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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
77/206

黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』5END

黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』5



事実を知り悶絶するエダ。

そして困る一同。

結局、サクラが一肌脱ぐことに!


「100万ドルのシンデレラ」編、完結編!



※「AL」のネタバレが一部入っています。

***



 飛鳥が集めたアイリーン関連とジョン社長の重大発言の動画をエダは見た。


 あまりに自分にソックリなアイリーンに驚き、感心し、感動し、そして急に恥ずかしくなり赤面して体をよじらせるエダ。その可愛らしい仕草や様子をサクラたちは見守る。



「あー可愛いなぁ、エダさん。もう、なんかこうキュンキュンくるな! これが<萌え>って奴なんやなぁ」

「可愛い……はいいとして、年上だけどな、エダは」

 とはいえ、さすがにこれを見ればエダもサクラたちの用件が何であったか、一発で理解した。


「リドリーさん、すごい! ここまで作りこむなんて。でも本当にあたしが演じたのってカットシーンだけなんだよ?」


 悶絶から回復したエダは、もう一度アイリーンの動画を見ている。


 エダがいうには、渡されたのは台本だけで、後はアイリーンのキャラクターについて説明を受け、それから「アイリーンになったつもり」でカメラの前で自由に演じてみせた……それだけだ。その時リドリーはビデオカメラを回していたが、他にスタッフはいなかった。全セリフを一通り、英語と日本語でアフレコもした。大体一2週間くらいの事だ。ちなみにギャラは断ったとの事。昔からエダは飛鳥と真逆で金銭欲が少ない。ただし匿名で、というのも条件にあった。


 リドリーはそれだけエダに惚れ込んでいたのだろう。


 彼は一人で作りこむタイプのクリエイターで、協力者も少なかったから、モデルであるエダの事を知る人間はいなかったのだろう。


「こんなにソックリにする話じゃなかったんだけど……でも、あたしも余計なお願いしたからかな?」

「お願い? ナニソレ」

「うん。セリフはね、ちょっとあたしなりに変えていいかっていうお願いと……EDクレジットには表記しない事。後……<あたしを知っている人が見ればあたしだと分かる仕草をどこかに入れて欲しい>っていう事なんだけど……」

「仕草どころかエダがそのまま作られたワケね」

「嬉しいやら恥ずかしいやら、だね」


 エダは少し困った顔で苦笑した。どうやら怒ってはいないらしい。


 リドリーは問題ではない。文句を言いたくてもすでに亡くなっている。問題はジョン社長のほうだ。そして100万ドルというとんでもない大金が関係している事のほうだ。



 最初は「困ったね」と、ただ困っていたエダだったが、すぐにある事に気付き顔色が変わった。



「裏社会の人たちが騒ぐかも」

「あー……そういう連中もいたね」


 エダは<クロベ・ファミリーの王女>だ。ユージは賞金首で恐れられているが、エダは回り巡って逆に慕われている。ユージと冷戦中のマフィアの幹部たちもエダに対しては甘くて優しい。もっともこれはエダの魅力だけでなく、エダだけがユージを制御できる抑止力者という意味もある。エダの口利きで命拾いしたマフィアは少なからずいる。


 ということで、エダはむしろ裏世界の方で顔は知られているのだ。



 問題①……エダを知りたいというジョン氏に痛い目に遭わせようと考える輩。

 問題②……100万ドル欲しさににエダの情報を売り込む輩。



 たまたま飛鳥がいち早く気付いたが、ジョン氏の発表からすでに数日。何せ100万ドルだ。米国にはそういう情報に鋭い探偵や賞金稼ぎがいるし、エダのことを(顔だけ)知っている裏社会の人間もいる。雰囲気どころかあれだけ似ているのなら、そろそろ気づくだろう。



 表の探偵はともかく、裏社会の人間はまずい。何せ100万ドルだ。この額だと人が死んでもおかしくない。



「問題①の連中はユージがなんとかしてくれるかもしれんけど、問題②はどうにもなんないかもねぇ」


 サクラも頭を掻く。どっちも自業自得といえなくもないが、ジョン氏だって悪気があってあんなことをしたわけではないだろう。裏社会の連中に「知らなかった」は通じない。


「リアルに王女様なんやな、エダさん」

「国じゃなくて最強の死神巨大ゴジラが後ろについてるけどね。どうしよう?」

「やっぱり、あたしが会いに行くしかないかな?」


 騒動を一刻も早く鎮めるには、もうエダが会いに行くのが一番手っ取り早い。だが相手が相手だ。あのムービーの熱弁を見る限り、すんなり納得するようには思えない。きっと大々的にカメラは入るだろうし、マスコミだって騒ぐ。続編なんかのオファーも受けるだろうしエダもマスコミの注目を集めるだろう。今のエダの立場上表舞台に出るのは好まないしまずい。それは家族であるサクラにとってもまずい。


 とりあえずユージにはまだ知らせない、という事は一致した。ユージが知れば本当に叩きのめしに行きかねない。


 しかしさすがのエダにも飛鳥にも良案はなかった。


「仕方ないな。サクラちゃんが一肌脱ぐか」

「できるんか? お前」

「ま……こういうちょっと不思議体験はあたしの専門分野だからね。ということでエダは気にしなくていいよ。なんとかしてくる」

 とはいえサクラだけではどうにもならない。

「ちょっとエダと飛鳥の協力はいる。後JOLJU、お前もだ! さてさて……ユージが帰ってくる前にさっさとやっちゃおう♪」



「…………」



 ということになった。





***




「ジョン氏へ。アイリーン=ローンです。本名を名乗らない御無礼をお許しください」


「リドリーさんが、あんなにも魅力的に作ってくれたことに感激しています。そして夢溢れる<ロボティック・シャングリラ>に関われて嬉しく思います。あんな素晴らしいアイリーンとゲームを作ってくれて感謝の気持ちで一杯です。本当はあたしもジョン氏に会って感謝を伝えたいけど……ごめんなさい。あたしは静かで平凡な生活を望んでいます」


「そしてリドリーさんとアイリーンは、あたしのメッセージを叶えてくれました。あたしのメッセージ……ある人への想いを届けてくれました。だから、今あたしは幸せです」


「アイリーンはこれからも冒険者となった兄を探して強く生きていくんだと思います。それがハッピーエンドになるのかバッドエンドになるのか、それを決めるのは皆さんだし、彼女もきっといい成長をしていくのだと思います。あたしは一ファンとして、彼女の成長とシャングリラの世界の平和を祈っています」


「そしてアイリーンを作ってくれたリドリー氏に感謝と哀悼を。このゲームを世に出してくれたジョン氏に心から感謝と応援を送ります」


「最後にあたしは今幸せです。これは皆さんの力のおかげです。そしてジョン氏の気持ちもとても嬉しいです。アイリーンも、幸せになってほしいと願っています。これからも楽しく面白いゲームを作って下さい」


「そして…………」


「…………」




***




 数日後……。


 サンフランシスコのゴールド・ボム社本社のスタジオで、CEOジョン=ホーホスが再びカメラを入れた。


「まず報告したい。先日話したアイリーンの件だ。彼女は実在した。そして……感動した。彼女はアイリーン以上に美しく聡明で、魅力的だ。僕はアイリーンのクオリティーに絶対の自信があったが、やはりまだ現実は越えられない。モデルの女の子はもっと魅力に溢れていたよ」


「CEOはいつ会われたのですか?」


「それは秘密だ。ただ、僕は今回の騒動で彼女の身辺を騒がせたことを恥じなければならない。だから、皆も彼女の事はこれ以上調べないよう、ファンの皆やマスコミの皆にお願いしたい。それが彼女が僕に会ってくれた条件の一つだからね」


「100万ドルは彼女に渡されたのですか?」


「いや、受け取らなかった。だがこれでは僕の気持ちがすまないからね。だからこの100万ドルは、貧困家庭の子供たちに使う事にしたよ。実はそれがアイリーンの願いでもあったんだ。どうだい、いい子だろ?」




***



「これが<サクラ幻魔拳>の威力かー」


 東京練馬の自宅でネット配信されたジョン=ホーホス氏の放送を見ながら飛鳥は呟いた。


 あの後、サクラたちとジョン氏に向けてエダはビデオ・メッセージを作った。カメラマンは動画撮影に慣れた飛鳥だった。だからエダは直接ジョン氏とは会っていない。


 だが接触したのは普通の方法ではない。


 サクラとJOLJUがこっそり接触した。それも特別な方法で、入れるはずのない彼の自宅の寝室に突然現れるという形で。


 そして様々な条件をつけ、彼が了解した後一枚のDVDを残し消えた。


 彼は不思議な体験をした。

 何せ現れた少女は、強固なセキュリティーを潜り抜け、「黒い天使」と名乗り忽然と姿を消したのだから。こういう摩訶不思議な体験に末渡されたDVDの中に入っているビデオ・メッセージは、2回しか再生できない代物で絶対コピーも録画もできない代物だ。これはJOLJUがプログラムしたものだから絶対だ。1回ではなく2回にしたのは、これが夢だと誤解されないためだ。もう1回くらいはサービスしてやろう。


 もっとも、ジョン氏はそういった試みはしない。しないようサクラがたっぷり嫌味を言ってきた。人の心にプレッシャーを与える……それがサクラの能力だ。飛鳥だけがこの能力を面白おかしく<サクラ幻魔拳>と呼んでいる。


「しかし……100万ドルとはいわへんケド、1000ドルくらいは貰ってもよかったのに。ウチこそ功労者やのになぁ」



 この案件はそもそもウチが持ってきた話やないか……と、少しだけ思う飛鳥である。


 ちなみに裏社会のほうは、後日話を聞いたユージが手を打った。予想した通り何件か不届きな計画を立てていた連中がいたらしいが、皆ユージが気付いたと知り手を引いた。連中にとっては100万ドルよりユージが怖い。



「あーあ。今回の事件もネタにはできへんか。面白いネタやったんやがな~」


 と、飛鳥は大きなため息をついた。まぁ絶品のビーフシチューが食べられたから今回はこれでいいとしよう。





***




「ごめんね、色々」

「100万ドルは少し惜しかったけど、そのくらいユージが稼ぐでしょ?」


 NYのクロベ家でも、ジョン氏の放送を見ていた。

 ユージは相変わらず捜査でいない。サクラとエダだけだ。JOLJUはもう寝ている。


「ま、さんざん不思議体験させたから大丈夫だろう」


 ちなみにビデオ・メッセージだけではない。ちゃんと実在する人間がいた証明として、サクラはIP電話のアドレスを伝えていた。そこで5分だけ、エダと直接電話で会話をする機会があった。ジョン氏はそれで完全に満足した。



「ところで……エダがどうしても入れてほしかったメッセージって何?」


 確かエダもそんなことを言っていたし、ジョン氏も言っていた。元々エダも「分かる人が見れば自分だとわかる仕草と台詞」を条件にしていた。


 エダはちょっと恥ずかしそうに笑った。



「ユージへのメッセージだよ」



「だとは思ったけどね」

「あの頃……ユージとは全く連絡できなかったし行方も知らなかったから」

「潜入捜査官の時代、か」


 まだサクラが養女になる前の話だ。


 ユージはFBIの一大作戦の中心人物として裏世界に潜入した。闇医者兼犯罪者として。そのため表の関係者は全て縁を切った。日本国籍を捨て、姉と絶縁し、エダとも別れ、拓とも切れた。そしてエダは実家に帰った。


 終われば必ず迎えに行く……だがそれまでは絶対に連絡しない。


 ただの潜入捜査官ではない。全世界の大物を釣り上げる大役だ。身内や弱点があれば狙われる。エダの安全のためにも絶縁は絶対で、それはエダも納得の上の話だった。


 潜入期間は未確定だった。二年で済んだのはあくまで結果に過ぎない。


「エダはちゃんと待っているって伝えたかった?」

「うん。それもあるし……あたしは元気だよ、って伝わればいいかな……って思ったの。ユージ、昔はゲームしたんだよ? 今は忙しいからしないだけで。お父さんの仕事も知っていたし……ゲームのムービー・シーンとか、動画でインターネットで公開する人がいるから」


 ユージだってネットぐらいは見るだろう。その時見るかもしれない。

 当時、エダから発信できる、唯一の方法……それがアイリーンだった。


「成程。アイリーン=ローンは確かにエダだったんだね」


 兄を待ちながら精一杯生きるアイリーン。それはユージを待つエダと重なる。

 エダがリドリーに協力する気になったのは、このアイリーンの設定があったからだ。


「今考えるとちょっと恥ずかしいけどね」

「何年ごしかのエダのラブレターか。もしくはシンデレラってところね」

「うん。でもゲームの開発って思ったより大変なんだね。まさか今頃になってアイリーンを見るなんて思わなかったよ」

「そだね。一種のタイムカプセルね」


 サクラには恋愛は分からない。

 だがアイリーンの明るく元気な笑みに意味があるからこそ人の心を掴むのだろう……という事は分かる。作り物ではない本物の心がある。



「ま……すべてユージが悪い! 今の捜査が一段落したら何か美味しいものでも御馳走してもらわないとね」

「あはは。そうだね」

「100万ドルとは言わないけどね。ダイナーじゃなくてちゃんとしたお店がいいな。サクラちゃんもチーズバーガーじゃなくてたまにはフレンチが食べたい!」


 そういうと二人は笑った。






 こうして今回の事件は大騒ぎすることなく終わったが……まだ後日談がある。


 この一年後……<ロボティック・シャングリラ>にはエピソードが追加されたのだが、そのゲーム内で不思議な力を持つ12歳の赤毛の美少女キャラが追加された。


 なんでも……社長直々の特別キャラクターであるという。


 この話を知ったサクラは露骨に嫌な顔をした。




「あの男……真性のロリコンだったんじゃないの?」

 と、呟いた。



 それが事実かどうか、その真偽は分からない。


 そしてアイリーンがどうなったのか……それはまた別の物語である。





 


黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』5でした。



ということでオチとしては、まぁそんな大したことはないのですがw

実はサクラが「黒い天使」を名乗り登場する久方ぶりのエピソードだったりします。

まぁサクラとJOLJUなら、どんなセキュリティーも関係ないですしねw


一応今回のメインはエダで、ラブストーリーだったわけですが、前々からいっていますが「AL」の外伝でもあります。ユージが潜入捜査官をしている時代は「AL」と「黒い天使」の二つの作品がクロスオーバーしている時期です。

これを書いたときはまだ「AL」を書く覚悟はしていなかったのでネタバレになっちゃいました。ま、もうそこは開き直っていますが。どうぞ開き直って楽しんでもらえたらと思います。


しかしなんだかんだと本当に飛鳥はお金にありつけませんねw 宿命みたいなものですw


次回はユージ・メインのハードボイルド系+世界びっくりニュース?系短編の予定です。

サクラはほぼゲストです。

ユージと拓ちんメインです。こっちは「AL」のネタバレはないのでご安心ください。


これからも「黒い天使短編日常編」をよろしくお願いします。


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