います。


さあ、どうなるクロベ・ファミリー! 


ということで、これからも「黒い天使短編・日常系」をよろしくお願いします。


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