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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使 中編 災厄者」シリーズ
30/206

「黒い天使・災厄者 vol 13」

「黒い天使・災厄者 vol 13」



FBI屈指のプロファイラー、アレックスの推理が<マリア>に迫る。


その推理に、ユージも脱帽する。


そして、NYに残っていた拓はNY市警に協力を求めに行った。


そこに当たり前のようにサクラも同行するのであった。

「推理の種明かしをしてくれ、アレックス」


「一つはすでに披露した。お前、闇社会に詳しいだろう? これまで長く潜伏していて、エダ嬢ほどの美貌と美質をもつコールガールを見た事があるか? 少なくとも俺には心当たりはない。魅力という意味ではセクシーで魅力的なコールガールはいるだろう。だがそういう上物は、値が高いし当然マフィアたちも顔や存在を知っている、裏世界のマドンナだ」


「分かってきた」


 成程、アレックスの指摘は正しい。よほどの上物コールガールで、だからこそ組織が匿っているのではないか、と思っていたが実際は逆なのだ。どこにでもいる人間かそれ以下、値の安い商品少女だから、逆に大勢の不幸な女たちに紛れ見つからなかった。


「……マフィア連中が知らないような最下層の殺し屋だ。そんな<狂犬>のために用意された女……動画を見せてもらった限り、あんな怪物を好んで相手するコールガールはいないだろう、ベッドで殺されかねない。大金や命令で相手をする女はいるだろうが、そんな女と特別な愛情が芽生えるとは思えない。この<狂犬>は見た目ほど馬鹿ではない、闇社会でずっと生きていたのなら敵意や愛情に敏感なはずだ」

「裏世界に棲むならマフィア幹部を殺して回るリスクも分かっている。それでも<狂犬>は彼女を追ってきた。両者の間に愛があった」

「深い信頼と愛情で結ばれた縁……ここで重要なのは、多くの場合恋愛にも見合った境遇同士である事が多いという事だ。つまり、お互い貧民出でまともな境遇で育っていない。だから相手が警官と知り怒りを発した。警官を追ってくる者とは思わず敵視しているのは治安が悪い場所で警官も腐敗し堕落している環境にいたからだ。中欧にはそういう街や子供がいる。出自はおそらくそのあたりだろう」

「なぜ年齢が若い?」

「若く不遇な娘ほど命じられても抵抗を覚えない。だから若い。……おそらく、肉体関係はない、もしくはあっても少ないと思う。総合すると年齢は低いという結論だ。純愛は、肉体関係に至らないほうがより密度が高くなる。経験済みだろ?」

「よく理解できるが……いい加減俺とエダを引き合いに出すなよ」

「一番手っ取り早い説明法だからだ。まぁでも確かに不謹慎だったのは認めよう。大変失礼をした。君にではなくエダ嬢に対してな」


 そこまで一気に自分の推理……プロファイリングを言い終え、アレックスは椅子に深く座りゆっくりとカプチーノを傾けた。さすがに全米屈指のプロファイラーだけあって、その推理は的確で文句のつけようがない。状況証拠とも一致している。


 だが、そうなると捜索は難航する一方だ。傾国の美姫を探し出すのは簡単だが、貧民街出身の田舎娘を探し出すとなれば途方もない数の中から探さねばならない。

 ユージのうんざりとした表情を見て、アレックスは笑った。


「こっちは70%くらいの確率だが……」アレックスは飲み干したカプチーノのカップを置く。

「この少女、朴訥で心根が優しい娘だろう。マフィアたちもまだ見つけられていないという事は、誰かが匿っている確率が40%、親身になっている人間が30%、計70%。そこはエダ嬢と同じような人種だと仮定する。その保護者は65%くらいの確率で女性だ。売春元締めの女将、管理者の女幹部……そういった人間が妹や娘のように可愛がっている可能性がある。男は商品にそんな情はもたないからな」

 ユージは頷き、自分の分のコーヒーを飲み干した。

「助かった。その線で進めてみる。そういうことなら、心当たりがないわけでもない」

「医療系の闇ルートなら詳しいだろう。だがさっきも言ったが、急いだほうがいい」

「ああ、分かっている」


 医療系闇ルート……代理母や臓器売買用に流されれば、殺されるまで時間がない。もっと最悪なルート……サディスティックな趣味を持つ玩具として売り飛ばされている可能性もある。そうなれば<マリア>という少女の命の時間はもっと短くなる。そして、関与している組織としては、このテの少女たちは家畜以下にしか見ていない。


「ありがとう、アレックス。この借りはいつか返す」そう答えユージは立ち上がった。

「ああ、その内返してもらう。今述べた報告書は今日中にマック捜査官とお前宛にメールで送る」

「何から何まですまないな」

「仕方ないだろう、お前が報告書を書くとき俺の見解報告も提出しなければいかんのだから。受け取るコール支局長が困るはずだ」

「報告書なんてそんなに真面目に……」

「お前は本当にファジーだな。いい加減すぎる。本当に日本人か? 正しい報告書の書き方だけでなく、物事の順序はちゃんと勉強したほうがいい」

「カルテを書く時は逆に細かすぎる、と苦情を言われる」

 ユージは立ち上がりながら苦笑すると、アレックスに右手を差し出した。


「事件結果は報せろ。いい結果を期待している」そう言いながら、アレックスはユージの右手を強く握る。傷に響き一瞬ユージは顔を顰め、アレックスは満足そうに微笑した。







 一方その頃、拓はNYPDの風紀課チーフ、クリス=ウォーカー警部補のところに情報を聞きに出向いていた。ユージと拓はFBIの凶悪犯罪課所属だから、NYPDと連携しあう事が多く知人も多い。ウォーカー警部補とも一面識ある。


「化物みたいなヤツが暴れている噂は聞いているけど、俺はあくまで売春婦の情報しかないよ。しかも小物中心だ」

 ウォーカー警部補は拓の捜査協力を快く引き受けてくれた。ウォーカーは部下にNYPDが誇る売春婦のデーターを持ってくるよう命じる。

「誰かに案内しよう。ただし午後になるがね。あの連中は夜型で午前中は睡眠中だ」

「いいよ、それで」


「ところで……ナカムラ捜査官。その子は何かね?」


 ウォーカー警部補は顎で拓の後ろでドーナツを齧っているサクラを指す。サクラは無愛想に「付き添いだ。気にしないでいいヨ」と答えた。ウォーカーは露骨に嫌な顔をした。よりにもよって売春という少女に悪影響を与える悪の棲家に行くのに、一番相応しくない人間をどうして連れて歩いているのか……ウォーカーは年長者であり常識人としてサクラを連れて歩く拓の常識を疑った。


「気にするなオッチャン。あたしは特別だから別にショック受けたりしない。拓の臨時パートナーだと思っていいよ」

「俺は来るな、と言っただろ」サクラがついてくる事に、常識人である拓は勿論反対した。

「文句はユージとNY州法に言ってくれ~」

 サクラは我関せずとばかりにドーナツを頬張っている。


 サクラは法的には10歳で、一人にさせることは州法違反で保護者が罰せられる。普段は保護者代わりのJOLJUは念のため護衛としてエダにひっついて、ユージはワシントンDCに行ってしまった。ベビーシッターの充てもなく、普通のベビーシッターが相手にできるようなサクラではない。結局法律を守るためには拓が連れて行くしかなかったのだ。ウォーカー警部補はNYPDの女性警官に預けてはどうか、と提案したが預けたところでサクラは脱走し合流してくれことは目に見えている。余計な迷惑をNYPDにかけるだけだ。拓はウォーカー警部補の申し出をやんわりと断った。


「気にしないでいいです。こいつはクロベ捜査官の娘で修羅場もマフィアにも顔が利きます。銃撃戦だって慣れているし、何かあったらウチで責任もちますから」

 ウォーカー警部補もサクラがユージの娘と聞いてそれ以上何も言わなかった。

「じゃあすぐにデーターと部下を手配しよう。後はそちらで使ってくれ。ただし、何かトラブルが起きた時は必ず一報をくれ」


 売春の組織や売春婦の摘発は連邦犯罪ではなくFBIの職務範囲には入っていない。NYPDの協力は必要不可欠だ。拓は再び午後に来訪する旨を伝え、サクラを引きつれNYPD本部を一旦後にする。

二人は近くのレストランに入り早めの昼食を摂った。その時にユージから、簡易的なマック捜査官の情報とアレックスの簡易プロファイリングの結果が送られてきた。



「うーーむ……あたしは絶対美少女説を押したいトコだけどな」

「アレックスは全米屈指のプロファイラーだ。お前の妄想よりは当たっていると思うぞ」

「美女と野獣……のほうがロマンはあるんだけどねぇ。面白いし」


 サクラはあくまで好奇心で付き合っているので、本気で取り組んでいるわけではない。今も食後のデザートをレモンパイにするかブルーベリーパイにするかのほうに関心があるようだった。




「黒い天使・災厄者 vol 13」でした。



アレックスの推理編でした。


メインはそっちですが、次は拓とサクラのパートですね。

こっちは現場捜査編とでもなるのかしら?


サクラは完全に暇つぶしと好奇心でついてきています。まあ、サクラにとって事件なんてどんな大事件でも基本好奇心なわけですが。


ちなみに作中でも言っている通り、米国では未成年の放置は児童虐待として親が訴えられます。

州によっては9歳だったり11歳だったり10歳だったりします。

14歳以上の人間がつきそえばそれでいいので、米国の学生の手軽なバイトがベビーシッターだったりしますね。普段JOLJUが付き添ってます。……宇宙人の付き添いが法律で認められるかどうかは別ですが……そのあたりJOLJUがうまいこと誤魔化してますね。


ちなみに州にもよりますが、自動放置の罰金は500~800ドルです。意外に馬鹿になりません。続けば児童相談所に通告されます。こっちは洒落になりません……。


ということでようやくサクラの出番です。



これからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。

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