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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
58/206

黒い天使日常編「寿司屋の攻防戦」1

日常編。


唐突に寿司が食べたくなった飛鳥。

むろん回転していない、値段の高い寿司! 

だがそんな高い店に馴染みはない。

興味はあるがいけない。そんなジレンマを抱くある日……

ふとした幸運で、サクラたちはなんと寿司屋ディナーにありつくことに!!



黒い天使短編「寿司屋の攻防戦」1

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 東京練馬。日は暮れ帰宅を急ぐサラリーマンたちの車が都心から自宅に向かって連なっている。

 そんな夜道を、真壁家の飛鳥と風禅、そしてサクラとJOLJUが外食を楽しみ、今その帰路にあった。仲良く徒歩である。


「やっぱ寿司はええなぁ~! 満腹や~♪」満足そうに声を上げる飛鳥。

「そだねぇ。回転寿司だったけど」とサクラが余計な言葉を吐く。

「何に言うてん! 回転寿司は庶民の贅沢ナンバーワンやで! 旨い! 早い! 安い!」

「うむ! やっぱ回転寿司は特別だJO」

 JOLJUは寿司が大好きだ。その中でも回転寿司大好きだから、大満足だ。

「ま……四人で食べても高くないのが回転寿司のいいところじゃて」

 真壁風禅はお金持ちではないがこの程度の外食ならばそれほど懐は痛まない。4人でおなか一杯食べても食べても一皿100円の回転寿司だから8000円もいかない。今日は風禅の奢りである。


 問題は帰宅後起こった。






 それは夜。飛鳥の部屋でだらだらと三人でテレビを見て過ごしていた時である。

「ところでサクラよ。お前は寿司屋の寿司って食った事あるんかい?」

「……?……」


 ……何を言っているんだコイツは……という顔で飛鳥を見るサクラとJOLJU。さっき晩御飯に寿司を腹いっぱい食べたばかりではないか。


 飛鳥は「違う違う」と手を振る。


「回転寿司やなくて、もっとちゃんとした寿司屋のほうや」

「何を突然言い出すンだお前は……」

「さっきグルメ番組見てて唐突に思っただけやけど。寿司屋の寿司ってあんなに旨そうで別モノみたいに綺麗なんやろ? アレって同じ材料使ってるんか、ホンマに……と言う疑問が出たワケや」

「サクラちゃんの小遣いでそんな店行けるカイ」

 サクラは興なさげに漫画本に目線を落とした。

「アンタん家、ぷち上流やないか」

「儲けてるのはユージだけ。あたしは日々小遣い制の庶民だい」


 サクラの養父ユージ=クロベはFBIであり救命外科医だ。本業FBIの基本週給2000ドルでこれに各手当が付き、他に副業が外科医で病院からのかなり高額の臨時収入があり、外科医として指名を受ければ数十万ドルレベルの報酬もある。NYのど真ん中の億ションに住んでいてホワイトカラーの人間にしては高給取りである。


 こんなプチセレブのユージの出費は銃を購入する事(とはいえもう100丁以上はあるのでそう頻繁ではないが)と、エダとデートする時出費するくらいで後は仕事中毒だから、かなりの額の貯金を持っている……とサクラは思うのだが、あの男はサクラに対してはシビアでどんなに儲けてもサクラには一日2ドルしか出さない。


「ということでサクラちゃんはカウンターの寿司屋なんかは知らんワケだ」

「オイラ行ったことあるJO」えっへんと胸を張るJOLJU。

「にゃんだとー!? いつ!!」とサクラは声を荒げる。JOLJUは同じくクロベ家の居候で小遣いも同じ日給2ドルの身ではないか!!

「拓と中国人が営業してる創作寿司屋にいった事がるんだJO!! NYで!!」

 それはただのパチモン寿司屋であって旨いかもしれないが飛鳥のいう寿司屋とは別物だ。


「なんやソレ! そんなパチモンはどうでもええねん! 日本の寿司屋や!!」

「そういうアンタはないんかい、日本人の飛鳥よ」

「ウチのじぃーちゃんがそんな気前いいワケないやろ!」

「…………」

 飛鳥の保護者である祖父真壁風禅も警察の退職金があり年金もあり毎日の整体師の仕事があるからそこそこ持っているが、彼の場合生活費以外の余分なお金はゲームやモデルガンや釣り道具など自分の娯楽のために使うので、孫娘の頼みでも連れて行ってはくれない。真壁家の家訓は「贅沢は自分の金で」なのである。


「自分の金でいけ自分の金で」

 サクラはそういうと目線を漫画本に戻した。何だかんだと飛鳥も高校生のわりには小金持ちで寿司屋にいくくらいできるはずである。しかしそういう店に未成年が行くのは何か気が引けるしセコイ飛鳥がそんな店に自腹で行くはずがない。

結局「うーん……興味はあるんやがなぁー」と、しばらく飛鳥が唸っているだけでこの日は終わった。


 が……この何でもない話題がひょんなことから再燃するとは、思ってもいなかった。







 寿司の事なんかすっかり忘れた三日後……金曜の夜を迎えた。


「デカいピザが食いたい!! アメリカのすんごく大きいデリバリーピザが食いたい!」


 夕方学校から帰ってきた飛鳥は、囲碁をしていたサクラとJOLJUにそう宣言した。なんか唐突にピザをお腹一杯食べたくなったらしい。しかも日本の宅配ピザは高くサイズもあまり大きくない。ということで、明日が休みをいいことにNYに行く事を決めたらしい。米国だと日本の半額でサイズ倍以上のピザが食べられる。むろんNYの滞在先はサクラの家だし通訳もいるのでサクラとJOLJUも同行することになった。ピザは奢りということなのでサクラとJOLJUも行く気になった。


 もう銀行は閉まっているが、いつでも海外冒険ができるようにと、飛鳥は100ドルくらいはいつも財布に入れている。ピザなんて30ドルもあればサイドメニューたっぷりでたらふく食べられるし、飲み物はサクラの家にたっぷりあるから十分だ。ということで、三人は転送機を使うため六本木の神崎氏の事務所に向かった。


 そして神崎氏の事務所に入ったとき、三人は思いもかけない人間と鉢合わせた。



「なんだお前ら」

「あれ? サクラたちって日本にいたんだー」



 そこにいたのはユージとエダである。二人共いつもより着飾りちょっといい服を着ていた。それを見てサクラはすぐに二人が東京にデートに来たことが分かった。これも転送機が使える強みで、二人は時々転送機を使って馴染んだ東京に気軽にデートにやってくる。やはり和食やラーメンなど食べたい時は東京に限るのだ。この二人はサクラ同様転送機の一般人のように回数制限がないからこういうデートも出来る。


「家には食材があるから適当に食っていいぞ」


 ユージはサクラを相手にせずそういうとさっさと出ていこうとする。こういう事もよくある事で、デートにいくユージたちを邪魔することはない。


 が、この日は違った。JOLJUの「何食べに行くンだJO?」の一言がサクラたちの行動を変えた。ユージはその問いに無視していたが、いつも優しく親切なエダは教えてくれた。


「お寿司だよ♪」


「なんやってーーっ!?」


 これまで無関心だった飛鳥が急に声を上げた。


「ユージがね、ちょっと大きな手術をして臨時報酬をもらったんだ♪ それで今日は美味しいお寿司でも食べようってなったんだけど……」


「じーっ……」

とユージを睨むサクラとJOLJU。ユージはやれやれといった顔で財布から千円札を二枚取り出すと、「ほれ、小遣いだ。俺たちの邪魔するなよ」と二人に手渡す。


「なんでじゃーっ!! それが親の態度かぁーっ!! これが娘への扱いかぁーっ!!」

「そだJO―っ!! これが居候への対応かぁー!!」

 と、二人同時に騒ぎ出す。最低でも数万ドルは入ったくせに何とセコイことか! 家族に還元しろ!! と二人は猛抗議を始めた。しかしこんな抗議など意にも介さずユージは「小遣いやっただけでも有り難く思え」と全く取り合わない。これがユージだけならサクラたちの抗議は無しのつぶてであっただろう。しかしここにエダがいたことが幸いした。


「ねぇユージ? サクラたちも大将の店、連れてってあげようよ。皆で食べたほうが美味しいよ? お寿司」

「いいんだいいんだ。1000円あればビッグ・ホットドッグは買える。こいつらの好物」

「好物だけど寿司も食べたいぞぉーっ!!」

「寿司食べたいJO―っ!!」

「お前ら三日前に寿司食ったとか言っていただろ」

「アレは回転寿司で寿司屋じゃなぁーいっ!! 食わせろ!! たまには家族サービスしろ!! でないと表通りまで付いて行って大声で泣くゾ! コノヤロー!!」

「泣きたきゃ好きに泣け」

 サクラがそんな子供じみたい事をするはずがない。ユージは痛くも痒くもない。


 が……さすがにエダはサクラに同情した。サクラがいなければデートを楽しむのでよかったが、サクラたちと出会ったのだ。家族として一緒に連れて行ってあげたいではないか。サクラやJOLJUは世界中ブラブラしているから家族皆で仲良く外食する機会は意外に少ないのだ。


「大将のお店だったら色々融通も聞くし、美味しいし、たまにはサクラたちにも美味しいもの食べさせてあげようよ。ね? デートはいつでもできるんだし」


「…………」


 サクラには何を言われても気にしないが、エダにこんな事を言われると途端に困るユージ。ユージは大きな溜息をつくと、サクラを指差した。


「店に電話してやる。予約店だからな。追加予約でできるなら連れて行ってやる。予約できなかったら諦めろ、いいな!」

 そういうとユージは携帯電話を取り出し、店に電話をかけ始めた。

 予約数の変更は可能だと分かった時、サクラとJOLJUは無言で万歳を繰り返す。

 そして、「4人」と言おうとしたユージの目の前で、無言で必死に両手を振り「ウチもいるでー」と存在を猛アピールする飛鳥。ユージは飛鳥を数秒見つめ、溜息をつくと「5人予約で」と飛鳥も追加した。


 サクラたちが幸運なのか、エダのいつもの強運がサクラたちにも舞い降りたのか……無事、5人分の予約が確定した。


 こうして恋人二人のしっぽり仲良く寿司デートが、ひょんなことから高級お寿司を皆で食べる! という予想外の大イベントに発展していった。

 





 店は東新宿ということで、地下鉄に乗って向かった。


「六本木にもたくさん寿司屋はあるのにどうして新宿なんじゃ?」


 電車に揺られながらエダにそう尋ねるサクラ。美味しい寿司屋といえば銀座や築地のイメージがあるし、六本木にも高級店は多い。新宿となると少し庶民的な雰囲気になるし人も多い。ユージはともかく新宿はエダのイメージではないが……。


「そのあたりは色々理由があるんだけど……ユージの昔からの馴染みのお店になるのかな?」そういうとエダはクスクスと笑う。


 8年ほど前か……たまたま街でチンピラ連中に絡まられていた寿司屋の若大将をユージが助けた事がキッカケで、その後常連になった店だ。ちなみに当時のユージは医学生でむろん銃を持たず、チンピラは8人もいたらしいが、1分もかからず全員を伸してしまったらしい。エダが苦笑した意味がサクラにはよく分かった。このテの話はNYでもいくつもあるのだ。ストリートギャングたちの嫌がらせから飲食店を救って常連になる……ユージはどこにいっても本質は変わらないらしい。


「それでエダさん……そのお店って高いン?」


 こそっ……と飛鳥がやってきて囁く。飛鳥にとっての関心事はそこである。東京には寿司屋は数多くあり、中には非常にリーズナブルだが質のほうもリーズナブルな店も多い。どうせ奢って貰えるならいい店で! と……こういうあたり飛鳥は中々図太い。


「んー……美味しいお店だしそこそこ高いんじゃないかな? ものすごく高くはないけど値段以上の腕はあると思う」

「ふむ! 食レポとかは……さすがにできへんか……」


 飛鳥としてはこんな機会は滅多にない。『突撃今夜のお寿司屋さん』みたいなノリで取材できれば面白おかしい記事がかけて一石二鳥なのだが、今回は奢りで行きつけではない知らない店だから無茶はできない。大人しく食べるしかないだろう。「飛鳥だけ別払い」など言われれば溜まったものではない。飛鳥も今回ばかりは大人しく美食を楽しもう……と心に誓った。




 さて……東新宿駅を出て徒歩10分。大繁華街から少し静かになった街中に、件のユージとエダの馴染みの寿司割烹『海舟』があった。


「「「おおーっ!」」」


 サクラ、飛鳥、JOLJUの感嘆の声は重なった。


 新宿だから居酒屋風か……と思ったがそうではない。どちらかというと質素な造りで暖簾があるだけだが、返ってこういう玄人ぽい店のほうが味はすごい。


「生簀とかがない点はかなりの高得点だJO」


 この5人の中でおそらく一番魚に詳しいJOLJUはウムウムと頷く。そう、狭い生簀など見栄えだけで本当に魚の旨い店は毎日魚市場に行き、巧みの腕で〆られた鮮度のいい魚を仕入れている。魚の目利きやこだわりがなければ中々こうはならない。


「奢るといったな。ほら、手を出せ三人」

「?」

 三人は黙って手を出すと、ユージは三人の手にそれぞれ一万円ずつ乗せた。その予想もしない高額紙幣の登場に三人のテンションは一気に上がった。


「三人で三万。飲み物はその中から選べ」

「一人一万円……晩御飯一回で一万円……こんな豪華な事があったのか!?」と、珍しくうろたえるサクラ。飛鳥やJOLJUも同様で、食い入るように一万円札を見つめていた。

「うぅむ……しかも奢りときた……なんと豪華な!」

 飛鳥も高校生にしては持っているほうだが、それは全て自分で稼いだお金。晩御飯でぽーんと一万円を使う勇気はないし、食べるものに対してそんなに使った事がない。


 が……ユージはその後不吉な言葉を告げた。




「オーバーしたら自腹な」



「…………」



 三人は顔を見合わせた。



「大丈夫だよ。あたし、よく来るけど一万円分も食べてないもの」

 と、エダは言っている。しかしここに大きな差異がある。そもそもエダは元々小食な上に支払いをしたことがないから正しい飲食費は知らない。


 悪い予感はある。この店、店外にはどこにもメニューや値段の分かりそうなものがないのだ。完全予約制で間違いなくそこらのサラリーマンが仕事帰りに寄る店ではない。


「…………」


 普通の食事なら問題ない。コース料理を頼めば予算を超えることはない。しかし寿司屋は好きに注文できるだけに、予算は天井知らずといっていい!


 嬉しい反面、妙な不安を覚える貧乏性の三人……。



 こうして未知との遭遇、高級寿司屋への実食! となった……。




黒い天使日常編「寿司屋の攻防戦」1です。


しばらく短編の日常系の話を続けていこうかと思います。

ということで、第一回に……なんとなく寿司屋の攻防戦話となりました。

あんまり深い意味はないです。

まぁ……この前までユージ・メインでハードボイルドだったから、しばらくは小ネタ系だったりショートストーリーだったり日常系だったりという話を公開していこうかと思います。


しかしピザを食べるためだけにNYに遊びに行こうとする飛鳥は感覚だけいえばかなり贅沢ではなかろーか。まぁ転送機でタダだしサクラの家に泊まればいいしで実はしょっちゅう遊びにいっているんですけどね。


ということでしばらくはまったり日常話をお楽しみ下さい。


これからも「黒い天使」を宜しくお願いします。

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