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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使日常編「寿司屋の攻防戦」5 END

黒い天使日常編「寿司屋の攻防戦」5 


食べた!

食べまくった!!


そして支払い。もうサクラたちは生きた心地しない。


すると思わぬ展開と衝撃のオチが!!!





 こうして、改めて『寿司堪能大作戦』が始まった。


 サクラは念願の<貝尽くし>コースである。どれも素晴らしく美味しかった。特に炙りカキの握りとあわびの握りはサクラを幸福の極に導いた。


 JOLJUは高級魚介攻めで、特にエダお薦めの一本煮穴子は至高の一品だった。


 飛鳥は回転寿司ではあまり食べない珍しい握りを中心に攻めた。貝も食べたしズワイガニやシャコなど非常に美味しかった。


『美食は別腹』という言葉が適切かとうかは別として、三人はいつもより多くお寿司を食べた。制御していたつもりの飛鳥も想定以上に食べた。大満足した。

食後、出てきたのはわらび餅で、こちらは普通に美味しかったが、やはりそこは専門店ではないので寿司ほど感銘は覚えず、しかしペロリと平らげた。


 こうして至福の時間は過ぎ去った。


「皆よく食べたね。うん、楽しんでくれてよかったよ」とエダは無邪気に喜んでいる。


 三人は「あはははっ」と笑っていたが、今心の底から怯えていた。ついさっきは威勢よく人の道を外れる宣言をしたが、いざ本当にその宣言をするとなると足が震える。まさに死刑台一歩前だ。その緊張で、サクラとJOLJUはもうすっかりさっきまでの口福は消えてしまった。

「じゃあ大将、俺たちの勘定を。ああ、ガキ共はいつもの奴で」

 ユージは全くサクラたちの緊張など知らない。


 ……もしかしたらそんな金額にならないかもしれない……という期待はあった。ユージたちの支払い額が試金石となるはずだ。



「38700円ですね」



 ……全然安くないじゃないか……!!



 ユージはよく食べたといってもガツガツと食べたわけではない。エダと酒に合わせて味わうように食べていてこれだ。寿司の数でいえばJOLJUのほうが食べている。


 この瞬間……サクラとJOLJUは自分たちの死刑確定を知り、飛鳥も青くなった。


「ああ、御馳走様。また来ますよ」

 大切な財布……保護者のユージとエダは出て行こうとする。慌ててユージを掴むサクラ。

「お前らにはさっき渡しただろうが」

 と、簡単に振り払い出て行くユージ。

「じゃあ、お嬢ちゃんたちだけど……ええっと……57800円……」


(5万だとっ!?)

(うおぅ!! ホントに結構食べてるJO!)

(さすがにするなぁ……しらんど! ウチはそんなに持ってへんど!!)


 すると、奥にいた大将が女将の肩を叩いた。すると女将は「あっ」と声を上げた。



「三人で丁度3万円ね。また来てね」

「??」

「え、3万?」

「ええ、一人1万円ね」

「???」


 狐に摘まれた三人。全くよく分からないが、とにかくそれを支払った。




    *     *     *




「どういう事なの!? なんで57800円が3万円になったの!? ほぼ半額なんだけど!?」


 外に出ると、さっさと去っていこうとしていたユージとエダを捕まえ、開口一番サクラが問い質した。


「なんだお前ら……そんなに食ったのか? あんまり連れて行くと大将に悪いな」

「普段のユージのほうがよく食べてると思うよ?」と苦笑するエダ。どうやら計算違いでも店側の勘違いでもなく、よく分からない暗黙のルールがあるようだ。

「実はね? あのお店、ユージのお連れだと三人までは、どれだけ食べても一万円なの」

「ふへ? そんな食べ放題サービスがあったの?」

「うん。ユージ限定の食べ放題サービス♪ お酒は別料金だけど」

「…………」

 サクラ、JOLJU、飛鳥は顔を見合わせる。

 エダは「ユージ、サクラたちに黙ってたんだね? 意地悪なんだから」と苦笑すると、その経緯を語った。


「実はね、ここだけの話だけど……二年ほど前かな? 大将、ちょっと悪性の胃ガンになって余命半年の宣告受けたの。ガンを切りたくても難しい手術で日本のお医者さんは手が出せなかったけど……ユージがたまたま来店した時その話を聞いて、カルテみせてもらったら『俺なら切れる』って」



 ……あ……話が読めた……。



「無事手術は成功。大将も無事回復して今はあの通りピンピン! で、そのお礼として、『今後一生ユージとユージの連れ計3人までお寿司は一万円で食べ放題』ってコトになったの。今回、ユージとあたしはその特権を使わずサクラたちに譲ったから、サクラたちは食べ放題だったってワケ♪」


 二人でなく三人としたのは、普段はここに拓も加わるからだろう。




「もっと早く言ってくれーっ!!」

「だJO――っ!!」


「だから言っただろ。一万円だって。お前らが素直にコースだけで終わるか? 俺は別に腹いっぱい食わなくていいんだよ、どうせこの後ラーメンを食うんだし」

「あ、あたしはそこまで入らない……でもこれから買い物に行くの♪ その後ラーメン店だから、うん、あたしも小サイズなら入るかも……」

「つーことで、俺たちは買い物に行くからお前たちは勝手にしろ。じゃあな」

 そういうとユージとエダは腕を組み体を寄せ合い新宿の夜の街に消えていった……。





 ということでサクラたちもトボトボと夜道を歩く。


「結局……どういう事なんや? ナニがおきたんや?」

「つまりはユージがドSであたしらをいじめてた事は確定だ! 初めから言えってーの!」

「ウチの疑問はそこやなくて、どうして1万円食べ放題なんて特別サービスになるんか、っていう事なんやけど?」

「医療報酬の代わりでしょ? 本当あいつはブラック・ジャックだな!」

「医者だったら代金は病院ちゃうん?」

「ユージは日本の医者じゃなくて米国の医者だもん。多分執刀は日本の病院だろうから、ユージを呼ぶ場合は外部依頼になるの。ユージは米国医学会では最高ランクの外科医だから、指名すれば呼べるけど、手術が一回最低20万ドルくらいだったはず!」

「ユージさんて一回2000万円以上取るンか!? 超高額医療費になるやんっ!!」

「そう。依頼で手術するときはユージは高い。それが米国のランク制度。ま、で……話を推理するに、ユージは2000万円の代わりに『1万円寿司食べ放題』で引き受けたって事サ。2000万円なんて一般人には用意できないけど、店で食べ放題ならお店もそんなに苦じゃないし。1万円あれば原価みたいなものだから、ほぼ原価でって話だな」

「本当にブラック・ジャック顔負けだJO」


 ユージにしたって痛む腹はない。2000万円は指名料と技術料だし、施設や医薬品は日本の病院持ちで治療自体は日本の医療制度範囲内だからそこまで高額にはならない。ユージにしても自分の力で知り合いの店の大将が救えて旨い寿司が今後も食えるのならば万々歳だ。


 つまり、ユージはあの寿司屋の一家を二度も救った命の恩人なワケだ。


「え!? 医者がそんな自分勝手できるんか!?」

「日本じゃ無理。でもユージは米国医師だからそれは可能。ていうか、一応ランクでは最高ランクになっているけど、ユージは結構医療費に関しては<ブラック・ジャック>というより<赤ヒゲ先生>なトコあるし。知り合いはタダで執刀するし、事件とかで知った不幸な病人もタダで執刀したりする。取れる相手からしか取らないからなー。相手構わず取ってれば今頃サクラちゃんも大金持ちで小遣いに困ってない」

「闇医者時代は<ブラック50・ドクター>だJO」


 ブラック50……闇医者時代のユージの別名で、診療は5セントから5万ドルで請け負っていた。つまり貧民からは5セントしか取らなかった男だ。元々金銭欲が強いほうではない。


「もったいない話やな~」

「そだな。ま、飛鳥も盲腸にでもなったら切ってもらえ。あたしの口利きで指名料5000円で頼んであげる」

「それって全額お前が小遣いにするだけやろ! 額がリアルすぎるわ!!」

「……しかし……念願の寿司は食べられた! 旨かった!! けど……」

 サクラは長嘆息した。

「会計の時の罰の悪さで……なんか満足感が……ない」

「だJO。ユージにおちょくられただけだJO」


 シュン……と落ち込むサクラとJOLJU。この二人は寿司のため魂とプライドを売ったわけだ。後味がいいはずがない……。ユージにおちょくる気があったのは確かだが、エダはそんな人の悪い事はしない。素直にお寿司代金について色々聞いていればきっと教えてくれたに違いない。結局、それを言い出せないサクラのプライドがこのオチを招いたのだ。そう思うと自己嫌悪するしかない。


「ま……魂を売らんかったウチは十分満足したでー!」

「次は天然鰻屋とか、てんぷら屋に行きたいJO!!」

と、JOLJUだけは懲りることなくもう元気になった。こいつのプライドなど所詮この程度である。


「ユージが鰻屋やてんぷら屋を手術することを祈れ!」


 さすがにそんなことはないだろう。ユージの本業は医者ではなくFBI捜査官だし。

 こうしてサクラたちは飛鳥と共に練馬の飛鳥の家に帰っていった。

 練馬につくころには後味の悪さも消え、大分お寿司の味も思い出し和気藹々と盛り上がった。



 そして飛鳥の家に帰宅。



 すると真壁風禅が、一人で食事をとっているところだった。



「おお、どこにいってたんだ? 丁度いい奴め」

「何が丁度ええんや爺ちゃん?」

「実は夕方パチンコで買ってな! お寿司かってきたのだ! 食うかい?」

 と、テーブルに乗っていたのはプラスチックの桶に詰まった100円回転寿司の鮨詰めであった。



「…………」



 まさかさっきまで高級寿司を、魂を売ってまで食べていたとはいえない。



 ……さすがに食欲旺盛な三人も満腹だし今日さらに食べることができなかった……。



 こうして、何でもない一日が終わるのである。






黒い天使日常編「寿司屋の攻防戦」5でした。



平成最後に完結!w



とりあえずオチはこんなんでした。

まぁオチは……サクラたちに言わせたらよくあるオチ。

ちなみに似たようなオチは何回もあるんですけどね。


なんだかんだと飛鳥とサクラは追加で10貫くらいは食べたでしょうねぇ……JOLJUは多分もっと食べていますが、底なしJOLJUはともかくサクラと飛鳥は女子のくせに食べまくってますね。そんなに入るンだろうか? サクラは特異体質とかなんとかいけそうですが飛鳥は結構食べたナァ……。


どっちにしても未成年でカウンター寿司が食えるなんてけしからん連中デス!w



さて次回ですが、とりあえず短めのサクラの短編にいきます~

「サクラ、虫歯になる!」です。

今度は3話くらいで終わる短さですよ。

とりあえず、当分サクラたちの間抜けな日常話をお楽しみ下さい。



これからも「黒い天使」を宜しくお願いします。





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