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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使 中編 災厄者」シリーズ
24/206

「黒い天使・災厄者 vol 7」

「黒い天使・災厄者 vol 7」


事件の検分を続けるユージたち。


ふと、思い出すユージ。

それは過去の凄惨な事件の記憶だった。


事件の糸が少しずつつながりはじめてくる。


「……爆破突入……そしてレザーの特殊防弾着、か」



 ユージは天井を見つめた。



「どうした?」

「いや。なんか記憶にひっかかるんだよな……デジャブってやつかな?」

「天井爆破して突入するのは俺たちの訓練でもやっているじゃないか」

 二人ともNY支部のHRT隊員で対テロ訓練も受けている。天井から突入というのは基本の手の一つだ。


 いや……違う。


 ユージのデジャブはそういうのではないのだ。


 おぼろげだが……ユージは思い当たった。


「俺……これで二度目か? このタイプの襲撃」

「ん? そんなことあったっけ?」

「昔だ。俺が潜入捜査官辞めた直後……マフィアたちと大戦争していたときだ。ああ、軍隊の特殊強襲みたいなのがあったよ」

「あったっかな?」

 拓の記憶にもない。当時はほぼ毎日のようにユージは銃撃戦を繰り広げ、マフィアやチンピラ、殺し屋を返り討ちにしていた頃で、その頃は拓もFBIに入所したばかりの頃だ。


「なんじゃい。二人とも襲われたのに記憶にないんかい」

と呆れるサクラ。だがそれも当時のことを思えば仕方ないだろう。ユージの周りはまさに戦場だった。元々FBIの作戦が、ユージを囮にしてそのテのあぶれモノを根絶やしにすることで、その時襲ってきた大半はユージによって射殺。数はユージすら覚えていない。頻度でいえば一週間で平均3度は襲撃を受け、毎回無傷で撃退し、そして毎週十人以上の殺し屋を殺すか逮捕してきた。襲撃は街中堂々とか、奇襲か、爆弾によるものか、狙撃か……だった。在宅中襲ってくることも多かったが、その中で一度だけ、非常に特徴的な、軍特殊部隊の奇襲作戦を思わせる襲撃があったように思える。



 徐々に思い出してきた。



 あれは深夜……天井、窓、ドアの三箇所から爆破突入し、ユージは担当の護衛捜査官と対処したが、リーダーと思われる襲撃者に護衛捜査官は倒され、ユージはその男と戦い、激しい銃撃戦の後、最終的にはナイフでの攻防があり、最後は素手で殺した。


 確か、あの男もレザージャケット・タイプの防弾着を着ていた。普通のミリタリー・タイプの防弾着を着て襲ってきた殺し屋は多くいたが、レザージャケット・タイプというのは珍しい。



「もしかして……」



 あの男の関係者か……? さすがに相手が誰かだったなんて当時のユージは知る気もなかったが。だがFBIには事件記録として残っているはずだ。


 ……そしてもう一つ……。


「?」


「こいつは……問いたださないといけないな」


 ユージはなんとなく糸口を見つけていた。もしその線が全て繋がったとしても手がかりの一つにしかならないが、恐らくこの手がかりはマフィアも警察でも分からないだろう。


「なんかわかった顔して……ユージ教えなさーーーい。心読むどぉ~♪」

「お前に読まれる俺か」


 冷たくあしらうユージ。確かにサクラの能力は一般人には有効だが、JOLJU・エノラが体内にあるユージには効かない。


「とりあえず帰ろう。拓、明日は本部である事件の資料と、その首謀者のことを調べてくれ。サクラかJOLJU連れて」

「なんで?」

「フランス語かドイツ語が必要になるかもしれん」

「あー、あたしらは通訳って事ね」

「ここでどの事件か教えてくれよ。なんでいえないんだよ」

「事件番号覚えてないから本部か自宅に帰らんと、どの事件番号だったかわからないんだよ。だから、このあと自宅で教える」

「……つまり、俺もお前ん家行けって事ね……」


 ユージは黙って頷いた。

 つまり、ユージ、拓、サクラと三人揃ってエダに怒られ、今回の事件の釈明を皆でしよう、という意味だ。ユージにとっては今一番恐ろしいのはエダなのである。このあたりの発想は親が怖い小学生と殆どかわらないのであった……。



 そして案の定……エダに叱られ、心配で泣かれ、そしてくどくど説教を受ける三人であった……。







 立ち込める煙の中、ユージはDEを捨て、部屋に隠してある9ミリオートを取った。必死に気配を探る。


 ……6人……。


 部屋には襲撃者の死体が5つ……近くで護衛捜査官が倒れている。まだ死んではいない。彼の容態も気になったが、今はそれどころではない。あと一人、残っている。



 ……こいつは、相当なプロだな……。



 容易に撃ってこない。この光のない真っ暗な中で、マズルフラッシュは居場所を知らせるものになる。相手はナイトスコープを搭載したG36Kを持っていた。しかし先ほどまでの銃撃戦で少なくとも全員撃ち倒した。だが、指示を出していたリーダーの男は防弾チョッキで助かり、その後しばらく両者激しく撃ち合った。そして右腕を撃ち抜いた。そこから男は闇に潜った。


 同じくユージも今、闇に潜っている。ユージは夜目が利く。ナイトスコープは必要ない。



 ……逃げてはいない……まだいる……。



 微かに感じる殺気……まだどこかにいる。


 ユージはソファーの影から出た。そして壁を背にする。


 その時、黒い影がユージを襲った。男が現れた。獲物は戦闘ナイフだ。戦闘のプロなら、黒闇の中接近してしまえば銃よりナイフのほうが強い。ユージは銃をズボンに差込み、攻防の末相手を投げ飛ばし、死んでいる刺客のベストからナイフを奪い取った。


 そこからは一進一退の白兵戦だった。


 男は強かった。だがユージもこのテの乱戦には自信がある。やがてユージに投げ飛ばされ、ナイフを手放した男は、ユージに喉を掴まれた。


 それが勝負の決着の時だった。


 ユージは容赦なく、一瞬の内に相手の首の喉と気管と頚動脈を握り潰した。喉は破裂し、血を拭き零しながら男は力なく膝を付いた。


「お前は……死神か」

 男が呟いた。だが喉を潰されては声が出ない。瞬く間に血が肺に入り、心臓への酸素が止まる。死は確実だ。ユージは9ミリオートの銃口を向けたが、その必要はなかった。ただ最後男は笑いながら一言呟いた。



「●●●にいずれ殺されろ」



 よくは聞き取れなかった。少しロシア訛りのある英語だった。


 ユージが部屋の電気を灯した時には、すでに生きているのは護衛捜査官だけで襲撃者は全滅していた。応急手当し、本部に電話し、救急車を呼んだ。


 ふと興味がわき、襲ってきたリーダーの男の覆面をとった。白人で、髪も短くマフィアというより軍人に見えた。だが、この男が何者だったのかまでは、ユージは気にもとめなかった。ほぼ毎日死体を製造しているのだから……。




 ……昔の話である……。




「黒い天使・災厄者 vol 7」でした。


実況検分続き編です。


といってもユージが何か思い出しただけですね。


まあ、もともと実況検分編を一話で出すのが長いかな、ということで分割した後半部ということでさほど目新しい情報はなかったりしますが。


今週のキーワード?wは、「ユージは自分を囮にして殺し屋狩りをしていた」というところになるんでしょーかね。

ちなみにこの頃、まだエダは高校生で実家で暮らし、サクラは養女になっていないので守るべき家族がいなかったからできた無茶苦茶な作戦というか捜査でした。今のユージは家族がいるから同じレベルの囮捜査はもうできません。裏社会と停戦協定もできてしまったことなので。それでも時々は狙われてるけど、それくらいはユージたちにとっては日常生活と範疇となっているわけで……恐るべしユージ!w


ということで、次回からは本格捜査編です。

ドシドシと捜査が進んでいきます。


真の大事件はこれから!


これからも「黒い天使・中編『災厄者』」を宜しくお願いします。

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