黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』2
黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』2
アイリーン検証!
しかし結論はあっさり出る。
サクラたちが観てもエダにしか見えない。
しかし本当だろうか?
こうしてサクラたちAS探偵団は本格調査に乗り出すのだが……。
***
翌日の夕方6時にサクラとJOLJUは真壁家にやってきた。
すぐに晩御飯となる。昨日来ることは伝えてあるからちゃんとサクラとJOLJUの分のサバの味噌煮は用意されていた。
で、それを食べながら飛鳥はサクラを呼んだ理由を説明し始めた。
「ハァ……モデルになった少女に100万ドル、ねぇ」
物好きな……という表情を浮かべるサクラ。
「言っとくけど、あたしに探せって言われても無理だからね」
「オイラがゲーム会社のサーバーにアクセスしよか?」
「駄目だろ。てかお前が本気だせばそんな少女、2秒で発見できるでしょ? 存在したらだけどね」
「そこはええねん。実はそこはそんなに問題やない! ま、飯食ったら上に付き合え!」
「<ロボティック・シャングリラ>のアイリーンか。かなり美形の美少女じゃが……モデルがおるとは思えんけどのぅ。普通にCGじゃと思うンじゃが」
と風禅が話に割り込んでくる。この中で一番のゲーマーはこの御老人だ。ゲームならなんでもやるし有名タイトルは欠かさず購入している。
「まるでシンデレラじゃな! 100万ドルか……ちょっとでも似ている女の子は立候補し放題でてんやわんやになりそうじゃな」
そりゃあそうなるだろう。映像を担当したリドリー氏が故人である以上確かめようがない。会社側の記録にないのだ。会社側に手掛りがあるなら100万ドルはその探偵のため使われるだろう。しかしそれでは見つからなかった。ゴールドボム社のジョンCEOは炎上してもいい、形振り構わない方法を取ったのだ。
「しかしあんな美少女、リアルでおるもんかノゥ」
「それがおるんや、ジーチャン」
「まさかそのアイリーンのフリしろとか言わないよね? サクラちゃんも超美少女だけど嘘っこ演技はできんぞ?」
「お前10歳やないか。アイリーンは推定15歳、身長5フィート1.02インチ、体重90ポンドやど? ……メートル法といくつや?」
「155cm、40キロね。中学生ね、これだと」
今でも米国だけは頑なにフィート・インチ法とメートル法を併用している。フィート・インチ法は米国と英国以外の人間にはチンプンカンプンだ。もっとも最近の大都市は国際基準としてメートル法に移行しているからメートル法でも通じる。このあたり米国人であるサクラはすぐに計算が出来る。
この説明を聞いた飛鳥は「やっぱりか」と腕を組んだ。いつもと違う展開にサクラたちは首を捻る。
「ま、飯食ったらその話や! 言うより見たほうが早い!」
ということで話は食後に持ち越された。
食事が終わり、サクラとJOLJUは飛鳥の部屋に向かった。すでに一足先に自室に帰っていた飛鳥がPCを立ち上げ、件のアイリーンの動画の用意をしていた。もっとも昨夜の会話があったので、すでに前準備は済んでいる。
「で、これが問題のアイリーンの動画や。観て感想くれ」
「はぁ……」
あんまり乗り気でないサクラ。美少女が誰かなんてサクラの頭脳をもってしても分かるはずがないではないか……。
が……3分後。
「…………」
「JO」
この二人も気付いた。そしてお互い顔を見合わせる。
念のため動画を見直すこと、二回。
「エダじゃん」
サクラもあっさり結論に達した。
「やっぱりそうか!?」
「コリャ驚いた。エダじゃん」
ゲーム・パートのCGはともかくムービー・パートのアイリーンはエダそのものだ。これにはさすがのサクラとJOLJUも次の言葉が出なかった。そしてどうして飛鳥が急な電話で呼びつけたのか、その理由が分かった。
「お前! ついにエダの隠し撮り写真をゲーム会社に売ったのか!?」
「なんでやねん。ウチ、違うっちゅーねん! ウチやったらこんな驚くか!」
「だってクロベ・ファミリーはこういう表産業はNGなんだぞ? SNSやブログだって禁止だゾ?
それを一番忠実に守っているエダがなんでモデルなんかやるのよ!?」
クロベ・ファミリーは芸能系に関わってはいけない。それがルールだ。誰か一人でも話題に上がればクロベ・ファミリーの異常性がマスコミにバレてしまう。ユージは半分裏社会の人間だしサクラは超人だ。過去をほじくれば門外不出、国家機密レベルの非公開大事件がゴロゴロと出る。だから色んなルートとコネを使って潜むように今の生活がある。この弊害を一番受けつつ享受しているのがエダだ。多くの大事件はエダは当事者ではない。そしてエダは望めば日本でも米国でも、どこでもすぐにアイドルになれるしモデルにもなれる。そういう誘いはしょっちゅうあるのだ。だがエダは全て拒絶してクロベ・ファミリーの一員である事に満足している。
飛鳥だってその事は知っている。だからこそ驚いたわけだし、こうしてサクラを呼んで確認をしているわけだ。
「ちょっと、そのアイリーンの画像をあたしのPCにデーターで送って。で5分頂戴」
サクラは隣の自室に移動すると置いてある自分のノートPCを起動させる。そして飛鳥から送られてきたアイリーンの画像を、画像加工ソフトで加工し始めた。
髪の色を変え、瞳の色を変える。
こうして出来上がった加工画像は……正に自分たちがよく知るエダそのものだった。
「世の中三人は同じ顔がいる! っていうオカルト話もあるけど、どないなんやろ?」
「デマだろ。アンタが世の中三人もいたらギャグだ」
「あ、ゲームだから開発期間があるJO」とJOLJUは顔を上げる。
「だから最近じゃなくてもっと前だJO」
そう、これは映画やドラマではなく3DCGゲームだ。開発には時間がかかる。そしてモデルが必要なのは最初の開発時期のことだ。1年や2年前ではない。
「て事は、3年から5年前か。エダが高校生の頃なら……ありえるのか?」
「その頃ユージさんは何してたんや?」
「闇医者で潜入捜査官時代。もちろんサクラちゃんが養女になる前だからその時の頃はよく知らないけど、完全裏社会の人間だったから独りで世界を放浪していたからNYにも住んでいないし」
ユージはつい3年ほど前まで非公式な存在だった。その間エダとも拓とも接触を持っていない。潜入がバレたり裏社会に目をつけられないよう、ユージはエダや拓と別れ、日本国籍も捨てた。だからこの時期エダは実家のペンシルベニアの親元に帰り、地元の高校に通っている。
その後拓がFBIに引き抜かれ共にNYに落ち着き、エダも地元の高校卒業後NYの大学に進学して合流し、そこにJOLJUも合流。さらにサクラも養女となった。クロベ・ファミリーなるものが出来上がったのは近年の話だ。クロベ・フェミリー色々タブーが生まれたのも最近の話なのである。
つまり……高校時代のエダの生活についてはユージも知らない。そしてこの問題のアイリーンはエダの高校時代の頃の話だ。その頃はまだタブーは出来ていないから時期的にはありえる。
3年前なら、エダは15歳か16歳だ。確かに年齢もピッタリだ。エダは英国系白人だが、白人としては小柄で細い。
「あー……そういえば、エダ、高校の時身長5cmしか伸びなかったって嘆いてたな」
「エダさん身長160cmやから、15歳の時は155cm! 身長もドンピシャやど!」
「そういえば……家のゲームの中にも<ロボティック・シャングリラ>入ってたJO。誰がやるんだろうって不思議に思っていたンだJO。オイラやってるケド」
「そういやそうだ。何故か我が家はゲームが豊富にあるね」
クロベ家にはゲーム機が揃っている。ゲーム機だけでなくソフトもかなり揃っている。だからサクラとJOLJUもゲームに不自由することなく自宅でゲームを満喫しているのだが、誰が買っているのかまで考えた事なかった。
普通に考えればユージだが、ユージがゲームをしている姿をあまり見たことがない。拓やエダはたまにゲームをしているが、二人ともゲーマーというほどハマってはいない。この程度しかゲームをしないわりにクロベ家にはゲームが豊富にあるという事はちょっと不思議な事だ。誰が買っているのだろう……? サクラとJOLJUはゲーム大好きだが自分で買う事はない。小遣いでは到底買えない。そして大体発売されてすぐ自宅にあった。
いつもあることが普通だったから、サクラもJOLJUも「あのゲーム買って」と強請った事がない。が、よく考えれば不思議ではないか。そもそも家長のユージはゲームをあまりしないし、余計なものを買い集める趣味もない。
「なんだこの変な違和感。何か関連ある?」
サクラは頭を傾げた。共通点はゲームという点だ。
「ミステリーだJO」
「<ロボティック・シャングリラ>の追加シナリオのDLCって最近出たンだっけ? なら誰が購入してるかは分かるな。クレジットカード決済の記録があるはずだ。JOLJU! 我が家の家計簿にアクセスしろ!」
「らじゃーだJO」
JOLJUは愛用のPC『叡智の幼稚園児』を取り出し、クロベ家のホーム・コンピューターにアクセスする。そこに家計簿もある。クロベ家のホーム・コンピューターはJOLJUがセキュリティーを設定しているのでJOLJU以外のハッカーには接触することも進入することすらできない。
コンピューター関係に対してJOLJUはとにかく強い。JOLJUの得意分野だし『叡智の幼稚園児』は世界最高のスパコンより性能は上だ。自宅の家計簿を覗くくらいあっという間だ。
すぐにJOLJUはゲームの購入履歴を見つけた。
少し思っていた結果とは違った。
「ゲームなんだけど……ほとんど譲渡してもらってるみたいだJO。購入してないJO?」
購入は全てクレジットカード決済だがユージのカードでもエダのカードでもない。勿論拓のものでもない。別の誰かがデーター購入し、そのIDキー・コードをメールで送ってきているようだ。それを確認したユージかエダがサーバーからゲーム・データーをDLLしている事が分かった。ゲームソフト自体が送られてくることもあるようだ。
「あんな沢山のゲーム、誰がくれてんの?」
「R・FさんだJO。ええっと……ロバート=ファーロングさんだJO」
「あ」と声を上げるサクラ。
「なんや? そのロバートさんって知り合いか?」
「知り合いも何も……エダのお父さんじゃん」
「ぬ??」
サクラも多くないが会った事があるから間違いない。今もペンシルベニア州ロンドベルに住むエダの父親がロバート=ファーロングだ。広い意味だとサクラにとっても家族である。
しかしどうしてエダのお父さんがエダにゲームを送ってくるのか? ゲーム好きなのだろうか? これは何か分からないが家族のメッセージか何かなのか?
「分かったJO」
「何が?」
「エダのお父さん、お仕事ゲームの翻訳家だJO。ゲーム業界人なんだJO」
「なんと」
なんとなく話が繋がってきたのではないか?
少なくともエダの父親はゲーム業界人なのは間違いないようだ。
「あ、そっか。だから日本在住だったのか、エダ!」
エダは日本語ペラペラだ。それは10歳まで日本で育ったからだが、エダの家では日本語は普通に使われていた言語であった事も大きい。それは父親が英語と日本語のゲームの翻訳の仕事に携わっていた事が大きな原因だった。
「そういえばエダって両親の事、『お父さん、お母さん』って呼んでたんだよね。単に日本語で言っていたんじゃなくて昔からそう呼んでたからじゃん? そっかそっか、本当日本人感覚なんだな」
「違うんかい?」
「米国人だと『パパ、ママ』でしょ? サクラちゃん、パパって呼ぶもん。お父さんとは呼ばん」
このパパとはユージの事ではなく、生まれた時から育ててくれた父親の事だ。いや、サクラは別に自分のことを語りたいわけではない。米国人の家庭なら日系人でも『パパ』と呼ぶのが普通で『お父さん』とは呼ばない、という事だ。
「それだけエダの周囲は日本語が多かったって事。ゲームの翻訳家で日本語がペラペラで日本にも住んだことがあるンだったら、そりゃあエダは日本語が得意になるわけサ」
「最近のゲームは世界同時発売やからなー」
「当然エダのお父さんは、色んなゲーム会社を知ってたりするんじゃない? 最近のハイ・クオリティー・ゲームは日本語字幕版も日本語吹き替え版もあるから」
「おお! ……なんか話が繋がってきたやん。これ、ホンマにホンマなんやないか?」
「そだね。有り得る気がするJO」
「で……ここまで分かったが、どうするよ、サクラ」
「確証が欲しいな。今のところ推測ばかりだし、状況証拠だからね。60%ってとこじゃない? せめて80%以上確信できないとエダ本人に聞くのは怖い」
事実ならエダの過去の話を詮索する事になる。それは色々家族としてやりづらい。特にユージも知りそうにない事だから下手に突いて気まずくなるのは避けたい。
とすれば、やはり動画の確認からだろう。
外見が似ているだけなら、もしかしたらロバート氏が娘の写真をリドリー氏に見せただけなのかもしれない。それならそれで対応が変わる。
「飛鳥! アイリーンの動画を集めろ! 多分こんな騒動が起きたから、今頃ネット上でアイリーンの動画は増えているはずよ。アンタがかき集めている間に、あたしはロバート氏とリドリー氏の接点探すから」
「おう! なんか楽しくなってきたな! これこそAS探偵団!!」
「だJO~!」
三人、ぐっ! と拳を突き上げた。
こうして変な方向に話は盛り上がり始めたのであった。
黒い天使日常編 『100万ドルのシンデレラ』2でした。
ということで本格的になってきた「アイリーン=エダ」疑惑!
だけど色々納得はいかない様子のサクラたちです。
とはいえ短編なんでそんな大した謎はないんですけどねw
こうしてサクラたちの調査編と謎解きというかネタバラシ編になっていくわけです。
ちなみにエダの両親がゲーム関係者だという話は今回始めて明らかになる設定です。当事者たちは知っている話でしたが。
ということで顛末がどうなるか、お楽しみ下さい。
これからも「黒い天使短編日常編」を宜しくお願いします。




