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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使日常編 『虫歯の真相!』1

黒い天使短編 『虫歯の真相!』1



サクラ、虫歯になる!!

大慌てするサクラ。

しかし歯医者にいけばそれで終わりではなかった!

サクラだからこそ巻き起こる珍妙で馬鹿馬鹿しい短編(前後編)をお楽しみ下さい。



黒い天使短編 『虫歯の真相!』


 * * *




「んっっ!!」


 朝……目覚めのミルクを飲んだサクラは、突然襲い掛かってきた口内の激痛に、思わず手にしていた牛乳入りのコップを地面に落とした。


「なに!? この激痛!!」


 痛みは全然退かない。頭までジンジンと痛みが響く。昨夜まではなんともなかったはずだ。それがこの痛みは何だ!? 


 ここはNYのクロベ家……自宅での出来事だ。

 当然、こんなことがおきれば医者に駆け込む。そして優秀な医者は自宅にいる。

 サクラは痛みに耐えながら口元を拭い、こぼしたミルクも丁寧にキッチンペーパーで拭うと、すぐにリビングにいるユージの元に駆け寄り、この非常事態を訴えた。



 


「進行度C3の急性う蝕だな」


 サクラの口の中を見たユージは、ものの3秒で診立てを終え、朝のコーヒータイムに戻った。特に心配はしていないようだ。


「ナニソレ!?」

「虫歯だ。若年性の急性症状だろう。よくある事だ。歯医者に行け、歯医者に」

「歯医者なんか行ったことない! 簡単にいうな! これ、サクラちゃん人生初めての虫歯だゾ!! メッチャ痛いンだけど!!」

「知るか。俺は歯科医じゃない」


 ユージは救命外科医で、内科も整形外科も産婦人科でも対応できるが、歯科は知らない。歯科医と医師は別物なのだ。


 ユージはタブレットで電子新聞を読みながらコーヒーを楽しんでいる。虫歯くらいで騒いだりはしない。


「痛いンだけど!! なんとかしてよ!」

「後でロキソニンやる。それ飲んで午前中のうちに歯医者に行け」

「痛み止めの薬くらいでどうにかなりそうな痛みじゃないんだけど!?」

「ロキソニンを信じろ」


 こんな激痛、生まれて初めてだ。サクラが不安になるのもしょうがない。


 この騒動を聞いて、エダとJOLJUもやってきたが、「虫歯」と聞いて胸を撫で下ろす。


「あたしも虫歯はなったことないの。でも通っている歯医者さんがあるから、そこにいく? サクラ」

 と心配そうにサクラの顔に覗き込むエダ。歯医者に行くなら誰か家族の付き添いが必要だ。サクラは10歳の子供なのだから。

「少し高いけど、いいよね? ユージ」

「高い? ならペンチで抜け、ペンチで。局部麻酔ならしてやる」

「ユージ! 女の子の歯は大切に扱わないと駄目なんだよ?」

「それだけ痛むならC3だ。穴は小さいが炎症が神経に当たっているだろう。神経を抜いて差し歯だな。これが乳歯なら生えてくるから……」そう言ったとき、ユージは初めて何かに気付き、タブレットを置いた。そして、当たり前だがとても重要な事実に気付いた。



「お前の歯は、乳歯なのか? 永久歯なのか?」



「しらん! 歯が痛いのも初めてだし歯が抜けるとか生え変わるなんて話も初めて!」


 だからさすがのサクラも狼狽しているわけだが、注目点はそこではない。


 普通人間は4歳から12歳くらいまでの間に歯が乳歯から永久歯に生え変わる。年齢的にはその範疇に入るが、一斉に生え変わるのではなく徐々に生え変わって行く。全くそういうことがこれまでなかったというのは少し異常だ。しかし確かにサクラが「歯が痛い」などというのは初めて聞いた事だ。


 元々サクラは生まれたときからユージの養女ではない。昔の話など知らないが、本人の弁を信じるならこれまで永久歯の生え変わりはなかった事になる。


 一番重要な事は、サクラは不老だということだ。実際ところまだ大体10歳なのだが少なくとも100年200年くらいは姿変わらず生きるだろう。もし普通の人間と同じように12歳頃に全部歯が生え変わるのであれば、その後虫歯が出来るたびに治療していけば……50年くらい経つ頃には、サクラの歯は全て差し歯になってしまうということか? 見た目は10歳と変わらないのに?


 その答えを知っているのは、一人だけしかいない。元神様であるJOLJUだけだ。



「おい、どうなんだ?」

「ん? サクラの場合、永久歯はないJO。抜けたら生え変わるだけ。永遠に生え変わり続けると思うJO」


 サクラが10歳の姿を永遠に維持できるのは、魔法でもなんでもなく特殊な再生細胞を持っているからで、老化してもすぐに再生細胞が働き元に戻る。歯は消耗品だ。だから歯は使い捨てのようなもので抜けてもまた生えてくる。つまり簡単にいうとサクラの場合、歯は鮫のように永遠に再生する仕組みなのだ。その事自体驚くほどの事ではない。何せ耳でも鼻でも指でも腕でも足でも、欠損したとしても時間をかければ再生する異常能力者だ。それを考えれば歯が無限に再生すると聞いても驚くに値しない。


 ということで、JOLJUも特に心配はしていない。暢気に朝ご飯のコーンフレークを美味しそうに食べている。ちなみにJOLJUはコーンフレークは牛乳少な目派。サクラは牛乳ひたひたしっとり派である。いや、今それは関係ない話か。


 とにかくサクラは「なんとかして!」と騒いでいるが、生え変わるのなら抜いてしまえばいいだけだ……と、誰も深刻さは感じない。


 が、そこはやはり医者……色々なことが気になってきたユージ。サクラの心配ではなく純粋に医学上からくる疑問と好奇心だ。



「歯は分かったが、神経はどうなる? こっちは殺して抜いていいものか?」

「知るか!!」

「JOLJUに聞いてるんだ。お前じゃない」

「んー……神経も復活すると思うJO」

「タイミングは?」

「生え変わった後だJO。多分」

 確実に、と断言しないのはJOLJUの口癖みたいなものだから気にしなくていい。


「なら神経抜いて、抜歯して、放置だな。どうせ生え変わるからシーラントはいらん。一回行くだけでいいだろう。が……そんなに都合よくやってくれるかな」

「行きたくないけど今回ばかりは仕方ない、歯医者に行く! 歯医者連れてけー!」


 医師嫌いのサクラがこんな事を言うなんて、明日は雨じゃないか?

 だが、急にユージは難色を示し始めた。


 問題はいくつもある。


 まず①。サクラの永久に生え変わる異常体質を他の人間に知られていいのか。


 そして②。歯医者に行くと高い。


 米国の医療は世界一だが医療費がとにかく高い。国の保険はなく、民間の保険があるが、それでも高い。いかに高いかというと、盲腸手術だけでも100万円以上取られるのが普通だ。だからユージの知人、身内は皆ユージをホームドクターにして上手い事安く済ませているし、ユージ自身自分の負傷も軽度な入院レベルなら自分で処置してしまう。貧困者用の医療機関はあるが、クロベ家の保険はハイランクでそういうところに通わせると「児童虐待じゃないのか」と突っ込まれそうだ。


 その説明を聞いて、エダとJOLJUは意外に大きい問題が分かり顔を見合わせた。いつもはサクラもそれくらい分かるものなのだが、今日はテンパってるのでそれどころではない。


「とにかくなんとかしろー! エダの行ってる歯医者でいい! どうせユージの知り合いでしょ!? なんとか言いくるめればいいじゃん」

「あたしはそれでいいと思うけど」

 問題は、財布を握るユージだ。


「グリッサム・デンタルは駄目だ。高い」


 ユージはそこそこ稼いでいる。多少の贅沢はするし趣味にも使うが、教育方針なのかサクラとJOLJUに対してだけは、意外にセコい……もとい、厳しい。


「でもユージ、高いのは仕方ないよ。サクラのほうが大事でしょ?」

「生え変わるのならそこまで気にすることはない」

「あれ? エダって虫歯あったっけ?」とJOLJU。確かエダに虫歯はない。

「虫歯はないけど、二ヶ月に一回デンタル・クリーニングとケアに通ってるの」


 米国人は歯が命! とまでは言わないが、歯並びや歯のケアの意識は高い。エダはナチュラル系美人で取りたてて化粧や体型維持の保持にお金をかけないが、それでも髪と歯のケアはお金をかけてやっている。けして意識が高いわけではない。これが米国人の女性の普通だ。むしろエダはこれだけ優れた美貌を持つワリには美容にお金をかけていないほうだろう。サクラも超美人だが美容には全くお金をかけない。


 ちなみにデンタル・ケアだけで一回300ドル。これが知り合い価格と保険適用での額だ。安くはない。そしてエダが通うグリッサム・デンタルは予防歯科がメインで治療もしてくれるが他より高い。多分1000ドルは超える。そういう事情もユージはよく知っている。


「日本の歯科医に行くという手はあるんだがな」

 日本のほうが圧倒的に安い。治療全部いれても15000円くらいで済むだろう。クロベ家は日本によく行くので偽造の偽国民保険証も持っている。日本なら子供だけで診察に行っても法律違反ではない。飛鳥にでも紹介してもらえば歯医者くらいあるだろう。


「あ、駄目だJO。飛鳥、今温泉にいってるJO」


 確か今、祖父風禅と一泊二日の予定で箱根に行っている。飛鳥には頼めない。


「じゃあどうするのよ!」

「JOLJUに頼め。それが一番早い解決だ」

 困った時は神頼み。それが一番簡単な答えだ。

「そうだ! お前の力でなかったことにしろ! 虫歯を」

「それはルール違反だJO」

「そんなこというとる場合か!!」

「むぅ……仕方がない。じゃあ工具箱取ってくるJO」

「工具箱!?」

「ペンチ、取ってくる」



「ふざけんなぁー!! それが治療かっ!!」



 べしっ! と渾身の力でJOLJUをぶん殴るサクラ。歯痛のためまったく手加減ができない。JOLJUは見事にKOされた。



「そうだよ! ユージもJOLJUもちゃんと考えて! サクラだって女の子なんだから」


 唯一の味方はエダだけのようだ。

 しかし、問題はそこだけではなかった。いや、これはユージだから気付いた事だ。


「何でお前、虫歯になるんだ?」

「あのなぁ……サクラちゃんだって一応人間よ。虫歯くらいなるわよ」

 サクラは別にズボラではない。ちゃんと食事すればいつも歯を磨く。とはいえ世界中遊びまわっていて、必ずしも歯磨きできる環境ではない。そして甘い物もジャンクフードも大好きだ。虫歯ができる要素はたっぷりある。


 が……ユージが言っているのは、そんな生活習慣病のことではなかった。


「虫歯は大別すれば接触感染症だぞ。誰にうつされた?」

「…………」

「誰か虫歯を持つ人間からうつされないかぎり発病はしない。実際はほとんど体内細菌だがな。多くはな、大体幼児期に親から口移しで食べ物なんかを食べさせてもらって感染する。それで体内細菌になるわけだが」

「そりゃあパパでしょ? サクラちゃんだって幼児期はあったんだゾ。しかも人一倍愛されたンだゾ、ユージと違ってパパは優しかったんだからね」

「あー……それはないJO」

「なんだとコノヤロー! パパとサクラちゃんとの愛を疑るか!」

「じゃなくて……サクラの最初の本体は一度死んで、そんで別の体に移って再生したJO。そんとき一度リセットかかって生まれ変わったから、そういう体内菌も全部リセットしてるJO。だからその手の感染症もないし、オイラの冬眠機の中で除菌もしっかりしてるJO」


「ナント」


 そういう事である。


 サクラの出生はちょっとややこしい。今の体は生まれたときからある体ではなく、転生し再生したものだ。ほっておけば死ぬ運命だったサクラを確保し蘇生させ、そして管理したのはJOLJUで、その間サクラは完全無菌の再生液に満たされた特製冬眠機の中で数年間眠り、その後色々大事件があって、それが落ちつついた頃JOLJUが思い出して復活した。そしてクロベ家の養女となったわけだが、その時すでに今の10歳の姿だ。ユージたちはサクラの幼少期にタッチしていない。


 つまりユージは何が言いたいかというと、サクラが口内菌に感染したのはクロベ家に来てからで、容疑者は知人の中にいる。誰がこんな生意気な小娘を感染させたのか……。



 5秒ほどサクラは考えたが出てこない。首を捻る。



「もしかしてサクラちゃんが寝てるときに無理やりキスでもした? ユージ」



 ボカッ!! かなり本気で殴られ沈黙するサクラ。ちなみにサクラは別にボケたわけではない。



「じゃあ拓か!? あいつ、モテないからってひどい奴だな!」

「拓さんもそんなことしないと思うけど」

と苦笑するしかないエダ。あるいはユージと拓は光栄に思うべきかもしれない。この高慢にして人見知りし、異性に対してこれっぽっちも興味はなく米国風の挨拶のフレンチキスですら誰ともしないガードの高いサクラが、キスされても許す相手はこの二人ということだ。


「回し飲みでも感染する。ジュースの回し飲みでもしたんだろう」

「それくらいなら……あるな」


 頷くサクラ。とはいえ先にいったとおり人見知りのサクラにそんな仲のいい友達は限られている。飛鳥、セシル、マリーくらいか……容疑者は誰だ!? なんとなく飛鳥のような気がする。しかし三人共虫歯で苦しんでいる姿は見たことがないが……。



 30秒ほど考えてみたが、決定的な記憶はない。そして考えているうちに歯が痛くなってそれどころではなくなる。






黒い天使短編 『虫歯の真相!』1でした。



令和一発目のドタバタ短編です。


誰もが一度は経験する虫歯。これがサクラだとこんな騒ぎになるわけです。

基本サクラは風邪とかインフルエンザにはかからないし食中毒にも強いんですが、放置すれば虫歯にはなります。で、この騒ぎデスw

この短編はドタバタ劇を楽しむと同時にちょっと特異なサクラの体質の紹介みたいな短編です。


ということで後編をお楽しみに。


これからも「黒い天使・日常編」を宜しくお願いします。

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