「黒い天使・災厄者 vol 27」
「黒い天使・災厄者 vol 27」
ウェラー上院議員に接触に成功するラテンスキー。
果たして連中はどこまでのってくるか。
そして接触を確認したユージもついに動き出す。
ライアン=レスラーは、ウェラー家に執事兼秘書として32年間仕えている。それは先代ウィリアム=ウェラー議員の頃から、ウェラーの長子であるジャームズ・ジュニアまで入れれば三代に渡りウェラー家に仕えた、ウェラー家の全てを知る人間だ。ウェラー家が違法な秘密倶楽部に加入から商売としての人身売買に関わっている事は20年前に知った。元々ウェラー家は莫大な財産を有していた。それは家業である天然ガス会社の運営によるものだが、医者や他の富豪たちと強いパイプを持ちそれを維持しているのは医療用・愛玩用の人身売買斡旋と秘密倶楽部との繋がりが彼の政治家地盤を支えている事を知った時、多少驚きはしたが、納得もした。そういう裏のパイプは表世界のパイプより強く利益も巨大きかった。
ライアン=レスラーは、ウェラーからその話を聞いた時、彼を犯罪者とは見ず、ウェラーの政治家としての確固たる不動の地位を確信した。そして、ウェラーのために裏家業の代理人を勤め上げる事も受け入れた。レスラーのウェラー家での地位と普通の執事の何倍もの年収を得られる身分となった。
深夜の普通ではない予想外の対応も、仕事のうちだ。
ボディー・チェックを終えたラテンスキーを、ウェラー邸の離れの別館に呼び入れ、レスラーはそこでラテンスキーと対した。レスラーだけでなく、拳銃で武装したボディーガードが二人、この場に立ち会っている。
「君をこの屋敷に招くのは不本意かつ不愉快である事は先に言わせて頂きます。まずバルガス議員と直接話したいのだが?」
ラテンスキーは無言で携帯電話を取り出し、操作し、それからレスラーに手渡した。電話に出たのは聞き知ったバルガス議員の声だった。電話はすぐに切れた。
「色々込み入った話のようですね。バルガス様は、詳細は君から聞け、と。あまり機嫌がよさそうな雰囲気ではありませんでしたが」レスラーはそう言い携帯電話をラテンスキーに返した。ラテンスキーは顔色を変えずそれを受け取りポケットに戻す。ただ内心は緊張と見えない冷や汗が体の芯を凍らし、喉を干上がっていた。電話先はもちろんバルガス議員ではなくサクラの携帯電話なのだ。どうやってバルガスの声を偽装したのか……。
「実はNYで今事件が起きている。裏社会の暴れ者が、少女売春組織を荒らしまわっている。バルガス議員は今NYがいるのは知っているだろう。そしてバルガス議員は……その……夜の相手を欲しがっている。もちろん、ただのコールガールじゃなくて、特別な…… よく調教された少女だ。で……ウラジミールから俺がアンタのところの御用達だと知って連絡してきた。それで俺に仲介役を……」
「君ごときにそんな大役を?」
「俺の口が堅いのは、アンタがよく知っているだろ? 俺が何度アンタのところに<花>や<棺桶>を届け、壊れたアレを処分してきた?」
「荷物が少女だとは君にも報せていなかったはずだが」
「輸送中や処分の時、何も目に入らなかったとでも思うのか? ウラジミールもその事はよく知っている。彼はロシアン・マフィアの有力者の一人で絶大な力を持っているのはアンタだって知らないワケじゃねぇーだろ? ま、それ以上はアンタも聞かないほうがいいぜ。ウェラー議員にとっても」
「…………」
「写真で見せた少女はかなり上物だろ? バルガス議員に依頼で元KGBのオルト=モロゾフがロシアで手に入れた孤児だ。10万ユーロ支払い調教した。だがNYでの騒ぎでまだロシア国内にいる。秘密倶楽部の好みでウェラー議員の玩具を借りられれば、あの娘をレンタルしてもいいそうだ。勿論騒動が収まった後日ということになるがな」
レスラーの表情は表面上変わらない。しかし内心は違った。
オルト=モロゾフはレスラーでも知っている有名なロシア=マフィアのボスで、違法風俗に売春の元締め、人身売買は勿論、暗殺に強盗を専門とする戦闘部隊を有し、ロシア南部で政府非公認の天然ガスを掘り巨万の富を有している。強欲で傲慢、そして狡猾な男だ。
……バルガス議員はそんな男とも交流があるのか……
と、内心では別の意味で大いに感心し、バルガス議員に対する尊敬の度合いを見直していた。そうなると、このフリーの何でも屋のロシア人を粗略に扱わないほうが、自分たちにとっても得かもしれない。
「バルガス上院議員は、他にも色々相談したいって話だ。アンタじゃなく、ウェラー議員に直接だとよ。例の少女の確認のほかに話があるということだ。これ以上はアンタ相手には言えねぇーし、第一俺自身全て知らされていない。ただし、今回の件に限り、バルガス議員の窓口は俺限定だ」
レスラーにはなんとなくバルガス議員の意図が分かった。
……恐らく今NYで集まっている東海岸上院議員特別委員会の案件に関する事だろう。委員会では今期提出した法案、今来期予算案等の案件で、ウェラーとバルガスの意見の一致をみない点もあるし、逆に自然災害に対する法案では共同意見を出している。上院委員会会議の後共同チャリティー・パーティーをNYで開く事になっているが、VIPの中には秘密倶楽部で接待するという相談も受けていた。今回の私的な交流によって、それらの諸問題やお互いの妥協を水面下で話し合いたい……こういう政治の寝技話は、長年政界を見てきたレスラーには理解できた。試しに彼自身が知っているバルガス議員の携帯電話に電話をかけてみたが留守電で繋がらなかった。今夜、彼は携帯電話の着信相手を限定者に設定しているようだ。それだけ裏に関する案件という事だろう。老練で狡猾、そして好色と駆け引き上手にかけては、バルガス議員は超一流であることをレスラーは知っている。
その後二、三の質問の後、ラテンスキーを本館に案内することに決め、その手続きをすぐに始めた。
「潜入成功♪ しっかし、随分出来すぎた話を信じたモンだ」
ラテンスキーから自動的に送られてくる映像や音声をラックトップで整理していたサクラが呟く。
「まるっきりデタラメじゃない。だから連中は信じただろう」
ユージは特殊工作用の手袋を填めながら答える。
政府の高官や資産家の仲間内で少女愛好の秘密倶楽部が存在する事、アラン=バルガス議員が秘密倶楽部に関わっている事。その少女たちの調達がロシアン・マフィアの大物モーリス=ウラジミールが関わっている事は、マック捜査官の報告書とユージのもつ裏社会のコネで確認して、話をでっち上げた。勿論、嘘話といっても状況証拠や裏づけは十分あるし、現にラテンスキーの話にライアン=レスラーは食いついた。相手が政治家でなければ逮捕する事もできただろう。だが相手は黒を白にも赤にも言い換えることができる有能弁護士団を抱える事ができる金持ちの上院議員だ。余程決定的な黒を掴まなければ、どうにもならない。
ユージは屋敷のほうを一瞥し、覆面を被った。ボディーガードの始末は<狂犬>だけの仕事ではない。正面のボディーガードを退治するのはユージの仕事だ。正面にいるボディーガードたちは合法的に雇われた者の可能性があるし、監視カメラの数も多い。勿論サクラにハッキングして監視カメラに細工したり無力化させるといったバックアップは行うが、<殺さずに敵を倒す術>は<狂犬>よりユージのほうが長けている。
「ボディーガードは全部で14人。さっき<狂犬>が3人殴って倒した。監視カメラと防犯システム、システムに侵入成功~。さすがは裏世界を恐怖に陥れたバケモノだ♪」
サクラがモニターで確認した情報を報告。<狂犬>は丁度ウェラー邸の北東側の庭側から10分前に侵入したところだ。ラテンスキーが本館のほうに案内されてから5分ほど……ユージの想定したスケジュールとおりに事は進んでいるが、1分でも予定が狂えばウェラーの逮捕が難しくなることは勿論だが、最悪の場合<狂犬>が暴走し大殺戮が起きてしまうかもしれない。
ユージは静かにヴァトスを握りしめ、そして歩き出した。
「じゃあ、バックアップ頼んだぞ。拓のほうもな」
「ほーい♪」
サクラはまた降り始めた霧雨に身を震わせ上着を羽織りなおすと、雨の当たらない車の中に向かってラットクップを持って移動していった。ユージの作戦は一通り聞いてはいるが、上手くいくかどうかはサクラの頭脳でも高い成功率を出す事はできない。だが、計算では出せない結果を出すのがユージだ。
どうなるかは、サクラにもわからない……
「黒い天使・災厄者 vol 27」でした。
ついにユージの囮作戦編です。
一応……まあ、一応まだ合法ですかね。
普通の警察だったら大規模なチームで慎重にやるような事件ですが、ユージたちだけです。
そしてユージも秘密潜入開始です。
覆面をするあたり、完全に悪人……というかこのあたりからもうマトモな捜査ではないですが。
サクラの仕事はバックアップです。このあたりも素直なヤツではないのでいつ暴走するか……。
とにかくユージは悪人が逮捕できればいいので、手段とかかなり無茶苦茶ですが、はたしてどうなるでしょう。
ということで潜入捜査はまだまだ続きます。
これからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。




