「黒い天使・災厄者 vol 32」
「黒い天使・災厄者 vol 32」
怒りに身を任せ騒ぐウェラー議員。
人質をたてに取り、<狂犬>を屈服させる。
動けない<狂犬>。高笑いするウェラー。
そこにユージが現れた。
ウェラーは眉間を撃ち抜かれ絶命したジュニアの下に駆け寄り、動かなくなった息子をしばらく撫でた。だがどうやっても生き返らない現実を思い知る。ウェラーの表情に見る見る怒りの色が浮かび上がり、眼が血走り血管がドクドクと脈打つ。
ウェラーはジャニアの顔の上にタオルをかけると、立ち上がり大声で罵声を浴びせながら手にした拳銃を<狂犬>に向け、発砲した。弾は肩、背中に当たる。ウェラーにとって腹立たしいことに、こうして苦痛を与えても息子を殺した大男の顔が苦しさも痛みも浮かべず、表情も変えない事だ。
ウェラーはボディーガードからタオルを受け取り、顔を拭った。思ったより血は出ていたが、今そんな痛みなど気にもならなかった。
「<マリア>と言ったか? 化物。そんな名前、聞いたかもしれんなぁ~……だが、覚えておらん。下賤で無様な人形には、名前などいらん!」
そういうと、ウェラーは懐から小さなリモコンを取り出した。独房の爆破スイッチだ。そのリモコンを<狂犬>に突きつけるように差し出す。僅かに<狂犬>の表情が変わった。それをウェラーは見逃さず、ニヤリと楽しそうに笑った。
「あれは俺の人形だ! 人間以下! 奴隷以下! 人ですらない、ただの玩具だ!! 分かるか化物! 貴様が殺したジェームズ=フィリップ=ウェラー・ジュニアとは違う!! 大学を出て弁護士となりいずれは俺の跡をついで政界に出る男だった! そんな大事な息子を! 貴様のような虫ケラが殺した! この事の重大さが理解できるはずがない!!」
そういうと、ウェラーは見せつけるようにリモコンのスイッチに指をかける。その時上の階から物音が聞こえた。他のボディーガードたちが駆けつけたのだろう。
「これが欲しいか虫ケラ! 俺がこれを押せばゴミクズ少女は木っ端微塵だ! たった5万ドルで買ったペットだ! お前たち虫ケラと違って、俺にとって5万ドルなんぞケツ拭く紙みたいなモノだ!!」
「やめ……ろ!」
「『やめてください』と言ってみろ、化物! ちゃんと人間の言葉でな!」
「…………」
「……言えんだろう? 言えんよなぁ~ お前はそういう奴だ。プライドがある人間だ、と言いたいのだろう? どっちが大事だ? 虫ケラ!! やっぱり虫ケラか?」
「……やめて……ください……」
顔を伏せ、呻くように<狂犬>は言った。その言葉を聞いたウェラーは、何ともたまらない恍惚といっていい笑顔を浮かべた。しかしその腹の中はまったく別だった。
「断る。虫ケラが、人の言葉など喋れるはずがない!」
「!?」
ウェラーの表情から笑みが消え、鋭い表情で「縛り上げろ! 吊るせ!!」と命じた。ここにはそういった道具も揃っている。すでに両手足が撃ち抜かれまともに動けない<狂犬>を縛り上げるのは造作もない事だ。まずは後ろ手に革手錠が嵌められ、足もベルトで締め上げられる。これでもう<狂犬>は動くことが出来ない。
「まるで芋虫だな、虫ケラ! ふはははははっ! 貴様はアッサリ殺さんぞ。俺はお前に無残に殺されたジュニアの恨みを晴らすぞ! だが……その前にまずはお前が探している小娘共がバラバラになるのを見るがいい」
「やめろ!!」悲痛な叫び声を上げ、必死に足掻こうとする<狂犬>。だが拘束され動くことは出来ない。それを満足そうに見つめるウェラー。
そうだ! その顔だ!! どこまでも苦しんで、俺を楽しませてから死ね!!
存分に爆破用のリモコンを見せつけ、満足を得たウェラーは、リモコンに指を伸ばした。
その時だった。
「FBIだ。全員動くな」
入口から声が聞こえたかと思った刹那、全員が何事かと反応するより早く、44マグナムがウェラーの待つリモコンを貫いた。
「ぐうっ!! なっ!?」
愕然と右手を押さえるウェラー。そして武器を持ったボディーガードたちは一斉に振り返った。階段の下、すでにDEを向けたユージが立っていた。そしてボディーガードたちの下ろしていた銃口が自分に向くのを確認し、ユージは全員の銃を一瞬で撃ち弾いた。
……何が……一体何が起きた……!?
突然の事に、ウェラーは全く状況が理解できない。
ユージはまず手前にいたボディーガード一人を瞬く間に殴り倒すと、奥にいるウェラーやボディーガードたちに銃口を向けた。ウェラーを入れて4対1だが、全員利き腕が痺れ銃を持っていない。
「暴行、監禁、殺人の現行犯だぞ、アンタたち」
ユージの登場に、場の空気が一気に変わった。形勢は完全に逆転したのだ。
だが逆上しているウェラーには、今の状況など頭に入っていない。
「何がFBIだ! この屋敷は俺の城だ! 何を恐れる! 貴様! ジェームズ=ウェラー上院議員だ!! これ以上の無礼な振る舞いは許さん!」
ウェラーは怒鳴りながら足元に落ちたカービン銃に手を伸ばす。ユージは撃たなかった。
「お前たちを逮捕する」
「できるものか!! おい! お前等も銃を拾え!」
「……」
「さっさと出て行け若造! でなければ貴様もこの怪物と同じ目にあうぞ!」
ウェラーは叫びながらユージに銃口を向けた。それに習い、ボディーガードたちも銃口を向ける。
だが、この状況こそユージの狙いだった。
「もう一度しか言わん。俺はFBIだ。銃を捨てて投降しろ。殺人未遂の現行犯だ」
そういうとユージは自分のFBIバッチを見せた。だがウェラーたちはそもそもユージがFBIだとは信じていない。警察を名乗るチンピラもいるしフェイクバッチも簡単に手に入る。彼らの知る限りアジア人のFBI捜査官など知らないし、こんな夜中に都合よく勝手に屋敷へ入ってきた男が一流の捜査官だと思わなかった。万が一本物だとしてもここまで見られた以上、消してしまうのが一番の手段だと判断していた。4対1で、自分たちはフルオートの銃があり、相手は拳銃だ。そしてここは完全にウェラーの敷地内で他には誰もいない。殺した後で<狂犬>に罪を被せれば済む話だ。何より自分は上院議員だ。ただのFBI捜査官がこれ以上撃つはずがない。そんな事をすれば、捜査官を逆に失職させ抹殺するくらいウェラーには何でもない事だ。ウェラーの言葉で、ボディーガードたちもウェラーの意図を悟り、銃をユージに向ける。
ウェラーの反応こそ、完全にユージの狙い……作戦だった。ユージは捜査方法として最低限だが正等な手段を選んでいる。FBIだと名乗りバッチも見せ投降を命じた。それを従わない人間を撃ち殺したとしてもユージに非はない。
「死ね! 殺せっ!! 殺してしまえ!!」
ウェラーがそう叫ぶと同時に、一斉に銃口を向け引き金を引く。
いや、引こうと力を込めた瞬間、ユージは下げていたDEを目にも留まらぬ速さで上げると、一瞬のうちにボディーガード3人の脳天を撃ちぬき、ウェラーの自動小銃を跳ね飛ばした。
「なっ……!?」
44マグナムの直撃を受けた自動小銃は、回転し壁まで飛んだ。
全て、一瞬の出来事だった。
人間業ではない。ウェラーたちはすでに照準を付け、僅かに引き金に力を込めるだけだった。だがウェラーたちが撃つより速くユージはDEを連射し、一瞬のうちに全員を無力化させてしまったのだ。
「これで殺人未遂が確定だ、ウェラー。しかも連邦捜査官相手は罪が重い。執行猶予なしの有罪確定だな」
そういうとユージは再びバッチと、令状をウェラーに見せた。
「逮捕する。抵抗すれば、今度こそ射殺する。例え上院議員でもな」
ユージの言葉に、ようやくウェラーも自分が窮地に陥った事を悟った。
「さて、色々話を聞かせてもらおうか」
ユージは後ろのポケットからFBI制式の手錠を取り出した。事ここに至り、ウェラーは抵抗の無意味さを痛感し、目の前が眩んだ。
ユージは焦る様子はなく、真っ直ぐウェラーの前まで歩き、ミランダ法を奏じ、そのまま強引にウェラーをその場に押し倒し、後ろ手に手錠をかけた。
ジェームズ=ウェラー、逮捕。
だが、これで終わりではない。問題は、これからだった。
「黒い天使・災厄者 vol 32」でした。
中々下衆なウェラー議員でした。
ご覧の通り、容赦ないユージです。
あくまで正当防衛を確立させないと撃たないのがユージ流です。内心はかなり怒りまくってますがこういうあたりユージが食えない人間の証明ですね。
ユージが容赦ないのは次回からですね。
逮捕してから相手の心を粉々に砕くのがユージ流です。
そして逮捕したけどまだ二転くらいします。
もう少しだけ続きます。
これからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。




