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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使日常編 『困った刺客』2

黒い天使日常編 『困った刺客』2



殺し屋はいなかった。

さっそく捜査に入るユージと拓。

しかし相手はプロで、全然手かがりも証拠もみつからない。

そんな中、捜査は進むが意外な事実が判明する。



***

挿絵(By みてみん)


 銃撃で割れたガラス。無人で埃っぽい無人の部屋。壊された出入口のドアの鍵。

 間違いない。ここが現場だ。


「さすがに薬莢は落ちてないな」

「相手はプロだ。ドラマじゃあるまいし、薬莢は拾って帰る」

「お前、当てたんじゃないの?」

「当てた。死んでないようだ。狙撃は座り撃ちか……なら当たっていたとしても腕か頭か肩か。多分腕か肩だな。頭なら鮮血が飛ぶ」


 腕や肩なら服があり、血は衣服で飛び散らない場合がある。その後すぐに縛れば血は垂れない。


「本当に当たったのか? 見えてなかっただろう」

「間違いなく当てた。多分被弾を契機に逃げたんだろう。薬莢と血を拭いて……俺たちの目を盗んで逃げた」


 腕か肩が撃ち抜かれれば、銃撃戦などできない。勝ち目がなくなったから逃げた。逃げる事も知っている……間違いないプロだ。


 ユージと拓だけだ。完全に建物を封鎖したわけではないし、出入口は二階からや非常階段を使えば逃げられる。それに共犯者がいれば簡単に出し抜くことは可能だ。向かい打ちにせず逃げたのは被弾し戦闘力が低下したからだろう。でなければこれだけの腕を持つプロが、わざわざ標的本人が乗り込んでくるのを迎撃しないはずがない。


 この狙撃者は、そういう冷静な判断もできる相手だ。間違いなくプロ中のプロだ。


「仕方ない。NY市警の鑑識に頼もう。この時間だ。血痕くらいはどこかにあるかもしれん。後は周辺の監視カメラだな。少なくともどこかに怪しい奴が映っているだろう」


 ここはマンハッタンの繁華街の中だ。そこらじゅうに監視カメラはあるし、何だかんだと1分ほど銃撃戦を行った。これで犯人の情報がまるでなしということになれば大騒ぎしたユージたちが叱られる。




***



 NYのど真ん中で自動小銃を撃ち合ったということで周囲は一時騒然となったが、NYPDが裏社会の抗争ということで上手に誤魔化してくれたようだ。ユージが狙われる事なんてしょっちゅうで、そのあたりFBIもNYPDもマスコミも慣れっこだ。


 鑑識が忙しく立ち入り、見知った市警の刑事たちがいろいろ指示を出している。ユージと拓は一先ず各関係者に報告やら連絡やら手続きをやっている。


 それが終わり、ユージはようやく拓と合流した。一応二人はもうこの場から離れていいといわれている。鑑識の結果が出るのは早くて夕方だ。



「コールが呼んでいる。ま、いつもの事だが」

 射殺していれば報告書を書くだけだが、今回は逃がした。捜査はこれから始まる。

「で、だ。頼みがあるんだが」

「エダちゃんだろ? いいよ、大学に迎えに行ってくる」


 今回襲撃者は逃げた。間違いなくユージを狙った暗殺者だ。これで諦めるとは思えない。ユージを取り逃がした以上、次に狙われる可能性が高いのはエダだ。


「わざわざピンポイントで俺を狙撃するような奴だ。俺の家族の事も調べているだろうからな」

「サクラは?」

「今朝はいなかった。が……確かエダが昼食用にでかいおにぎりを作っていたな。2個多かった。ということは、あいつら昼には帰ってくるのかもしれん」


 帰るなら帰るで連絡ぐらいちゃんと寄越せ! とユージは舌打ちする。いや、ちゃんとエダには連絡しているからサクラたちはまったく悪くない。


 サクラが誘拐される可能性はゼロではないが、サクラとJOLJUが誘拐されるはずがない。いっそサクラを狙ってくれれば事件は簡単なのだが。



「悪い。エダだが、確か13時からの中世古典の授業を楽しみにしてた。その講義が終わったら、家に連れ帰ってくれるか?」

「OKOK。任せろ」


 大学内でこっそりガードすることはそう難しくない。拓は若く見られるし、服装もスーツではなくカジュアルジャケットだ。それにこういう事態はままあり、校内の警官や警備員を見知っている。


 拓は集まっているNYPDの警官たちに挨拶して去っていく。ちなみに拓がムスタングを乗っていく。ユージはパトカーに乗りNY支局に行くから問題ない。支局からは自宅も送迎を頼めば帰れる。



 拓が去ってから30分。NYPDの鑑識からようやく貴重な情報を得られた。

 血痕が発見されたのだ。

 ビルの裏の出口のすぐ近く。そして裏通りに一点。血液反応も新しく間違いないだろう。



「おそらく当たったのは右腕ですね。すぐに腕を縛ったんでしょう」

 鑑識係のチーフ、ロバート=レイダス警部補がやってきてユージに報告する。


 血痕の形で大体の負傷箇所の推理はできる。ユージも頭部に当たっていない時点で肩か腕だとは思っている。露出点がそこしかないからだ。


「俺が撃ち込んだのは10発です。運が良ければそのうち一発に犯人の血がついているでしょう。DNA検査で同一人物だと証明されれば、後は犯罪者記録と照会するだけです。あれだけの腕を持つスナイパーが今回初めての素人とは思えない。きっとプロのスナイパーで過去にも誰かを殺している。もしくは軍関係者か警察関係者……どっちにしてもDNAが分かれば何者かは分かると思います」


「FBIにもデーターは送る。もっとも君が犯人を撃ち殺すほうが早いかもしれん」


「腕を撃ち抜かれたのなら今日は襲ってくることはないでしょう」


 狙われる事も襲撃にあう事も慣れているが、あんまり長期戦になるのは好きではない。


「ま……心当たりは数限りなくあるんで、そっちから捜査しても暖簾に腕押し糠に釘ですし。返り討ちにするほうが楽です」


 そういうとユージはため息をついた。ただのソロの殺し屋なら返り討ちにして終わり。しかしもし単独犯でなく、かつ組織が絡んでいるなら血の雨が降り血の海が生まれる。FBIは捜査するだけの組織で現場の後始末をするのはNYPDだから、頭が痛いのは彼らのほうだろう。が、そこまではユージも責任はもてない。


 ユージはようやく工面できたパトカーでFBI・NY支局に向かった。誰が送るかで市警はものすごく揉めたらしい。誰だって襲撃される危険は負いたくない。こういう点、ユージは死神ではなく疫病神であった。




***


 


 その後、ユージは一旦6時で家に帰ったが、8時に再びFBI・NY支部に呼び出された。拓も同行する。エダが口喧しく言うので、防弾仕様のレザーコートを着ている。拓も同じ仕様のレザージャンパーを着ているから、二人ともFBI職員にはまず見えない。


 二人を呼んだのは支局長のコール=スタントンだ。

 支局長室に入るなり、コールは眉を顰める。


「防弾チョッキくらい着ろ! 狙われているんだぞ」


 と、開口一番理不尽な雷が落とされユージは閉口する。しかし支局長なりにユージを心配しているようだ。これはこれで一つの愛情表現だ。


「あんなもん着ると動きが鈍ります。そっちのほうが非効率的です」


 素直に上司の気遣いに感謝すればいいのだが、このあたりユージはひねくれている。


「ナカムラ捜査官はエダ君やサクラ君の護衛じゃないのか?」

「今二人とも自宅にいるから安全です。我が家にいる限り何百人襲ってこようが核ミサイル撃ち込まれようが何ともありません」


 ユージの自宅もフォース・フィールドのバリアーがあり、強固なセキュリティーがある。何せメイド・イン・JOLJU製だ。ホワイトハウスより防御力がある。そして警察署も真っ青なほどの武器もあるし、非常時には転送機もある。何より今、サクラとJOLJUがいる。万が一など起きることはない。もっともコールはユージの社交辞令だと受け取ったが。何よりこの部屋にはもう一人、客がいる。NYPDサミュエル=ロドニー警部だ。


 ユージは二人の顔ぶりを見て、昼の狙撃の件だと分かった。

 が、聞かされた結果は思っていたものと違っていた。



「容疑者不明?」

「前科者リストに該当するDNA所持者はいなかった」とロドニー警部。

「うちのリストも該当者なしですか?」


 NYPDは基本NY州とNY近辺の犯罪者を重点に置かれたデータベースだ。該当しない可能率はある。だが全米他関係諸国の犯罪者のデーターを持つFBIのリストまで引っかからないというのはどういう事だろう。


「じゃあ、これが初犯ですか?」

「か、どうかは分からん。だが一応監視カメラにそれらしい人間は一人見つけている」


 そういうとロドニー警部はプリントアウトした三枚の写真をユージたちに手渡した。


「その写真の右中央のパーカーを着ている。ゴルフバックも持っているし間違いないと思うが、見覚えはないかね? クロベ捜査官」


 確かに三枚の写真には、黒のパーカーを頭からすっぽり被った人間が映っている。ゴルフバックにはライフルを入れているのだろう。口元にはマフラーがあり、大きなサングラスをしている。これでは顔どころか年齢も性別も分からない。


「そしてこの先の地下鉄を最後に行方が分からない」

「NYの地下は迷路ですからね」


NYの地下鉄は歴史が古く、監視カメラが完全に全域を網羅しているわけではない。地下には上下水道、電気、ガス管などがあり、ほとんど迷宮のようになっている。ただでさえ扮装しているぽい容疑者がそれらカメラや人の目の死角に入り着替えられたらもう追いかけることは不可能だ。



 ただ一点……有力な情報がある。



「背が低いな。身長160cmちょっとしかない」と言ったのは拓だ。「背を高くする事はできるけど、低く工作するのは難しいからね」

「この身長だと、女である可能性もあるわけか?」とコール。

「パーカーがダブダフで体型は分からないから、その可能性はあるかもしれません」


 女かも、と聞いて露骨に嫌な顔をするユージ。こういう点フェミニストというのは本当かもしれない。


「もう少しマシな情報はないんですか?」

「使用された銃は判明している。ドラグノフ狙撃銃だ。ライフルマークから確認した」



「えっ」



 今回、初めてユージが驚きの表情を浮かべた。



「間違いない? ソ連製のドラグノフですか? 本当に?」


 ガン・マニアのユージはもちろん知っている。ソ連製7.62×54ミリR口径の狙撃銃で、もはや旧世代どころか旧時代の軍用自動式狙撃銃だ。旧共産圏他第三国で大量に作られた狙撃銃で、世界中で安価で手に入る。



 問題はそこではない。


 まず第一に、軍用狙撃銃といっても優れた精度がある銃ではない。AKよりマシというくらいで西側の軍用狙撃銃に比べるべくもない。


「間違いない。弾のほうはブラジルのメーカーのものだ」

「変な話ですね」とユージは訳が分からずため息をつく。コールはそれを見て首を傾げた。

「ドラグノフ狙撃銃の有効射程は800mなのだろう? 射程距離内じゃないのか?」

 コールはあまり銃には詳しくない。

「ドラグノフでそんな遠距離射撃は論外です。あれは300mくらいまでの人間を撃つ銃で600m離れた人間の頭を一瞬で撃ち抜く銃じゃありません。例えるならS&Wチーフ・スペシャルで50m先のリンゴを撃ち抜くようなものです。支局長、警部。やれますか?」


「無理だろう」とロドニー警部。S&Wチーフ・スペシャルは38口径。有効射程距離はデーター上50mだが、2インチバレルのリボルバーで当てられる距離は精々15mくらいのものだ。普通の警官や刑事でも結果は同じだろう。しかしユージはこの条件でも当てる自信がある。そして拓も、5発あれば1発は当てられるだろう。


 コールもちゃんとユージの言葉の中にある比喩に気づいた。


 つまり、ユージに勝るとも劣らないほどのプロ……銃に精通している相手だという事だ。


 しかし、それが事実だとすれば別の疑問がある。


 それほど銃に精通した人間が、どうしてドラグノフ狙撃銃なんて使うのか? 米国でもミリタリー好きや狩猟用に売られているが、値段はそんなに高くない。むろん市場に流れているドラグノフはまず中古品で、旧共産圏から放出された軍放出品が多く使い込まれているものが多い。


「そうなのだ。わざわざドラグノフを使う理由が分からん。同じ値段で中古のレミントンM700が買える。性能を考えればそっちを買うはずだが」


 ロドニー警部の言う通りだ。レミントンM700はもっともオーソドックスかつスタンダードなボルト・アクション・ライフルで、軍や警察でも多く使われている。狩猟用としても人気で中古市場でも多く売られている。偽装の身分証があれば大きなスーパーマーケットやアウトドア・ショップなんかで即日手に入る。カスタム・パーツだって豊富だ。


「矛盾するわけだな。何か拘りがあるのかもしれん。クロベが何を言っても44マグナムを使うようなものだな」

「俺の場合オーバースペックだからいいんです。ロースペックは被害拡大の源ですから」

「お前がもし暗殺者なら銃は何を使う?」

「7.62ミリならHK PSG1。口径が何でもいいのならPGMヘカートⅡの50口径ですね。確実に殺しますよ」


 ユージはオーバースペックが大好きだ。そして銃に関してはどういうわけか高級志向だ。


 500m以上の距離で確実に殺すのなら口径は50口径がいい。防弾チョッキを着ていようが車に乗っていようが吹っ飛ばせる。もっともユージなら600mの距離を223口径でも狙撃する化け物である。


「まだ襲ってくるかね?」

「狙撃はないんじゃないですか? ゆっくり狙わせる俺じゃないですから。それは向こうも分かっているはずです。負傷した状態で精密射撃では俺には勝てない」


 それが分からないレベルの相手であれば、そのうち迎撃できるだろう。しかしどうやら今回の相手はそう単純な相手ではなさそうだ。


「クロベ捜査官。市警の護衛はどうする?」とロドニー警部。一応ユージもNY市民で、すでに事件になっている。狙われている以上対応するのはNYPDの仕事だ。



 数秒考えた。



「じゃあ、ウチのマンションとエダの大学、後州立病院にパトカーを一台配備しておいてください。ああ、一流の警官は必要ないですが新人も困ります」


 そこまでは大人しい……かと思った。だがこの後の太々しさがユージである。


「俺が射殺したら素早く後始末してくれるだけでいいです。間違っても撃ち合いの時出しゃばらないでください。巻き添えで被害を受けたら救命する俺の手間が増えます」



「…………」


 これにはロドニー警部も言葉が出なかった。



 が、彼も、NYPDもユージ=クロベ捜査官という化け物をよく知っている。結局この控えめな要請は受け入れられた。




黒い天使日常編 『困った刺客』2でした。



今回ユージと拓ちんの挿絵入りです。


今回は関税にポリティカル・ストーリーですね。

相手は中々尻尾を掴ませない謎のスナイパー! 

そしてドラグノフ愛用という特徴!

分かったのはこれだけです。


しかしこういう事件はユージにとっては珍しくないので、ご覧の通り平然としています。

ユージに言わせれば捜査で見つけるより返り討ちで殺したほうが早い、くらいに考えてますね。これでも捜査官なのだろうか……w まぁこれがユージの日常みたいなものですが。


ということで捜査は続きます!

が、短編なのでそんなに長くないです。

そしてこれからが「仰天ニュース」になっていきます。


これからも「黒い天使短編日常系」をよろしくお願いします。


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