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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使 中編 災厄者」シリーズ
23/206

「黒い天使・災厄者 vol 6」

「黒い天使・災厄者 vol 6」


<狂犬>は、再び都会の闇の中に消えた……。


そして事件現場に集う拓とサクラたち。

その激闘の後は、様々な情報を残していたが、どれも驚愕すべきことばかりだった。


襲い掛かってきた<狂犬>は、間違いなく殺しのプロフェッショナルだった。




 男は地下を歩く。むせるような湿気と鉄や銅の腐食臭とほこりっぽさの中……。



 ……一刻も早く、どこか休める場所にいこう。体内には何発か銃弾が残っている。打撲や裂傷は数知れず……だが幸い骨はどこも折れていない。骨が折れていないのであれば動けるし、筋肉の痛みは我慢できる。



 今日の男は強かった。



 これまで倒してきた、自分と同じ<名前のない男たち>より。そして自分を始末しにきた殺し屋たちよりも……。


 FBIだと名乗った。


 最初は汚職捜査官だと思った。ならば絶対許せないと思った。


 だが、今日の様子だとそうではないようだ。


 あの男が仕切っていた。

 だとすれば、予想外の展開になっている。

 しかし、これは吉報なのかもしれない。これで、もしかしたら<ヤツ>は尻尾をだすかもしれない。


「……マリア……」


 男はそう呟くと、地下の闇の中に消えた。







「戦場だな……これは」

 拓は無人となったレストランを見渡し呟いた。


 天井は大きく抉られ、椅子やテーブルの大半は破壊され、ガラスは砕かれ、それらの破片と薬莢と拳銃はそこらじゅうに散乱している。


 ロックたちは所持していた拳銃をこの場で放棄し、全員救急車で運ばれていった。


 ユージもまた、自分が所属している市営病院に行っている。ユージは市営病院の非常勤緊急救命医で、自分の医務室を持っている。



「いやぁ~すごかったヨ♪ ユージの闘い」

「だJO~」

 そこに一部始終を観戦し、ついさっきまで自宅に戻っていたサクラとJOLJUが現れた。手には夕食のおにぎりの包みがあった。二人は暢気にも食事のために帰宅していたのだ。


「お前ら暢気だな、本当」

「拓ちんの分もあるゾ。文句言うな~」

「アリガト」

 受け取り、拓もおにぎりを食べ始める。おにぎりはエダの手作りで相変わらず抜群の握り具合だ。


「エダちゃんはこのことは知らないんだよな、まだ」

「まだね」

「……今夜はエダちゃん不機嫌だなぁ……」

とため息をつく拓。ユージがあれほど怪我を負えば当然エダは驚くだろう。今回このことはエダに黙っていたから、心配のあまり怒るエダの様子が拓には予想できた。そしてきっと拓も怒られる。そう思うと憂鬱だ。

「明日の朝ご飯まで不機嫌だと困るよね」と全然困った様子のないサクラ。サクラもその点共犯だが、子供だからそう激しくは怒られないと高を括っている。


 とはいえ、まず拓がすべきは実況検分である。


 このあと市警察の正式な科学調査班が入る。その前に簡単に確認しておきたかった。


「屋上からダクトの中を移動……天井を爆破して侵入……」

 言いながら天井を見上げる。穴は直径3mほど吹っ飛んでいる。爆発自体は大きくない。

「同時に発煙筒を投下……9ミリのSMG、2丁を乱射……」

 拓は現場に落ちているオープンボルトのSMGを発見した。マイクロ・ウージーとマックM10だ。どちらも予備マガジンをガムテープでつなげていた。そして、二丁ともユージの12ゲージ・スラッグ弾で撃ち抜かれ壊れていた。その跡がしっかりと残っている。

 そして、部屋の奥の45オートを手に取った。これは<狂犬>が持っていたものだ。

「誰だよ……<狂犬>は狂った知能をもたないモンスターだって? しっかり襲撃の知識あるじゃないか」

 2丁のSMGを間断なく、かつ的確に2マガジン分使いこなしている。天井の爆破、発煙筒で視界を奪い、不意をついてSMGで掃討する……フルオートもトリガーを引きっぱなしではなく、ちゃんと弾幕を指で制御しながら撃っている。軍隊や特殊部隊の急襲方法だ。SMGも爆薬もそうそうNYでは手に入らないものばかりで、素人じゃない。


「お前らの感想は?」

「ん? プロっぽかったよー」

「ユージが不意つかれたくらいだJO」

「そこなんだよな。やる気のないサクラが気づかなかったのはともかく……」

「にゃんだとぉー」

 拓はサクラを無視し、おにぎりの残りを口に放り込み咀嚼しながら大きく開いた天井のところに戻った。


飲食店の天井裏だけあって排気ダクトや色々なパイプが走っていて空間自体は広い。


「寸前まであのユージが気づかないなんてあるのかね?」

天井自体は板だが、骨組みの柱はしっかりしている。おそらくこの柱の上にいたのだろう。そしてこれも推測だが、例の防弾コートをすっぽり被っていたのではないだろうか? <狂犬>は、本人の体重と装備を考えれば180キロ~200キロはあっただろう。天井の板はその重さは耐えられそうになく、骨組みの柱がギリギリというカンジだ。とすれば、自分が乗っている柱を落とすだけの爆発量でいい。それなら少量の爆発物で天井は落とすことが出来る。



「裏がある。下っ端とは思えん」

と三人の背後で声がした。



「にゃ?」



 その声に三人が振り向くと、そこにはいつものスーツに着替えたユージが立っていた。


「おー ユージ復活だJO」

「相変わらず不死身だねぇ~」

 暢気なサクラとJOLJUは笑い、拓は不安げな表情を浮かべた。

「お前大丈夫なの?」

 ユージは歩きながら両手を見せた。両手とも包帯が巻かれている。

「右は擦り傷と裂傷2針。左は打撲に小指と中指にヒビだ。たいしたことはないが」

 垂れた前髪でよくは分からないが、見れば左の額にはしっかり4針縫っている。ユージはよほどの大怪我でないかぎり自分の怪我は自分で治療する、医者としても異常人だ。そんな怪我をした手で、自分自身をよく縫えたものだ、と感心していいやら呆れていいやら。


「ヘンなとこ折ったね」とJOLJUがいう。そんなところやられていたか?

「あの筋肉の塊殴って、こっちの指にヒビが入るんだ。プロテクターつけていたのにな」


 人体は意外に硬い。喧嘩で素人はよく攻撃者側の拳の皮が剥けたり、指や手首の骨を折ったりする。もちろんユージはそんな素人ではなくちゃんと拳を守る殴り方で殴っていたし、手に優しい掌打も使っていた。それでもこの様だ。


「お前、動いていいのか?」

「動けないほどのダメージじゃない」


 いや、本当は入院すべき怪我である。もっとも、もっとひどい怪我で動いていた事もあるし、自分の事件だ、この男は這ってでもここに来ただろう。


「じゃあ、ユージにダーイブしてハグしていい♪?」

けたけたと笑顔のサクラ。

「コロスぞ」と本気で睨むユージ。

「で? 他にダメージは?」

「左、一の腕ヒビ。肋骨1箇所ヒビ。頭部4針……右足裂傷5針、膝下裂傷3針。右二の腕裂傷6針。背中、胸、肩が大部分を打撲して炎症……今夜は熱が出るな」


 裂傷は、<狂犬>の拳が当たり裂け、膝下はユージの膝蹴りで自分の膝のほうが衝撃で裂けたのだ。驚くべき事にユージのケガの半分は攻撃したことで負ったものだ。その事実だけ見ても相手が尋常な相手でなかったということだ。


「ちょ、本当に大丈夫ユージ? 家に帰って寝てた方がいいんじゃ……」と、少し真面目に心配したサクラだが、ユージが一人で帰宅する訳ないことに気づく。


「あ、エダが怖いのね……ユージ」


「煩い。……痛みには慣れている。痛み止めと解熱剤は飲んできたし、骨のヒビ程度は三日ほど腫れるだけですぐにくっつく。薬とテーピングをしっかりしていれば問題ない」


 他人事のように淡々と言っているが、すでに注射は、痛み止め2本、抗炎症薬2本、破傷風予防を打ち、38度の熱があるのだ。それでも表面的にはピンピンとしているのだから、拓もサクラも開いた口が塞がらない。

「しかしユージは、合計18針分、さらに傷が増えたのであった……これまでの傷合わせて通算何針なのか、楽しみだJO♪」と、ふむふむ頷くJOLJUと、同意して頷くサクラ。ユージは全身に目立つ傷が50近くある。だからリゾート地のプールには入れないし、傷を隠すという理由でワイシャツではなくタートルネットクを着用している。


「黙れ」


 ユージは三人を無視して、もっとも派手に格闘していたあたりまで歩いた。


 ところどころ血の跡やちぎれた鎖がある。


「この血はヤツのだ。ヤツは常に出血していた」

「この点々と飛び散っているのが、か?」

「俺の12ゲージ・スラッグが防弾着を貫いて、ヤツの筋肉を抉ったんだと思う。この血はその血だ。俺は額の擦過傷からの出血が目立つくらいで、後の怪我は服に吸収されていたからあまり飛び散っていないと思う」

「えー! ユージがショットガン使ったの最初じゃん。ショットガンが貫いていたンならなんであんなに動けんの? あの化物わ」

「ヤツの筋肉で止まって内臓までは達していなかったんだよ。視界が悪くて真ん中に撃ち込んだ。おそらく胸と腹筋だ。普通なら防弾で防いでも衝撃で肋骨は折れるんだがそんな様子もなかった。あの筋力だとその衝撃も防いだんだろう」

「聞けば聞くほど化物だな。お前……ホントよく生きているね」


 昔からの付き合いながら拓はその点不思議でならない。ユージは痩せ型ガッチリマッチョだが、人間領域内だ。こんな人外の化物大男相手にユージがこの程度のダメージで生き残ったのか毎度ながら不思議である。


「一応DNAは確実に採れるからデーター検索してもらうが、そのくらいのことはフランス警察やマフィアどもも調べただろう」


 血も指紋も大量に残していっているが、そもそもデーターがないならば照会しても「対象なし」で終わる。

「SMGと爆薬の成分もだよ」

 拓が天井を指す。45オートはともかく、SMGと爆薬だけは海外からは持ち込めない。米国で入手しているはずだ。しかも街の裏角で手に入るような武器ではない。それなりの相手から買ったはずだが、今回ばかりはマフィアの線はない。マフィア関係者以外からだから、かなり絞り込めるはずだ。


 もっとも、よほど特殊な軍用爆薬でないかぎり爆薬も裏社会では簡単に手に入るので気休めにしかならないが。米国は銃も爆薬もその筋の人間なら手に入りやすい国である。




「黒い天使・災厄者 vol 6」でした。



捜査編の始まりです。


ただの怪力殺し屋ではないことが判明しました。ほとんど人外ですね。

ユージみたいな超一流の人間が、「殴ったほうが壊れる」というくらいです。この点、ちゃんとリアルなワケです。実際、人をなぐれば手の皮は剥けるし、下手な人は逆に骨折するという事も実際にはあります。だからユージの負傷は当然なんです。殺し合いですし。


本編でもいってましたが、この程度の傷で寝込むユージではありません。

これから本格的に捜査を続けていきます。


そして、事件の裏にある巨悪に接近していくわけです。


サクラたちはそれを面白がりつつ、首を突っ込んでいく感じです。別にサクラは狙われているわけではないし、危険に好んで飛び込むわけではないので暢気なものです。今のところは……。


というとで、これからも「黒い天使・中編 災厄者」を宜しくお願いします。

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