「黒い天使・災厄者 vol 22」
「黒い天使・災厄者 vol 22」
逮捕したラテンスキーを取り調べるユージたち。
この男、間違いなく<マリア>を運んでいた。
いくつか捜査のポイントが見えてきたとき……
予想もしない人物が、姿を現した。
「グレゴール=ラテンスキー……武器不法所持、旅券偽造、薬物所持、公務執行妨害で2度逮捕。でも、全部不起訴……か」
拓は自分の携帯端末でNYPDにあるラテンスキーの逮捕・犯罪歴を読み上げた。
ユージ、拓、サクラ、そして手錠で拘束されたラテンスキーは、彼の仕事場であり住居であるキャンピングカーの中に移っていた。
ラテンスキーは両手に手錠を嵌められベッドに座らされ、目の前にはユージがいる。サクラがラテンスキーのPCを弄っていた。<非認識化>を使っているからラテンスキーは気付いていない。
「随分、いい弁護士がついているんだな」と、NYPDのデーターを読みながら拓は呟いた。聞いていたラテンスキーは不敵な笑みを浮かべたが、ユージが彼の希望を打ち砕く。
「これまでと違ってロシアン・マフィアはお前を助けない。元SVRのロシア・ファミリーも今回は助けない。何故だか分かるかラテンスキー、今回お前を俺に売ったのはロシアン・マフィアやファミリーだ。その意味は分かるな」
「…………」
「俺の言うとおり協力すれば、ファミリーに『お前を抹殺しないでやってくれ』と伝えてやる」
「何が聞きたいんだ」
最早気力も奪われ沈んだ声を出すラテンスキー。このテの人間は一度徹底的に叩きのめされると態度は急変し従順になる。このテの人間の扱いにかけては、ユージは全米一だろう。
ユージは自分の携帯に<狂犬>の画像を上げて、ラテンスキーに突きつけた。
「この男について知っていることを語れ」
「……<ヴォースィミ>だ。俺は<アジンナッツァッチ>だった」
「どういう意味だ」
「ロシア数字だユージ~。ヴォースィミは<8>でアジンナッツァッチは<11>だゾ」
サクラは作業をしながら答えた。それだけでユージの持つ前情報と合致した。
「リース=ケイチェックがつくった殺し屋養成組織での名前か?」
「ああ、その通りだ。俺は優秀で商才もあったから、殺し稼業や闇デスマッチにいかずに済んだ。だが、他のほとんどの連中はケイチェックと共にそっちの世界に残った」
元英国特殊部隊SASの隊員だったリース=ケイチェックは、ロシアのスパイだった。そのことが露顕、英国のエージェントを殺した後ロシアに逃れ、その後ロシア南部や西アジアでテロリストの育成や殺し屋の育成を行っていた……これはジョンソンから得られた情報だ。そして<狂犬>やラテンスキーがその弟子である事も知らされた。ケイチェックが指導した人間は総勢だと100人以上になる。ユージの予想通り、このラテンスキーと<狂犬>はかなり近しい関係のようだ。
「ケイチェックから俺は格闘技を学んだ。<ヴォースィミ>は俺より前からいたが、もう相当な強さだった。本名は知らねぇよ、キャンプじゃ全員名前はなく番号で呼ぶ。1から10までの奴は別格、闇デスマッチからケイチェックの指揮で殺しの仕事までやる。あいつらから人間らしい話は聞いた事がねぇ。ちゃんとした名前があるのかも怪しい連中だった。ケイチェック含めて今はほとんどもう墓の中で生きちゃいねぇ。11番から40番までは適当。40番より後は全部一時的な戦闘訓練を受けるテロリスト予備軍たちだ」
「<ヴォースィミ>……今は<狂犬>というが、旧友を欧州からこのNYに運んだな」
「正確に言うのなら、依頼されたから冷凍サーモンと一緒に輸入した。普通冷凍庫で運ばれたら途中でおっ死んじまうモンだが、<ヴォースィミ>は相変わらず化物だったぜ。生きてやがった。そして自分の足でどこかに消えていったよ。居場所は知らねぇ、それは本当だ」
「依頼人はマリー=ガドナーか?」
「ああ。あの女はいいお得意様の一人だからな」
ラテンスキーの裏家業は、運び屋と始末屋をメインとした<何でも屋>だ。
ユージたちにもすでに<狂犬>の前半の足取りは大体掴んでいた。
まず、フランスで何者かが<マリア>を個人的に買い、なんらかのルートで米国に輸出された。その事を知った<狂犬>はフランス側の売春組織を潰し、<マリア>がNYに送られた事実を掴んだ。
そして<狂犬>の存在を知ったマリー=ガドナー……<マダム>は<狂犬>の利用方法を思いつき、<狂犬>の旧知だと紹介されたラテンスキーがその仲介をし、<狂犬>も米国上陸を果たした。NYで保護していたのは<マダム>だが、武器を用意したのは、このラテンスキーだ。先ほど使われたSMGは先日<狂犬>が使ったものと同じだ。マリー=ガドナーが偽名でラテンスキーの口座に振り込んだ記録が見つかっている。
「先週はNYにいなかった。2週間前に入金記録がある」
とサクラ。サクラのPCスキルはトップクラスで、FBIの専任分析官やお抱えハッカーより優秀だ。
「入金されたのは、バッファロー地方銀行から。さらに二箇所ほど経由しているケドね~。で、ともかくそのオッサンが何かを運んだのは事実みたい」
「まさか、この少女を運んだりはしていないよな」
拓は携帯端末で<マリア>の写真を見せた。
「…………」
ラテンスキーの額の肉が僅かに動いたのを、ユージは見逃さなかった。
「運んだな」
「……荷物がガキかどうかは知らねぇ。ただし棺桶は運んだ」
「棺桶、な」
……大した悪党だ……ユージはラテンスキーの度胸を見直した。悪い意味で。
旧友が血眼になって探す少女を、同じく渡米を手伝ったラテンスキーが先週どこかに運んでいたなど、世の中はかくも狭いものだ。だがそんな事などラテンスキーは1グラムも気にしてはいない。この辺り、本人が言うとおり裏社会での商才は逞しいようだ。もっとも、運んだ少女が<狂犬>が探していた少女だと知らなかった可能性も高い。運び屋は、荷の中身を詮索しない事がこの業界での基本ルールだ。
グレゴール=ラテンスキーは、<マリア>を運んでいた。その可能性は、ジョンソンたちから得た情報と、この男の経歴から予想はしていた。この手の運び屋はプロ、素人含めてNYにはたくさんいるが、マフィアの管理下にある運び屋には該当者はいなかった。ラテンスキーはロシアン・マフィアの息はかかっているが、厳密にはフリーだ。一方、マック捜査官が提出した人身売買関係者リストの中でラテンスキーの名前が何度か出てきた。
「その写真のガキかどうかは知らねぇ。ハッキリ見たわけじゃねぇーからよ」
ようやく、ラテンスキーは自らの口で事件に関わる事を口に出した。
「言っただろ? 運んだのは棺桶だ。ガキは眠らされていた。騒がれたら面倒だからな」
「じゃあ誰に引き渡したか、答えろ」
「引き渡してねぇ。指定場所に置いてきただけだ。後は別の仲介人が運ぶ。病院に運ばれるかヘンタイに運ばれるか……そこまでは俺は聞かない。それが商売だ。危険な橋はゴメンだ」
「それ、半分嘘」背中で二人の会話を聞いていたサクラがPCを操作しながら言った。
「<マリア>かどうか分からないけど、二週間前運んだ棺桶はインディアン・リバーレイクの高級別荘地だ」
そういうとサクラはラテンスキーの車のカーナビ履歴をPC画面に表示させた。
カーナビのデーターは広く全米に渡っているが、サクラはニューヨーク州だけを大きく表示させた。ほとんどが都市か何もない荒野や森の中だが、一箇所……ニューヨーク州北部のビッグインディアン山地近くにある高級別荘地インディアン・リバーレイクに数回行っている。そして最後の履歴もこのインディアン・リバーレイクだった。
「どうやら、上得意の<ヘンタイ>がいるようだな」
「…………」
インディアン・リバーレイクはビッグインディアン山地にある冬の別荘地で、雪スポーツに狩り、湖では釣りが楽しめる場所で、ニューヨーカーの夏の避暑地、冬のレジャー用として人気の場所だ。こんなところに大病院はないから臓器密売の取引先ではない。
「言えば、俺は殺される」
「聞いてなかったのか? 言わなきゃ今ここで俺が殺す。証人保護はしっかりしてやるからさっさと言え」
「顧客は橋渡し役を立てていた。俺には名乗らなかったが、予想はついている。テレビで観た事がある」
「勿体ぶらずさっさと……」
堪りかねたユージがラテンスキーの上着を掴んだ時だった。
部屋の壁についていた赤色のランプが点等し、ラジオからロック音楽が鳴り始めた。ラテンスキーの表情が変わったのを見て、ユージたちも顔を見合う。
「侵入者だ」とラテンスキーが呟く。
「じゃあ、監視カメラを見てみようか」
すぐにサクラがPCを操作して監視カメラに接続する。カメラが8台ある。ユージたちも侵入する際サクラがハッキングした。今度はその逆の要領だ。国防施設のコンピューターにも侵入できるサクラにとってこんな事はインターネットを使うのと代わらない。アクセスはすぐに終わり、8つの映像がモニター上に浮かんだ。
「NYPDかな? 派手に撃ったからな」と拓はサクラの後ろに立つ。
丁度その時、二人は不法侵入者の正体を見て沈黙した。
「……ユージ。中々面白い展開になったゾ……」
「誰が来た?」とユージ。それを聞き、サクラは一台のカメラの映像をモニター全面に表示された。
それを見たラテンスキーは思わず後ろに仰け反り小さな悲鳴を上げ、ユージは数秒息を呑んだ。そして拓とサクラの顔を見合い、ようやく息を吐いた。
「アレックスの言うとおりだ。<狂犬>は意外に頭がいい」
ユージはモニターを見つめながら戦闘用グローブを締め直した。
モニターに映っていたのは、NYにいる4万人の法執行官が探すお尋ね者……。
<狂犬>、本人だった。
「黒い天使・災厄者 vol 22」でした。
<狂犬>きた!!!
まさかの<狂犬>登場デス。
そしてユージたちもかなり情報を得ました。
本格捜査開始です!
ちなみに今回、サクラはオペレーションでありハッカーのサポーターです。
実はかなりの腕前で、専門家顔負けです。パソコン操作はサクラの趣味の一つなので。CTUに入れるくらいの腕前です(笑 普段はJOLJUがいるのであまりこのスキルはみせませんが。
ということでまさかの<狂犬>登場で次回です!
まだマリアは全然見つかっていないがどうするのか……
ということで次回、お楽しみに!
これからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。




