「黒い天使・災厄者 vol 10」
「黒い天使・災厄者 vol 10」
捜査会議をするユージたち。
なんとなーくマリアの素性が浮かび上がる。
こうしてそれぞれ手分けして捜査にとりかかることになったが
FBI NY支局会議室。
そこでユージと拓、サクラの三人が顔を突き合わせ調べて出してきたファイルを広げていた。ちなみにJOLJUは今日からエダと一緒に行動している。<狂犬>か、マフィア、さらにそれ以外の何者かがユージに対する報復や脅迫のためエダを誘拐する可能性はゼロではない。そういうときは、エダの日常生活を邪魔しないよう、サクラかJOLJUを護衛につけるのがユージたちの手だ。最も……エダの存在はユージがマフィア関係者にはくどいほど念を押し、ちょっとでも手を出せばユージ本人に危害を向けたときより容赦ない制裁を行ってきた経緯もある。ついでにエダ自身は知らない事だが、実は日頃からマフィアたちの方が気を遣い、気付かれないよう護衛を出しているくらいなので心配はないのだが……。
「大体事件は見えてきたんだけど、問題の<マリア>が誰なのか全く分からん」
拓は大量のファイルを机に放り投げ嘆息する。
サクラも疲れた顔で、ばざっとファイルを投げた。
「<マリア>って名前がそもそも欧米でメジャーすぎる! 娼婦の源氏名でもよく使われているし名前から探すのはムリ。あ~、もしかして生き別れた妹とか娘とか、そういう設定なんじゃない?」
「そんな分かりやすい漫画みたいな話が事実なら、世の中の殺人事件は、みんな1時間で解決するな」
呆れ声でサクラにツッコミを入れる拓。
「こればかりは推理していても埒あかなさそうだな」
「マフィアの連中が情報寄越してくるのは明日だろ?」
「<狂犬>の件はな。だが<マリア>の件は別だ。娼婦の線や人身売買の線を当るか。正規ルートでやる」
ユージは携帯電話を取り出した。
「正規ルートって何じゃ?」とサクラ。その問いにユージは一瞥しただけで、答えず電話を続けた。相手は支局長のコール=スタントンで、彼から専門家を紹介してもらうためだ。現状報告も兼ねている。
電話でのやりとりは1分ほど。ユージは携帯を懐中に戻し、拓のほうを向いた。
「許可が出た。俺はこれからワシントンDCに行って話を聞いてくる。夕方には戻る」
「俺は?」と拓。
「売春組織を当たってくれ。支局とNYPD本部、両方で聞き込みを。最近欧州から入ってきた<マリア>という名の女がいれば確認してくれ」
「それだけか?」
「俺の推理だが、年齢は多分若い。未成年の可能性もある」
「つまり! ユージと同類か! <美少女ホイホイ>め!」とサクラがボケた。すかさずユージの強い拳骨がサクラに決まった。
「安い娼婦なら、<狂犬>がここまで血眼にならなくても見つけているだろう。性愛の対象として一番高価なのは金髪碧眼の10代の白人少女、次がアングロサクソン系黒髪白人少女。12歳から16歳……そのくらいかもしれん」
米国には金持ちたちの性的奴隷が裏では存在している。ユージはそういった事案も捜査し、多くの少女を腐った政治家や企業家から救ってきた。その知識はそれら専門の捜査官より詳しい。
最も高額なのは<いかにも白人の令嬢風>少女だ。一種の中世浪漫といえるのかもしれない。入手法の困難さもあるだろう、白人でも先進国の少女は高い。逆に誘拐が多く貧民も多い南米ラテン系、アジア系、アフリカ系は値が安い。ただしアジア系でも黒髪で色白な日本人少女は非常に高価で稀少だ。
「じゃあサクラちゃんは最高最上品だな♪」
拳骨ダメージから甦ったサクラが「フフン♪」と自慢げに笑う。拓は「お前は……」とサクラの緊張感のなさに呆れかえった。
「残念だが10歳のガキは逆に売れん。ついでに売れても生存率は低い」
「……そうなの?」
「法律をよく読め」
米国は未成年に対する様々な法律がある。
いくら幼児性愛者も、10歳の少女というのは常に保護者の監視監督が必要な年齢で一人にできない。そこから足が付き警察に発覚する危険が大きい。その<一人行動>の縛りが解かれるのは12歳。しかしそこにも法律が絡む。14歳以下の少女との性行為は合意があっても重性犯罪者となりリスクが高い。だが14歳以上から刑は軽くなるし、合意であれば司法取引が可能になる。「家出少女を匿っていただけ」という言い訳もできる。買う側としてはこれらのリスク上長期的に愛玩用として手元に置く場合、最低年齢は14歳になるのだ。むろん10歳どころか4歳くらいの少女が誘拐され売られる事はあるが、そういう少女たちは最終的に証拠隠滅……殺害され破棄されることが多く生存率は低い。
「つまり俺はそっちの線、なワケね」
拓は頷き煙草を口に咥えた。いつもの通りサクラが「副流炎」と突っ込むが、いつも通り無視される。この会議室は喫煙可の会議室だ。ユージも拓に手を伸ばし、煙草を貰い吸い始めた。
「あんまり、気分のいい捜査じゃないな。お前のほうが詳しいだろ」
「詳しいよ」ユージは煙草の紫煙を吸い込み、吐く。「ただワシントンでのほうが俺の専門だからな」
「ユージの専門?」とサクラ。
ユージはサクラを一瞥し、表情変えず煙草を燻らす。
「非合法の生体移植用人体売買」
「医者の領分だな」
と拓。確かにユージはこちらのほうが領分に入る。元々闇医者であり、現在世界十指に入るフリーの外科医で表の医療界にも詳しい。医療界は複雑な権力と利権があり、政治家にも裏社会にも及んでいる。安易に手を出すのは色々と面倒なのだ。
「必要な事だけ聞き、必要な人間だけを選んで捜査してくる。アンタッチャブルな点が多いからな。必要以上にかき回すなともコールに釘を刺された」
「任せる」
本件事件はユージが責任者だ。拓は従うだけだ。
「サクラちゃんは何したらいい?」
「いらん。飛鳥の家にでも行ってろ」
「…………」
完全に無視されたサクラ。面白くなさそうにテーブルに突っ伏した。飛鳥の家に行け、というがそもそもこのNYが自宅ではないか! そして飛鳥は今試験期間で相手をしてくれない……。
意気消沈し沈没したサクラを無視し、ユージと拓は煙草を吸い終えると部屋を出ていった。
「じゃあ後よろしく」そういって去っていく二人。
「……あと……??」
二人が出て行ってからしばらく……サクラは大量の捜査資料や事件ファイルがテーブルの上に散乱したまま置いていかれたことを知り、言い捨てていった言葉の意味を知った。
「ふざけんなぁー! サクラちゃんは一般ピーポーだゾ!! なんで片付けしなきゃいかんのよ!!」
立ち去った二人に向かって無意味な罵詈雑言を、ファイルや資料を片付ける間中ずっと喚き続けていた……。
「黒い天使・災厄者 vol 10」でした。
今回も捜査会議編でしたね。
まぁ……今のところ事件もこんなくらいなカンジなのでみんな悠長です。
今回なんとなくマリアの素性に差マリマしたがそれが正解かどうかはわかりません。
とはいえ捜査官だから、何か手掛りを見つけ色々探っていくわけです。
なんだかんだと首を突っ込みたがっているサクラがいますし
これからどうなるか!
ということでこれからも「黒い天使・災厄者」を宜しくお願いします。




