「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 2」
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 2」
被災地にやってきた傍若無人自己中の災害援助部隊のサクラと飛鳥たち。
村は予想以上に被害が大きいが、何をしたらいいか分からない一同。何しにきた……
ということでJOLJUはセシルを拉致して無理やり参加させた。
さらに、マグニチュード7の余震が来る! と予言するJOLJU。
時間がない! 一同救援活動に入っていった!!
黒い天使「飛鳥の事件簿」2 <こうして始まる災害救助>
「こうしてウチらは無事……」
ドカーンと爆発音が森に響いた。
「……目的地についた……」
数分後……森の中から疲労困憊、やつれ果てた飛鳥とマリーが出てきた。
「大丈夫です? 飛鳥」
「……うち……もう空飛ぶモノいややぁぁ~」
叫ぶ飛鳥。コクコクと頷くマリー。その後ろから、「ふぅ」と汗を拭いながら飛んでやってくるサクラ。左手には気絶しているJOLJUが掴んでいる。
「死ぬかと思った」
ヤレヤレ、といった様子でサクラは着地し、ついでに左手で掴んでいたJOLJUを地面に放り投げた。「くぎゅ!」と無様な声を上げるJOLJU。その暢気な態度に飛鳥は振り返り怒りを発す。
「アンタ、一人でうちら見捨てて空中で飛び降りて逃げたクセに!」
「死にたくないも~ん♪」
そう。JOLJU手製ヘリもどきが墜落する直前サクラはJOLJUを掴んで……けしてJOLJUを助けるためではなく後でボコるために……一人空へ飛び脱出し、墜落のドタバタに巻き込まれずにすんでいた。見事に飛鳥たちを見捨て一人だけ助かる道を選んだ。
もっとも、腐ってもJOLJU製の乗り物である。重力制御装置は壊れても安全対策のフォース・フィールドはちゃんと生きていた。だから墜落してもどうという事はない。ただ激しく揺さぶられるだけだ。もちろんフォース・フィールドが生きていなくてもサクラは飛んで逃げたが。
こうして友情にヒビが入ったサクラと飛鳥たちは、数分の間お互いを罵り合った。
そうこうする間に、ようやくJOLJUは復活した。
「やれやれ……とんだ目に遭ったJO」
「誰のせいじゃーっ!!」とサクラと飛鳥の怒号がハモった。この瞬間、二人の間の溝は埋まった。非常に安易な関係だ。
「まぁまぁ。ここが目的地なのですか?」とマリー。マリーはいつも平常だ。
「村もすぐそこだJO~ いくJO~♪」
そう言ってJOLJUは北の丘の向こうを指さした。丘はかなり遠い。今いる森を抜けて丘を越えた先に集落がある……らしい。ざっと見てまだ5キロはありそうだ。
JOLJUはまた便利アイテムを出そうとしたが、それは全員が拒否し、結局歩くことになった。
丘に近づくと集落の一部が見えてきた。見える建物は土壁やレンガ造りの家などだが、どれも無残に倒壊していて、路地は被災した村人たちが身を寄せ合っていた。
やがて村人たちが気づく。皆突然来訪した外国人少女たちを奇異の目で見ている。が、気にする連中ではない。
「……酷いですね……建物がみんな壊れています。地震って怖いのデス」
「まるで戦争やなー あ、でも村人たちはけっこう無事みたいやで?」
ようやく彼女たちは村の中央に到着した。突然の来訪者で、村人は混乱と困惑が半分、災害に遭った今後の不安を小声で何か色々な事を呟きあっている。
その時、大勢集まっている人々の輪の中から10歳くらいの活発そうな少年が飛び出してきた。
「あーっ! JOLJUぅ~」
「ムハマドくんだJO~! 元気かだJOぉ~」
とてとてっと駆け出すJOLJU。そして二人は手を取り合い再会を喜び合う。それを無感動で見つめるサクラたち。そもそもここははじめてくる土地だし知らない人間だ。
「涙の対面やな」
「感動的デス」
「おーいJOLJU。一人で遊んでないで紹介しろ、紹介を」
その声を聞いて、JOLJUとムハンマド君は一緒にやってきた。そして型どおり挨拶を交わし、飛鳥が代表して「日本から被災地支援に来た」というと、少年ムハンマド君は素直にそれを信じ、大げさなほど喜んだ。得意気になる飛鳥とJOLJU。少し戸惑うマリー、関心なさげに周囲を見渡しているサクラ。
とりあえずJOLJUムハンマド君の案内で村の中に案内されるサクラたち。
「しっかし……あいつホントどこにでも知り合いにいるなぁ」
「人見知りで傲慢で高飛車なお前とはえらいちがいやなー」
「煩い。JOLJUは節操ないだけダイ」
その節操のない人間大好きのJOLJUは、あっという間に被災している村人たちの輪の中に入り、にぎやかに挨拶を交わしている。ここはいつサクラも知らない村である。こういう事は珍しくなく、JOLJUは世界中に知り合いやなじみの村があるのだ。
一通り挨拶を終え、JOLJUは自分たちが日本から来た事、被災地支援にやってきたことを説明した。こういう事が珍しいのか、日本から来た、ということが珍しいのか、純粋に支援が嬉しかったのか、そういう国民性か、村人たちは素直に歓声を上げた。
ここでようやくサクラたちの出番となった。一通り自己紹介をするサクラと飛鳥たち。地震大国の日本からの救援ということで、皆素直に歓迎してくれた。
「よっしゃーーっ!! こういう地震災害は日本人の十八番や!! 安心してええで!! 皆の衆っ!」
「とりあえず水と食料はあるから。あとは……あとは……どうしようか?」
「……どうするん?」と、飛鳥。三人+JOLJUは顔を見合わせる。
「ボク、怪我人をみればいいのですか?」と、マリー。マリーは特殊能力者で病人や怪我人を治癒することができる。しかし勝手しったる場所ではなく、ここはキリスト教徒の村ではない。医者でもないシスターがいきなり「怪我を治します」と言って通用するだろうか?
いやいや。今はそれ以前の状況である。
「怪我人とかまだ埋まっとるんやないん?」
「発生から5時間だしね。そもそもそれを救助しにあたしらは来たわけだし」
「まだ半分くらい村人は消息不明みたいだJO。皆地震慣れなくてオロオロだJO」
「まぁ……このあたりじゃそう地震ないでしょうしね」
「うちらも今オロオロしとるが」
「……ボクたち、やってきましたがどうしたらいいか……」
本当、何しにきたやら……。
「よく考えたら……ここには仕切り屋がいいひんのやな……サクラは自己中で……」
「なんだとぉ」
「JOLJUはアホやし」
「にゃんだとぉ~!」
「マリーは天然っ娘やし……いつもやったらウチが仕切るんやけどこんな震災経験ないらなぁ……よく考えたらパーティーとしては欠陥やな」
「そうかもね。いや、まぁ……予想はしてたけどねぇ~ 食料と水配ってチャッチャと帰るか」とサクラ。サクラはこういう点ドライだ。
いつもの旅イベントならそれで終わりだっただろう。しかし今回はJOLJUが言いだしっぺだ。こんな事ではめげない。
「じゃあ助っ人連れてくるJO!」
「へっ?」
「JO~っ! テレポート!」
JOLJUは大きく頷くと、ジャンプするとそのまま瞬間移動で消えた。
「珍しく行動的だなぁ……」
「あいつほんまに何でもアリで暴れまわっとるな」
普段はニートの居候のクセに、やる気になった行動力の凄さは無限大である。人間ではないが……。
待つ事3分……JOLJUは帰って来た。
「ただいまだJO~」
という声と同時に地面に降り立つJOLJU。そしてその後ろからテレポートで何かが降ってきた。
「きゃーっ!」
「あ、帰ってきたで」
「なんだ。セシルじゃん」
「えっ!? 私……コンサートが終わって……えっ!? ええっ!?」
そこには、不幸にも強制的に拉致された、コンサート・ドレスに身を包んだセシル=シュタイナーが召還されていた。セシルの愛用バッグまでしっかりセットになっている。
「仕切り屋つれてきたJO」
「てっきりロザミィかユージか拓、連れてくるかと思ったのに」
「その皆には拒否されたJO」
「ま……そのあたりの人たちが来たらきたで後が怖いし。それでセシルっちか。ま、仕方ないな」
「あ……あの……? ちょっと。……もしもーし……おーい……」
まだ訳が分かっていないセシルだったが、見慣れた連中……諸悪の根源たる面々……を見つけて少し頭が回転しはじめた。しかしセシルの問いかけを誰も聞いていなかった。
「う~ん。繰り上げの繰り上げリーダーか」
「ま、セシルもアレはアレで一応プロだから」
「テロリストのプロ!」
「おい! こらっ!! 人の話を……」
「補欠当選セシルっち! うーん…… JOLJUのコネも大したことあらへんなー」
「急に拉致できる人材は中々いないんだJO」等々……身勝手な会話を続けているサクラ、飛鳥、JOLJUである。
「こらぁーっ! 人の話を聞けーっ!!」
「ん?」
三人、セシルを見る。そして訳がわからず怒っているセシル。
「突然こんなところに連れてきて何なんですか! 大体ここはどこです!」
「あ~ ホラ、今朝大地震あったやろ? 5時間くらい前」
「知りません! それと私とどういう関係があるんですかっ! なんで私はテレポートで拉致されないといけないんですかっ!」
「成り行きだJO」
「そんな無茶あるかぁーっ!」
本当に問答無用、説明もなしに拉致された不幸なセシルである。無論説明を聞いて大人しくついて来るはずがなかったからだが。
しかし、怒鳴った事で少しだけセシルは冷静さを取り戻した。というより事態を受け入れる気になった。文句を言ったところでこの連中には通じないことはセシルもよく知っている。テレポート……JOLJUの転送は一般人は一日一回。どれだけ文句を言ってももう帰れない。不幸中の幸いか、先程コンサートの後のスケジュールは練習予定になっていて三日ほどは予定が埋まっていない。今頃セシルが消えた事で劇場は大騒ぎしているだろうが……。
「……で……私に何させる気ですか? 地震がどうとか言っていましたが」
そもそもここがどこかも分かっていない。まずはそこからだ。
どうやらアジア系の田舎である事は分かる。日本や中国ではない。
「ホラ、北インド・パキスタン地方で大地震あったやん? その救助活動や♪」
「仕切る人いなかったから、アンタに来て貰ったの」
「ということは……ここはもしかして……」
「北インドですよ♪」
「……えっ……?」
「ということで、適切に仕切ってや♪ リーダー♪」
誰もセシルに悪いと思っていないようだ。
「えええぇぇぇぇぇぇぇっっっっ~っ!?」
予想以上に辺鄙かつ遠い場所だったことに、セシルは激しく絶望した……その絶叫は虚しくインドの山々に響いた……。当たり前だが自力で帰る方法はない。
こうして飛鳥たちののハチャメチャ救助活動ははじまるのであった。
セシルが絶望とわが身の不幸から立ち直ったのは10分後だった。短時間で立ち直れるのはセシルが訓練された人間だからか、サクラや飛鳥の無茶苦茶な性格に馴染んでいたためか。
「事情は判りました。納得はこれっぽっちもしていませんが、どうやらこのオペレーションを終えないと私を帰らしてくれない、それだけは理解しました。嗚呼ムカつく!」
言葉以上に刺々しく不満一杯のセシル。彼女の表の顔しか知らない人間は、この不機嫌かつ不快を全面に漲らせて暴言を吐く姿に驚くに違いない。もっとも、この場にいるサクラや飛鳥たちはそんなセシルの怒りを見ても何とも思っていないが。
「なんやぁ~ 文句の多いヤツやなぁ」
「わがままだし」
こんな事を露骨に言う連中である。
「少しは自分たちの行動がおかしいとは思わないんですかっ!」怒りを再び爆発させるセシル。しかしすぐにその怒りの感情を押さえ込む。「……と、そんな場合ではありません。今回は人命がかかっているワケですから」と、いつものセシルに戻った。
「そうですよ! セシルだけが頼りなのデス」
マリーの言葉に不承不承頷くセシル。セシルもどうやら気持ちを切り替え、災害救助活動を仕切る気になったらしい。
「とりあえずまだ多くの人の行方がわからないことですし、その救助が優先です。私は中央で指示を出します。しかし能力者のサクラとマリーはともかく、飛鳥は邪魔なだけではないですか?」
「なんや! この万能人間飛鳥様にケンカうっとるんかぁ~」
「ま、騒がしいだけだけどね」
「やっふー! ただいまだJO~」と、JOLJUが現れた。
「アンタ、どこに行ってたのよ。ちょっとこの十数分、姿見なかったけど」
「ちょっと調べ物が……夕方6時まで時間ないし急いだ方がいいJO」
「ん? どして時間限定なんだ?」
「夕方6時21分46秒にちょっと大きめの余震が来るからだJO」
「地震、ボク初体験です♪」と不謹慎にはしゃぐマリー。
「って、なんでそんなこと知ってるんですか?」
「さっきこのあたりの地質とかプレートとか地震波とか色々調べて知ったJO。マグニチュード7.4の余震がどどっとくるから、それまでに救出したほうがいいんだJO」
「……へっ……?」
なんでもないことのように喋るJOLJU。しかし内容は大問題だ。全員が顔を見合わせる。デタラメに生きているようだが、こう見えてもJOLJUは元神様である。このくらいの予知はできるだろう。今回の活動はJOLJUが言いだしっぺだし、この馬鹿JOLJUが言い切ったからには、そこに曖昧さはなく確実な未来だ。
「マグニチュード……7」
「だJO。このあたりは震源地の真上だから、震度6くらいは揺れるはずだJO」
「ろくぅっ!? まぢで?」
「まぢだJO♪ えっへん♪」自信満々に胸を張って答えるJOLJU。マグニチュード7.4ならば本震に匹敵する余震ではないか。
「よく分かりませんが、震度6ってすごくタイヘンなことじゃないのデスカ?」
「震度6なんか来たら立ってられへんし建物も本格的に倒壊するレベルや! マリー!」
「多分すごくタイヘンだJO! さぁ皆ガンバレだJO~ ふれーふれー♪」
バキンっ! サクラ殴る。吹っ飛ぶJOLJU。
「のんきに踊ってる場合かぁぁぁぁっっ!! 来るのが判ってるならもっと焦れ! というか地震止めて来いドアホーっ!」
「それは無茶ですよ」と呟くマリー。
「と……とりあえずあと3時間と18分か。その間にみんな救助しないと二次災害でひどいことになりますね。ムハマド君……とりあえず村人を集めて下さい。そして、動ける男手を集めましょう」
「うん、了解。よく分からないけど、また地震が来るんだね」
「みたいです。マグニチュード7なら、このあたりの建物は皆倒壊してしまいます。3時間以内に村人全員を安全なところに避難させないといけません。ムハマド君も村の大人の人に伝えて、私たちの指示に協力するように言ってください」
テキパキと指示を出すセシル。ムハマド君は素直にウンウンと頷き、村人たちの元に走っていった。JOLJUが予知した……という荒唐無稽の説明を信じるとは思えなかったので、セシルは「日本の地震学者の分析で」と言い添えた。先進国かつ地震大国の日本、という肩書きをつければ村人も信じるだろう。実際、震度3くらいの小さい地震は何度も起きている最中である。
指示が終わると、セシルはブラウスの袖をまくった。
「今度はサクラたちです。遊びに来たのではないんですから、しっかり働いてもらいます」
「えらそーに……」とサクラ。
「ホンマや。何様やねん」と飛鳥。すかさずセシルが「お前たちが呼んだんでしょ!! 仕切る人間を!」と突っ込む。
「サクラなら人間の気配で行方不明者を察知できますね? 貴方がリーダーで一斑。サクラの指示を地上で受けるのが飛鳥とJOLJUの二班。貴方たちは村人と協力して被災者の救助です。私とマリーで三班ということにしましょう」
「はいですっ!」
「私とマリーは、まず拠点を作りましょう。水や軽食を配ったり情報整理をします。それが終わってからは、怪我人の治療とか把握が任務です。怪我人の数と被害規模を調べましょう。後々正規のスタッフに引き継ぐ時に必要ですから。まさか完全復旧が終わるまでいる、とか言いませんよね?」
「そんなにおらへんワイ。ウチは学校があるっちゅーねん。三泊くらいの予定かのぅ」
「私は仕事中に拉致されましたけどね!! 私も付き合うのはそれが限度です。まぁ三日もあれば落ち着くでしょう。被害が甚大ならば、後はインド政府なり国連スタッフなりに連絡して引き継げばいいです。とりあえずは3時間後です。これを乗り切らないと」
「震度6の余震だしねぇ……下手したら二次災害で全滅、とか有り得るしね」
サクラはそういうと、携帯電話を手に空に浮かび上がった。空から捜索し、負傷者や村の状況を携帯電話で地上の飛鳥に報せる。それが基本の流れだ。
「んじゃ、あたしは先に一回りしてくるから。3時間後、ベースキャンプで集合ねー」
サクラはそう言って上空高く飛んでいく。むろん透明化……<非認識化>を使っているから村人に見られることはない。
「じゃあ飛鳥とJOLJUは村人に声をかけて下さい。急ぎますよ! ああ、そうそう。飛鳥、ズボンとシャツの着替えを貸してください。こんなブラウスとスカートじゃあ災害救助なんかできません」
「なんでそんな小洒落たドレスなんか着てこんなトコに来るねん! アウトドアやで」
「拉致されたって言っているだろーが!!」
しかもドレスは安いものではない。飛鳥もここは納得し、巨大リュックの中からの中から予備のGパンとTシャツを取り出しセシルに渡した。他にサクラが用意していた水の水筒、圧縮された毛布、ビスケットなどを受け取る。
セシルの愛用鞄は持って来ているから、携帯電話はあるしタブレットも入っている。CIA任務用の高性能トランシーバーもある。トランシーバーは飛鳥、マリーに配った。
こうして彼女たちは準備を整え、ついに救援活動に移ったのだった。
みんなの活動がスタートした。まずサクラが上空を旋回して生存反応を調査している間に、まず他の皆が村人と接触し、自分たちの計画と目的を村人に説明、協力を求める。
セシルが村人に、JOLJUの依頼で及ばずながら支援に来た事。こういう災害支援に慣れているから指示に従って欲しいという旨を説明した。村人たちは素直にその提案を受け入れた。もっとも、セシルのもっともな説明はあまり必要なかった。ムハマド君一家だけではなく、村の村長ムーディ老人とJOLJUはゲーム仲間で友達同士だった。ムーディ老人はすんなりJOLJUの話を信じ、協力を約束し、その事を集まった村人に説明した。JOLJUの『友達の輪』のおかげである。
こうして村は本格的な避難活動と救援活動が始まった。
セシルが、地盤が固く頑丈な村の学校をベースキャンプ本部に決め、そこに生き残っている村人全員を集めるよう命じ、非常用電気と物資の確保を始めた。マリーはやってくる村人たちに綺麗な水と、その水で作ったお茶(飛鳥が持ち込んだインスタント・レモンティー)配りながら、困ったことがないかを聞いたり不明者がいないかを聞き込む。こうして得られた情報をセシルが整理してサクラに伝える。
「そういうことですから、飛鳥は先発してください」
「ほいほい~」
飛鳥と村の男たちは、小型トランシーバーをもって早速出かけていく。飛鳥の手には、腕力10倍になる<パワー手袋>が嵌められているから、屈強な村人の男たちに力では負けない。
サクラたちと村人たちによる救助が本格的に始まった。
まずは目ぼしい所から倒壊した家を退けたり、毛布や食料の確保をしていると村を一巡してきたサクラが帰ってきた。手にはサクラが描いた村の地図の大雑把な避難人の数が記入されていた。
その地図を、サクラは飛鳥と村人たちに渡し、指示を出す。村人たちは近くから。遠くはサクラと飛鳥が受け持つことになった。
ということで、サクラと飛鳥はひょいひょいっと村の中を突き進んでいく。ちなみに飛鳥は村で確保した自転車に乗っている。でなければ徒歩だけではとてもやっていけない。
「しかし……ちょっとタイヘンすぎひんか? 建物とか洒落にならんくらい壊れとるし村も結構広いやん」
「そりゃそーだ。日本と違うワイ」
いや、日本でもこのくらいの規模の山奥の田舎の村ならエリアは広大だと思うが、ここは誰も突っ込まない。
「一体どんくらい救いだすん?」
「村人の人口が837人。そのうち村中央の学校に避難しにきてるのが538人。残り299人が不明だけど、今ざっと見にいって128人は家族単位で避難していて、現在死亡確認が31人だから、生き残りは何人?」
「わかるかぁー!」
「アンタ、引き算もできんのか。140人!」
「なんや、思ったよりは少ないな」
「でも余震のこと考えたら全住人を避難所の学校に集めないとね。二次災害で全滅よ」
「おお~! がんばるでぇ~」
こういう活動は飛鳥は大好きだ。普段は面倒くさがりだが、目的のある活動的なことになると生き生きとしだす。つくづく普通の高校生に向いていない飛鳥である。
「ウチらの活動は困難を極めた! ガレキを払いのけ! 屋根をのけ、でかいおっちゃんを引きずり出す! 投げ飛ばす! もうなんでもやりまくるっ! もう服は汚れるわ手は痛いわコーラが飲みたくなるわ……しかし、困難と思われたミッションを、ウチらは挑戦し、ついに打ち勝ったぁっ!」
……これが飛鳥の感想だが、まぁ凡そこんなカンジである。飛鳥は屈強な村男たちより的確に、果敢に、強引に、かつ無茶苦茶に頑張りまくった。サクラの正確無比に避難者の情報をアシストしてくれたおかげでもある。こうして飛鳥に助けられた村人たちや、倒壊した自宅近くでオロオロとして為す術なく戸惑っていた村人たちもセシルが企画し運営している学校の臨時避難所に集まっていった。
飛鳥たちが村内の行方不明者全員を見つけて収容し終わったのは、陽が傾き空が橙に染まる6時過ぎだった。その頃にはセシルの避難所もセシルの優れた計画力と指導力で秩序が保たれ、滞りなく運営されている。村長ムーディ氏曰く「こんなに村が一致団結できたのは初めてじゃ」らしい。
「はぁ~ ばーてーたぁぁぁぁ」
「なんとか全員救出完了~」
クタクタに疲れ、汚れた飛鳥と、いつも通りのサクラが避難所に帰ってきた。
セシルとマリーも事務仕事を終え、二人を出迎える。
「避難も完了デス」
「村人みんなに余震に供えるよう通達しておきました。今、時間は……?」
そう! 時間が迫っている。飛鳥は時間を確認した。しかし飛鳥の腕時計は日本時間設定のままだからリアルタイム時間は分からなかった。いつも腕時計をしないマリー、拉致されたセシルも今何時か分からない。
やれやれ……と、サクラは自分の携帯を取り出した。サクラの携帯電話は特別製で、世界中遊びまわるサクラ仕様で自動調整機能がついている。
「ふむ。6時16分。おおーっ! ギリギリセーフだ」
「にゃんとぉ!! 図ったかのようなギリギリやな!」
「本当ギリギリですね。マグニチュード7。この学校も果たして保つかどうか……」
すでに本震で大きな地震を受けた後だ。コンクリート作りとはいえヒビや欠けがところどころ見える。が、村で一番耐震能力があり、500人以上を収容できる場所はここしかない。一応、JOLJUが「ここは大丈夫だと思うJO」と言ったから大丈夫なのだろう。多分。
「絶対間に合わへんと思ったけど、なんとかなるもんやなぁ……人間努力が一番! なせばなるっ! 天才飛鳥様の辞書に不可能はないっ!」
「ツッコミは沢山あるけど、突っ込む気がないくらいバテてる」
「あのぅ……ところで、JOLJUはどこデスカ?」
そういえばここにあのヘンな生き物の姿はなかった。村人たちのほうにもいないようだ。
「しらん。あいつ途中からどっかいったけど、そういえば見てへんな」
「あ、今丁度6時19分です」ポケットから腕時計を取り出しセシルが言った。
「アンタ! 時計持ってないンやなかったんかい!」
「ムハマド君から借りました。時間があっているかどうか分からなかったんでどうしようかと思っていましたが、サクラの携帯時計で時間が合っていることは確認できたので」
飛鳥が思い切りツッコミを入れようとしたときだった。
ゴゴゴゴゴゴッ……。
地響きと、地面の揺れが、はっきりと彼女たちにも感じられた。
「あ、来る」無慈悲なサクラは、その瞬間空に浮いた。どこまでも自分の身しか守らん奴だ。
「うおぉぉぉ! テーブルの下に避難やぁ~」ハンション高く雄たけびを上げる飛鳥。セシルはマリーを抱き、その場に座り身構える。
そして、ついに地震はやってきた。
ゴ……ゴ……!
……カタカタカタ……カタン……。
「…………」
地震は、すぐに止んだ。
四人は、顔を見合わせる。
「今揺れましたけど……ちょっとでしたね」
「震度2くらい?」
「今の余震の余震じゃないの?」と言いながら安全な地面に降り立つ自己中のサクラ。
「でも、なんかもう揺れる気配ないで?」
「時間も6時20分ですが」
その時だった。奴が戻ってきた!
「JO~ ただいまだJO~」いつもの間抜け顔の、いつもの調子のJOLJUである。
「おいJOLJU! なんか余震来ないんだけど」とサクラ。
「JO? 今あったJO」
「今のは震度2くらいです。震度6の余震なんですか?」とセシル。
「今のがそうだJO」
「へっ?」
顔を見合わせる四人。そしてJOLJUは、得意気に説明をし始めた。
「実は今震源地行って来て、地震中和させてきたんだJO」
「へっ??」
何ていった? このへちゃむくれの白い謎の生命体は。
「まずそもそも地震は地下のプレートのエネルギーがドカンとなる現象だJO」
「それくらいは知っとるが」
「そんでもって、地震の揺れは波みたいに伝わっていくモノだJO。下手にエネルギーを封じ込めちゃうと、エネルギーはますます貯まってしまって後が大変だJO。だから、エネルバーがドカンとなった瞬間、ヘリコプターで使っていた動力の反重力装置使って、地震エネルギーを中和させたんだJO♪ オイラえらいっ!」
「ということは……つまり……」
「大地震は阻止できた……と?」
「えっへんだJO」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
「ウチらの苦労は何ったんやぁぁぁっっ!!」
ドカッ!! サクラのアッパーが炸裂! さらに落下してきたところに強烈な飛鳥の右ストレートが炸裂。しかも二人共パワー手袋使用だ。JOLJUは10m先まで吹っ飛び、壁に激突した。不死身のJOLJUでなければ死んでいたかもしれない。
「オイラいいことしたのに何で殴られるJO~!!」
「いっぺん死ねぇぇぇっ!!」
問答無用! サクラ、飛鳥のダブル昇竜拳が炸裂、JOLJUは上空高く吹っ飛び、頭から落ちた。セシルとマリーも呆れ顔でただ見ているだけだ。
「サクラが<地震止めて来い>って言ったんだJO~」
そういう事だ。JOLJUなりに考えて、地震をとめてしまうほうが村のためになる、と判断して一人、震源地まで行き作業してきたのだった。
そこはいい、立派だ。
しかし問題はそこではない。
「止められるなら最初に言えぇぇっっ!!」
最後のツッコミにはセシルも加わった……
……とりあえず……村の危機は去った。
被害はJOLJU一人。全身打撲により気絶……3分後には無事復活した……。
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 2」でした。
ということでドタバタ・コメディーです。
相変わらず……このメンツだとなんとも騒がしい連中です。
このシリーズはここで終わりではありません。まだちょっとだけ続きます。
というか、実は本題はこれからです。
この「飛鳥の事件簿」シリーズは、完全コメディーではなくて、ちょっといい話やもっと間抜けなエピソードが色々入っている、サクラと飛鳥メインのコメディー・シリーズです。
「黒い天使長編『死神島』」を読んでもらった人からすると、サクラと飛鳥のポンコツぶりは予想外かもしれませんが、ポンコツなのもこの二人の面白味です。サクラはシリアス編だとそこそこシリアスになりますが飛鳥がどのシリアスシリーズでもこんなものです。そう考えると飛鳥のバイタリティーはかなりすごいものなのかもしれません……。
ということでこのドタバタ救援活動はもうしばらく続きます。
これからも面白おかしく応援してくれれば嬉しいです。
「飛鳥の事件簿」シリーズ、今後とも宜しくお願いします。