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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使 中編 災厄者」シリーズ
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「黒い天使・災厄者 vol 4」

「黒い天使・災厄者 vol 4」


襲撃者を知り待ち構えるユージ。


<狂犬>は、完全にユージたちの裏をかき襲い掛かってきた。


すぐに応戦するユージ。


相手は身長2mを超す、超一流の殺し屋だった。

その強さに、ユージは思わぬ苦境に立たされる……。



 それは完全な不意打ちだった。


 突然天井が爆発し、爆炎と爆風とガレキがレストランの中を襲った。


 ユージがサクラのテレパシーを受け取った直後だ。



「伏せろっ!!」


 煙で何も見えない。だがユージは分かっていた。

 すぐにショットガンを掴みつつ近くの吹き飛び倒れたテーブルの影に飛び込んだ。

 ユージは再度叫んだ。だが届いているかどうか……。



 ……何かが来る……!!



 凄まじい殺気が目前に現れたのをユージははっきりと感じ取った。


 <狂犬>は、現れた。


 だがその瞬間、猛烈な銃弾の雨がレストラン中に降り注いだ。


「SMG!?」


 予想外の攻撃だ。これは間違いなく9ミリのサブマシンガンだ。弾の雨がばら撒かれ、レストランの中は瞬く間に粉砕されていく。すぐに取巻きの護衛たちが応戦した。



(馬鹿っ!! 撃つなっ!!)



 周りは煙で視界がほとんど利かない。天井を吹き飛ばす志向性爆薬の他に白煙筒も投げ込んだらしい。濃い白煙は眼にピリピリと刺激する。視界はゼロに近い。この中でアマチュア連中が反撃しても当たるはずがないし、逆に銃声とマズル・フラッシュで居場所が知られるのだ。

予想通り、SMGの弾幕は取巻きのほうを襲い、二名ほどの悲鳴が聞こえた。


「お前ら撃つなっ!!」


 ユージはそう叫びテーブルから飛び出すと、煙の中猛然と浮かび上がっている大男の影めがけショットガンを向け、引き金を引いた。銃声と殺気でユージは的確<狂犬>を察知していた。


 まずはSMGを破壊し、両腕、足……そして胴体にショットガン全弾撃ちこんだ。


 12ゲージのスラッグ弾は、鋼の肉体を持つグリズリーの胸板すら貫く。たとえ防弾チェッキとチェーンメイルを着込んでいたとしても貫いているはずだ。


 影は倒れこんだ。重い音が床に響き僅かに床が揺れる。



「ロック! 生きているか! おいっ」


「ああ! 生きているぞくそったれっ!! 撃たれた! 撃たれたぞくそったれ」


「口を閉じていろ馬鹿! 勝手に撃つなと言っただろう!!」


 ユージは使い切ったショットガンを捨てると愛用のDEを引き抜いた。


「まだ終わってない!」

「なんだとっ!?」

 まだ、凄まじい殺気は治まっていない。


「いいか! 絶対オマエたちは撃つな! 隠れていろ!!」


「うおぉぉぉぉっっっ!!!」


 地響きするような低音の呻きが起こったかと思うと、<狂犬>は飛び上がった。

 ユージは咄嗟に狙撃しようとしたが、その瞬間、凄まじいスビードで何かがユージを襲った。



 ……ヤバイっ……!



 歴戦のユージの勘が自然と防御に働いた。銃口を向けていたユージの右手は一発だけ44マグナムを放ち、後ろに引いた。

 まさにその瞬間、先ほどまでユージの腕のあった場所を、チェーンが空を切る。凄まじいスピードだ。


「当れば骨まで砕けていたな」

 体勢を整えたユージは、ゆっくり顔を上げた。


 4mほどの距離だろうか……写真で見た大男がユージを直視している。写真で見るより大きく、その風貌は凄惨だ。顔は岩石を削って作ったような異様な迫力と傷跡はあるが、整っていてちゃんと人間である。


 だが殺気に満ちた赤い目と食いしばられた口元は、どうみても獣のものだ。


 男もユージの存在に勘付いたようだ。動物的本能が教えている……この場で自分の敵はこの男なのだと……。

 自分が選んだ標的ではない。本能がここで一番危険な男だと察した。生き残るためには危険な敵だ。


 見つめあったのは一瞬だった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」

 <狂犬>は、動いた。

 ユージも同時に動く。ユージはDEを捨てた。

 もはや至近距離だ。一瞬の判断違いが命取りとなる。この距離はすでに白兵戦の距離だ。両腕が使えなければ命取りになる。


 <狂犬>は一瞬体を沈めた。


 跳ぶか……と身構えたが、違った。


 <狂犬>が次に起き上がったときは、すでに両手にテーブルを持ち上げていた。


「!?」

 咄嗟にユージは横に跳んだ。まさにその直後、振り下ろされたテーブルが床を砕き、テーブルも半分に叩き潰された。だが、さらに<狂犬>は速かった。そのまま横に跳んだユージに残りのテーブルを叩き付けた。


「ぐわぁっ!?」

 凄まじい力にテーブルは粉砕され、ユージは横に吹き飛ばされた。


 それはほとんど一瞬のことだ。


 ロックたちは、あまりに非現実的な出来事に、唖然とする以外何もできなかった。

 ほんの一瞬の間に、ユージは倒された。

 <狂犬>はゆっくりとロックに向かい、懐から45オートを取り出した。


「……マリア……」

「??」

「マリア……マリアァァァァァ……」

 <狂犬>は「マリア」と口ずさみながら近づく。ロックはたまらず銃で撃った。だが弾は空しく<狂犬>の鎧に弾かれるだけだ。


 ロックの銃の弾が切れ、取巻きの一人がロックの前に立ちはだかり銃口を向ける。だがその頃にはもう<狂犬>は目前まで迫っていた。

 <狂犬>は体に巻かれたチェーンを伸ばすと、再び鞭のように振るった。その直撃を受けた取巻きは絶叫し崩れた。腕に直撃し、腕自体が千切れ飛んだのだ。<狂犬>はすぐさま絶叫する男の胸に膝蹴りを入れた。ゴキッという不快な音とともに男は黙った。背骨が粉砕し、即死したのだ。死体は大量の血を吐き出し、その場に崩れる。


 男の血に濡れながら、<狂犬>はロックを睨みつける。


「マリアは……どこだ……」

「しるかっ!! 俺が知るかっ!!」

「なら知っている奴を言え。……そうすれば……」

 <狂犬>は無表情のまま、手についた血を舐めた。

「苦しまずに殺してやる。答えなければ……ひどく苦しめる」

「ひいぃぃぃぃぃぃっつっ」

 <狂犬>はチェーンを再び腕に巻きなおした。その時だった。


 <狂犬>の顔面を椅子が襲った。

「!?」


 ユージは渾身の力で椅子を<狂犬>の顔に叩き付けた。椅子は木っ端微塵に砕ける。


「ミ……ミスター・クロベっ!!?」

「…………」

 <狂犬>は大してダメージを受けた様子はなく、僅かに額の皮膚が切れただけだ。


「撃つなよ。こいつは俺の獲物だろ?」


 ユージはそういうと額から流れる一筋の血を拭った。

「来い、化物。俺が相手だ」

「…………」

 ユージは打撲と掠り傷は受けたもののダメージは大したものではない。寸前に受身を取っていたからだ。

 ユージは構えたまま動かない。

 <狂犬>も、再びユージに向き直った。拳に巻かれた鎖がギリギリと金属音を鳴らす。


「うおぉぉぉぉっっっ!!」


 <狂犬>は、その巨体に似合わず素早い動きでユージに接近すると、一撃必殺の拳をユージに向けて放った。当れば一撃で骨を粉砕する拳だ。だがユージはそれをかわすと、逆にその拳を掴み、そのまま<狂犬>を投げ飛ばした。


 筋肉の固まりの巨体が嘘のように<狂犬>の体は空に高く舞う。


「おおっ!!」

 ロックたちも思わず唸る。

 体格でいえば1.5倍はある大男を、ユージは大きく投げ飛ばしたのだ。<狂犬>は激しく壁に叩き付けられる。

「それで終わりか? 力だけか? オマエは」

「うぐぐうううっっ」

 <狂犬>は再びユージに襲い掛かった。今度は跳び蹴りだ。顔に受ければ間違いなく頭が捥げるだろう。だがユージはその蹴りを、腕を盾に受け止めたかと思うと、その足首を掴み<狂犬>を地面に叩きつける。


「ぐぬぅっ!!」


「見ろよ……これが本当の超ヘビー級の殺し合いだ」


 ロックたちは自分たちの傷の痛みも忘れ、リアルな素手のバトルに目を奪われていた。

 <狂犬>は再び起き上がり、今度は手に巻いたチェーンを奮い上げ、ユージに叩き付けたがユージはそれを避け、掌打で<狂犬>の顔に一撃、二撃と入れる。だがそれはほとんど効いていない。逆にカウンターでユージの胴を蹴り飛ばす。が、体勢が悪く軽い。


 両者、すぐに格闘戦の間合いを取り、対峙した。




「おおー! ハデにやってるなぁ……ユージたち」

「すごいバトルだJO」

 ビルの外のサクラとJOLJUも闘いに見惚れてしまっていた。二人とも心底ポップコーンがないことを悔やむくらい、両者の闘いは白熱している。

「確かにあたしらが加勢に入ると邪魔だね、こりゃ」

「だJO」

「ユージ勝つかな?」

「多分、負けはしないと思うJO。格闘技の腕はユージが上だJO」


 そう。二人は今一撃一撃渾身のやりとりをしているが、ユージの打撃は比較的当たり、頻繁に<狂犬>を転ばしている。ユージが受けたダメージは精々数発で、まともに食らったのは最初のテーブルくらいだ。だがそれも当然だ。直撃を受ければユージにはそれが致命的となる。ユージは<狂犬>の攻撃を巧みに受け流し、投げ飛ばしている。



「ちっ……化物が」

 ユージは舌打ちした。サクラやロックたちが思っているほどユージに余裕はない。


 一見ユージはうまく捌いている。だが捌いているだけで、ダメージはほとんど与えられていない。逆にユージのスタミナは徐々に削られていっている。


 ユージの格闘技は、基本が合気道だ。防御に長け関節技で相手を投げて倒す。だがこれほど大きな相手に致命的な攻撃手段はない。

 予想以上に<狂犬>の筋力は人外だった。首周りの筋肉も顔面の筋肉も厚く、首を絞めて落とすのは不可能に近い。胴体の急所は筋肉とチェーンメイルで守られている。手足も鉄の入ったものだ。しかも倒されてもすぐに起き上がるからトドメを打ち込めない。


「なるほど。ユージの合気道じゃ、相手を転ばせても殺せないのね。試合ならポイントで勝つのに」

「だJO。ユージは大きなの相手にするのは、異星人相手で慣れてるけど」

 サクラとJOLJUは頷きあいながら、まだ観戦モードで戻る。

 再び<狂犬>はユージに向かって突進する。受け止めてはそのまま圧死だ。ユージはギリギリまでひきつけ足をひっかけ投げ飛ばすと、すかさず近くに転がる椅子で<狂犬>の頭部に叩き付ける。椅子が砕け、ついに流血させたが、かすり傷だ。逆に今度は同じく転がっていた椅子を叩き付けられ、思わず受身をとりつつユージは飛びのいた。


 ここでユージは、懐からバッチを取り出した。


「FBIだ。お前を逮捕する」

「……FBI……」

 意外だったのだろう、<狂犬>の表情には僅かに驚きがあった。だが、次の瞬間、<狂犬>の顔に表れたのは凄まじい憤怒の表情だった。


「……け……けいさつ……マリアを……警察のクセに……マフィアと……」

「!?」

 <狂犬>はワナワナと全身を震わせながら立ち上がった。これまでと違い、ユージ個人に圧倒的な殺気が向けられている。

「きさま……も……許さないっ」

 その瞬間、<狂犬>は吼えるとユージに向かい飛び掛った。同じように投げ飛ばすユージだが、今度は勝手が違った。<狂犬>は半壊した椅子を手にしていたのだ。正に投げ飛ばされる瞬間、椅子でユージを殴り飛ばす。双方吹っ飛んだ。


 だが、ユージは読んでいた。


 ユージは狙っていたのだ。吹っ飛ばされるのを。


 転がりながら、ユージはそれに向かって手を伸ばし掴んだ。


 掴むと、今度はそのまま受身をとりながら転がり距離を取る。

 投げ飛ばされた<狂犬>は、起き上がり再びユージに迫っていた。

 まさにその瞬間、ユージは転がりながら手の中のモノを握り、そして放った。


「!?」



 ダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!



 銃声が鳴り響いた。


「ぐおぉぅっ!!」


 <狂犬>はたまらず顔面を庇った。だが二発が両こめかみを抉り、<狂犬>はそのまま倒れた。


 ユージは撃ちつくした愛用のDEをホルスターに収める。

 そう。ユージが狙っていたのは最初に自分が落としたDEだった。

 強力な44マグナムはほとんど防がれたが、2発だけは命中した。


 激闘は終わり、ようやくあたりは静かになった。





「黒い天使・災厄者 vol 4」でした。



ユージ、勝利!


……これでこの話は終わり……ということはありません。全然この話はこれからです。

バトル話ではなくてクライム・ストーリーなので、事件はこれから始まるのです。


ということでいきなり勝負はついたけどどうなるのか……。

今後の展開を楽しみにしていてください。


これからも「黒い天使」を宜しくお願いします。

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