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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
75/209

黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』3

黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』3



それは数年前……。

とある映像作家は、ある少女を知り惚れ込んだ。


そして時が流れ……。

ゲームムービーを検証するサクラたちだが、どうやら間違いないようだ。

アイリーンは、エダである。




***


 数年前の事だ。

 NYのスタジオを離れ、リドリー=パトリックは知人の家を訪ねた。

 単なる気分転換……のはずだった。

 一人の少女に出会うまでは。


 ハイスクールから帰ってきた少女は、眩しいほどの笑顔を浮かべ挨拶をして、雑談をする自分たちに飛びきり旨い紅茶と手作りのクッキー菓子を運んでくれた。


 彼女はまだ15歳か。だが人生で最大のインパクトだった。


「しかしすごい美少女だな、ロバート」

「ああ美人だ。『トンビがタカを産んだ』……日本語にそんな言葉があってね。本当にあの娘は綺麗に育ったものさ。すごくいい娘だ。明るくて優しくて、勉強もできるし運動神経もいい。料理も得意だし友達もいい子ばかりだ。完璧な娘さ」

「以前遊びに来た時は……2年前はいなかったじゃないか。何か秘訣はあるのかい? ロバート」


 もっとあの少女の事が知りたくて、リドリーはリビングを散策する。壁には何枚も家族写真があり、幼い頃の少女も思わず笑みが零れそうなほど愛らしかった。


 が、少し不思議なことに気付いた。

 こんなに愛されているのに、ローティーンの頃の家族写真がなかった。


「あの娘は大変な目にあったんだよ、リドリー。いや、詳しくは僕も知らないし語れない。それに……あの娘はもう、僕のものじゃないからね」

「どういう意味だい? 何かあったのかい?」

「ちょっとね」

 そういうとロバートは少し哀しげに笑った。

「あの子はもう親の元を離れてしまった。あの子はもう……立派な大人なんだ。恋人がいてね。いやリドリー、娘は早熟てるワケじゃなくて、むしろ晩生で初心すぎるくらいなんだが……将来を誓い合った男がいるんだ。それも……人生全てを賭けても惜しくないほどの大恋愛中でね」

「羨ましい。同級生か?」

「いや……年上の日本人なんだ。彼も特別な人間で……今は会えないんだ。いつか彼は自分の仕事を終え娘を迎えに来る。娘はその日を静かに明るく待っている。多分、あの娘は……きっと10年でも、20年でも、50年でも、笑顔でその日を待っているだろう」


「まるで童話の中の御姫様だな」


「そうだね。だからあの娘はその点、大人だ。もう親の加護は必要としていないし、僕たちが教えることは何もない。反抗期もないし、夜遊びもしないし、柄の悪い馬鹿な男子に憧れたりもしない。僕たちより遙かに心は強い。そして彼が来るまで、あの娘は永遠に少女のままの純粋さと愛らしさを持ち続けると思う。あの娘が美しくて魅力的なのは、その娘の人生の美しさだね」そういうとロバートはクスリと笑った。「僕としては、いつまでも僕の書斎で、チョコクッキーを齧りながら僕にしがみついてじゃれていて欲しかったけどね」


「父親の苦悩だな」

「ああ。だが、最高の苦悩だよ」


 リドリーは頷きながら、思った。

 あの少女の魅力を、描きたい。後世に残したい。

 子供と大人の僅かな境で、両立している10代の少女の純粋で眩しく健康的な美しさを、残したい。彼女がもっていた、暖かい太陽と爽やかな草原のような大自然の温もりと均整のとれた神韻とした高い芸術作品のような姿を残したい。


 自分には持病がある。余命はそう長くないかもしれない。


 ならば映像作家の端くれとして。クリエイターの端くれとして……その娘の魅力に挑むことが自分の最後の仕事ではないか。


 それに……愛する者を待つ少女……丁度依頼を受けていた新規ゲーム・タイトルのキャラクターともイメージは一致する。これこそ運命的な出会いではないか。


「ロバート。実は折り入って頼みがある。いや、答えがNOなのは重々承知なんだが、それでも頼みを言わせてくれ」


 リドリーは言った。モデルになってほしい、と。

 ロバートは予想した通り断った。少女は8歳くらいの頃からよく芸能関係者から誘いを受けてきたが一度として応じたことがない。興味がまるでないのだ。




 が……驚くべき事に、少女はいくつかの条件を提示して、その依頼を受けた。





***



アイリーン「私、ずっと待ってる。うん、兄が帰ってくるのを」

アイリーン「うん、兄さんは、いつか帰ってくるんです。それまで私は変わらず待ちます。それが何年先でも、何十年先でも。その間にきっと世界はよくなる……だから、貴方も希望は捨てないで」

アイリーン「貴方も世界のために戦っているんですね。私も信じています。兄さんもそんな夢を追っている一人だから。私、本当は世界は素晴らしいって事、知っているから」

アイリーン「うん……ロックさん、貴方はいい人ですね。兄さんの次に」

アイリーン「うん、世界のためになら、戦います。私も一緒に」




***



「…………」


 サクラはPCモニターを前にして腕を組んだ。

 現在<アイリーン>検証一日目である。

 一日目だが、もう検証の必要はない気がする。もうアイリーンはエダにしか見えない。


 ちなみに飛鳥は隣の飛鳥の部屋でネットで情報探し、JOLJUは一階で<ロポティック・シャングリラ>のアイリーン編をプレイ中だ。こうして手分けをして作業しているわけだが、動画の検証だけでサクラはほぼほぼ確証してしまった。


「やっぱエダさんなん?」

「困ったことにエダ本人みたい。多分モーションのモデルだけじゃなくてセリフもまんまエダよ。声優は後でアフレコした別人だけど、ちゃんとエダの口調でアフレコしてる」

「マジか!」

「ついでに日本語台詞もね。全部じゃないけど、ムービー・シーンの重要なセリフはエダがベースになってる」


 エダなら英語の台詞を読めば、瞬時にナチュラルな日本語に変換して日本語で喋ることが出来る。下手な翻訳家より上手だ。


「フィーリング以外に何か証拠はあるんか?」

「二つね」

 そういうとサクラはPCを操作すると、一枚の画像を開いた。

 ごく普通の会話シーンのアイリーンだ。


「一つ目、胸に手を当てる癖よ。エダもよく胸に手を当てる癖があるし、アイリーンにもある。欧米人には珍しい癖なの。真ん中はキリスト教徒だとやる人いるけどエダの場合左手左胸だしね。エダ、無宗教だし」


 サクラが聞いた話だと、エダがよく胸に手を当てる癖は幼い頃からのものらしい。元々感情豊かなエダは、幼い頃もっと活発で喜怒哀楽の激しい子だった。それを落ち着かせるため胸に手を当てて一息つくようになった。それが今も癖になっている。だから嬉しかったり哀しかったり不安だったり恐怖したりと感情が動くとき、つい無意識に手を胸に置くのだ。


 成程、アイリーンもよく胸に手を当てている。


「二つ目。これは動画見ながらだと分かるけど、よく頷くでしょ? 『うん』って。エダも頷き癖あるし、セリフの前に『うん』ってよく言っている。コレ、欧米人には少ない癖よ。これって日本語の癖だし」


 サクラは動画をいくつか再生させる。英語版だが、確かに「うん」と言っている。


 成程。日本語だと違和感はないが、英語で聞くとちょっとだけ気になる。英語版だと声優が違うから「うん」ではなく「ン…」という感じだ。


 どちらも珍しい癖ではないが、確かにエダの癖だ。



「もうぶっちゃけ95%エダ本人ね」

「つまりほぼ確定か」

「で、そっちはどうよ?」

「今のところエダさんやと気付いた人はおらへんな」


 そう簡単には見つからないだろう。エダはブログもSNSもしていない。

 しかし安心はしていられない。飛鳥が気付いたのだ。エダは友人も多く、ネット上で盛り上がれば話題は広がる。エダほどの美人は滅多にいないから、知人が見れば同じように気付くだろう。


 それから一時間後……<ロポティック・シャングリラ>のアイリーン編をクリアーしてきたJOLJUが二階に上がってきた。



「いやぁ~突貫でクリアーしたからあんまりゲームは楽しめなかったけど、ちゃんと確認してきたJO」

「で、感想は?」

「エダだと思うJO」

 JOLJUの感想も同じだ。そんなことはもうJOLJUに確認させるまでもない。


 JOLJUが確認したかったのはスタッフ・ロールだ。


「エダの名前はなかったJO。でも翻訳家のところにロバート氏の名前はあったJO」

「段々外堀が埋まっていくな」

「もっと他に情報は?」

「ロケ地のところに<ペンシルベニア州>ってあったJO」

「……ますます外堀が埋まる……」


 当時エダが住んでいたのがペンシルベニア州ロンドベルだ。ロンドベルは自然豊かな田舎の町でキャンプ場が二箇所ほどある。撮影したとしたらそこだろう。


 腕を組んでいたサクラはついに決心した。

 携帯電話を取り出すと、JOLJU特製の家族確認アプリを起動させる。このアプリは家族の現在の居場所が表示される仕様だ。エダはまだ自宅にいる。それを確認してエダに電話をかけた。



「エダ? 今日の予定は? 分かった。……ほうほう! ……おー! じゃあ晩御飯はNYで食べる! うんうん。昼は飛鳥のトコで食べたからいらない。あ、じゃあそっち帰るから~!」

「帰るンか?」

「帰る! なんと今夜の晩御飯はビーフシチューとスパゲティーだ! 好物だ、やった! ということでサラバだ飛鳥!」

「おー! 帰るJO」

「待てぃ! お前目的はどうした!」

「電話じゃあ聞きづらいじゃん。何か秘密があったらアレだし。まぁ聞いとくよ、ちゃんと」


「ウチもいく!」


「そんなに我が家のビーフシチューが食いたいの?」

「アイリーンの事はウチが持ってきた案件やど! 最後まで知る権利があるやないか。もちろんビーフシチューも食べたいど!」


 こんな面白い話の結末を他人の口から聞きたくない! 明日は平日で学校があるが一日くらいサボってもどうって事はない。このくらいのサボりはしょっちゅうだ。いつか留年するだろう。


「ま、我が家のビーフシチューは大きなお肉ゴロゴロ、焼き野菜たっぷり、ばっちり煮込んで旨いからね。食いにいっても不思議じゃないな」


 今からNYに行くと、あっちは昼だ。エダは午後は大学に行き5時頃帰ってくるらしい。ユージはここ最近大物容疑者の捜査で帰宅は20時過ぎだから、食事の時アイリーンの話を聞くことが出来るだろう。


 止める間もなく飛鳥は一泊用の荷造りをし始めたので、サクラとJOLJUは仕方なく待つことにした。


「NY着いたら、まずは仮眠だぞ? 時差ボケしたくなかったらねー」


 転送機を使えばNYの自宅に着くまで1時間ちょっと。東京の転送機は六本木にあり、NYもマンハッタンのオフィスにある。クロベ家にもあるが、よほど緊急でない限りクロゲ家直通は使わないから、多少移動時間がかかる。その頃にはエダは大学に出て行ってしまっているからやることはない。こういう時間の空白を上手く利用して寝るのが上手な世界の渡り歩き方だ。


「任せろ。いつでもどこでも昼寝できるのがウチの特技や!」


 飛鳥は着替えと愛用のノートPCをリュックに入れるとニヤリと笑った。


 ということで、NYに行く事になった。





黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』3でした。


ということでアイリーンはエダなわけです。

今回が検証編です。一応サクラが理論的にも確定してみせました。

しかしどうしてエダが? というのがこの話の肝になります。

……半分くらい「黒い天使」というより「AL」の番外編的になってきましたがw


ということで次回、本人突撃インタビュー編です。

後二回くらいですかね。

しかしなんだかんだいってサクラもよく観察してますね。


ということでまだ続きます。

これからも「黒い天使日常編」を宜しくお願いします。


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