「黒い天使・災厄者 vol 11」
「黒い天使・災厄者 vol 11」
捜査の参考を聞くためワシントンDCにあるFBI本部を訪れたユージ。
人身売買の専門捜査官から説明を聞くユージ。
人が思っている以上に高く売られる事実を知る。
マリアは愛玩用か、移植素材用か……
ユージの注目店はそこだった。
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ワシントンDC FBI本部。
本部の人身売買組織専任担当マック=ドルトンが、ユージ=クロベ捜査官から情報提供の要望を受けたのはオフィスに入って朝一番にメールチェックをした時に知った。その返事を返した僅か一時間後にユージ本人が本部に現れたのには「早いな!?」と驚きを隠せなかった。
そのため、資料を用意する時間がなく対面での直接説明になった。
「人間という物は、意外に高額だ。君はよく知っていると思うけどね」
マックはコーヒーをユージに勧めながら、自分もコーヒーを啜った。
「男子には価値が低い。男は一部の性愛対象である少年を除けば、あとは臓器提供の対象でしかない。とはいえ、健康であれば非常に高い。臓器はもちろん目、歯、筋肉、皮膚も売れて棄てるところはない。値段に関しては、君に説明するまでもないだろう」
ユージは元闇医者として裏世界に潜入していた。非合法の移植手術も多く手掛けた。貧民のためにしたこともあるが、多くは正規の大病院に関われない裏世界の幹部以上の大物たちだ。ユージに命を救われた裏世界の幹部は多い。その時、臓器は組織が用意した。潜入時代、ユージはその出自を暗黙のルールとして聞かなかった。ただし、ポリシーとしても潜入捜査官という立場からも、人身売買された人間から無理やり臓器を奪う摘出手術は行わなかったが。勿論、その手術を持ちかけられることはあったが、その場合は巧く立ち回りコールに連絡して対象を逮捕、保護させてきた。
「女の値段は倍以上だよ」
マックは楽しそうにウインクし、コーヒーを啜った。
「少女の時は愛玩用として売れ、18になればコールガールとして売春で儲けさせる。25になれば代理出産の母体として使われ、体が壊れる直前に臓器売買に回す。4度の使い道がある。非常に合理的かつ効率の高い商品だね。年間全米でどれだけの女性や子供が失踪しているか……その数を思うと、米国がいかに闇移植事件が多いことかと痛感する」
「それを扱っている組織はどのくらいある?」
「多すぎるよ」マックは笑いながらコーヒーを置いた。「大手から個人業者まで入れれば三桁になる。全部記憶していくかね?」
「条件は縛られている。欧州産を取り扱い、マフィアが絡んでいる。ただし直営でなく幹部の誰かがやっている中規模くらいの組織。事件の詳細はメールで送ってある」
マックはもう一口コーヒーを啜りカップを置くと、自分のラックトップを掴んだ。細かい事件内容まではまだ目にしていなかった。その間もマックは丁寧に情報を教えてくれた。
「今の話だけでも、大分絞れるねぇ。上質の欧州白人少女を売買、臓器目的が第一ではない。医療系でなく愛玩用としての要素が強い組織だろうね。なら消費地は主に三箇所だ。LA、このワシントンDC、そして君のいるNY。買い手はいうまでもない、金持ちの白人だ。ああ、ベガスも消費地だね。ベガスに飛ばされているときはさらに転売される」
「金持ちのいる大都市は他にもあるだろう?」
「南部は違法移民関係が多い。そして麻薬関係者もね。そんな目立つ高級品は好まれない。中部、北部の金持ちにそのテの愛好家は数が多くない。そう考えると、君たちが追っている少女がいる場所はNYかワシントンDC。だが一番多くそのテの競りが行われるのはベガスだねぇ」
ラスベガスは全米一<一夜成金>が生まれる街だ。コールガールも街角に立つ一晩20ドルの女から、一晩5万ドルを取る高級コールガールまでいる。わざわざ欧州から取り寄せられた少女なら、1万ドルは下るまい。
「臓器は国を問わないが、コールガールは国籍に意味がある、か」
「コールガールの流通で国内最大の組織は<デッド・ドール・コネクション>、別名通称<美人形館>だね。ルイク=ドーンという企業家がマフィアとも提携しているよ」
ふむ……ユージは無言で頷きコーヒーを啜った。<美人形館>の噂は知っている。一応その名前を記憶に留めた。その様子を見たマックは、苦笑した。
「クロベ捜査官。メモか自分のラックトップを用意したほうがいい。この規模の組織は、20、関係者が100人はいるからね」
「…………」
ユージは面白くなさそうに無言でコーヒーカップを置く。いわれてみればそれもそうか。対象が一つ二つで済むのならアデウス=ジョンソンたちが即答している。
3分後……ユージの事件報告の詳細を読み終えたマックは、開いたラックトップをデスクに置き、眼鏡を取り出しデスクに深く座った。
「中々興味深い事件だね。私のほうでよく考慮してできるだけ絞ってみよう。1時間くれるかね」
「分かった」
そうユージは答えると立ち上がった。一時間あるなら会いたい人間がもう一人いる。アポイトメントはとっていないが、この本部に勤めている捜査官だ。もっとも生真面目な男だから、突然の来訪を喜びはしないだろうが……。
「終わったら連絡をくれ。本部内にいる」
ユージは自分の携帯電話が書いてある名刺をその場に残し、マックのデスクを後にした。
「黒い天使・災厄者 vol 11」でした。
今回は、なんというか、犯罪の裏話みたいな回でほとんど捜査らしいことはないしユージらしいところも特になかったですね……ま、仕方がない。今回はシリアスなハードボイルドシリーズなので、こういう回もあります。
ちなみにユージの移動は転送機です。普通なら飛行機移動で2時間、車の移動いれれば5時間くらいかかりますからね。米国の尺度だとNYとワシントンは隣の大都市みたいな感じですが日本の尺度だと結構離れてますから。
次回もユージのパートです。
あの人が出てきます!! 死神島で大活躍したあの人です。しかもスーパー特別捜査官としてではなく普段の顔で表の職業として登場します。
ということで次回、お楽しみに!
これからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。




