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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使 中編 災厄者」シリーズ
38/206

「黒い天使・災厄者 vol 21」

「黒い天使・災厄者 vol 21」



ブルックリン川近く……


ロシア人犯罪者の情報を聞き駆けつけるユージと拓とサクラ。


猛烈な反撃が起きたが、全てユージたちの計算内だった。

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 ブロンクス川近くのハイツ・ポイントの一角。


 大きな廃車処理工場があり、周囲に人気はない。ただ一つ、ボロくて大きいキャンピングカーにだけ明かりが灯っている。この辺りは治安が悪く午後10時になれば住民たちは家に篭り、人気は少ない。時折喧騒は聞こえるが、それは少年ギャングや売人たちの声だ。


 この廃車工場を根城にしているグレゴール=ラテンスキーは、廃車処理だけを生業にしているわけではない。月の半分以上は副業のためNYにはいない。


 敷地にはいくつもの赤外線警報や監視カメラを設置してある。客……ありがたくない客も含めて……がくればすぐに分かるようになっている。


 だが、それらの警報が全く鳴ることなく突然キャンピングカーのドアが叩かれた事に、思わず飲みかけのビールを落とした。



「FBIだ。ここを開けろ、ラテンスキー!」



 ドアの前で戸を叩いたユージは、中で慌てふためく物音を聞き取り、腰にあるDE44を抜いた。そしてそっとその場に伏せた。その直後、ドア越しにフルオートの弾幕がドアをズタズタに破壊していく。直前に伏せているユージは冷静にやり過ごす。


「短気なロシア人だ」


 こうなることは想定していた。SMGが全弾撃ち終わると同時にユージはドアの蝶番とドアノブを一瞬で破壊しドアを蹴破る。だが蹴破ると同時にガラスが割れる音が聞こえた。ラテンスキーが窓から外に飛び出したのだ。


 ユージはキャンピングカーの中を僅かに見ただけで、すぐに裏に回った。だがもうすでにラテンスキーは裏で待ち構えていた拓に銃口を向けられ、ホールドアップさせられていた。ユージもDEを構えたままラテンスキーに近づく。


「FBIだ、と言ったのが聞こえなかったのか?」とユージはラテンスキーが投げ捨てたマイクロ・ウージーを拾った。

「不法侵入者を撃っただけだ! 令状はあるのか!? え!?」

「令状はあるし、NYではフルオートの銃は勿論拳銃も所持は禁止だ馬鹿。武器不法所持と殺人未遂の現行犯だ」

「勝手にしろよ! 弁護士が一日で保釈にしてくれるぜ!」

 大きな体を揺らし、不敵に笑うラテンスキー。

 ユージは自分の名前を名乗り、協力するならNYPDに口利きしてやる、と言ったが、ラテンスキーは不敵な態度を変えない。裏社会の人間全てユージを恐れているわけではない。……どちらからといえば裏社会でも下の上くらいの人間……組織も警察も恐れない学習能力のない捻くれた荒くれ者の中には、ユージのような絶対的ジョーカー的存在を認めず怖れない事が自分の強さだと勘違いしている輩はいる。


「バッチも銃もなければ、お前なんぞただのサルだ! サル相手に俺様が許しを乞うとでも思うか馬鹿者」


「よし。じゃあ銃とバッチをここに置く。かかってこい」

 やれやれと溜息をつきながらユージは三丁の銃とバッチを拓に預けた。こういう展開も想定済みだ。何せラテンスキーも<狂犬>同様、一時闇の賭けデスマッチに出場したことがある。身長も195cmはあり、筋肉量はユージよりも多い。


 拓から開放されたラテンスキーは、すぐに猛然とユージに殴りかかった。ユージはそれを簡単にいなし、強烈な膝蹴りを加えた。


 長身のラテンスキーは、パワーボクシング系の戦い方でユージに戦いを挑む。一方ユージは合気道ベースの戦いで、相手の力を利用してカウンターでダメージを与える戦い方だ。化物じみた膂力はないが、そこは天才外科医、人体の急所を知り尽くし最小限のエネルギーで大ダメージを与えるコツも知っている。その上ユージは対<狂犬>対策で全身格闘戦用の装備をしている。そして技量の差は圧倒的で、瞬く間にラテンスキーはユージに叩きのめされ、ふらふらになった。



「<狂犬>とのバトルは凄かったケド、今回は一方的すぎて面白くない」



 拓の横でサクラが、言葉とは裏腹に楽しそうに呟く。本気のデスマッチである事に変わりはなく生の戦いはスポーツにはない迫力と緊迫感がある。こういう事があるからサクラは付いてくるのだ。


 鳩尾を鉄甲入りのブーツで蹴り上げられ血反吐を吐き蹲ったところを間髪要れずユージの膝がラテンスキーの顔面を捉えた。これで完全にラテンスキーはノックダウンとなった。


 ユージは拓から銃とバッチを受け取ると、ラテンスキーの顔面を掴み上げ、近くの廃車のボンネットに叩きつけた。



「さて、これで俺の話を聞く気になったか? 協力すれば連邦捜査官への殺人未遂だけは見逃してやる」



 返事の代わりに、ニヤリと不敵に笑い、血の混じった唾をユージ向けて吐いた。しかし彼の思惑は読まれていたようで、ユージは軽やかにそれを交わし、結局唾はラテンスキー自身の服を汚しただけだった。ユージは後ろで見ていたサクラに向かって手を伸ばした。


「ヴァトスを寄越せ、サクラ」

「ほーい」

 サクラはバックの中から、奇妙な取っ手のついた金属製で楕円形の円盤のような物体を取り出しユージに手渡した。それをユージが握った瞬間、淡い光が生まれたかと思うと1m以上はある巨大な包丁のような剣が出現した。

 ユージは、振り向くと同時にヴァトスの光剣を振り下ろす。

「ひいぃぃっ!?」

 顔のすぐ横で火花が散り、豪胆なラテンスキーが、思わず恐怖交じりの悲鳴を上げた。

 ユージの振り下ろした一撃はラテンスキーではなく、ラテンスキーの後ろにある幅2m近い大型の廃車が、まるで西瓜でも切ったかのように綺麗に真っ二つになったのだ。刀身の長さは精々120cm……切断などありえることではない。だがこれは現実だ。


 ユージは淡い光を放つ剣先を、困惑と恐怖で震えるラテンスキーの鼻先に向けた。


「お前は随分背が高いな。普通の棺桶に入るよう、手足を落としてやる」

「ま、まて!! 弁護士を……」

「生憎電話がない。そして俺がそんな善人に見えるか? チャンスは4回やる。まずは左足だ。心配するな、俺はサムライの国出身だ。綺麗に切り落としてやる。そして俺は医者だ。ちゃんと出血死しないよう処置はしてやる」

「それでもFBIか!!」

「お前ら悪党からは<死神捜査官>と呼ばれ毎月何人もお前みたいなクズを始末している。下らん事は考えず、その仲間入りしてもいいぞ」


 躊躇することなくユージは剣先をラテンスキーの左太腿に向ける。どういう原理か、刃が当たってはいないのにスパリとズボンが綺麗に切れ、薄い切り傷がつき血が滲み出す。


「待て!! 協力する! なんでも協力するっ! おい! 後ろの捜査官! この残虐捜査官を止めろ! 頼む!!」


「だそうだが、どうする? ユージ」

 真剣さの足りない返事をする拓。その言葉にラテンスキーは哀れなほど狼狽し、その場に崩れ命乞いを始めた。それを見て、ユージは無表情のままヴァトスの刀身を消し、本体である巨大な円盤を後ろにいるサクラに投げた。



「……相変わらず、ドSだなぁ、ユージは……」



 脅し……ということはサクラも拓も分かっているから暢気なわけだが、ユージの怖しさは、<脅し>だと微塵も感じさせない態度と演技力で本気にしか見えない。


「黙れサクラ。俺のラックトップの用意をしろ」

 そういうとユージはラテンスキーのほうを振り向く。

「ラテンスキー、協力してもらう。ちょっとでも邪魔したり嘘をつけば即座に首を落としてブルックリン川の魚の餌にするからな。俺は気が短いから注意しろ」




(ホント……<狂犬>より、よほど凶悪だよねぇ……)



 ユージの脅し文句を聞きながらサクラはバッグの中からユージのラックトップを取り出す。他の人間ならともかく、ユージは本当に殺す。そのあたり本職のマフィアよりよほど性質が悪いのだが、どういうわけか人気と人望がある。正に<BATMAN>だ……。

 


「黒い天使・災厄者 vol 21」でした。



ということで本格捜査編です。


今回新しい犯罪者が出てきました。

どういう形で今後でてくるかは展開をお楽しみ下さい。


ちなみに今回一方的にユージが勝っていましたが、アレが普通です。大体の犯罪者相手はあんなものです。<死神捜査官>と呼ばれる由縁デスネ。

ああ見えて実は全然手は抜いてません。油断大敵が身にしみて知っているのがユージなので。

サクラはついてきてますがサクラはけっこう油断してポカしたりするミスするタイプです。


今回久しぶりにサクラは出てきましたが、まぁ今回のシリーズはこんなカンジのサポートがメインです。


ということでこうして交信していると思ったより長いこのシリーズ……

これからも「黒い天使」を宜しくお願いします。

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