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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使 中編 災厄者」シリーズ
53/206

「黒い天使・災厄者 vol 36」

「黒い天使・災厄者 vol 36」



屋敷を爆破したレスラーに迫る拓。

だがすでにレスラーは罪を被る覚悟をしていた。

拓ですらもうなす術がない。


そして地下に閉じ込められたユージたち。

ユージはこの爆発を利用し、ウェラーの心を折りに掛かった。



15

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 ウェラー邸が炎と黒煙に包まれながら崩れていく。


 大爆発を起こしてから3分……軍用や燃焼系ではなかったから炎はそれほど強いわけではない。だが一階が完全に吹き飛んだため、二階、三階も自重に耐えられず崩壊していくのだ。


 ライアン=レスラーは庭の木の陰からそっと身を出し、崩れていくウェラー邸を見つめ、静かに黙礼し歩き出した。


 が……。


 彼の前には、銃を構えた拓が立ちはだかっている。

 レスラーも黙ってズボンに押し込んだ銃に手を伸ばした。すかさず拓はレスラーの足元に銃弾を撃ち込む。芝生が弾けたが、レスラーは何ら動じる事無く銃を掴んだ。


 レスラーには殺気はない。握った銃は地面を向いている。


「撃つのならば撃ってください。それが貴方の職務でしょう」

「逮捕は怖れていない、か?」

「残念ですが逮捕されません」

 だが拓に対する殺気はないし、逃げる様子もない。一歩、拓が足を進める。

「どうして屋敷を破壊した? 事件を隠蔽するためか」

「全てはジュニア様とジェームズ=ウェラー様の罪。それ以外の方は無関係です」

「…………」

「罪を犯したのはお二方だけということは、既に貴方たちの捜査でも判明しているでしょう。この会話も記録されている事と思います」

「それは、捜査しないと分からない」

「断言いたします。奥様もピーター様も、アリシア様もご存知ありません」

 嫌な予感は的中しそうだ。拓は静かにベレッタを深く握り直す。


「飽くまでウェラー一族を守る……か」

「それが、ウェラー家に長年御仕えした執事である私の役目で御座います」

「ならばそれは法廷で証言したほうがいい。この場で言い残しても、通用しないぞ」


 拓はさらに半歩、前に出る。レスラーは口元に笑みを浮かべ、首を横に振った。


 レスラーは降参し投降する気はない。自殺する気だ。今、彼は証言しつつ遺言を述べているにすぎない。自殺する気の人間を無傷で逮捕するのは困難だ。ここまで覚悟を決め、言質には全く動揺も迷いもない。思い留まらせることは不可能だ。両腕両足を撃ち抜いても舌を嚙み切る。もしかしたら体に自爆用爆弾を身につけているかもしれないし、毒を煽るかもしれない。そこまで覚悟を決めている事はレスラーの表情から見て分かる。


「まだジェームズ=ウェラーも、ウチの相棒も、少女たちも死んでいないぞ? 一族を守りたいのなら、それをお前が法廷でそう証言するのが唯一の手だ。銃を捨てて、その場に足を着いて両手を頭の上で組め」

「……残念ですが、お断りいたします」


 そう言った瞬間、レスラーは右手に掴んでいた銃を自分のこみかめに向けた。そして引き金を引く……だが僅かに速く拓がレスラーの右手を銃ごと撃ち抜いた。しかしそれはレスラーも予期していた。倒れながらレスラーは左手でポケットから小型リボルバーを取り出すと、拓に背を向け銃口を咥えた。


「やめろっ!!」


 拓が駆け出そうとした矢先、篭った銃声が響き、レスラーはその場に崩れた。


 すでに屍となったレスラーに駆け寄り、懐を探る。銃の他には何も持っていなかった。周りにも何かがあるようには見えない。拓は立ち上がりながらイヤホンに手を当てた。


「……という事だ。ライアン=レスラーは死んだ。爆破装置みたいな物は持っていない。他の誰かがアナログで操作したと思う」


『何で殺したんだ。殺さず確保するのがプロだろう』

無線先のユージの声は至って普通だった。


「お前も今のやりとり聞いていただろ? そんな余裕があったと思うか?」

 拓もユージと同じ小型カメラとマイクを付けている。会話や出来事は全てサクラ経由で共有している。


『ああいう場合は右肩の神経を撃ち抜くんだ。ショックを起こすから自殺は阻止できた』

「そんな事できるのはお前だけだ!」


 咄嗟に右手の掌と銃を撃ちぬく……これだけでもプロフェッショナル・マスターレベルの腕なのだが、ユージと比べられては堪ったものではない。


「それより、そっちは大丈夫なのか?」


 屋敷は倒壊し、炎が上がっている。今、ユージやサクラ、そしてウェラーや<狂犬>たちはそのど真ん中の地下にいるのだが……。


『さすがは核シェルターだ。今のところ何とも無い』


 爆薬は地下室と一階の間に仕掛けられていて、地下シェルターより上だ。だから地下シェルター側に爆発の影響は小さく、しかも元々核爆発を想定して作られたシェルターだから扉を閉じればこの程度の爆発でどうこうなる事はない。ユージがレスラーに対して余裕もって対応していたのはレスラーにはまだ喋らせたかった事、最悪の場合地下シェルターに逃げ込みそこを確保すれば安全だと分かっていたからだ。もし、レスラーやウェラーの私兵の中に本当の爆発物のプロがいれば、秘密部屋でもある肝心のこの地下シェルターにも爆弾を……それも強力なモノを……仕掛けただろう。そうでない事はサクラが取得したデーターを見て判断していた。だからユージはあえてレスラーと対した時倒さず、泳がせた。その結果も方法もけして褒められた事ではないが、それでもレスラーの証言を得ることはできた。レスラーは、ウェラーとジュニアの犯罪行為を認めた。


 拓はNY支局の仲間がこちらに向かっていることを伝えた。


『保安官事務所も動くな。今、保安官や消防に証拠を荒らされたくはない』


「管轄が違うが……この燃え方を見る限り周りに移る危険は少ないと思う。稼げるだけ時間は稼ぐけど、あまり期待はするなよ」

『分かっている。また連絡する』


 それで両者の通信は切れた。






 

 ジェームズ=ウェラーは当惑していた。

 状況がどうなっているのかさっぱり分からない。

 突然の大きな爆発、そして飛び込んできたユージ。

 入り込んできた黒煙と焦げ臭い匂い。

 この緊急的状況下であるのに、FBI捜査官は日本語で何か喋っていた。


 ウェラーは、まさか邸宅が爆破されたとは思っていなかった。セキュリティーを管理していたのはレスラーで、彼は邸宅に証拠隠滅用の爆発物が仕掛けられているなど知らなかったのだ。


「何が起こっとるんだ! 答えろ、FBI捜査官! これはお前等の仕業か!?」


「…………」


 ユージは余裕ある態度でポケットから煙草を取り出し口に咥える。そしてゆっくりとライターを取り出し火をつけ、のんびりと紫煙を吐いた。そして煙草を半分ほど吸い、ようやく思い出したようにウェラーのところにやってきた。


「屋敷は爆弾で吹き飛んだ」

「何だと!? 貴様等正気か!?」

「俺たちじゃない」そういうとユージは煙草を床で消し、睨みながらウェラーの顔を覗き込んだ。「お前はもう終わりだ。怒らせたな」

「何だと!?」

 ユージはゆっくり<狂犬>を一瞥する。


「ロシアン・マフィアだ。その手先のロシア人をお前は殺そうとしただろ? 逆鱗に触れたな」


 その言葉を聞いたウェラーは途端に狼狽を始めた。これでユージはほぼ完全に状況と、ウェラーの無知を掴んだ。


 殺そうとしたロシア人……ラテンスキーのことだが、あの男は少なくともユージたちが突入したところまではFBIの囮だった。その事は僅かに触れる程度だがユージも説明していた。だがその事実はウェラーの頭になく、ラテンスキーが話したロシアン・マフィアの話のほうを信じた。爆発に対する混乱と動揺がそれを信じさせたのだ。ここまで誘導すれば、もはやウェラーはユージにとって御し易い低能な犯罪者でしかない。


「もうこれでお前を守れるのは俺だけだ、ジェームズ=ウェラー。ここから脱出できたとしても、バルガス議員やロシアン・マフィアはお前を永遠に許さない。証言しようがすまいが全てを消すまでやるだろう。ムショに入っても、ヒットマンはやってくる……家族も消されるだろうな」


「そ……そんな脅しを何度言われても! 私は無関係だと言っているだろう! FBIなら私をしっかり守れ!」


「頭の悪い政治家のセンセーだな。ここから出たが最後、お前は消されるんだ。俺たちFBIが命を懸けて犯罪者であるお前を守ると思うか? 守るのは留置所にブチ込むまでだ。だがマフィアは留置所にだってヒットマンを送り込む。ムショに行く前に殺すだろう。そしてそこまでは俺の知ったことじゃない」

「私は無実だと言っておるだろう!」

「少女を監禁し、レイプした」

「監禁していたのはジュニアで私は知らん。それに合意の上でのことだ! 貴様に関しては全て誤解と正当防衛で罪にならん!」

「こんなに証拠も証言もあるのにそれが通じると思うのか?」


 ユージはついに呆れ返った。この期に及んでも自分自身の保身しか頭になく、他の事は頭が理解していない。頑迷もここまで来れば言葉が出ない。


 証拠はかなり揃った。逮捕し送検することもできるだろう。だがこの分からず屋を説得できなければ、捜査の手はバルガス議員や他のメンバーまで届かない。FBIに連れて行けばこの態度はますます硬くなっていくだろう。当然弁護士団が付き、長期戦になる。


 だがこの手の男は、一度折れれば後は簡単なのだ。




「黒い天使・災厄者 vol 36」でした。


レスラーはどうにもならなかったですね。


こうして外は拓ちんがほぼ掌握しましたが、問題は地下に閉じ込められたユージたち。

もっとも全然ピンチ感はないですね。

ユージはこの状況を利用してウェラーの自白を狙いに行きます。

捜査官であるユーシ゜としては逮捕より自白のほうが欲しいわけです。自白してくれないと裁判でひっくりかえる可能性がありますし、ひっくり返ったら責任はユージになります。


このあたりが普通の推理ドラマと違う点ですねw

逮捕より裁判が優先です。


ということで次回はユージの尋問編です。


あと、今回は控えめですがちゃんとサクラも地下にいて仕事しています。まぁ、いつものシリーズみたいに超人的な活躍はこのシリーズではないですが。一応間違えてはいけないのは「黒い天使」の主役はサクラです。ユージではないですから。……もっともユージが絡むユージ・メインのクライム系ストーリーは大体ユージが主役ですが。


ということで次は尋問編です。


もう少しかかります。

これからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。

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