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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使 中編 災厄者」シリーズ
29/206

「黒い天使・災厄者 vol 12」

「黒い天使・災厄者 vol 12」


ユージがたずねたのはアレックス=ファーレルだった。


FBI本部・犯罪心理学の権威の上級捜査官。その正体はSAAの上級特別捜査官「№4」

ユージと浅からぬ縁のあるアレックスが、ユージの要望を受け事件を推理する。


冴える、アレックスの推理に、ヤユージは脱帽する……。

挿絵(By みてみん)



 FBI本部犯罪心理分析部……FBI内で犯罪心理学を捜査、研究する部門で、俗に言う<プロファイラー>たちが所属する部門。中でもFBIワシントン本部の犯罪心理分析部は規模が大きく、捜査部門4チーム研究部門3チームを有し、各支局や地方警察の要望を受けて難事件が発生し要望が上がれば全米に特別捜査官を派遣する。



 そのFBI本部犯罪心理分析部のチーフが、アレックス=ファーレルである。まだ壮年で階級を考えると若い。管理職にいるがデスクワークより現場を好む。彼がチーフであるのは、年功序列ではなく実力で勝ち取った物だ。彼には監督者としての規律正しさと法と順序を重んじる重厚さと、凶悪犯にも単独で立ち向かえる高い戦闘捜査官、そして多くの部下を統率し上層部や政府とも遣り合える政治力を持っている豪腕捜査官だ。



 そんなアレックスは、毎日多忙を極めている。今直接自身が関与している事件はないが、部下たちはいくつも事件を抱えているし、犯罪心理学の研究成果を毎月本部に提出している。若い彼に熟練の捜査官たちが従っているのも、その高い能力と勤勉さを認められているからだ。ただ、あまりに真面目すぎて部下たちも尊敬しつつも人懐っこさや愛想を感じてはいなかった。この点、NY支局長コール=スタントンと同質であった。


 そんなアレックスに、アポもなしに気安く尋ねてくる客……しかも彼より2階級低いグレード3の一現場捜査官にアレックスが日常の作業を中断させて時間を割いたのに、部下たちは言葉にこそ出さなかったが内心驚愕した。



「お前が来る時はいつもロクな事が起きていない」


 ユージを見た瞬間アレックスは大きな溜息をつき席を立った。そして秘書に「コーヒー休憩する」と告げ、アレックスはユージを伴いデスクを離れ本部にある休憩室に向かった。


「サクラか? それとも別の化物か?」歩きながらアレックスは深刻な顔で呟くように言った。が、ユージの事件はそんな大げさな物ではない。


「化物だが、今回は通常の事件なんだ。アレックス」

「<SAA>の用件じゃないのか?」

 アレックスは一度足を止め、早合点した自分に大きな溜息をついた。


 ユージが突然押しかける時……それはユージとアレックスが持つ裏の顔、超法規的事案に対応する国際機関<SAA>のエージェントとしてだ。<SAA>事案はいかなる任務より優先される。それでアレックスは黙って席を立ったのだが……それが勘違いだと知り安心したやら、馬鹿馬鹿しいやら……。



 それでも二人は歩みを止めず、本部内のカフェに向かっている。



「マック=ドルトン捜査官に情報提供をもらいにきた。そのついでに、犯人像をプロファイルしてもらおうと思った、それだけだ」


「お前、簡単にいうが俺の立場を何だと思っている? 俺はチーフで、グレード5捜査官だ。俺がいくつの案件を抱えているか知っているのか?」

「グレード3の俺が知るわけがない。だから、コーヒー休憩の間の雑談代わりでいい。コーヒーは奢る」

「……ふてぶてしいやつだな、相変わらず。その無茶苦茶な強引さは義娘そっくりだ」


 規則を重んじるアレックスは面白くなさそうにユージを睨む。だがユージはそ知らぬ顔だ。ユージに言わせればアレックスは個人的にも<SAA>的にも知り合いで、同じ頼むのなら有能な人間がいい。


 アレックスが無碍にしないのは、ユージと交際があるだけではない。FBI捜査官としてはアレックスが上司だが、特別機関<SAA>内では、ユージのほうがレベルは高くユージが上司になる。そして、サクラのことを知る数少ない人間という点も同じだ。つまり、この二人には上下関係を超えた関係なのだ。



「分かった。コーヒーを一杯飲む間だけだぞ。データーを見せろ。一つ貸しだ」


「有り難い」


 ユージは自分の携帯電話を操作し、事件データーをアレックスに見せた。アレックスを一瞥したアレックスは、切れ長の目を細めた。


「犯人は特定されているじゃないか」


「名前も素性も分からない<狂犬>。戦闘のプロで闇格闘家。行動予測は至って単純で知能型じゃないが馬鹿でもない。だがこれからの行動は予測できない。それが一点……」

「まだあるのか?」

「こいつの事がメインじゃない。アンタの力を借りたいのは、もう一人のプロファイリング。こいつが追う、<マリア>についてだ」


「…………」


 ただのコールガールのために、プロの闇の格闘者にして凄腕の殺し屋が、あらゆる組織を敵に回してまで取り戻したいのか……ユージがどうしても分からない点はそこだった。そしてマフィアたちすら消息を辿れずにいる現状を考えると、彼女には何か特別な何かがあるのではないか……というのがユージの直感だった。


「成程」


 アレックスは心理学のプロだ。それだけのユージの説明でユージが何を求めているか全て分かった。


「データーを見せろ。考えてみる」


 ユージは自分の携帯電話の生体識別機能を解除し、携帯電話をアレックスに手渡した。データーの中にはユージたちが纏めた事件の報告書以外にユージと<狂犬>との戦闘を録画した動画も入っている。それをアレックスは倍速で見つつ、同時に報告書も読んでいた。


 ユージはその間、黙ってアレックスの後ろに続いて歩く。


 本部の休憩所は本部だけあって広く150席ほどあり、カフェや有名ハンバーガーショップのチェーン店も併設されている。ここはFBI捜査官や関係職員だけではなく、観光で訪れる一般人も利用できるようになっている。


 ユージがアレックスのため自販機ではなくカフェで彼のためのカプチーノと自分用のアメリカンを購入し、席に戻ったときにはアレックスはもうユージの携帯電話を手放し、腕を組み虚空を見つめ思案していた。ユージは黙って席に座り、そっとアレックスの前にカプチーノを置く。30秒ほどして、アレックスはカプチーノに手を伸ばした。



「お前とエダ嬢の関係、そのものだな。バーサーカーと妖精、ユニコーンに乙女、死神ユージ=クロベに天使のエダ嬢」



 それがアレックスの第一声だった。ユージは無言で自分のコーヒーを啜る。



「お前みたいなモンスターにとって、心の支えとなる可憐で美しい少女。同族だな」

「厭味か」

「今言った例えは、お前の推理だ。違うかな?」

「ああ。大筋では、そう見ている」

 ユージだけではない。それはマフィアたちも同じ発想だろう。アレックスは、それを聞き、小さく不敵に笑った。


「だから<狂犬>も<マリア>も見つからないのさ。基本は同じだが、僅かに違う。いや、現実の事件ではむしろお前みたいなケースは現実ではない」


 アレックスの意地悪な笑み……いびりに、ユージは面白くなさそうにコーヒーを啜る。どうやら馬鹿にされているようだが、アレックスの種明かしのほうが優先だ。


「エダ嬢は聡明で可憐で優しく美しい。それは筋金入りのマフィア連中ですら頬を緩めるほどな。彼女に優しく接してもらった悪党もいる。そいつらが彼女の口利きで44口径に撃たれず命を落とさずに済んだやつもいるだろう? だが彼女みたいな女神はレア・ケースだ。お前らは美食に慣れすぎてそれが普通だと認識している」


「…………」




「では回答に移ろう。<マリア>は絶世の美少女でも、最高にセクシーで性欲を刺激してくれる肉感的美女でもない。おそらく美貌は標準か、もしかしたら標準以下。外見上何か大きな欠点があるかもしれん。年齢は14歳から20歳、おそらく貧民街の出。欧州からわざわざ米国に運ばれたという事は、残念だがコールガールとしてではなく性奴隷、もしくは医療用」



 アレックスの推理に、ユージは沈黙した。アレックスの指摘はユージが予想していた異常にショッキングな答えであった。ユージの驚いた様子にアレックスは勝ち誇ったように一笑し、カプチーノを啜る



「黒い天使・災厄者 vol 12」でした。


今回はアレックスの挿絵入りです。


「黒い天使長編 死神島」でサブレギュラーとして大活躍したアレックスが登場しました。


もっとも今回はスーパー特別捜査官ではなく本業のFBI捜査官の、犯罪心理分析官として登場です。


サクラだけは認めていませんが、アレックスはかなり優秀なキャラです。

実際知能指数だけでいえばレギュラー陣の中ではサクラについで高い超エリートです。


とはいえ、今回はガッツリメインというわけでなく特別出演みたいなものです。

基本このシリーズのメインはユージなので。


まぁサクラはしばらく出番はないですね。元々ユージがメインになるエピソードだとサクラは単なる好奇心の付属物なので。


ということで次回のアレックスの犯罪講義が続きます。



これからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。

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