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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使」シリーズ
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「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 1」

「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 1」


ある日起きた北インド地方の大地震。

友達が被災したJOLJUは、救援しにいこうと意気込み、それに付き合うサクラ。

そこに面白そうな事件の匂いを嗅ぎ取った飛鳥は、強引にそれに参加する……


笑いあり、ギャグあり、ちょっと不思議な話あり、アドベンチャーあり……

飛鳥の<AS探偵団>のフルメンバーによる面白ドタバタ冒険シリーズ、始まります!

「飛鳥の事件簿 インド編」 1 <こうしてウチらは旅に出る!>



 東京練馬区某所にある真壁家の家は、今日もいつも通りの生活が繰り返されていた。

長閑な木曜の午後…… 帰宅部の飛鳥は早々に帰宅し、着替えて自室でネットをつけ夕方のニュースを見ながら「何か面白いネタはないか?」「探偵団のネタはないか」……と。

これは飛鳥の日常だ。


 そして、大抵は面白い事など見つからず、夕食の用意をすることになる。


 テレビのアナウンサーは、海外ニュースを淡々と読み上げていた。

「今朝北インド北部を襲ったマグニチュード8.2の地震の続報です。現在死者は2000人を超え、行方不明者は2万人にも及ぶといわれています。現在も連絡不通の地域も多く、被害はより拡大の様相を呈しています……政府は……」


 ……震災ネタ……インドやとウチには無関係やな……どこか心霊ネタとかUMAとか出てこーへんのかねぇ~……などと溜息をつきながら何気なく窓の外に目をやる飛鳥。


 と……そこで奇妙な光景を目にした。


 サクラがいる。三日ぶりくらいだろうか?

 アイツは猫のような奴で色々なところをブラブラとする。月の半分を自宅と真壁家で過ごし、残り半分は世界の何処かをウロチョロとしている。

 サクラが家としているのはNYの自宅と部屋を間借りしている飛鳥の家で、この二箇所にはしれっと突然現れる。事前連絡は滅多にしかなく、本当にブラリと来る。この事は珍しいことではない。しかし家賃を貰っている以上養わなくてはいけないわけで……嗚呼、今夜のおかずが一品減るかなぁ~などしょうもない事を考えつつサクラを見ていると、おかしな事に気付いた。


 サクラが庭の水道を使って、水筒に水を汲んでいた。


 ……水が飲みたいなら、どうして庭の水道なんや……?

 冷蔵庫にはよく冷えたミネラルウォーターがあるではないか。

「何やってるんや? あの天然極悪ノー天気娘は……」

 この時、飛鳥は「面白そうな事件」の匂いを感じ取った。と行動一番の飛鳥はもう愛用のパーカーを掴み外に部屋を出た。


 庭では黙々とサクラが水筒に水を注ぎ込んでいた。


「やほー、飛鳥。元気ぃ~」と相変わらずのサクラである。熱心に水筒に水を勢いよく注いでいる。

「それ1リットルくらいの水筒みたいやけど……えらく水がはいるんやな……」

「ん……大体5トンくらいは入るんじゃないかな?」

「へぇ~ よく入るなぁ…………って! 5トンってなんや!」

「ご存知JOLJU特製四次元水筒。物質の重力定数と空間比率が違うンだな、コレが」

「……よくわからへん……しかし相変わらずよくワカランアイテムを作るなぁ~、あのうーぱーるーぱー犬モドキは」

「つまり大量に入る四次元水筒よ。もちろん軽い」

「そんなことより、何で水いるん? つーか5トンも水道代誰が払うと思っとるねん!」

「この庭の水道は井戸水でタダ。JOLJUが設置したんだからお金はかからん」

 真壁家はお金持ちではないが家は東京にしては広い。家は5LDKで飛鳥の祖父真壁風禅の仕事場である整骨院があり、広い庭には柿の木やみかんの木、物置小屋、小さな池があり、そこには釣り好き&鯉・金魚好きの風禅とJOLJUが集めた金魚や鮒、鯉が泳いでいる。池もけっこう大きく深く、小さな噴水があって常に新しく綺麗な水が入っている。元々はこの池のためにJOLJUが設置した水道だ。よってお金はかからないし水質もいいから池独特の泥臭さや魚臭さはない。時にウナギや鯉など釣れた時はこの清水で泥を抜き食卓に上がる時がある。が、釣りにむ興味のない飛鳥やサクラにとってはただの池だ。


「……ま……それはともかく、何に使うんや?」

「実はこれからインドに行くのだ。だから晩御飯の用意はしなくていいゾ」

「インド? 何しに? カレー食べにか?」

 ただ単にカレーを食べにインドに行く……サクラたちにはそのくらいの行動力があり日常茶飯事で驚くべきことではない。だがそれなら何故に水がいるのか? そんな激辛カレーでも食べるのか?

「今朝インドで大地震あったでしょ? あれの救助活動」

 成程。サクラならそれくらいの事もやる。しかし解せない。

「お前、いつから国連救助隊になったんや?」

 サクラは自分勝手自由気侭。けして博愛主義者ではない。

「話せば長いけど、インド大地震があったでしょ? 実はインド北部のカラコルム山脈に小さな集落があって、今回の地震で交通も電線もダメになってすごい事になってるんだって。小さな村で国や国連の救助が来る見通しもなし。だから水と食料届けにね~」

「長い話やないやん! で、なんでそんな村にいくんや?」

 今回のインドの地震は大規模で被災地は多い。しかしサクラが向かうのは大掛かりな救援活動ではなく、ごくごく小規模の援助活動のようだ。


「JOLJUの馬鹿の知り合いがこの村にいるの」

 成程。あくまで知り合いの救援という事らしい。


「そういえばその馬鹿がおらんけど?」

「今はまだケープタウンにいる。ん……もうじきインドで落ち合うけど。日本時間だと5時かな? 後一時間半ってトコだな」


 ケープタウン……ここは南アフリカ共和国で、インドではない。ますます意味が分からない。

 ようやく水が十分給ったのを確認して、サクラは水道を締め水筒をリュックに仕舞った。


「ちょっと待てサクラ。もうちょっとちゃんと説明しろー」


 サクラは携帯で時間を確認する。まだ時間に余裕がある。だから説明する気になった。


「元々は…………」

 サクラの話は、今から4時間ほど前の事である。





 南アフリカ共和国 ケープタウンの教会。


 この日、サクラとJOLJUは友人のマリー=クラリスの住む教会で過ごしていた。滞在目的は特にない。知り合いのマリーがいるのでぶらっと遊びに来ただけだ。サクラが教会の一室で一人のんびりと現地の文庫本を読んでいたときだ。血相を変えたマリーが部屋に飛び込んできた。

「大変ですわ! 北インドで大地震です!」

「ん? どうしたのマリー? ご飯?」

「ご飯どころじゃないのデス! 大地震で多くの人が……」

 ここアフリカ大陸の南端にあるケープタウンでもインド大地震のニュースが流れてきたところだった。もっとも遠いアジアのことだから詳細までは流さない。それに世界規模で見ればこの程度の災害はしょっちゅうだ。サクラもマリーの天然&博愛主義(彼女はシスターなのだからそういう性格は当然なのだが)の力説に適当に聞き流していたが、そこにJOLJUが飛び出してきた。

「大変だJO! インドで地震だJO!」

「お前まで何言いだす!? ここケープタウンよ? インドだったら津波の心配はないわい。もう起きてしまったんだからしょうがないでしょ?」

「そういう問題ではありませんっ! 多くの人が苦しんでいるんです! 嗚呼、神様……彼らをお救いください!」

 とマリーはわが事のように悩み、苦しみ、祈っている。サクラはというと正義の味方でもなければヒーローでもないので適当に相槌だけ打っている。


「実はオイラの友達が被害にあったみたいなんだJO! 助けに行かねばだJO」


「インドの山奥に?」


「トムトロ村だJO!」


「聞いた事ないゾ、そんな村」

 少なくともサクラは行った記憶がない……という事になる。なんだかんだとサクラは都会が好きだから、そこはよほどの田舎だろう。

「ムハマド君とネットでゲームしてたらもうしっちゃかめっちゃかだJO」

「しっちゃかめっちゃかはアンタだアンタ。ムハンマドって誰?」

「オイラのネトゲー友達だJO」

「……ホントお前はどこにでも知り合いいるよね……」


 サクラと違いJOLJUはネットゲームが好きだし、友達は世界中にいる。


 とりあえずその村は電気とネットは通じている、最低限のインフラはある村のようだ。

「なんか山は崩れるわ家は崩れるわ大変みたいで……オイラちょこっと様子見に行こうかなぁ……ムハンマド君が心配だJO」

 

 ……好きにしたら~……

 と、サクラは目線を文庫本に戻した。JOLJU一人ならテレポートで一瞬だし勝手に好き放題してくるだろう。サクラはJOLJUといつも一緒に行動しているわけではなく、お互い単独行動することはある。だが、予想外の事が起きた。話を聞いていたマリーが突然立ち上がったのだ。


「それです!」


「は?」


「ボクたちも救助活動にいくのです! ここで何も出来ず臍を噛むより、行って少しでも神の手を多くの人に差し伸べるんです!」


 ボクっ娘天然博愛シスター、マリー=クラレスが宣言した時、サクラは話が思わぬ展開に転がっていったことを知った。JOLJUとマリーが暴走すれば何が起こるか分からない。そして無計画で無鉄砲なこの二人だけを行かせられるはずがなかった。


 こうして、唐突に<サクラちゃん一同国際救援部隊>の活動が決まったのだった。




 話を聞いた飛鳥は、ヤレヤレとばかりに吐息を吐いた。


「無茶なことをアッサリ決めるな~ オマイらわ」


「ま、あたしも最初は無鉄砲だと思ったんだけど……転送機とかJOLJUの秘密道具を色々使えば実現可能だということになって……JOLJUは一旦NYに戻って道具と食料を取りに。あたしは水を汲みにわざわざ東京に寄ったってワケ。で、あっちで落ち合うってこと。そんじゃあサラバ~」


 そう言ってサクラがリュックを背負った時だった。突然飛鳥が両拳を振り上げた。


「むきぃぃぃ!!」

「にゃ!? 狂ったか飛鳥!?」


 だが飛鳥の顔には喜色が浮かんでいた。


「面白そうや!! ウチもいくっ!」


「は? あんたも!? 本気ぃ!?」


「だって楽しそーやん! うちも救助活動する! どうせ転送機使うんやから簡単やろ」

「そりゃそうだけど、アンタ学校は?」

「ふっふっふ♪ 明日はうちの学校、自由登校日で自宅勉強でもええねん。つまり! 金、土、日と三連休なんや!」


実は口から出任せ、明日は普通に授業がある。だが飛鳥がこんな面白そうなイベント、見逃せるはずが無い! 飛鳥は完全にノリ気モードだ。ここまで話を聞いて引き下がる奴ではない。サクラは何か言おうとしたがやめた。飛鳥の性格は熟知している。飛鳥に見つかった時からこうなるんじゃないかな、と予想はしていた。


「よっしゃぁぁ! 行くでぇ! いざインドへ!」


「はぁ…… ま、いいケド。ボランティアだから報酬はでんゾ」


「40秒で支度してくるから待ってるんやど!!」


 そういうと飛鳥は家の中にすっ飛んでいった。もちろん40秒で戻ってくるはずがなく、その数倍の15分後……ものすごく大きなリュックサックを抱え出てきた。


「随分本格的装備だな……」


「ふふふっ! ウチの行動力、舐めるな~! ささっ! 行くと決まったらさっさと出かけよう! いざインドへっ!」

 言うが早いか、早速飛鳥は先頭切って駆け出していく。東京の転送機は六本木の神崎氏の事務所にある。そこまでは自力で行かなければならない。

まさかインドで思いもかけない大事件が待っていようとは、さすがのサクラも飛鳥も予想だにもしていなかった。





 インド 首都ニューデリーの高級住宅地の一角にあるハイテク高層マンション。


 全40階の35階に、日系アメリカ人実業家で大富豪の神崎修一郎氏の事務所兼別荘がある。神崎家の事務所兼別荘は世界40カ国にありここはそのうちの1つだ。もっとも、修一郎自身がここを使う事は少ない。使用するのはサクラが一番多いだろう。次いでユージになる。何故ならばJOLJUが発明したテレポート装置……<転送機>は、全世界の修一郎の別荘に備え付けているからだ。この転送機の存在はクロベ・ファミリー他一部の関係者しか知らない。そして神崎修一郎氏は、クロベ・ファミリーの後見人であり保護者のような存在だ。ちなみに神崎邸以外には、NYのクロベ家とフロリダにあるの秘密の島、あとはロザミアの家にしかない。使用頻度4位の飛鳥の家にはないのである。

 というのも、この転送機は使用の際膨大な電気を消費する。一度で約100万円前後……ということで、大富豪の神崎修一郎はともかく、NYのクロベ家の転送機は緊急時でないかぎりは使わない。当然この燃費なので一般庶民の真壁家には設置されていない。もっとも、東京六本木の別荘の鍵は飛鳥も持っているし、使えば世界中どこでも1秒で移動できるのだから文句は言っていない。ちなみにJOLJUが一緒ならその能力で転送機など使わずどこでもいつでも転送できるが、基本JOLJUは神様能力をサクラ相手以外には使わない奴なので強請ってもやってくれない。


 転送機部屋から巨大な荷物を持った飛鳥が真っ先に飛び出した。


「インドぉー! 着いたでぇ~♪」


 何度も使っているが、テレポート移動後の飛鳥のテンションは無駄に高い。一瞬で外国にいけるのだからさもあらん。

 飛鳥の後ろから、携帯で現地時間を確認しながらサクラが出てきた。

「ちょっと時間遅れたかな……アンタが買い物いくから。ナンジャ、その大荷物わ」

 子供一人が入りそうな巨大なリュックサック……これもJOLJUカスタムでサイズ以上のものが入り、それでいて2キロしか重さがない特別品……には、飛鳥の標準冒険道具に着替え、食料等様々な物が元々たっぷり入っていたのだが、途中ディスカウントショップによってさらにナニかを買い込んで、さらにリュックを大きくさせた。遅刻はその買い物のせいである。

「何言うとる! 準備やん」

「ま……転送機使ったから、アンタは泊まり確定だしな」

 転送機はテレポート装置で大変便利だが難点もある。基本的に普通の人間は24時間(正確には20時間)に一度しか使えない。普通の人間の場合、細胞の分子崩壊の危険があるからだ。全く制限がないのはJOLJUとサクラだけで、ユージとエダは一日6回から8回。この二人はJOLJUから特別な処置を受けている。飛鳥も過去JOLJUに回数無制限設定を望んだが断られた。さすがの飛鳥も「使用制限解除にする代わりに電気代丸々飛鳥に請求するけどそれでいいなら」といわれれば引き下がざるしかない。


「インドかぁ~ ウチ、インドは初めてや!!」


「そだったっけ? ま、間違いなくここはインドよ」


「分かる分かる♪ カレーの匂いがするし」

「するかぁぁぁぁーっ!」


 スパーン! ツッコミ専用ハリセンで飛鳥の頭を叩くサクラ。


「……いや、ホンマにするけど?」クンクンと辺りを嗅ぎまわり頷く飛鳥。


「……あ、ホント……って! 何で?」


 サクラも奥の部屋から漂ってくるカレーの匂いに気が付いた。飛鳥のボケではなかった。

 匂いを探り、転送機部屋からリビングに行くと、そこには暢気にカレー……インドカレーではなく英国風の欧州カレー……を食べて談笑しているJOLJUとマリーの姿を見つけた。


「おのれわっ! 何でカレーなんか食っとるっ!」

「遅いJO~ サクラたちが遅いし、ちょっとオナカも空いたし、インドといえばカレーだJO! ただ待ってるのもヒマだったんで軽いお食事だJO」

 そういうとJOLJUはビシッ! とレトルトカレーのパッケージと冷凍ライスをサクラに見せ付けた。どちらも日本製だった。インドは関係なかった……。

「分かる! 分かるぞJOLJUよ! やっぱインドに来たらカレーやな!!」

「うむ、だJO!」

「……アホだ……アホすぎる……」

 盛り上がる2馬鹿を尻目にガクッとくるサクラ。それならそれでどうしてちゃんとしたインド式カレーを食べないのか……念のためキッチンに行くと、ちゃんとインドカレーの缶詰もあったではないか! マリーはインドのスパイスが苦手だという事だが、それならそもそも何でインドに来た!? とサクラはここぞとばかりにツッコミしまくる。


「Hi♪ Nice to meet you♪」


「おー! おひさや~マリー! あ~……へろぉ……あいあむぅ……コラ、サクラ!」


「ん?」


「マリーは…… まだ日本語、喋れへんの?」

「喋れないよ」

「どーやってコミュニケーションとるねんっ! マリーは日本語覚える気ないんとちゃうんか!?」

「まずアンタが世界標準の英語を覚えろ」

「英語はキライやねん」

 その割にはアメリカに行く事も好きだし、未開の地に好くのも大好きな飛鳥である。

「つーか、自己紹介の英語も喋れんのかアンタわ。本当に高校生か」

「日本の高校生のほとんどは英語習っとるケド英語は喋れんモンやねん」

 えっへん! と胸を張る飛鳥。本人曰く飛鳥もバイリンガルである。日本語とエセ関西弁の。

 けして飛鳥は頭が悪いワケではない。学校の成績も遊びまくっているくせに中の中はキープしているし、天然ボケの持病はしょうがないが、それでも頭の回転の早さは時にサクラを驚かせるほどの鋭さを見せることがあるし、どうでもいいような雑学はよく知っている。元々頭は良い部類なのである。しかし、それでも頑なに英語を覚えないのは、不思議である。単にその気にならないだけということはサクラもわかっている。飛鳥はサクラ&JOLJUを伴い海外によく冒険に行くのだから、その溢れまくっている好奇心の半分を英語に向ければ日常英語くらい覚えられるのではないか? 

飛鳥が英語が出来ない1つは環境のせいであった。幸か不幸か飛鳥の周りは三カ国以上喋れる人間ばかり。しかも全員日本語が使えるので、飛鳥が喋られなくても周りが通訳してくれる。必死になる理由がない……という理由(という甘え)もあるのだ。あと、なんだかんだとボディー・ジェスチャーで乗り切ってしまう強引マイウェイな性格も理由といえなくもない……かもしれない。

「アホ! よく考えたらウチもこの子もインド語わからないやんっ! どうやって救助活動すんねんっ! アンタの計画には穴があるっ!」

「開き直るな! そもそもインド語じゃなくてヒンズー語と英語よ、インドは。地方にいけばさらに集落や部族でも言葉が違うから、そう簡単なもんじゃないワイ」

「そういうお前はインド語どうやねん!」

「あたしは大抵の国の言葉はどうにかなるモン。ヒンズー語は完璧」

 サクラは基本完全母国言語として21カ国語、日常生活レベルなら世界120カ国の言語を喋ることができる。最悪テレパシーもあるから地球上ではほぼ言葉に困ることはない。

「オイラはどこでも完璧だJO」

「お前らは特別やないかい! マリーだってヒンズー語喋れへんやろ!?」

 南アフリカ共和国ケープタウンの下町出身のシスター、マリーも基本英語とアフリカーンス語しか喋れないから、海外活動向きではない。


「ここでオイラの出番だJO♪」


 ぱんぱかぱーん……! わざわざ四次元ポケットからカセットデッキを取り出しファンファーレを流してから、JOLJUは小さなイヤホンを取り出した。


「万能翻訳機ぃ~♪ イヤホンタイプぅ~♪」


「おお~ いつものアレやな!」


「これさえ耳にセットすれば自動的に母国語に翻訳してくれるJO♪」


 握力や筋力が10倍になる<パワー手袋>、絶対安全の<携帯バリアー>、そして脳の電気情報を読み取り自動的にその地方の言葉に変換して喋らせてくれる<万能翻訳機>。この三つが海外冒険の三種の神器、マスト・アイテムだ。もっとも、サクラとJOLJUの二人だけならば必要がないアイテムでJOLJUはいつも持ち歩いているわけではないから常に借りられるわけではない。しかし、これがあるから飛鳥が真面目に英語を習得しない理由の1つ……かもしれない。


「今回は特別だJO~。自由に使うがいいJO!」


 今回は災害救助活動ということで翻訳機は全員分。パワー手袋は2つ、バリアーは1つ。飛鳥は当たり前のように全種類JOLJUから奪い取るように借りた。


「……しかし……コンニャクやったら完璧だったのに……自動翻訳機」


「ドラえもんか! そもそもコンニャクなんてマリーは食べれんでしょーが」


 サクラは翻訳機はいらないから、パワー手袋だけを受け取り自分のリュックに入れる。


「コンニャク版……今度作ってみるJO!」

「できるんかい」

 悪乗りしてヘンな秘密道具を発明する……これはJOLJUの趣味である。ちなみに趣味で作るものだから失敗作もあり全幅の信頼を置いていいものではない。

「アンタとマリーはこれをつけたら準備OKだな」

 飛鳥とマリーは翻訳機を手に取り、耳に嵌めた。耳に嵌めた瞬間、イヤホンは透明になり付けているようには見えなくなる。ものすごく柔かい耳栓をしているカンジで違和感もほとんどない。耳と顎に信号を与えるようになっているので、全自動で勝手に外国語を発音するようになっている。ちなみにバッテリー式で、使用期間は一週間。それがあるので飛鳥は借りパクしたくてもできない。


「……こんなもんでしょうか? 大丈夫かな、飛鳥OK?」とマリー。


「おおっ! すごいっ! ちゃんと日本語に聞こえる!」


「ボクには、飛鳥はちゃんと英語を喋っているのデス」


「でも読み書きはできないから、気をつけてね」とサクラ。二人が翻訳機を使っているのでサクラも会話を英語に切り替えた。一応サクラは米国人だから一番の母国語は英語だ。

「大丈夫だと思いますデス。南アフリカでは読み書きできない貧しい人は沢山いるのデス」

「てか、読み書きカバーするスーパーサングラスとかスーパー眼鏡とかをJOLJUが作ればええんとちゃうん?」

「そんなの作ればアンタは学校で使うだろーが」

「……ちっ」

 さすがにサクラもJOLJUもそこまで甘くはない。


 それぞれ荷物を確認し、いざ出発となった。


「じゃあ、いくわよ」と、サクラはリュックを背負い振り返って宣言する。

「バスか車か電車でいくんか?」

「あのねぇ……ここから車使っても二日はかかるわよ、村まで」

「転送機使ったのに近くやないんカイ!?」

「当たり前なことを……インドの国土の広さ理解してないだろ、飛鳥。カラコルム山脈って言ったら北インドでパキスタンと国境近くにあるんだゾ? 普通なら電車とバス乗り継ぎ向かうトコだけど、今回はその通常プランも使えん。災害救助は時間との戦いだし、第一交通は麻痺していて行けないっちゅーに。今回はJOLJUがヘリ用意するってさ」

「おおーーーっ!! なんか大冒険らしくなってきたな!」

「屋上にゴーだJO♪ オイラ、セッティングの最終確認してくるJO」

 そういうとJOLJUは一足先に部屋を後にした。今回は珍しくJOLJU発起の案件だから、いつもより手回しがいい。


 そして屋上に移動するサクラたち。


 屋上は住人ならば自由に出入りができるようになっていて、簡単に昇れた。


「おおーーっ! 40階の屋上ともなるとええ景色やな!」

「デス♪」

 飛鳥とマリーがはしゃぎながら眼前に広がるニューデリーの街を眺めている。40階の屋上だから、ニューデリーの市街が広く一望できる。インド一の大都市は、最先端の高層ビル群に整備された歓楽街の中を埋めるようにインド独特の中央アジア特有の市場や住宅など混在し、その中でインド人たちが蟻より小さなサイズでひしめき合っている。初めてインドに来た飛鳥とマリーのハンションは大いに高まる。こういう風景を見ると「海外に来た!」という実感と感動は嫌が応でも高まるモノだ。

「観光しにきたんじゃないんだから。ホラ、さっさと行くぞ二人共」

 世界中遊びまわっているサクラにはそんな旅行者の感動はない。二人を促し、さっさと屋上の中央に進んでいく。


 ……が……そのサクラの足が止まった。


「どないした? サクラよ」

「……あの馬鹿は『ヘリコプター用意する』って言っていたよね……?」

「うむ。ヘリって言うとったな~ ……って……どこにもないな。ヘリ」


 サクラも飛鳥もヘリコプターには何度も乗っている。勿論ヘリコプターがどんなものかはよく知っている。見渡す限りヘリはおろかそれらしいモノは見えない。

「今からチャーターするんとちゃうかー?」

「そんな余裕はないと思うけど。そんな事してる間に夜になるゾ。第一金がかかるジャン」

「あのぅ……アレじゃないですか? ヘリコプター」とマリーが15mほど先を指差す。


 そこにはJOLJUがせっせとダンボールとプラスチック・パイプで何かを作っていた。


「……あれがヘリ……なん?」


 三人の目が点になる。


 ……ギリギリ三人座れるダンボールのイス……そのまわりにヘリっぽい形にプラスチックのパイプの骨組みがあり、屋根には申し訳程度のプロペラみたいなものがついている。外はむき出しでドアもなければ壁もない。


 周りを見渡してみるが、屋上にはこのヘンテコなモノ以外に他には何もない。


「……なんか……模型みたいなのデス……」とマリー。


「そやそや♪ なんか小学生の工作でこんなカンジ……ってアホかぁ! ままごとのつもりかぁ~! プラモより質素やないか!!」と飛鳥。


「話と違う」と吐き捨てるサクラ。


 JOLJUは三人がやってきたのを見つけて、とことこっとやってくると、「ヘリが出来上がったトコだJO! さぁ! 乗り込むがいいJO!」と自信満々に胸を張った。そして……サクラと飛鳥の二人は同時に拳骨のツッコミを入れた。

「あんな玩具もどき乗ったら死ぬわーっ!! このボケうーぱーるーぱー犬モドキっ!」

「米国にあるヘリを持ってくるンじゃなかったんかい!」

「イタイJO~! あれでもオイラ発明のちゃんとした<ヘリコプター>だJO」

「お前の発明品がアテになった例がるか!」

 一応<三種の神器>は成功例だが、一発コッキリの無茶苦茶な発明品も数多くある。これまでサクラも飛鳥も散々酷い目にあってきた。


 サクラもまさか手作りヘリコプターが出てくるとは思っていなかった。元々の計画ではJOLJUが米国にある神崎修一郎所有のヘリコプターを持ってくる、という話だった。


「大丈夫! オイラ特製の重力制御装置とフォース・フィールド発生装置がついてるJO」

「それってUFOやな。ヘリちゃうやん」

「そういう話もあるかも……だけど安心していいJO! とにかくみんな乗るJO~♪ れっつらごーだJO♪」


 JOLJUはノリノリで運転席らしきダンボールの上に座り、特製サングラスをかけて鼻歌を歌っている。


 サクラたち三人は顔を見合わせた。他に選択肢もない……今更転送機で戻る事もできない。


 結局、乗る事になった。






 ニューデリーの上空を、凄まじい速度で飛ぶ飛行物が一つ。それは上空2000メートルを北北西に向かって飛んでいた。下界からその謎の飛行物体は視認できるサイズだが、誰もその飛行物体に気付く人間はいなかった。


「うひゃああああ~!! まぢとんどるぅぅぅぅ!!」


 悲鳴半分、歓声半分の声を上げる飛鳥。風は微風だが、足元は凄まじい速さで街並が駆け抜けていく。間違いなく、ちゃんと飛んでいた。こんな体験早々できるものではない。


 サクラは冷静に周りを見渡す。


「今時速400キロくらいでてるけど……フォース・フィールドがあるから落ちないし、風もそよ風くらいにしか感じないな。JOLJU製にしては成功してるほうじゃない?」

「本当デス。壁も床もパイプの骨組みで隙間だらけなのに落ちません。すごいのデス!」

 マリーはヘリに乗るのは初めてだ。……ヘリというよりもUFOだが……。そしてインドに来るのも初めてだ。ものめずらしさと興奮で一杯だ。


 そうこうしているうちにヘリはニューデリーを抜け、村落の地域に入る。ヘリの速度はさらに増す。ここからは都市部を避け、山間を進む予定だ。本当はもっと高度を飛べば速いのだが、航空レーダーには映ってしまう。


「今災害対応で政府も動いているンでしょ? UFOとして目撃されたり撃墜されたりはせんだろーな、JOLJUよ」

「ちゃんと妨害波も出してるからモーマンタイだJO~♪」

 <非認識化>をレベル強で使っているし音もしないから街の人々からは認識されない。

「で? この空の旅は後どのくらいなんや? うーぱーるーぱー犬モドキよー」

「じき速度も600キロ。もっと加速するから二時間はかからないと思うJO」

「飛行機より速い……よく壊れないなぁ~」

「ちゃんとしたフォース・フィールド発生装置を使ってるからモーマンタイだJO~」


 フォース・フィールド発生装置……JOLJUが持っている秘密道具だが異星人が発明した既製品で、実際の星間宇宙船で使われているものだ。勿論NASAとは関係がない、JOLJU独自のルートで入手したものを使っている。


「ま……ちゃんとした既製品使ってるンなら安全か」と一応納得するサクラ。

「しかし出発の時はすっごい急発進でびびったわ」

「これ制御が難しいんだJO。でも飛んでしまったらラクだJO♪」

 自動操縦……はできないが、操作方法は単純でアクセルのペダルとハンドルしかない。ゲームセンターのゲーム機のようなものだ。正にUFOである。


 JOLJUのUFO……もとい自作ヘリコプターは順調に進んでいる。周りの風景は、大分自然が増え森や山々が視界に入ってきた。

「最初はちと怖かったけど、これはこれで楽しいな」

「デスネ」

「JOLJUの発明にしては珍しいヒットだ」

「テヘヘだJO♪」

 そんな長閑な空の旅は一時間が過ぎた。

 その頃には風景や興奮も冷め、各々持ち寄ったスナック菓子を食べたりコーラを飲んだり、本を読んだりと暇を潰していた。JOLJUも一緒にスナックを食べながらちゃんと操縦している。

 そうこうするうちにヘリの高度は徐々に低くなり速度も落ちてきた。これからは被災地に近づく。一応被災者救援が目的だから、被災地の状況を見ておきたい。

「村まで後10分くらいだJO~」

「もうこのあたりは被災地なんか?」

「んー……どうだろ? 10分ってことはまだ距離があるんじゃない?」

「ふむ。でももうじきなんやな。よし、今から動画撮影や~」

 そういうと飛鳥はバッグの中から愛用のビデオカメラを取り出し撮影を始めた。こうやって動画を撮り、それを面白おかしく編集してネットで公開し広告収入を得ている。その稼ぎはプロフェッショナルほどではないがそこそこ稼いでいる。

 ヘリはさらに高度とスピードを落とし、見える風景も倒壊した建物や折れた電信柱など、地震災害の様子が見えるようになった。こうなってくるとテンション上がって行くのが飛鳥だ。ハイテンションで実況しながらカメラを回している。サクラとマリーは動画で撮られたくないので邪魔しないようにしながらそれぞれ下の風景を見ていた。


 と……マリーがじっと床を見つめ始めた。


「……ひとついいでしょうか?」

「ん?」全員がマリーを見る。

「このヘリ……着地用の車輪とか足がないんですが……着陸大丈夫でしょうか?」

「へっ?」間抜けな声をあげ下を見るサクラと飛鳥。確かに下には何もついていない。


「あ……ホンマや。床が地面そのまま……ってことは……」


「胴体着陸?」


 それしかないようだ。しかしこれはヘリと名付けられたUFOだ。


 しかし彼女たちは見た! 操縦席に座っているJOLJUの凍りついた間抜け顔を……。


「JO……忘れてたJO」


「……えっ……?」

 声がハモる三人。そして気まずい沈黙……。


「テヘヘだJO♪」


「あほぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

 サクラと飛鳥の怒号が重なった。そして青ざめて固まるマリー。苦笑いを浮かべ何故か照れるJOLJU。


「笑ってる場合かぁーっ!!」

 思わず飛鳥の鉄拳がJOLJUの後頭部に炸裂した。前に吹っ飛び、前面のフォース・フィールドに弾かれて転がるJOLJU。その瞬間、この怪しい飛行物を運転している人間(JOLJUは人間ではないが)はいなくなった。


 その直後、ヘリは錐もみ状態になる。


「ギャーーッ!! どえぇーーーっ!!」


「ドアホーッ!! ツッコミ入れとる場合かっ!?」

 慌てて操縦桿を握るサクラ。しかし握った瞬間操縦桿は外れもげてしまった。これでどうすることも出来なくなった。

 失速し、突風に舞う木の葉のように乱れ飛ぶヘリコプターもどき。操縦者のJOLJUはノックアウト、乗っている三人の少女は阿鼻叫喚の悲鳴が上がった。


 そして……目的の村の直前で、ヘリは森の中に真っ直ぐ突っ込んでいった。


「ひぃぎゃあああーーーっ!!」



 三人の悲鳴と共に、ヘリは墜落したのだった。

 



飛鳥たちの摩訶不思議かつ苦労の被災地活動は、始まったばかりであった。









「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 1」でした。


ということでとにかく無鉄砲なサクラや飛鳥たちの大冒険が始まりました!


今回はショートショートではなく短編集で、5~6話くらいの短編シリーズになると思います。

思えばサブ・レギュラーのボクっ娘治癒少女マリーは初登場ですね。

思う存分はっちゃけまわるサクラと飛鳥たちを楽しんでください。


「黒い天使」シリーズの短編「飛鳥の事件簿・インド編」宜しくお願いします。

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