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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使」シリーズ
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「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 4」

「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 4」


地震被災地救援活動を続ける一同。

飛鳥が井戸を掘っていると帰ってきたサクラ。

そこで飛鳥は謎の襲撃団の噂を聞きつけてくる。


こうして謎の襲撃犯撃退に出向いたサクラと飛鳥だったが……。

黒い天使「飛鳥の事件簿」4 <不思議な事件>

挿絵(By みてみん)




「どりゃあああっ!!」


 飛鳥が生き生きと声をあげ、地面を掘る。掘った土を、ムハマド君他村の男たちが他所に運んでいく。


 井戸の場所は学校から100mほど離れた道の真ん中だった。ここは道も広く、井戸を掘っても交通の害になることはない。


 午後14時30分。


 ここに拓はいない。拓は米国から持ってきたライフルを背負い村の中を見回っている。


 というのも……14時過ぎた頃、北の山のほうでまた銃声が聞こえた。


「AK47の銃声っぽいな。強盗が出はじめたのかも」

 災害が起きれば略奪者や強盗が出没する。「地震が起きれば津波が来る」のと同じくらい想定される事案だ。拓がやってきた一番の理由はこの対策である。そのため、トラックには未登録の自動小銃やライフル、防弾チョッキも持って来ていた。

 という事で拓は米軍の迷彩服+防弾チョッキに着替え、自動小銃を抱え、村人数人を連れて見回りに行ってしまった。

 なので、井戸掘りは飛鳥の仕事ということになった。

「なんやねん。拓ちんめ、サボリおってからに」

 文句を言いながら、土を掘る飛鳥。


 強盗と対決! 


というイベントのほうが楽しそうではあったが、井戸を掘るのはそれはそれで面白い。なんだかんだと何かを任されて作業するのは好きな飛鳥である。そしてJOLJUの的確な調査で、5mほど掘れば水が出るという事だ。もうじき5mである。


 15時になろうとした頃、ようやく地面に水が滲んできた時…… 奴がようやく姿を現した。


「ナンジャ? こんなところに何で墓穴を掘ってるんだ、アンタ」

 と、現れたのはサクラだった。




 サクラは野ウサギを8羽、野鳥4羽、野鹿を二頭連れて帰ってきた。野ウサギと野鳥は撃ち殺されているが、鹿は生きたままロープに引かれてやってきた。鹿を殺さなかったのは、殺して持って帰ってくるのが大変だったからだ。


 狩りの獲物をムハマド君に引渡し遅い昼ごはんのレトルトカレーを食べながら、サクラは暢気に飛鳥の奮闘ぶりを眺めている。食べながら、これまでの活動を聞くサクラ。

「成程、ユージたちが来て本格的になったのは分かった。で、拓ちんも来た。アンタは牧歌的に井戸を掘っている……と」

「誰が牧歌的じゃ!! 一生懸命作業しとるんやろーが! お前も見てるだけじゃなくて手伝え!!」

「食事中だし、汚れるのいやだし」

「お前何しに来たんやぁー!!」

 全くもってその通りである。サクラは我関せず、他人事のようにカレーを食べている。

 飛鳥は土を掘り、サクラはカレーを食べる。その間に、今の活動状況などの情報を交換し合った。サクラはほとんど山にいっていたので詳しい事は知らない。

「ユージたちが病院開設したんなら、そっちは任せていいな。アンタももうじき井戸掘りが終わりそうだし」

 すでに水位は飛鳥の膝上くらいまで来た。あともう少し水量が出れば使えるだろう。もっとも、今は泥水状態だから、飲み水として使うためには濾過しなければならないが、そのあたりの装置はJOLJUが持っているはずである。今姿は見えないが、どこかで用意をしているだろう。多分……。


 30分後……ようやく予定水位に達したので飛鳥も井戸の穴から開放され地上に戻ってきた。結局最後までサクラは協力しなかった。


「さて! 次はウチ、何やろーかな!!」

 服を着替えた飛鳥がサクラと合流する。

「病院のほう、手伝わなくていいのカイ」

「ふふふっ! ウチにはもっと相応しい活躍の場があるねん!」

「ふーん」

とサクラ。そういうサクラも病院側には行っていない。飛鳥はともかくサクラは病院の方で活躍の場があるはずだが、必然的にユージの手伝いということになる。ユージは問答無用、泣き言一切無用、鬼のようにサクラを扱き使うだろうことは目に見えて分かっていから、サクラはそっちを避けていた。

 JOLJUは、今井戸のところで地下水濾過装置と水流調節装置を組み立てている最中である。ヒマになったのは飛鳥とサクラの二人だけだ。

「まだ山奥にいけば鹿や猪はいそうだけど、これ以上奥に行くと帰って来られなくなるからナァ」

「ふふふっ! 実は面白い話があるねん。ちょっとこい、サクラ」

 実は一度避難所の学校に帰ったとき、飛鳥はある話を耳にしていた。

 話を持ってきたのは、朝、車でこの避難所にやってきた一家だった。この村から20キロ離れたところに住む家族で、食料があると聞いて避難してきたらしい。


 その途中……この村から5キロほど離れた東の山の近くで、突然銃撃を受けたらしい。


「強盗か。こんな大災害で強盗が出るなんて珍しいことでもないじゃん。その対策に拓ちんが見回りしてるんでしょ? 拓ちんに言えばいいじゃん」

「不思議なことはここからや。銃撃されたけど、被害はないねん」

「そりゃあそういう事だってあるワイ」

「実はその家のとーちゃんも万が一を考えてライフルで武装しとったらしいんやけどな。応戦しようとしたけど不思議なことに、襲撃者の姿は見えへんかったらしいねん。よく周りを見てみたけど、強盗団もテロリストもおらん!」

「銃撃じゃなくて、どこかで誰かか猟でもしていたのか花火でもしてたんじゃないの」

「と、思うやん? とりあえずそのおっちゃんも家族がおるから、そんな物騒なところいち早く立ち去ろうとしたんやけど、そうすると今度は空から石が降ってきた。それで慌ててここに逃げ込んできた」

「何が不思議なんじゃい」

「一件だけじゃないねん」と話に興奮してきた飛鳥はムンッと胸を張る。

「聞いて回ったんやが、その東の山からここに逃げてきたほかの人も、石を投げられたり銃声を聞いたりしとる。しかし襲撃者の姿を見た人間は一人もおらへん! そしてなぜか被害は出てない。それだけじゃないで! そこから立ち去ろうとすると、女の人の悲鳴みたいな声を聞いたって話まである!」

「…………」

 それは単に女性が強盗団に襲われているだけではないのか? とサクラは思った。そういう暴行事件も災害後の混乱ではよくある話だ。だが飛鳥にはそういう認識はこれっぽっちもなく、摩訶不思議な事件に変換されているらしい。


「確かに誰も襲撃者を見ていないのは不思議だけど、森の中に隠れたヘタレ強盗じゃないの? AKとかライフルとかならこのあたりじゃあ結構簡単に手に入るし」


「でも、東の山の街道付近は岩山やから、隠れる場所もないし、人もあまり住んでへんからそういう強盗が出るとは考えられへんっていうことらしいで」

「…………」

 確かにちょっと不思議な話だ。火事場泥棒をするなら村までやってくるだろうし、ちゃんとした強盗なら威嚇だけで終わることはなく姿を見せて恫喝してくるだろう。でなければ意味がない。

「5キロくらいの場所やし、もしヘタレでも強盗団がいるならそれはそれで退治せえへんと後が心配やん! ということで様子見に行くぞ! サクラよ!」

「…………」

 どうやらこれは相談ではなく宣言だったようだ。飛鳥は行く気満々で、よく見るといつの間に装着したのか防弾チョッキと木の棒を抱えているではないか。


 サクラも病院の手伝いはしたくない。


 ということで、二人は行くことになった。




 問題の場所は、村はずれから東の山沿いの街道を5キロほど進んだところにあるらしい。

 サクラは飛行、飛鳥はオンボロ自転車でその現場に向かった。

 こういう事件がよほど好きなのか、飛鳥は終始ハイ・テンションだ。病院手伝いがキライでついてきたサクラは、色々仮説や想像を口にする飛鳥に適当に相槌を打っている。

「しかし一番の問題は本格的な強盗団だった時よ。その時はあたしらじゃどうにもならない。あたしも弾が少ないし」

 呟きながら、サクラは愛用のS&WM13のシリンダーを確認した。357マグナム弾が4発。泣いても笑ってもこれっきりである。サクラの腕で、これで撃退できる強盗の数は一人か二人といったところだ。超能力を使えば6人くらいはなんとかなるかもしれないが、それは相手の力量と人数次第だ。まぁ、サクラと飛鳥の二人くらい逃げ帰ることは出来るだろう、くらいの気持ちである。手に負えないと思えば逃げ帰り拓に報告すればいいし、本当にあぶない時は電話で拓やユージを呼べばいい。

「ちょっと待てーサクラ~。地面が悪くてチャリが進まん。ウチを待てー!」

 飛鳥は自転車を降り、押しながら進んでいる。成程、地震のせいで地割れが起きて地面がガタガタだ。確かに道路状況はよくない。サクラは関係ないが自転車で進む飛鳥は大変だった。

 飛鳥は結局そこで自転車を捨てて歩くことにした。ということで、二人連なって進んでいく。


 もうじき到着か……というあたりまで来た時、二人は足を止めた。自分たちを追ってくる人影に気付いたからだ。盗賊かと思ったがそうではない。セシルとマリーの二人だった。


「よかった。見つからないかと思いました」


 サクラと飛鳥を見つけ、セシルは駆けてくる。よく見ると、セシルは自動式のライフルを背負っていた。

「何しにきたんや、アンタら。病院でユージさんの手伝いをしてたんとちゃうんかい?」

「一段落したのと……飛鳥を呼び止めに来たんですよ! あぶない話を耳にしたんです」


「<ドベルクの悪魔>が出たらしいのデス!」


「ドベ……? なんじゃそりゃ」


「今いるこの山周辺が<ドベルク山>らしいです。昔から悪さをする凶暴なナニカがいるらしいんです」

 そうこうするうちにセシルたちも合流してきた。

 セシルは病院で新しく運ばれてきた負傷者から<ドベルクの悪魔>の話を聞いた。ソレはとても凶暴で、機嫌が悪くなると無差別に暴れまわる困り者で、普段は人気のない、このドベルク山の中腹を棲家とし村との接触はないのだそうだが、今回の地震で他の人間が自分のテリトリーに入ってきたり、勝手に狩りをしたりしたので立腹して人を襲い始めたのではないか、ということだ。そういう身勝手で不埒な暴れん坊がいることは、ムーディ村長にも確認して間違いはない。その事はすぐにユージや拓に報告したが、ユージは医師として今も修羅場の最中で、拓も南のほうから200人ほどのまとまった避難民がやってきたのでその整理と対応で忙しく、さらにサクラと飛鳥が独断でドベルク山に向かったと分かり、引き返させるためにセシルとマリーがやってきた……という事らしい。

「死者は出ていませんが、そいつと遭遇して負傷した人は出てきています。サクラはともかく、飛鳥がどうにかできる相手ではありません。だから、この件は拓さんに任せて帰りましょう」

「帰って何するねん」

「仮設トイレを作ったり、ゴミを燃やす穴を掘ったり、瓦礫の撤去をしたり」

「全部土木作業やないかぁーっ!!」

「飛鳥の力が認められているのデス。素晴らしい事なのデス」とマリー。

 そういえばどうしてここにマリーも来ているのだろうか? マリーは治癒能力を持ち怪我人や病人と接するのにも慣れている。そして飛鳥より戦闘力はない。病院向きの人材ではないか。

 サクラがその事を聞くと、マリーはショボンと頭を垂れた。


「病院は追い出されてしまったのデス」


「はぁ? なんで?」とサクラ。


 項垂れるマリーの代わりに、セシルが説明を始める。

「やりすぎなんです、マリーは。ユージさんの指示を無視して、やってくる患者を片っ端から治癒しようとするものですから、ユージさんが病院からしばらく離れろと」

「追い出されました。グスンなのです」


 事実は少し違う。勝手に治癒するのは別に構わない。仮説病院は負傷者で溢れかえっていて、ユージが対応しているのは重篤な患者からで軽傷者はどうしても簡単な手当を村人たちに任せて行うしかない。マリーは性格的にそれを放置しておくことができず、ユージのサポートの合間に、ついつい治癒活動を行っていたのだが、あまりに多くの人間を看ようとするので、マリーは誰の目から見てもわかるくらい疲労してしまった。見かねたセシルが、飛鳥の呼び戻しを口実にマリーを休憩させる目的で連れ出したのだ。

「奇跡を起こすシスターが現れたなんて知れたら、患者が殺到する。ここは信心深いインドだ。そのうち死者を甦らせてくれ、とかいう輩も出てくるぞ。後が大変だから止めさせてくれ」というのがユージの談である。セシルはもっともだ、と思った。


 飛鳥はその説明ではよく理解しなかったが、サクラはその光景を思い浮かべる事ができ、納得した。

「ということで帰りますよ、飛鳥」

「いやじゃぁ~! 穴堀りよりも火事場泥棒退治のほうがいいわい」

「あたしも病院で奴隷の如く扱われるのはイヤだな」

 と、二人は聞く耳もたず山に向かっていく。セシルは二人に追いすがり、さらに説得をしようとした時だ。前方で銃声が聞こえた。セシルは咄嗟にマリーを背に庇い、ライフルを身構える。サクラも飛鳥もその場に伏せた。

「ついに来た! 盗賊団め、出てきたか!!」

「前方300mくらい前かな? ふむ……確かに銃声だ」とサクラ。この期になっても、あまり緊迫感がない二人だ。

「やはりAK47の銃声っぽいですね。でもおかしいな……今、銃声は空に向かって撃たれましたよ? こっちに向かって撃ったようなカンジはないし、人影も見えません」

 丁度300mほど道を上った先だろうか? しかし300mほど先は土砂崩れが起きているようで、本来は車3台ほどが並んで走れるほどの道が車一台分ほどの道幅になっていた。

 さらにそこに、奇妙な地響きのような、雄たけびのような轟音が上のほうから聞こえてきたかと思ったら、その直後、震度3くらいの余震がきた。そして最後に微かに何か小動物のような鳴き声が数秒聞こえた。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 この不可思議な現象に、四人は顔を見合わせた。


「石は……降ってこうへんけど、これが<ドベルクの悪魔>?」

「だと思いますけど、それらしい気配は感じませんね」とセシル。だがサクラは違うらしい。

「何かいるんだよねぇ~ 300m先の岩山の上の森に。殺気みたいなものは感じるし、何かに見られている気がするけど」

「<ドベルクの悪魔>サン、なのデス!」

「でも、何もしてこないよねぇ~? あっちからはこっちが丸見えのはずなんだけど」

「というか、今余震がありましたね。……石が降ってくるっていうのは余震の関係じゃないですか? でも、それだと最後に聞こえた猫みたいな鳴き声は何だったんだろう?」

「仕方がない!」そういうと飛鳥は立ち上がる。

「突撃あるのみ!! どりゃあーーーーーっ!!」と飛鳥はあっという間に駆け出し、山めがけてダッシュした。

「あ、馬鹿!! 飛び出るヤツがおるか! 待てぃ! 馬鹿飛鳥っ!!」と、サクラも銃を片手に飛び出し後を追いかける。

「仕方がないなぁ!! マリーは私の後ろ! ちゃんと付いてきてください!!」

「はいデス!」

 セシルもライフルを構えたまま、ゆっくりと後を追う。それにマリーも続いた。


 200mほど進んだ時だ。サクラがそれを見つけた。


「土砂の上に女がいる! サリー着てライフル持っている女!」

 そう叫んだ時、女はまた上空に向けて銃を放った。

「どこですか!?」

「あの岩の上だ! セシル、撃て! サリーを着た女!」

「誰もいません!!」

「銃声しただろ! そっち目掛けて撃てばいいの!」サクラは振り返り、セシルを見ると岩の上を指差す。だが、セシルは怪訝な表情を浮かべた。

「銃声なんか聞いていません」


「……あれ……??」


 振り向くサクラ。もうそこには女の姿はない。そこは多くの大岩が連なっている。サクラたちに気付いて物陰に隠れたのだろうか?


 殺気のようなものは漂っている。それはセシルも感じているようだ。だが正体は分からない。ためしにもう少し浮かんでみるサクラ。20mほど飛んだところで坂の上と並行になった。すると、岩と岩の間に車の車体のようなものが見えた。

「お、車を発見。あそこかなー?」と言いながら地面に降りるサクラ。だがそのサクラの呟きを飛鳥は聞き逃さなかった。「何!? ついに居所判明か!? よし!」と言って飛び出した。

「あ、こらまて! 勝手に行くな!!」

サクラがすぐに飛鳥の背中を掴もうとするが、飛鳥はそれをすり抜け、すごくすばしっこくあっという間に坂を駆け上がっていく。暴走モードに入った飛鳥は誰も止められない。

「くそっ! あたしはあの馬鹿サポートする! セシルは援護して!」

「了解」セシルは自動ライフルのボルトを引き、銃を構える。マリーも、セシルの後ろからじっと飛鳥を見守っている。

 元々運動神経がいい飛鳥だが、こういう時の行動力とすばしっこさはどこから出てくるのか……超運動神経のいいサクラが飛鳥に追いついたのは、もう坂の上近くだった。

「馬鹿飛鳥! おい、止まれ!」とサクラは飛鳥のパーカーの襟首を掴んだ。タイミングはまさに飛鳥が車に向かって飛び込もうとしたその時だった。服を掴まれて、飛鳥は派手に転んだ。


「いったぁーっ!! 何するんじゃ! この極悪天然ノーテンキ娘っ!!」


「ノーテンキはお前だ! ライフル持った女が潜んでいるかもしれんのに、猪突猛進飛び込むヤツがどこにいる!」


「何をいうてるねん! そんな奴、いたらウチが爆号丸三世でぶんなぐってやるわい!」と、言って握っていた木の棒をサクラに見せ付けた。成程、マジックで<爆号丸三世>と書いてある。サクラはバットとか鉄パイプとか鉈とか、とにかく打撃系武器が好きで、ヘンテコな名前をつけるのも大好きだ。本当は銃も大好きなのだが、銃は周りの猛反対があり中々触らせてもらえないので、飛鳥も半ば諦めている。ともかく、こんな樫の木でできた60センチくらいのただの棒でライフルを持った人間に挑戦するというのは、只の神経と度胸ではない事だけは確かだ。この馬鹿度胸だけは、サクラも感心していいやら認めていいやら、阿呆の極み……と呆れればいいやら……


 とにかく、ここで騒いでいてもしょうがない。サクラは銃を構え、とにかく飛鳥に静かにするように言った。


「ふむ。誠にごもっともやけど、車内に人は見あたらへんで? 後ついでなんやけど、なんか子猫が鳴いてるみたいなんやけど? 車の中にいるっぽいで」


「お前本当に暢気な奴だな。こんなとこに猫なんかおるかい」


「いやいや、本当の話。真面目な話で、子猫、鳴いてへん?」


「おらんおらん。インドに猫がいてたまるかい」


と取り合わないサクラ。だが……確かにサクラも妙な声に気付いた。クニャーンクニャーン……モゴモゴ……そんな音が聞こえる。成程、言われてみれば生後1カ月くらいの猫はこんな声で鳴くこともあった気がする。


 二人は顔を見合った。


「ライフル持った子猫?」


「そんなもんおるカイ。……車の後部座席ね。何か気配を感じるから誰かいるのは確かだけど……」

 サクラはそういうと車内を睨む。車は前半分が土砂で潰され、残り半分も岩で潰されている。つまり普通の車の1/4しかスペースがない。もうここは10mもないくらいの近距離だ。女が隠れているならもう見えているはずだし、あっちからも見つかっているはずだ。さっき確認したが、この車の車内以外、人が隠れている場所はなさそうだ。

「あの……この鳴き声ですけど……飛鳥の気のせいじゃなくて事実みたいです、サクラ」ようやく追いついてきたセシル。セシルは困惑顔でライフル銃の安全装置をかけた。

「こんなところに子猫ぉ~!?」

「子猫じゃなくて、赤ん坊です!」

「…………」

「…………」


 サクラと飛鳥の二人は再び顔を見合った。そんな事がありえるのか?


 もしや……と、警戒しながら車を覗きこむサクラと飛鳥。


 そして、それを見つけた。生きた赤ん坊である。






「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 4」でした。


出てきたのは赤ん坊!! 謎解きは次回!!


しかしサクラはともかく飛鳥は怖いもの知らずでアクティブです。

もっともこの無鉄砲な行動力こそ飛鳥の醍醐味!


そしてこのシリーズはもう少し続きます。

サクラと飛鳥のちょっと不思議なドタバタ劇を楽しんでもらえたらと思います。


これからも「黒い天使」の短編シリーズを宜しくお願いします。


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