「黒い天使・災厄者 vol 38」
「黒い天使・災厄者 vol 38」
秘密通路に突入するユージ。
激しい銃撃戦によって残兵を圧倒するユージ。
だが、現れたラテンスキーに出し抜かれ、ユージとサクラは閉じ込められる。
そしてそこには爆弾が。
狡猾なラテンスキーが完全にこの場を支配するが……
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暗闇を、無数の閃光が飛び交い闇を切り裂いていく。
凄まじいフルオートの銃声と悲鳴が木霊した。
だが、その恐怖の時間もごく僅かな間であった。
「!!」
フルオートの雨の中、ユージは自分のコートを通路に投げ込んだ。
弾幕は、室内ではなく突然現れたシルエットに集中する。
が……弾はコートを切り裂く事はなく、吸い込まれるようにコートの中に消えていった。ユージのコートは防弾処理が施されている。SMG、小銃弾くらいならば貫通しない。コートは銃弾によって踊るように舞う。とはいえ、そう長くは持たない。だが一瞬の隙でよかった。射撃がコートに集中した僅かに隙に、ユージは飛び出すと一瞬のうちに通路に光るマズルアラッシュ……敵の場所に向かって銃口を向けた。
勝負は一瞬だ。居場所さえ分かれば、待ち伏せもユージにとって脅威ではない。
マズルフラッシュは4箇所……2秒で、3箇所に50AE弾を叩き込む。弾が切れた。マガジンを交換せず、ユージはすぐに腰のDE44を抜き最後の一人に向かって銃弾を叩き込んだ。
ユージのコートが、床に落ちた。
「…………」
DE44のマガジンを交換した。
そっと通路を覗くユージ。そこには死体が4つ、転がっている。
……コール支局長が怒るな、これは……。
結局ウェラーの私兵を全員殺してしまった。彼らから証言を得ることはこれで出来なくなった。もっともこの状況下でこの結果は致し方ないところだ。
ユージは通路に入る。淡いLED電灯の明かりで照らされたコンテナ造りの地下通路で、天井は思っていたより高くケーブルやエアダクトが張っていた。この地下通路は40mほど続いているだろうか。丁度本館と別館地下の距離を考えれば凡そ計算が合う。
「人のレザーコートをボロ雑巾にしやがって……」
近くで倒れている死体から順に懐を探っていく。だが、誰も爆破スイッチやコントロール・パネルの類は持っていなかった。
「…………」
この4人が本館を爆破したのではないとしたら、ラテンスキーか? だがラテンスキーの姿はここにはない。
ユージはDEを構えながら歩を進める。早歩きで、奥までたどり着く。ナニかまだ人の気配を感じるが、見当たらない。
「いないねぇ……何か殺気は感じるんだけどねぇー」
「!?」
背後から突然の声に、思わず振り向くと同時にDEの銃口を向ける。そこにはサクラが驚くほど近くに立っていて、思わずそろ~っと両手を挙げた。
「何でお前がここにいる!」
「DE50を落としていたゾ」そういうとサクラはユージが先ほど床に捨てたDE50を差し出す。
「もう50口径は弾切れだ」そう答え、ユージはDE50を受け取りヒップホルスターに入れた。DE44と入れ替えた形だ。
「で? 何でこっちに来る。お前はあっちの警備役だろ」
「もう掃討したみたいだしいいジャン。それに……あっち、もうなんか辛気臭くて嫌なんだよね……陰気臭いジメジメ空気っていうかベトベトした空気がどうにも……」
やれやれ……と溜息をつくサクラ。ユージも後ろの秘密地下室を一瞥した。サクラの気持ちも分からないではないが、それも任務だ。
……とはいえサクラはFBI捜査官ではないからそんな責任はないが……。
ユージは周囲を確認する。火の手が迫っている様子はない。私兵たちはもういない。が……気になることがある。ラテンスキーの姿がない。普通に考えれば逃げたと考えるのが普通だ。あの男の身になれば、こんな事件に関わるより、ユージたちがここに張り付いている間に少しでも遠くに逃げるのが得策のはずだ。普通に考えたら、だ。だがラテンスキーは狡猾だが賢い男ではない。
ユージが思案中……サクラはじっと天井を這うエアダクトを見ていたが、一箇所で目が留まった。耳に集中する。音が聞こえた。
サクラはユージの袖を引いた。
「ユージ! エアダクトに誰かいる」
「何!?」
ユージが振り向いたのと同時だった。エアダクトが外れ、巨体が地面に降りたかと思うと、天井に隠れたシャッターが一気に下に降りる。
……しまった……!!
と思ったときには、シャッターが完全に下に降りてしまった時だった。その大男には見覚えがあった。
「ラテンスキー!!」
ユージは叫ぶと、シャッター越しに舞い降りたラテンスキーに銃口を向け引き金を引いた。弾はシャッターを貫通したが、弾道は曲がり、弾は壁で跳ねた。すぐに駆け出しシャッターを叩くが、音だけが無慈悲に響いた。
「くそっ!!」
完全にユージは出し抜かれた。エアダクトは小さくて、女子供ならともかく190cmを越える大男が音を立てる事なく通れるとは思ってもいなかった。しかしそれは間違いであったことをすぐにユージは思い出した。
ラテンスキーも<狂犬>同様、元SASリース=ケイチェックの訓練を受けている。<狂犬>も、細く狭いエアダクトを無音で這い進む能力に長けていた。ラテンスキーにもそのスキルがあったのだ。その事をユージは不覚にも失念していた。
「ありゃりゃ……しまった」
罰が悪そうにサクラは呟いた。しかし呟いたところですでにもう遅い。
それよりも最悪なことは、このウェラー邸のセキュリティー操作機を持っているという事だ。ユージとサクラは秘密部屋から引き離された。もし秘密部屋に何か仕掛けられていたら今のユージたちには手も足も出ない。
さらに悪い情報をサクラが見つけていた。エアダクトの上に、微弱な電波を発している30センチ四方の箱を見つけた。その事をユージは聞くとユージの顔に初めて焦りの色が浮かんだ。
「爆弾だ」
「こんな通路に普通仕掛ける?」
「本館のモノを外してここに取り付けたんだろう。あの大男、小知恵が回るじゃないか」
「取り外ずそーか?」サクラなら飛んでいけば、複雑に入り組んだダクトやコードを掻い潜り取り外す事ができそうだ。だがユージは「ちょっと待て」と引きとめる。電波が出ているということはすでに起動しているということだ。下手に動かせば爆発するかもしれない。
ユージには爆発物に対して膨大な知識があり、かつ直感的に危険を感じる高い危機回避能力がある。直感は今すぐ爆発しない、と告げている。
「考えがある」
そういうと口早にユージは思いついた作戦をサクラに説明する。いつ爆発してもおかしくはない。急ぐ作戦だ。
……何が一体どうなっているんだ……!?
ウェラーは何が何だかさっぱり分からない。
突然現れたラテンスキーは半裸だった。ゴキッゴキッと両肩の関節を填めた。
危害を加えるではなく、不敵な笑みを浮かべ周りを見渡している。
……この男はロシアン・マフィアではなかったか……? 敵ではないのか!?
だが危害を加えそうな気配はない。ズボンにはハンドガンが突っ込まれているが抜く様子はない。
「随分手酷くやられたな、<ヴォースィミ>」
「……<アジンナッツァッチ>」
<狂犬>だけが、眼を鋭く光らせた。ラテンスキーがFBIの囮だった事は知っている。そしてそれを裏切った事も。裏切り者であるラテンスキーが、ノコノコとこんなところに来るとは思えない。どういう利点があるのか……利に煩く用心深く、自分が何より大事な男だ。こんな危険な場所に来るような性格の男ではない。
「喜べ、<ヴォースィミ>。全て巧くいく。邪魔者を消したらな」ラテンスキーはロシア語で喋る。ウェラーには分からない。マリアは僅かに反応したがラテンスキーは無視した。
「お前が……こんな危険な場所に来るなんて、驚きだ……逃げられないぞ」
「大丈夫だ。大金と安全が手に入る」
そういうとズボンのポケットから小さなリモコンを取り出した。そして不敵な笑みを浮かべ、そのボタンを押した。次の瞬間、秘密通路の奥で大きな爆発音が響き、何かが崩れる音が続いた。そして煙と埃が秘密部屋にも吹き込んで来る。
「これで、あの<死神捜査官>も終わりだ。知っているか<ヴォースィミ>。あの生意気な<死神>アジア人を殺せば、世界中のマフィアが諸手を上げて歓迎してくれる。2000万ドルは堅い」
「…………」
「さて、議員さん。今度はアンタだ」ラテンスキーは会話を英語に戻した。呼ばれたウェラーは目を剥く。その様子を見てラテンスキーは笑みを浮かべる。
「そんな顔しなくていい。これはアンタにとっていい話なんだぜ、上院議員サン」
「なんだと」
「アンタがムショに行かなくても済むようにしてやる。勿論マフィアから命を狙われる事もない」
「と……逃亡者になんぞなれんぞ! お前たちチンピラと違って私には体面がある」
「逃亡者にはならねぇー。俺もそこまで馬鹿じゃねぇ。俺たちは捕まるんだ。そして、堂々と裁判を受けて、堂々と自由になる」
「捕まるだと!?」
「今の爆発であの地下通路も使えねぇ。俺たちがここを出るには、当局に救助されるしかない。だがいいかい、議員サン。アンタにとって不利益な捜査官はさっきの爆発で生き埋めになったはずだ。後は細かい事情までは知らないFBIの捜査官が地上に一人……こいつは今頃応援を呼んでいるだろう。消防だってやってくる。いくら何でもこの中を逃げるなんざ自殺行為だ。もう出口はないんだし、ここは静かに救助を待つのが得策よ」
「…………」
ラテンスキーの言っている意味が分からず困惑の色を浮かべるウェラー。ラテンスキーは得意気に、微笑む。
「俺は俺の仕事をする。つまり、俺はロシアン・マフィアに口利きする。代わりに、アンタは俺のため優秀な弁護士先生をつける。こうして俺たちは、裁判で無罪を勝ち取り堂々と世間に出るってワケだ。理解できたかい議員先生よ」
「…………」
話は一応頭に入った。だがウェラーにはラテンスキーが何をしようとしているか分からない。
その時だった。ラテンスキーは腰に差した9ミリオートを素早く抜くと、<狂犬>の胸に向かって引き金を引いた。気配を察した<狂犬>はすぐに防御しようとしたが間に合わず、腕を貫通した弾は胸に刺さった。<狂犬>は無言でその場に倒れこむ。それを見た少女たちは悲鳴を上げ、マリアは眼を見開き立ち尽くした。
「黒い天使・災厄者 vol 38」でした。
ついにクライマックス!
ユージもサクラも出し抜かれました。
ま、サクラはあまりやる気ない子ですがw
こうして現れたラテンスキー。絶体絶命の<狂犬>とマリアたち。
そしてラテンスキーがついに主導権を握りました。
はたしてユージとサクラは無事か。
<狂犬>やマリアたちはどうなるのか。
ついにクライマックス突入です。
後もう少し!
「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。




